DQN団地乗っ取り計画~ハニートラップにかかった~
通称「DQN団地」で色んな部屋を徐々に侵食し、やがてDQNを全員追い払った後にオーナーに高く売りつける鎌倉武士らしからぬ、いや、むしろ「らしい」かもしれない作戦の前線指揮官は、全体では六男、正室の子に限れば次男の六郎であった。
この男、既に大人である。
現代の基準では未成年なのだが、既に初陣を済ませ、人も殺しているし、童貞でも無かった。
「初めて人を殺した後は、気が妙に昂ったり、逆に気鬱に陥る」
から、最初の首取りの後は女を抱いていた。
そういう時代なんだから、仕方がない。
そして十七歳という年齢は、既に結婚している年齢だ。
非モテからしたら悔しいが、そういう時代なんだ!!!!
だが……
「まだ許嫁に過ぎん。
床には入っておらぬ」
と言っている。
「相手はまだ十歳にもなっておらぬでな」
正室の次男だけあって、優遇されているようだ。
庶長子の太郎殿は既婚者だが、その下の次郎殿は結婚を禁じられている模様。
叔父たちを見ても、分家を立てたは当主の兄、庶長子に当たる人だけで、後は結婚は禁止もしくは出家させられたそうだ。
そうでもしないと、相続させる土地が細分化し過ぎて、いずれ無くなるからだ。
正室とか、万が一の為に真っ先に成人する庶長子のみ子を作り、他は一生寂しい人生……
「そんな訳ないだろう。
妾(側室)なら置けるぞ」
という訳で、リア充どもよ爆発しろ!
なんか俺の内心がダダ洩れしているが、兎に角この六郎という若者は、実にオスとして強烈だ。
草食系とか肉食系とか、そんな範疇ではない。
「禁欲の果てにたどり着く境地などたかが知れたもの。
強くなりたくば喰らえ!!!」
と言った感じの哲学で生きている。
だからこそ、今回のようなトラブルに巻き込まれたのだろう。
それは所謂、美人局であった。
ハニートラップとも言う。
女と既成事実を作らせ、その後に夫という存在が現れ、脅す。
周囲に知られたくなかったら金を払え、という。
六郎の場合、あえて芝居をして誘惑する必要は無い。
無造作に、誘いに乗る。
そして旦那登場。
「おう、そこの兄ちゃん。
人の女房に何してくれるんじゃ!」
「女房なら構わぬだろう」
「は????」
まず言葉の定義が違う。
現代日本で女房は「妻」なのだが、中世は宮中の女官とかなのだ。
この女官に手がつく事がある。
そうして子を産んだ女房は「家女房」に昇格するのだが、DQNはそんな事情は知らない。
「兎に角だ、人の女に手を出した以上、ただじゃ済まねえぞ」
「なんだ、お前はあの男の室であったか」
「室?
何の事だか分からないけど、兎に角あたしに手を出したんだから、もうおしまいね。
言っとくけど、あの人、キレたら何するか分からないわよ」
脅している筈が、全く脅しになっていない。
「ふむ。
聞くが、お前は強い男を望むか?」
「は?
強い男?
そりゃそうじゃないの。
あんたみたいな、小柄な男に用は無いわよ」
(でも、そうも言い切れないかも。
背こそ低いけど、肉体は物凄い筋肉だったし……)
「おう、何をごちゃごちゃ言ってるんじゃ」
「よし、あの男を殺すぞ」
「は?」
「へ?」
「お前を側女とする。
それにはあの男は邪魔という事じゃな」
「てめえ、ナメてんじゃねえ」
寝床で丸腰の六郎に殴りかかるも、あっさり制圧される。
「やはり見かけだけか……」
六郎はつまらなそうだ。
「てめえ……こんな事してただで済むと思うな。
てめえが人の女に手を出した事が知られたら……」
「何が悪いのかのお?
強き者が奪うのは当たり前じゃろ?」
「あんた、恋人とかはいねえのか?」
六郎は十七歳だが、表情も雰囲気も二十代後半くらいには見える。
まあよくよく見れば、幼い部分もあるのだが。
「許嫁ならおるぞ」
「そいつに知らせるぞ」
「??
いよいよ分からぬ。
側女の何が悪いのか?」
一夫多妻制の当時、正室のなる人に、側室を持ったと知らせても「そうか」で終わる。
正室の管理下に無い、隠し妻であれば問題なのであり、側室として正室の下に置かれるのならば、そういう女性をしっかり抑えつけるのは正室の力量であった。
「まあ、一々喧しいだけの男よ。
リュウよ、わしの太刀を持って参れ。
この者の首を刎ねん」
男が怒鳴り込んで来たのを見て、応援に駆け付けたリュウが一部始終を見ていたのだが、命令をされてすぐに体が動く。
刀をスラリと抜くと、
「さて、念仏でも唱えよ。
唱え終わったなら、楽にしてやろうぞ」
そう言って首筋に太刀を当てる。
「許して下さい!
助けて下さい!
お慈悲を!」
美人局の男は、小便を漏らしながら泣き喚いた。
六郎は首を傾げ
「十分慈悲深いぞ。
念仏が終わるまで待つし、苦しまずに殺してやると申しておるのじゃから……」
そう言っていた。
美人局の男は、段々と事態を把握していた。
(こいつには常識が通じない)
殺す事に躊躇いが無いし、側室なんて言ってるし、昔の武士のような……
もしかして、コスプレしてるただの馬鹿じゃなく、本物??
過去の人間に、今の時代の理屈は通じない。
「お願いします。
殺さないで。
何でもします、何でもします」
「じゃが、この女は其の方の室であろう?
口惜しうは無いのか?」
「違います。
ただのパートナーです。
一緒に相手を騙しているだけで、夫婦じゃありあせん。
籍を入れていません。
だからお願いします、殺さないで!」
「ふむ……」
太刀を鞘に納め、六郎はとりあえず男をぶん殴って気絶させた。
そして
「何を寝ておる!」
と理不尽な事を言うと、無理矢理叩き起こして住居を聞く。
なんと、このDQN団地に住んでいるそうだ。
「よし、お主の家をわしに明け渡せ。
それで殺さずに済ませよう」
こうしてまた一部屋、鎌倉武士の手に落ちるのであった。
数日後、武家屋敷から出て来た六郎は、顔面が変形していた。
もっと強い奴等に殴られて制裁されたのだろう。
「どうしました?」
聞くと、代理でリュウが答える。
かくかくしかじかで、美人局にハマったものの、逆襲して部屋を奪い、男は追放したと。
「じゃあ何も問題無いのでは?
何であんなにボコボコにされたんだ?」
その理由は
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【御成敗式目第三十四条】
「一、密懷他人妻罪科事
右不論強姦和姦 懷抱人妻之輩 被召所領半分 可被罷出仕 無所帶者可處遠流也
(以下略)」
合意があろうが無かろうが、人妻に手を出すような奴は所領半分を没収、出仕を停止する。
所領が無い場合は遠方に追放する
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とあり、実はかなり危ない橋を渡っていたようだ。
相手が籍を入れた本当の人妻だった場合、六郎はもっと酷い制裁をされていただろう。
「で、その女はどうなったんだ?」
「六郎殿の側女に落ち着きやがった。
なんでも『強い男が大好き』なそうでさ。
リア充爆発しろ! って感じっスよ」
それは俺が言いたかった台詞だぁっ!!!!
以前から思ってました。
「バラすぞ」→「皆知ってるからな」
「奥さん怒るだろ?」→「うちは愛人OKだから」
「不貞行為だ! 夫婦関係を破綻させた」→「お前さえ納得すれば問題解決だな。認めろ!」
「社会的地位が危うくなるだろ?」→「むしろよくやったと言われるが」
こういう相手にはハニートラップとか通じないよな、って。
戦後すぐの政治家の三木武吉が
「この人は愛人を4人も抱えている」
と批判されたら
「4人じゃなくて5人な。
5を4と数え間違うとか、小学1年生でもしないぞ。
全員婆さんだしなあ、今更放り出すわけにもいかず、全員養っているよ。
およそ大政治家たらんものは、いっぺんに数人の女を喧嘩もさせず嫉妬もさせずに操っていくぐらい腕がなくてはならん」
と言って、かえって拍手を貰ったという話を思い出しまして。




