鎌倉武家屋敷近隣住民殺人事件(後編)
俺の近所で殺人事件が起こった。
被害者は刀で殺されていて、時空を超えた鎌倉武士たちの誰かが犯人だと思われた。
だけど、生意気な少年・八郎は鎌倉武士は犯人じゃないと言い出した。
それどころか、犯人の目星も付いているようだ。
この事件の真相は?
重い扉が開く。
正門が開いて、鎌倉武士たちがゾロゾロと出て来た。
そして警察に刀のサイズを測らせていた。
ここまでは、この武家屋敷の末弟・八郎が言って聞かせたのだろう。
珍しく素直に従っている。
そして再度現場検証。
その場には第一発見者もいた。
武士たちは被害者の傷の具合を見て
「わしはこのように下手ではない!」
と文句を言う。
膾に切り刻んで殺す等、下手くそも良い所だ。
「致命傷はこの胸部の刺し傷です。
他の傷は、何かを隠蔽する為につけたのでしょう」
鑑識がそのように言う。
ベラベラ喋る必要は無いが、どうも特殊な事情と、武士たちの圧に負けている感じだ。
「あれあれ~、奇っ怪なり(あれあれ~、おかしいなあ)」
八郎がいつの間にか、死体の傷を見ながら言う。
「その刺し傷だけどねえ、上の方に抜けているねえ」
「それが何か?」
「ねえ、又五郎、太刀で人を刺す業を見せてくれない?」
「うむ、若が申されるなら」
郎党の又五郎は、太刀を抜くと、それを構えて人を殺す業を披露した。
「え?」
「いや、普通に刺しただけじゃない」
「えー、皆さん、分からなかったの?
刀の刃を上にして、突き下ろしていたよね」
「あ!
その突き方だと、傷は突き入れ口から上に抜けるのではなく、下に抜けるって事か」
「だが、それはその人だけの癖じゃないのか?」
「愚か者が!
甲冑の上から突き入れる故、滑り込ませるよう上から突き下ろす。
これは武家の当たり前の業ぞ」
大鎧の縁を握り、隙間を作ったら、そこから刀を滑り入れるようにして突き殺す。
反りの大きい太刀ゆえ、そういう操法にもなる。
「警察さん、さっき太刀を計っていたよね。
皆の太刀の反りと、この傷の角度、一致する?」
「え?
あ……ちょっと待って。
いや、一致しない。
武士の皆さんの刀は反りがきつく、傷の貫入角度のようにはなりません」
「そうだろう……。
残念だけど武士は人を斬るもの。
刀を調べれば、ルミノール反応で血の痕が出る。
更に武士は調べに中々応じない。
散々ごねた上に調べれば血の反応と来れば、誰しもが武士が殺して犯行を隠しているものと思うだろう。
そうやって武士に罪を着せようとしたんだろうが、残念だったね、第一発見者さん」
子供らしからぬ発言は、第一発見者に向かった。
「私が冤罪を仕掛けたって言いたいのか!
何を言っているんだ!
馬鹿馬鹿しい!」
「冤罪を仕掛けるだけじゃないよ。
あんたがこの人を殺したんだ」
「人を愚弄するのもいい加減にしろ!
大体、私がなんで友人を殺さないとならないんだ」
「動機については警察が調べるさ。
まあ動機云々言うなら、家の郎党の方がもっと無いけどね」
(動機は無くてもノリで殺そうとする事有るじゃないか……)
俺はそう思ったが、とりあえず余計な事は言わない。
「大体どうやって殺したって言うんだ?
刀を持って出歩いたとでも言うのか?
そんなの目撃証言が出るだろ。
それに死んだとされる時刻に、私は家に居たのだぞ。
それは近所の人が目撃している。
アリバイがあるんだよ!」
「ふう……。
聞いてもいないのにアリバイとか言って、焦りが目に見えているよ、オッサン」
「なんだと。
子供の癖に偉そうに!」
「うむ、それは同意する」
「若は稚児の癖に生意気過ぎるでな」
「斯様に我等を問い詰める事多く、主家でなければ斬っていたやもしれぬ」
「……ちょっと黙ってて貰って良いかな。
皆の疑いを晴らす為にやっているんだから」
思わぬ鎌倉武士の方からの後ろ撃ちに、八郎は困った表情になっていた。
だがすぐに気を取り直し、
「アリバイは崩れているんだよ。
あんたは被害者を殺し、すぐに家に戻ったんだ。
屋敷の周囲を歩き回る事無く、人目につかないようにしてね」
「そんな事出来る訳ないだろ!」
「出来るさ……」
それは簡単な事だった。
不思議な現象で鎌倉時代と接続されているのだが、その屋敷は正門以外からは入れない。
塀をよじ登り侵入しようとすると、反対側から飛び出してしまう。
謎の現象だが
「あんたはそれを利用したんだ!」
屋敷の周囲を歩くのではなく、一気にワープ出来ればアリバイは崩れる。
殺した直後に人目につかないよう、壁をよじ登って反対側の家に戻れば、その時間に彼は現場に居ないと擬装出来るのだ。
「こんな塀を簡単によじ登れる訳ないだろ。
確かに頑張れば登れない高さじゃない。
だが、登ろうとジタバタしていれば、それこそ人目に付くじゃないか」
「鉤縄でも使ったのだろう。
そうすれば、あっさり登れる。
ここに鉤爪で引っ搔いたような傷がある。
さっき反対側も調べたけど、やはり傷がついていた。
証拠は恐らくまだ家に残っている筈だ。
警察の人、すぐに行って調べて貰えませんか。
あとこの人の刀も。
きっとルミノール反応でしっかりと血の痕が出て来るでしょうし、刀の幅と反りから傷口と一致する筈です」
第一発見者は膝から崩れ落ちた。
負けを認めたようである。
暫くして八郎が言った物が全て見つかり、第一発見者は一転して被疑者となって警察署に連行されて行った。
「しかし、よく武士の犯行じゃないって確信が持てたね。
やってもおかしくないでしょ?」
警察からの疑問に八郎は事もなげに
「やってもおかしくない。
それどころか、やったなら誇りとして名乗り出る。
それが武士だから、誰も名乗らなかった以上、これは冤罪だと確信した」
と鎌倉武士な事を言って、相手を啞然とさせていた。
「大体、被害者は我等が子孫。
そのような者を我等は害する事がない。
さっきも言ったけど、この時代の言葉で言う、動機が無い」
確かに、武士たちは子孫たちに対しては極めて親切であった。
子孫たちも先祖には礼を尽くし、関係良好であった。
殺す理由は無い。
よくもまあ、こんな稚拙な罪のなすりつけを考えたものだ。
その後、容疑を認めたその者は逮捕される。
殺害動機は金銭問題であった。
容疑者はこの時代の刑法で裁かれる。
だが……
「思わぬ形で領地が増えた!
亮太殿、お手柄であった!」
当主と執事の藤十郎が喜んでいる。
俺は事の顛末の説明に呼ばれた際、犯人の家族はこの先、この町では生活出来ないであろう事、被害者の遺族への慰謝料等で生活に窮するだろう事を話した。
そして当主は、顧問弁護士を通じてその家を購入したそうだ。
犯人家族は家を手放せ、しかも高値で買い取って貰ったからそこから慰謝料を払える。
鎌倉武士は押領とかせずに、合法的にそこの敷地を手に入れられる。
「我等に疑いが掛けられた時は頭にも来たが、終わってみれば万事めでたしじゃ」
「若殿も役に立ってくれましたな。
あの時、主様が好きにやらせるよう仰った事で、このような結果になるとは」
「あ奴は頭だけは良いからな。
使いようでこのような得もするものよ」
チート級頭脳の少年も、鎌倉時代にあってはこんな扱いなのであった。
おまけ:
多分警察も無能じゃないから、刀剣の登録証とかから刀傷の幅や反りを調べて、真犯人にはたどり着くと思います。
瞬間移動トリック以外は杜撰(鍵縄も人に見られるだろうとは思う)な犯行ですが、
これ推理小説じゃないんで
見逃して下さい。
パロディ書きたかっただけなので。




