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DQN団地乗っ取り計画~勝手に住み着いた者の末路~

 六郎が先兵となり、DQNを駆逐しつつ、その部屋を占領していく作戦は順調に進んでいた。

 それ故に問題も生じている。

 一人が何部屋も借りているような状態で、それぞれの部屋のセキュリティが甘くなってしまう。

 なお、父親である当主から借りられる人数はそう多くない。

 当主にしたら、現代日本で領地とも言えない物件を増やすのは副業のようなものだ。

 本業である鎌倉時代での農業や、管理を任されている荘園からの徴税、鎌倉や京や自領の治安活動がある為、あまり家人を派遣する事も出来ない。

 故に、部屋を借りるだけで電気も水道も電話回線も止め、空き家にしていた。

 その上、しょっちゅう実家の方にも戻っている為、DQN団地を空けている事も多い。


「部屋が狭過ぎて、鍛錬の一つも出来ん」

 そう文句を言っている。

 集合住宅住まいは、鎌倉武士には不満だらけのようだ。

 まず、太刀を振るうと天井にぶつかる。

 弓矢の練習をしようにも、場所が無い。

 馬を駐輪場に繋いだ所、物凄く苦情を言われた。

 まあそれは無理も無い。

 繰り返しになるが、鎌倉武士の馬とは猛獣である。

 駐輪場に来て、自分の自転車を出そうとすると、歯を剥き出し、足を鳴らして威嚇する。

 そして辺り構わず排便する。

 これが理由で出て行った住人もいるくらいで、流石に管理会社の方から苦情が入り、悶着をしまくった後で馬は屋敷の方に戻された。

「馬乗って街中移動するとか、常識が無い!」

 とDQNが呆れていたくらいだった。


 そんな訳で、空き部屋を何部屋も抱えている六郎だが、管理会社からその空き部屋についての報告が入った。

 とある部屋だが、そこは使っているか? と。

 六郎の管理は結構甘い。

 最近作った愛人とか雑色、最初に部屋を奪ったDQNの子で、腕を斬り落とされた少年を、空いている部屋に住まさせたりしている為、使ったり使わなかったりしていた。

 その為、使っていない部屋はブレーカーを落としたり、水道の元栓を止めて貰ったりはしているが、契約解除まではしていない。

 急に誰かをそこに置く時に、再契約だと時間が掛かり、それはそれで癇癪を起こすからだ。

 だが、大まかな六郎と違い、管理会社の方はキチンとチェックを行っている。

 この厄介な物件が上手く処分出来れば、面倒事から解放されるだけでなく、臨時ボーナスも出るからしっかり仕事をしていた。

 そして、彼等が把握している居住人数に比べ、使用されている部屋の齟齬を見つけたのである。

(またあの変な人が、勝手に誰かを住まわせたのかもしれない)

 と思った為、勝手にまた配電盤とか水道供給栓を弄る訳にもいかず、六郎に確認を取った訳だ。


 管理会社→弁護士事務所→武家屋敷→使いの者による書状伝達


 と間に色々挟んでの連絡であった。

 よって、返事も同じような過程で返って来る。

 それでも「その部屋は使っていない」という回答を得て、管理会社が行ってみると、何故かそこには家族が住んでいた。

「不法侵入ですよ」

 と言うと

「この部屋を管理している、侍みたいな人に頼まれた」

 とか言って来た。

 一応辻褄は合っている。

 六郎が忘れただけかもしれない。

 また六郎に問い合わせをする。


 そして直接面を合わせた結果

「其の方ども、誰ぞ?」

 となり、不法侵入が確定した。

 どうやって中に入った?

 それは兎も角、追い出さないと。

 だが

「空き部屋を管理してやってるんだ。

 管理費くらい払うのが筋じゃねえのか!」

 とか

「もう住んでしまった以上、こっちのものだ。

 勝手に追い出す事は法律で許されてねえよな!」

 とか

「追い出すんなら、代わりの家を寄越せ!

 この部屋より大きいやつをな!」

 とかとゴネている。

 ムカついた六郎が太刀を抜くと

「殺すんならやってみろ!

 でもあんた、こっちで問題起こすなって言われてるんだろ?

 殺したらあんたもおしまいだよ」

 と、どうしてそんな事を知っている? な事を言って開き直る。


 まあ、覚悟が決まっている鎌倉武士にそんな事は通じない。

 侮辱されたなら殺し、それを咎められたなら自分も死ぬ、それまでの事。

 よって、殺気が急に収まり、むしろ清浄な気を放ちながら近づいていく。

「殺してやる」

 ではない。

「もう死ぬ、無事に往生しろ」

 という心であった。

「待った!」

 もう完全に側近と化したリュウ少年が六郎を止める。

 そしてひそひそ話をする。

 密談は長引いたようだ。

 しばらくして六郎は太刀を納めると、こう言った。

「其の方、代えの家屋敷があれば、そこに移り住むのじゃな?」

「お、おう……。

 ここより広い所だぞ」

「ではそこに連れて行ってやろう」

「何だと?

 でもよお、家賃はあんたが払うんだぜ」

「家賃?

 そんなものは無いぞ」

「は?

 そんな家有るのかよ?」

「来られよ。

 その地の主へ紹介状を書いて進ぜよう」

「嘘じゃねえだろうな?」

「武士は嘘など言わぬ」


 大喜びで不法侵入DQNは了承した。

 そして

「まずはその地の領主へ挨拶しに行って貰う」

 として、武家屋敷の方に家族を連れて行った。

 そこでしばらく待たせる。

「待たせたな。

 これが紹介状じゃ」

 そう言って渡した書状には

「地蔵菩薩発心因縁十王へ」

 と書かれている。

 地蔵菩薩発心因縁十王の中には「閻魔天」即ち閻魔大王が含まれていた。


「閻魔殿へ挨拶に行って参れ。

 その地に喜んで住まわせてくれようぞ。

 返答は無用じゃ」


 その後はお察し……。

 年端も行かない子供は助命され、この屋敷で育てられる事になる。

 将来の雑用係とされるべく……。




 この話の後味の悪さは、これだけで終わらなかった事だ。

 どうして「武士のコスプレをした変な奴が何部屋も持っていて、その武士は問題を起こすなと言われていた」事を知っていたのか?

 この不法侵入DQN家族にその存在を教えたのは、内装工事業者の人間だったのだ。

 六郎がDQN住人を駆除し、部屋を占領する。

 中の家具とかは、比較的平穏に逃げ出した者は引っ越し先に持ち出し、不穏な去り方をした者のは残されてしまう。

 そこで要らないものは叩き売り、現状復帰をさせるべく内装工事が行われた。

 よって、その時点で鍵は渡されるし、依頼主とも顔を合わせる事があった。

 何度か繰り返す内に、結構管理が杜撰である事を知った。

 そこで、工事の隙を見て密かに合鍵を作り、知り合いに非合法に渡して住まわせていたのだ。

 色々と事情を教えた上で。

 だからそれっぽい事も言えたし、鍵を使って中に入る事も出来たのだ。


「……そんな訳で、工事業者には責任を取って貰いましたよ。

 可哀そうですけど、跡取り息子がそんな事をした以上、会社は畳まざるを得ませんねえ。

 地域の業者だっただけに、本当に可哀想ですが」

 そう言う弁護士だったが、取るべき金額はしっかり取っていたのがえげつない。

「勝手に家を追い出せないとか、時効取得の事を勘違いして言っていただけですから、私に任せてくれれば穏便に対処も出来たんですがねえ」

 悪徳弁護士がこめかみの辺りをグリグリマッサージしながら、俺に教えてくれた。

 なお、弁護士が教えてくれた事だが、




~~~~~~~~~~

【御成敗式目第八条】

「一、雖帶御下文不令知行、經年序所領事

  右當知行之後過廿箇年者 任右大將家之例 不論理非 不能改替

  而申知行之由 掠給御下文之輩 雖帶彼状不及敍用」


 訳:二十年間実効支配した土地は、元の領主に返す必要はない。

  実際に支配していないのに、支配してたと騙している場合は、その限りではない。

~~~~~~~~~~




 という現代の民法にも通じる規定があるそうだ。

 八百年経っても、変わらぬものも存在するようだ。

民法第162条

1. 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2. 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。


てのがあり、これが不動産の時効取得に当たります。


調べたら、御成敗式目からの流れとする意見と、日本の民放を制定するにあたり、フランス民法からギュスターヴ・エミール・ボアソナードが草案を書いた時

「当時は慣例として30年にしていたが、交通が発達して土地の所有確認の為の移動が容易になった為、20年に短縮したものだ」

とするフランス民法(ナポレオン法典)由来とする意見とがありました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] >二十年間実効支配した土地は、元の領主に返す必要はない。 仮に外国人が鎌倉武士ルールを現代で押し通した上に都合良く解釈すると、北方領土も竹島…
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