表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/143

鎌倉武士、いじめられっ子を鍛える

「うちの曾孫がねえ、学校でいじめられてるみたいで、暫くこっちで生活するんですよ……」

 近所に住む婆様、隣の鎌倉武士の子孫の一人だが、が譲念和尚に相談している。

……俺の家は和尚の相談室じゃねえぞ。

 勝手に上がり込んでお茶飲むだけでなく、最近は爺様、婆様と話す場にしてやがる。


「それはいかぬな。

 どれ、当家に預けなされ。

 鍛えて差し上げよう」

「いや、やめた方が良いですよ!

 鎌倉武士に鍛えられたら、まず生き抜く事が出来ない!」

 俺は止めたよ。

 でも婆様も「イジメには逆らわず、逃げなさい」という最近の教育脳じゃない。

 むしろ「戦争に訴えて、国の誇りを示せ」と教えられた世代。

 鎌倉武士の言ってる事の方が理解出来たみたいで、連れて来ると言っていた。


「イジメっていうなら、八郎君を先にどうにかした方が良いんじゃないですか?

 兄の七郎だったかにイジメられてるんでしょ?」

 俺がそう詰ると

「まあ七郎にはイジメられるが、八郎はやり返しておるぞ」

 と返された。


「兄より優れた弟はいねえんだよ!

 何が蹴鞠だ。

 そんな事に現を抜かす、青瓢箪が!

 蹴鞠で俺に勝てるか!」

 と小突いて来た七郎に、八郎は

「蹴鞠で勝てる。

 おや、こんな所に鞠がぶら下がっている。

 しかも二つも」

 と言って、股間を蹴り上げた。

「ぐ…………」

 七郎は顔面蒼白で倒れる。

「膝蹴りなんて、蹴鞠には無い……だろ……」

 変な汗を流し、のたうち回っていたと言う。


(想像しただけで股の奥の方が縮こまる感覚になった……)

 八郎もインテリそうに見えて、立派な鎌倉時代人だと実感したよ。


「で、七郎はどうなったんですか?」

「数ヶ月寝込んで、今は生きておる。

 片方の仇だ、と八郎を恨んでおるがな……」

「うわ……」

 あいつ、かなり容赦しないな。

「それで、頭デッカチを成敗すると言ってまた喧嘩を仕掛けたが……」

「仕掛けたが?」

「わしは頭で勝つと言って、七郎の顔面に頭突きを喰らわせおったそうじゃ。

 七郎の鼻はそれ以来曲がっておる」

(頭で勝つって、そういう意味じゃないだろ……)

 兎に角、八郎は七郎だけでなく、手を出して来る相手に容赦しないようだ。

 相撲とか単純な力比べは弱いが、だからと言って喧嘩に弱い訳ではない。

(やはり末法之世鎌倉時代ときはまさにせいきまつの連中に預けたら、現代のひよっこでは死ぬだろ)

 そう思わざるを得ない。




「よし、鍛えてやろう!

 まずは弓を引け!」

 イジメられっ子を、郎党の中でも剛の者・又三郎が鍛える。

 その弓、大人でも引けねーよ!

「音に聞く鎮西八郎の強弓には及びもつかぬ」

 とか言ってるけど、比較対象がその人ってどういう事?

 八人張りの弓なんて、機械使わないと弦を張れないだろ。


 聞いた所によると、馬上で弓を使う場合、高速で通り過ぎながら矢を射る為、半分しか引かない状態でも威力を発揮する為に高い張力にしているそうだ。

「遠矢の時は全て引くがな」

 鎮西八郎こと源為朝がフルで引いた弓から放たれた矢は、鎧を着た人間を貫通した後、後ろに居た別の人に突き刺さったと言う。


「弓は徐々に引けるようにすれば良い。

 では次は馬の世話をせよ。

 なあに、馬は可愛いものぞ」

(可愛い?)

 鎌倉武士の基準は何か違うようだ。

 案の定、現代のイジメられっ子は、馬の姿をした猛獣に噛まれて泣いていた。

「若たちも幼い時はこんな感じじゃった」

 又三郎は笑いながらそう言う。

 全員この猛獣の洗礼を受けて来たのか!


「もう帰りたい……」

 その子が泣きべそをかいていたが、そんな弱々しい声を掻き消す別の声が……。


「兄より優れた弟はいねえ!

 お前なんか兄に従って黙ってやられたら良いんだ!」

(ああ、こいつが例の七郎か……)

 怒鳴り声に、聞いた事がある声が反論する。

「兄上は学問においてわしに及びもつかぬ。

 その身を以て、弟に劣る兄を見せておるではないか」

「なにをぉ!

 八郎の癖に生意気だぞ!

 学問なんか何になる!

 筆と墨で戦に勝てるか」

 その怒鳴り声はフラグ立てであった。

「卑怯者!

 墨で目潰しとは!

 グハッ……」

 皆で見に行くと、鼻に折った筆を突っ込まれた挙句、殴られたようで鼻血を盛大に吹き出しながらのたうち回る子供と、その子供を容赦なく上から踏付ストンピングしている八郎が居た。


「おや、亮太殿。

 見苦しいモノをお見せしましたな」

 兄を見苦しい呼ばわりしてるよ。

「おお、その子が喧嘩に負けているから、家に預けられて鍛えておる子か!」

 その子って、八郎よりも年上なんだが。

「良いか。

 人間、目、鼻、口、喉、股間と弱点は幾らでもあるぞ。

 それと、小指の一本折れば、敵は痛さで戦意を失う。

 コレのようにな」

 そう言って兄の頭に蹴鞠蹴打サッカーボールキックを入れる八郎。

 一体どっちがイジメっ子なんだろう?

「まあ、指を斬り落とされようが、矢が目に刺さろうが、戦い続けるのが坂東武者たる者じゃ」

 又三郎はそう言って、もろ肌脱いで、矢傷の数々を見せる。

 中にはまだ鏃が身体に入ったままの傷もあった。

「それ、化膿して大変な事になりませんでしたか?」

「坂東武者はその程度屁でもない!

 気合い次第で怪我も病気も治る」

 気合いだけで破傷風とかにならないのか?


 こんな感じで、人外級の武士に特訓され、年下ながら戦い慣れている八郎から喧嘩の仕方を教わるイジメられっ子。

「良いか!

 戦に躊躇はならぬ。

 この世は所詮弱肉強食、弱ければ死ぬ。

 やるなら如何なる手段を使っても勝たねばならぬ。

 勝てば全ては勝った方の意のままとなる。

 負ければ勝った者の好きにされるぞ」

 又三郎も八郎も、譲念和尚すら同じ事を説いている。

「勝てば良い、勝てば良い、勝たねばならない……。

 全てに勝利する僕は、全て正しい!」

 なんか覚醒した感じのイジメられっ子。

(知らねーぞ、どうなっても……)




 それから暫くして、一回元の学校に戻った筈のそのイジメられっ子が、正式にうちの近所の曽祖父母の家に引越して来た。

(結局イジメから逃げたのかな?)

 と思ったが、違った。

 集団でイジメていた相手を、全員返り討ちにして、イジメの実態を明らかにした上で、その地に居られなくなっての引越しの模様。

 一人は睾丸破裂。

 一人は眼球破裂。

 一人は顎関節破壊。

 一人は両手の指を全て潰される。

 一人は鼻から割り箸を突っ込まれた上に殴打で脳に損傷。

 集団の時は耐え、相手が一人になった時に各個撃破した。

 イジメを黙認したどころか、

「この子は嘘吐きで、皆から嫌われてますよ」

 とかイジメに加担するような事をしたクソ教師は、給食に毒を入れられて入院中。

 大事になり、警察が動いた事で、加害者は実はイジメを受けていて、学校がそれをもみ消していた事が発覚する。

 結果、加害者は責任を問われない代わりに、転校する事で決着した。


「戦いようなんて、幾らでもあるもんだね。

 人間なんて脆いものだね、アハハハハ……」

 やっちゃいけないと言う箍を外されたその子は、明るく笑っていた。

(サイコパスを一人誕生させちゃったよ……)

 鎌倉武士の汚染能力、恐るべし。

おまけ:

鎌倉五つの誓い

一つ、武器を持たぬまま学校へ行かぬこと

一つ、天気のいい日に返り血を浴びた服を干すこと

一つ、道を歩く時にはすれ違い様の刃に気をつけること

一つ、他人の力を頼りにしないこと

一つ、土の上を裸足で走り回って鍛えること


これを実践すれば、弱い子も鎌倉武士になれるゾ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウルトラマンAに謝ろうwww
[一言] ウルトラ世紀末な五つの誓いだ…
[気になる点] そら、殺魔人が弱いと感じるわ、こんな修羅の世界を生きていたら。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ