DQN団地乗っ取り計画~虎の威を借る……~
俺の家に、鎌倉武士と似たような感じで怖い人が訪ねて来やがった。
黒いスーツにサングラス、ガタイの良い身体、強面……。
どう見ても「ヤ」のつく特殊自営業の人でした、ありがとうございます。
(俺、ギャンブルもやってないし、地下とか船とか連れて行かれる理由無いよな……)
一瞬思考が加速し、自分の過去の行いを振り返りながらそう思った。
本当に心当たりが無い。
そしてその思いは正解だった。
「いきなり押しかけて来てすみません。
嫌ですよね、私たちのようなのが急に来てしまったら。
それでも、話を聞くとお隣さんに繋げるのは貴方だけだって聞きましたので、お願いしに参った次第です。
あ、これ菓子折りですので、お納め下さい」
そんな風に言って来た。
どうやら隣の鎌倉武士に用事のようで、任侠の世界ゆえか、きちんと調べた上でアポ取りに来たようだ。
とりあえず菓子折りを、突き返す訳にもいかず、受け取ってしまう。
その時は見られなかったけど、後で開けてみたら、包みの中には菓子以外に「金一封」として結構な札束が入った封筒も入っていた……。
初めて見たわ、そんなの。
雑色の平吉から執事の藤十郎に話を通して貰い、その人たちとの面会許可を貰う。
俺の説明から、こっちの時代のヤバい人だという事で、鎌倉武士たちは恐れはしないものの、十分に警戒しての面会となった。
……そんな中に、一般人の俺を立ち会わせるなよ……。
「初めてお目にかかります。
武勇の程は伺っておりました。
ぶつかる理由も無いですし、適度に距離を置いていましたが、今日こうして伺ったのは理由がありまして」
立場が上そうなその人は、挨拶を手短にして用件を伝える。
謎空間の武家屋敷敷地内だから、お互い言葉はしっかり通じていて、意思疎通はバッチリだ。
「うちの縄張りでナメた事をする奴がいましてね。
そいつは、お宅の名前を騙って、無料で飲み食いをしたり、一般の市民に迷惑をかけていまして。
違うなら、そうと教えていただきたい。
そいつの言う事が正しいなら、止めるようお願いに来たのです」
「何と、当家の名を使って悪事を成しておるとな?」
「はい」
「何者じゃ?」
「心当たりが無い、と?」
「左様。
仮に当家の名を勝手に使うなら、得た物は上納せねばならぬ。
そうでなければ、当家の名を使う事相成らぬ!」
要は、自分たちの名を使う以上は、郎党とか配下になる事であり、得た物の半分は渡せ、と。
まあ武士の論理だよなあ。
自分たちだって、〇〇寺の為だとか、院の為だとか、勝手に名前を出して荘園を押領。
文句が出る前に、名前を使った場所に実際に寄進し、自分たちは管理権を得るやり方で生きて来たのだし。
心当たりが無いと聞き、安心した黒服の男。
最終確認で、写真を見せるが、やはり知らないという事で、
「わざわざありがとうございました。
お宅に関係無いと分かれば、もうこちらで対処します。
お手数をおかけしました」
そう言って頭を下げて帰ろうとした。
「待たれよ」
藤十郎が引き止める。
「その者を懲らしめるのであろう?
当家の者も同行させたいが如何に」
「いや、それはご迷惑なのでは……」
俺は思わず、その怖い人に耳打ちをした。
(答えは聞いてないんですよ。
質問とか提案の形式を取ってますけど、そうするって事は確定してますので)
どうやら相手も理解したようだ。
「では、お手を煩わせてしまい申し訳ありませんが、お願い致します」
一連のやり取りを見て
(似た者同士なせいか、話が早いなあ)
と感じた。
後は俺は立ち会わない。
あんな危険人物の連合の中に、一般人が入り込めるか!
だからこれは、後で聞いた話である。
「おい、俺に金を払えっていうのか?
俺はなあ、〇〇町の武士の子孫だぞ。
武士に庶民は奉公するもんなんだぞ。
俺に恥をかかせたら、一族で潰しに来るぞ。
分かってんのか?」
「其の方こそ、当家の名を出す無礼、知りおろうや?」
「あ?
なんだてめえ……」
そう言った瞬間、チンピラは膝から崩れ落ちた。
片や黒服サングラスの集団。
片や相撲の行司のような服ではあるが、黒服たち以上に殺気に満ちた集団。
「あ、あの……」
何か言おうとした瞬間、耳たぶが宙を舞った。
鎌倉武士が抜き打ちをしてのだ。
鎌倉武士からしたら、首を狙わなかっただけ慈悲をかけているのだが、特殊自営業の人たちから
「いきなりそれは拙いですって。
まずは落とし前つけさせてからにしましょうよ」
と制止される。
チンピラは小便を漏らして、その場で気絶してしまった。
「お店の人。
怖い所を見せてすまなかったね。
私たちから金品を貰ったとなれば、このご時勢、色々面倒だから、後で保障させて貰いますんで」
そう言ってこの場を去る。
その後、二種類の暴力集団で話し合いが行われ、このチンピラは処分された。
「殺す?
そんな事しても金になりませんよ。
ベーリング海でカニを獲って来て貰いたいとこですが、最近何故かカニが行方不明のようでしてねえ。
レアメタルの採掘をやって貰いますよ。
コンゴの紛争と疫病両方の危険地帯で」
「その者の処遇は任せた。
さて、この者の棲み処はあの建物と聞いた。
それを貰って良いか?」
「ご随意に」
「うむ」
「今後とも良き関係を続けていきたいものです」
「其方たちとは話が合いそうじゃ」
こうしてチンピラがDQN団地の住人だった事で、色々と話がすんなり進み、武士と特殊自営業両方の悪徳弁護士どもが動いて、事は収まるように収まった。
DQN団地はまたも、鎌倉武士に侵食されたようだ。
最近笑える要素が少ないので、近々ネタ回をします。
殺伐鎌倉コメディーにする筈が、殺伐しか出なくなってるからなあ。
そろそろコテコテのネタ回作らないと、作者が……つまらんと思ってる。
(作者の悪ノリ気質は時々批判されるけど、やらんと収まらん!)




