鞠は友達さ
ここら一帯のガキ大将に成り上がった鎌倉武士の息子・八郎。
「見た目は子供、頭脳は鎌倉武士」だから酷い奴だ。
まあ、頭は良いから上手くこの時代に溶け込むように振る舞っているが。
子供たち相手に、普段は乱暴なんかはしない。
喧嘩を売って来る相手には容赦をしないだけだ。
味方には温厚で親切だから、仲間からは慕われているようだ。
普段はボール蹴りばかりしている。
鞠は硬い為、現代日本の子供は嫌がっている。
そこで柔らかいゴムボールで遊んでいるが、それでも八郎の技術は凄いものがある。
ボールキープの能力が凄い。
どんな態勢からでもボールを相手にパス出来る。
トラップからリフティングに至る体裁きが絶妙だ。
「いずれは京で業を見せたいなあ」
なんて言っているが、ちょっと分かっている子供が
「えー?
京都?
あそこJ2じゃん。
だったら鹿島とかが良くない?」
と言ったが、
「ほお、鹿島神宮か。
そこでも奉納も良いのお」
と何となく意味が伝わっていない。
それでも兎に角小学生離れしたボール捌きの上手さは、ちょっとした評判となっていた。
「ちょっとお願いがあるんだけど……」
そう言って来る者がいた。
何でもフットサルのチームを作っているが、試合前日に一人が捻挫してしまい、もう一人は数日前から病気で寝込んでいる為、助っ人が欲しいという事であった。
「いや、わし……じゃなくて僕の技術には思いっきり欠点があるんだけど……」
「それでも良いから、お願い!」
頼まれて断れる八郎ではない。
それに、その時の事を俺に話す八郎は鼻の下が伸びていた。
(女の子に頼まれたな……)
結局八郎は、助っ人として男女混成のフットサルチームに参加する事となった。
その試合の日、俺と鎌倉武家屋敷の家宰をしている下級公家の吉田民部が見学に行く事になる。
牛車とか馬が無いと歩きたくないなんていう吉田民部を、とりあえず自動車に乗せて運動公園に移動した。
「あれまあ、なんという下品な蹴鞠よのお」
ボールを転がす、ドリブルをするというのは、蹴鞠にはあり得ないプレーだそうだ。
そんな中、八郎のチームの試合が始まる。
八郎は司令塔的な役割をしていた。
ボールが来たら、それをキープしつつ、絶好のパスを出して得点を演出する。
上手いなあと思うが、吉田民部はあっさりとこの競技における八郎の、否、蹴鞠の欠点を指摘した。
「鞠を地べたで転がす下品な技がありますやろ?
それに比べ、坊んは正統な蹴鞠の浮かす技しか使えません。
あないな体をぶつけて来る下品な輩に、転ばされかねまへん」
「蹴鞠とは、長く鞠を地に着けぬよう浮かし続ける事を良しとします。
競技者に上手く鞠を浮かし渡すものです。
あのように網に蹴り込むような下品な技はありまへんな。
坊んは上手く、下品な輩に鞠を渡してますが、自らはそれが出来へんのです。
網前で手を使う輩がおりますやろ?
坊んはあの者に、鞠をそっと渡すように蹴ってしまいます。
蹴鞠をするなら、どうしてもそうなってしまいます」
吉田民部による蹴鞠解説を聞きつつ、試合を観戦。
その試合は八郎の居るチームが勝利した。
次の試合……
「あ、あいつは!」
「この前公園で兄ちゃんに恥をかかせた奴だ」
「あいつ、いつかやっつけてやろうと思ってたけど、こんな所に来やがったか」
ちょっと体が大きい小学生がいるチーム。
どうもDQN団地の子供が入っているチームのようで、見た感じ結構ガラが悪い。
(荒れなければ良いが……)
結局荒れた。
フットサルで、強引なタックルとかショルダーチャージは禁止だ。
だが、「足元が狂って、思いっきり顔面にボールがぶつかる」のは仕方が無い。
相手チームは、それを女の子相手に思いっきりやって来た。
当然泣き出してしまう。
八郎はその女の子に声を掛ける。
「鞠は友達だよ。
ほら大丈夫だから」
女の子が交代で退場。
他の女の子もラフプレーを恐れて、足が止まる。
するとポストプレーをしている八郎がボールをリフティングしながらキープする時間が長くなる。
過度な接触プレーは禁止な筈だが、もう遠慮はしない。
殺人スライディング戦法とか、審判に見えないモンゴリアンチョップとかを入れて来るDQNチーム。
受け手がいないからパスも出せない、蹴鞠の性質上シュートも出来ない。
結局どうにも出来ず、体は痛めつけられ、ボールは奪われてしまう。
そんな時、吉田民部が静かながら、よく通る声で指示を出した。
「坊ん!
蹴鞠道五球書の奥義使用を解禁します。
思い切りやりなはれ」
「蹴鞠道五球書」?
何だそれは?
「隠岐の院(後鳥羽上皇)が纏めた蹴鞠の極意書です。
あの方は自ら盗賊を捕らえたり、宙を跳んで一回転するような天狗の業をお持ちでした。
その方が編み出された、武家の蹴鞠を叩きのめす邪法の業の数々を纏めたものです」
嫌な予感しかしねえ。
そして相手の股間に鞠をぶつかった後に、跳ね返って足元に戻る技、
鞠を急上昇させて相手の顎を下から撃ち抜く技、
相手の踏みつけをジャンプでかわし、さらにその上から逆に踏みつける技、
相手の接触攻撃に対し、脳波を活性化させて全身の筋力を向上させ、逆に弾き返す技。
相手の蹴った鞠を反動をつけて打ち返す反動蹴速迅砲なんかを披露した。
そして必殺技の「竜巻〇足」。
ゴレイロの前で急変化するそのシュートで得点を決める。
倒れる相手に向かって八郎は手を差し出し、引き起こしながら笑って言う。
「鞠ハ、トモダチ。
トモダチハ、ゴチソウ!
トモダチハ、武家ノ、クイモノ!」
そういう意味か!
やはり危険人物だよ、このガキ!
だが、直後に八郎は手を取って立ち上がらせた相手の顔面に
「どりぃぃぃぃ……」
と思いっきりリバースをして、倒れてしまった。
それどころか、涙・鼻汁・唾液を一気吹き出している。
「うむ、蹴鞠道五球書の奥義を使うと、反動でああなるのよ。
身体、精神を極限まで使う、隠岐の院の最終奥義やからなあ……」
というと、後鳥羽上皇もあんな風になったとでも言うのか?
結局、阿鼻叫喚の騒ぎとなって「親睦」子供フットサル大会は途中打ち切りとなってしまった。
おまけ:「リベロの武田」を知っていれば「蹴鞠道五球書」とは何か分かります。
あとトモダチネタは「ウルトラマンティガ、ガゾート、トモダチ」でググれば……。
おまけの2:鎌倉時代のトモダチ。
北条義時と畠山重忠は友人です。
北条義時と三浦義村も友達です。
北条義時と和田義盛も盟友と言えた。
「最終的に全部北条が食っちゃいました!」




