いたずらは相手を選ぼう
時空を超えた鎌倉時代の武家屋敷との接続、それは広くは知られていないが、何となく
「あそこに厄介な存在が出現した」
というのは伝わるものだ。
近所の人は、その武士の子孫が多い為、この状態を受け入れている。
そんな中、
「怖い連中に悪戯してこそ勇者!」
というDQN思考な奴等が、ここにちょっかいをかけ始めた。
しょっちゅう切り落とした腕とかを打ち付けている壁、そこにスプレーで落書きをする。
朝、門を開けるとそれが見つかり、急いで壁を削ったり、塗り直したりする。
それが繰り返されると、当然犯人を見つけて処断すべし! となった。
「で、俺にも手伝えと?」
もう隣に住んでる分家扱いとなっている為、俺も駆り出される事になった。
流石に中世風の見回りなんてしない。
ああいう愉快犯は、見回りがいると隠れ、いなくなった隙に速攻で悪戯する。
だからここは、文明の利器を使うまで。
「監視カメラ~!」
未来から来た青狸のようなテンションで、その道具を紹介してみた。
24時間監視可能で、それを記録も出来る。
安物ではあるが、誰かが分かれば十分だ。
「では任せたぞ」
と言われたから、それで対応してみた。
結果、DQN団地住民ではないが、この近くに住む人の仕業と分かる。
場所まで特定した結果
「これより押し寄せて行き、焼き討ちしてくれん!」
と郎党たちが気勢を挙げてしまった。
「待て」
執事の藤十郎が皆を制止する。
「やられたらやり返す。
それは問題無い。
しかし、落書に対し焼き討ちはやり過ぎである。
同じ事をやり返せばそれで良い」
……嫌な予感しかしないんだが……。
数日後、そいつの家の玄関に、動物の血で梵字が落書きされた。
なんでも真言密教か何かの呪詛らしい。
スプレーを使った落書きに対しては、血をぶちまけての落書きで反撃された。
だがDQNは懲りない。
今度は武家屋敷の門の辺りに、犬の糞を置き去りにする嫌がらせを行った。
それに対する反撃は
「なんだこれは!!」
と相手が絶叫するもの、即ち牛の糞の大量投棄でされた。
牛の糞はゲル状? ゲロ状? で滑り易い。
そんなのが玄関にぶちまけられていたから、掃除をするまで彼は外に出られなかった。
それでも止めないのがDQNのDQNたる部分と言うか。
その次は、なんと猫の死骸を門の所に置くようになりやがった。
「猫様をこのような目に遭わせるとは許さん!」
俺は怒ったね。
死んだ猫なのか、悪戯の為に殺したのか、それは分からない。
でも、猫をこんな事に使う等、許される事ではない。
「鳥獣保護法か?
動物愛護条例の違反か?
死体遺棄は違うな……。
兎に角、あいつを追い詰めてやる!」
と怒りを顕わにした俺に、執事の藤十郎が
「では、そちらの方は任せた。
弁護士殿と上手くやって欲しい」
と肩を叩き、自らは郎党・家人に何やら命じていた。
「ギャアアアアアア!!!!」
その男は、今度こそ理解不能な反撃を食らい、絶叫していた。
そいつの家に投げ込まれたのは、腐敗した馬の死骸。
おまけに、腐敗した牛の死骸。
とどめに蛆が湧いた猪の死骸。
鎌倉時代から持って来た産地直送品。
とてもではないが、牛糞を掃除するどころではない、片付け困難な代物。
途方に暮れるその男に、更に追撃が……。
「警察の者です。
貴方が動物虐待の疑いで通報されていまして。
ちょっとお話しを伺えますか?」
「待て!
これは自分じゃないぞ」
「存じています。
こちらは……ゴミの不法投棄になりますので、捨てた人たちに注意をしておきます」
「これ、馬とか牛とかを殺したんじゃないのか?」
「ここまで腐敗が進んでいると、殺されたのか、病死なのか分かりませんね。
それに殺されたのだとしても、馬や牛は犬猫と事情が違いますから……」
牛馬は、食用とか安楽死で屠殺される事がある。
この辺、愛玩動物とは事情が違うのだ。
「この豚は?」
「ああー、これは猪ですね。
害獣駆除だったかもしれません」
「一方的に相手の肩ばっかり持ってるんじゃないよ!」
「全然一方的ではありませんよ。
まずはお話しを伺いたいと思いまして。
それでこうして出向いたんです」
「話すから、この死体どうにかしてくれよ……」
結局、町中の監視カメラの映像から、この男が野良猫を殺した事が判明し、罰金刑となった。
鎌倉武士側も死体の不法投棄という事で罰金になったが、こいつらは雑色たちに汚れ仕事をさせているので
「使用人の責任は雇用主の責任だな。
分かったよ、科料で済むなら払ってやろう」
という態度であった。
要は、鎌倉武士に限らず、組織で戦うような連中を相手に、お互いが同じ手を繰り出し合うと、小さい側が負けるという事である。
その上で、大きい側が手加減しない相手であるなら、猶更酷い目に遭う。
鎌倉武士たちは、次はやられる前に先手を打った。
町内見回りの手伝いと称し、範囲外のそいつの家の辺りまでうろつくようになる。
「不埒者が居ないか、警固しておるだけじゃ」
と警察とか近隣住人には説明している。
実際、防犯活動以上の事はしていないから、
「その松明だけ、火事を起こさないよう注意して下さい」
と言うのが精一杯だ。
だが、その悪戯者の家の前に、松明を持った武士たちがたむろするのは、そいつにしたらたまったものではない。
「なんで家の前にずっと居るんですか!」
「この家には、動物の死体を投げ込んだ不埒者が現れるようじゃからな。
特別に警固しておるのよ」
「それあんたたちだろ!」
「さて?
どこぞの不心得な雑色の仕業と聞いておる」
「不心得な雑色って何だよ。
この辺でそういうの雇っているのは、あんたたちの所だけじゃないか」
「何と言われても、左様な者が二度と悪さをせぬよう、見張っておる」
「左様。
むしろ感謝せよ」
「どうせなら、ここに篝屋(派出所)を作って常時見張ろうか」
結局この男は、武士たちの何もしない、毎夜居座るだけのプレッシャーに屈して、どこかに引っ越して行った……。
おまけ:
紀元前525年、アケメネス朝のカンビュセス2世は、猫を穀物をネズミから守る神、バステト女神として崇めるエジプトに対し、
猫を盾に縛りつけた猫シールドを持って攻撃、
手出し出来ないエジプト軍をフルボッコにした。
その後籠城したエジプト軍に対し、今度は猫を攻城兵器として投擲!
この鬼畜、外道な戦法にエジプトは敗北した。
なお元寇において蒙古、武士双方とも
猫じゃなく人間でそれをやってた。
武士は頭おかしい坂東武士ではなく、それよりは穏やかとされる鎮西武士。
モンゴル軍も主力はモンゴル人ではなく、高麗や中国北部の女真族主体。
モンゴルも敵城に、疫病に罹った人間を投石機で撃ち込むとかしていた。
結論。
昔はどこも蛮族。
宗教で人間として枠を嵌めてただけ。
だから、宗教が
「殺して良いのは異端と怪物だけです」
なんて言うと、途端に元に戻る。




