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鎌倉時代の歩き方

 歴史改編の可能性があるから、俺の家のお隣さんはリアルな鎌倉時代の武家屋敷だと言う事は、必要最低限にしか知られていない。

 現代と鎌倉時代が直結している為、何かが起こればその後の歴史に影響が出かねないからだ。

 ある意味で、現代日本でも鎌倉武士が酷い事をしても見逃されているのは、それが理由である。

 未来の人が殺された、だから殺した過去の人間を逮捕して死刑にした、そうしたらその人の子孫が一斉に消滅して未来が変わった、なんて事が起こり得る。

 こういうのは過去の人間の側にも注意喚起したい所だが、こいつら分かってるのか、分かってないのか。

 未来の知識や技術を取り入れたり、今後の歴史を知ろうとはしない。

「そんな事をしても、明日死ぬかもしれないし、意味は無いだろう。

 自分が生きたいように生きる方が重要だ」

 という乱世人っぽい思考であり、だから

「こちらの時代でも、可能なら所領を増やそう」

 と鎌倉精神全開で生活していた。

 まあ唯一と言って良い、未来知識への興味は

「酒をどう美味くするか」

 であり、これに関しては歴史を変えかねない情熱を見せてはいるが……。




「さあ、出かけようか!」

 文化庁の職員知念さん、近くの歴史研究家、動物ウォッチャー、近所の時代劇好きな爺さんたちが、タイムトラベルを実行しようとしている。

 以前から、取次役を勝手に任されている俺に、鎌倉時代を案内して欲しいという依頼が多発していた。

 鎌倉武士側は

「そのような事をして、過去に介入するのは良くないと言っていなかったか?」

 と、こういう時ばかり科学的な理解が出来ていて、案内を拒否していた。

……単に面倒臭かっただけかもしれないが。

 だがここ暫く居着いている譲念和尚が

「わしが案内してやろう。

 なあに、なるようになるだけだ。

 その代わり、命を落としても関わり無き事ぞ」

 と案内を買って出てくれた。


 そして、やはりというか、何故かという気力も起こらないくらい、俺も同行が確定していた。

「お主たちの格好は奇抜過ぎる。

 僧衣を用意したから、それに着替えよ」

 以前、法律家も伴って問注所に出向いた際は、武士が多数護衛というか護送していた為、ジロジロ見られはしたが危害は加えられなかった。

 行き場所も決まっていたし。

 しかし、今回はぶらり鎌倉をする為、

「お前ら、何を人の館の門前で立っていやがる」

 と因縁つけられる可能性が高い。

 当時から見て、奇抜な服装ならばなおの事絡まれやすい。


 要は、不良少年(ヤンキー)や暴走族ばかりで荒れている、少年マ〇ジンによく出て来るような高校に、ボンテージ衣装・レイザー〇モン・ハード〇イのような格好で腰を振りながら立っているのを想像すれば良い。

 変な奴が喧嘩売りに来たと勘違いされ、有無を言わずに襲撃されるだろう。

「ヤ」のつく武闘派の特殊自営業の家の前で、金ピカ衣装を着ながらマツ〇ンサンバを踊ってみても良いだろう。

 ふざけた格好で、おかしな挙動をしていると、その場で射殺されかねない。

 繰り返しになるが、俺の先祖は鎌倉武士の中では、相当に穏健な部類なのだ。

 話は聞いてくれるし、答えは聞いていないが説明するだけマシなのだ。

 大概の連中はそうではない。

 寺社からして、ふざけた事をしていたら僧兵に襲われる。

 だから、フラフラ歩いていても疑われにくい僧侶の格好が良い。


 余談だが、この時期の京の公家であっても、安全の為に門番とか護衛の者を雇っている。

 そいつらは、契約主に対しては確かに警護を行うが、オフの日は盗賊をしたりする。

 世紀末ならモヒカン頭でトマホークを投げてヒャッハーと叫ぶような連中を雇って、安全を買っているのがあの時代だ。

 酷い時期には鎌倉幕府の出張所である六波羅すら、盗賊・野盗・日和見の農民や悪僧から襲撃される危険性を感じ、周囲に堀を巡らし、徹夜で松明を焚いて警戒態勢に入ったりもした程である。


 さらに余談だが、昔の日本に散歩という風習は無い。

 散歩は明治時代になって、西洋の風習を取り入れたものだ。

 目的があって、そこに向かう歩行はある。

 桜の花を観に、川等を歩き回る「物見遊山」ならあった。

 目的もなくぶらり歩きを「犬の川端歩き」と呼び、馬鹿にしていたりする。

 これは江戸時代の話で、略して「犬川」は商店の前を歩くウィンドウショッピングに近い行為なのだが、もしも商店とかが無く、露店の市場で買いもせずにそんな事をしたら

「邪魔だ!」

 と天秤棒で殴られるだろう。


「という訳で、お主らはわしの弟子という事にするぞ」

 笠をかぶり、髷でない頭でも問題無いようにする。

 そして譲念のコネを使って、見たい寺社や設備の見学をさせて貰う。

「賄賂を渡すのに、規律がどうこう言いませんよね?」

 俺が文化庁の官僚に聞くと

「どうせここは日本国憲法も国家公務員法も関係ないんだろ。

 優れた美術品をこの目で見られるのなら、賄賂だろうが何だろうが渡すさ!」

 と返して来た。

 分かったから、デジカメ持ち込んで問題にならないようにね。

 あと動物ウォッチャーの人、撮影はまだしも、絶滅動物を連れ帰る籠は持ち込み禁止だからな!


 こうして譲念和尚について回った為、俺たちは安全に鎌倉旅行を終える事が出来た。

 皆満足して帰る。

 滅多にない貴重な体験が出来たものだ。




 この鎌倉旅行を、参加した近所の爺さんが楽し気に話したものだから、DQNが湧いてしまう。

 俺の所に

「お土産は無いの?」

 とやって来たおばさんがいた。

「あんた、誰?

 初対面ですよね?」

「そんな事どうでも良いのよ!

 鎌倉旅行とかして、近所の人にお土産も渡さないの?」

 いや、無事に命を持って帰ったのが、最大の土産だからなあ。

 それに、鎌倉時代にはまだ特産品とかが出来ていない。

 鎌倉彫は既に存在していたけど、仏具だったからそう簡単には買えない。

 むしろこっちが手土産持って行かないと、寺や屋敷を案内もしてくれない。


 厚かましいおばさんは、ひとしきりギャーギャー騒いで、どこかに行ってしまった。

 そして、武家屋敷に侵入するという暴挙をやらかす。

 鎌倉旅行は、あの大きい屋敷に寝泊りしている坊さんが手配してくれた。

 だから坊さんに直接頼んで、無料で旅行しよう、ついでに豪遊もしようという魂胆であった。


 普段なら厳重に守られている正門。

 しかし、ここは現在改修工事中だ。

 まだ工事用の櫓とか資材とかが置かれていて、以前よりは隙があった。

「曲者!」

 障害物に隠れながら侵入するも、流石に警護の武士に見つかってしまった。

 いきなり矢を射てくる武士たち。

 おばさんはパニックになり、敷地中を逃げ回った挙句、以前の裏門、現在は鎌倉時代側に通じる正門から逃げ出したそうだ。


(サファリパークに、案内人も安全対策の鉄格子バスにも乗らず、飛び込んで行ったのか……)

 騒動の顛末を平吉から聞かされ、俺はそのおばさんの末路を想像し、思わず祈った。

 まあ帰って来る事は無いだろうなあ……。

 また一人、現代日本からDQNが消えた……。

おまけ:

鎌倉時代の日本を歩く為、徹底的な検疫をさせてます。

どれくらいかと言うと、独自の生態系を持つ南硫黄島調査と同じレベルです。

そういう生物汚染対策ネタは、前のSFの時に散々書いて飽きたので省略しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鎌倉武士側は一族郎党、縦に横の連携がバッチリなのに現代のDQN側は全くもって成り立っていないのが笑える 同じ町内なんだから最近見なくなったあの人とか、少しは疑問に思えよ(笑)
[良い点] 第40部分到達、お疲れ様です! >鎌倉武士側は >「そのような事をして、過去に介入するのは良くないと言っていなかったか?」 >と、こういう時ばかり科学的な理解が出来ていて、案内を拒否して…
[気になる点] 歴史改変しても、繋がった鎌倉世界と現代は分岐した並行世界だから影響は観測されない説。 歴史改変しても、実は既に現代は繋がった鎌倉武士によって改変されてしまった世界なので、影響が観測…
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