鎌倉武士VS文化財窃盗団
「しかし、SNSにあんな仏像の事を載せたのは、拙いかもしれない」
現在に残っていない鎌倉時代の工芸品が、ポンポン寺社に寄付され続けているこの町に出張中の文化庁の役人が嘆いている。
「この辺に文化財があると知ったら、窃盗団がやって来かねない」
仏像とか日本刀とか、売れば高値になる物を狙う窃盗団が跋扈しているという。
(その仏像も、元々はどこかから窃盗というか略奪して来たものだけど……)
とは思うが、何せ恐らく承久の乱の頃の話だから、時効も良い所だ。
「ほお、そのような罰当たりな者どもが居るのか。
怪しからぬのお。
我等で見回りをした方が良いかのお?」
また勝手に入って来た譲念和尚が話に混ざって来た。
鎌倉武士の見回りとか、結構シャレにならないのだが。
今までも見回りは何度もしているが、泥棒と放火魔が捕らえられ、腕を斬り落とされている。
その後は思いっ切り治安が良くなったように思う。
果たして、良い事か悪い事か……。
一旦は止めてみたが、止めた所で言う事を聞かない鎌倉武士なのは分かっている。
結局、松明を持って薙刀や弓矢を持った郎党が、近所の寺社の宝物庫付近を見回る事となる。
こいつら、寝ずの番とか平気でする。
なにせ労働基準法なんて無い時代の人間だ。
交代こそするが、基本二十四時間戦えますかを地で行う。
「篝屋を置いて、そもそも盗賊に仕事をさせぬ事が肝要ぞ」
と尤もらしい事を言っているが、
「それでもなお盗みを成すものは、わしらをナメているものと看做し、腕を斬り落とす」
と、やはり物騒だ。
ただ、神社とか寺院だけに武士の警備は違和感が無い感じである。
近所の人たちはもう慣れているし、知らない人がたまたま通りかかっても
「へー、ここの警備員はサムライの格好なんだ」
「中々風情があるね」
と風景に溶け込んでいる為、そういうものだと思っていた。
まあ、観光地でも何でもない地方都市の、更に住宅地をたまたま通る人なんてまず居ないが。
だが、奴等はやって来た。
『武士が見張っています』
『危険! 斬られます』
という立て看板など読んでいない。
いや、読めないのかもしれない。
その罰当たりな連中は、海外からの窃盗団であった。
観光ビザでやって来て、足が着く前に逃げてしまい、引き渡し要求にも応じない。
窃盗だけでなく、特に神社に謎の液体を掛けたり、落書きをしたりする厄介ものである。
そいつらが武士と鉢合わせした。
こいつら、日本人ではないから狂暴だ。
見つかったと思った瞬間、バールのような物を振りかざして殴りかかる。
それは死刑執行書に自分でサインをしたようなものだ。
武士は「一回殴られて、それから正当防衛に動く」なんて事はしない。
そんな事をしたら、遅れを取って殺されるからだ。
薙刀一閃!
首が飛ぶ。
別の者には矢が突き刺さる。
いや、貫通している。
他の者が、服の中から何かを取り出そうとした。
後の調べで銃だったと分かるのだが、それは結局出されないまま、首に刃が、心臓に矢が刺さって絶命する。
残された二人の内、一人は
「オネガイ、タスケテ」
と叫んだ為、降伏したと看做して捕縛される。
もう一人は外国語で喚いていた為、殺された。
殺した後で
「日ノ本言葉喋れぬ者は禽獣、畜生の類と同じ。
死して人に転生してから話を聞こう」
と言って手を合わせていたという。
本人たちは
「言葉も話せぬ禽獣のような存在を浄土に送り、次は人に輪廻転生させる」
功徳を施したつもりである。
かくして遺体は屋敷に運ばれ、血が流れた土は掘り返されて、それも屋敷に運ばれる。
そしてどこからか土を運び込み、掃き清められた。
鎌倉武士は信心深い。
殺生禁断の地が血で汚れる事を好まない。
ちゃんと後片付けはするものだ。
え? そもそも神社とかで殺人をするなって?
源実朝が鶴岡八幡宮で暗殺されている時点で、そんなの気持ちの問題でしかない。
その犯人だって形式上は僧侶なのだから。
俺が一連の事を知ったのは、事件翌日に呼び出されてからだ。
「これは何か?」
と首の無い遺体から剥ぎ取られた拳銃を見せられる。
「あー……これは拳銃ですね。
武器です」
「どう使うのじゃ?」
「弓と同じで、相手に向けて引き金を引くと、鉛の弾が飛び出ます」
「やってみよ」
「出来ません!
日本では一般人は銃を所持出来ないんですから」
「という事は、この者たちは宋か高麗の者か?」
「じゃないんですかね」
「会うてみよ」
そうして土蔵に連れて行かれる。
そこには見るも無残な人間が縛り付けられていた。
細かく描写すると色々と問題があるような酷さであった。
「タイシカン……。
ワタシ、ホゴシロ」
歯がほとんど無くなった口から、そんな日本語が聞こえて来る。
(これ、シャレにならない事態だよなあ……)
ざまあみろじゃ済まされないように思った。
警察に連絡?
外国が絡むと色々とややこしくなる。
「そうだ!
こういう時こそ、ヤの付く自営業の出番じゃないか!」
後から考えれば、俺とんでもない事言ってるよな。
でも、その時はそれが最高の名案だと思ったよ。
そしてやって来た連中が、色々と持ち物を調べる。
「これ、偽造パスポートだ」
「って事は密入国だな」
「実際はどこの国の連中か、分かったもんじゃない」
「銃も、これはどこぞの非合法集団の密造ものだな」
なんか裏社会の言葉が聞こえて来る。
さっさと解放されたいよお……。
色々と分かった上で、頭と言われていた人と、執事の藤十郎が話し合い。
「この者たちは、そもそも居なかったのだ。
出入国に記録も無いだろうし、公式には存在していないも同然。
存在していない人間が死ぬなんて事はあり得ないのだ」
という薩摩飛脚のような結論を出していた。
「で、こいつはどうします?
うちの組で始末しましょうか?」
「それには及ばぬ。
生きた的として、弓の鍛錬に役立てよう」
つまり犬追物の人間バージョンをさせられる訳だ。
「人を狙った方が犬よりも、弓の腕と殺す度胸と両方得られるだろう」
(これ、ヤの方に引き取られた方がマシだったのでは?)
外国の中には、所謂先進国に比べてまだまだ蛮族なメンタルの者が多い。
人を殺しても平気、物は盗まれる隙を作った方が悪い、ボーっと生きてんじゃないよ! って意識である。
しかしそれでも、今は21世紀。
人を殺すのは「誉れ」、物は盗まれた方が悪いが、盗みをして捕まったなら腕一本斬り落とす、言葉が喋れないなら死ね、いやもう殺したけど何か? なレベルの中世人に比べたら文明人と言えた。
……安パイと思われていた日本で、まさかこんな蛮族に遭うとは、きっと思ってもみなかっただろう。
同情は一個もしないけどね!
そう思う俺の精神の鎌倉汚染は酷いものだよなあ。
また笑い無き状態になったので、ネタ回突っ込みます。
(基本、「ざまあ」だけでも良いのかもしれませんが)




