DQN団地乗っ取り計画~サイマー退治~
「家賃とは何か?」
六郎に呼び出されたと思ったら、そんな質問をされる。
「部屋を借りたら、持ち主に支払いをする事ですが……」
「わし、払っておったか?」
ああ、なるほど、リュウ少年に聞いても分からないわけだ。
リュウ少年の所も、母親が払っている「らしい」が詳しくは知らない模様。
「六郎殿の家賃は、弁護士を通じて毎月支払われていますよ。
家賃滞納はしていませんので」
以前聞いていた事を話す。
今一つ、口座引き落としというのが分かっていない為、嚙み砕いて説明する必要があった。
「さて、家賃を払ってない者がおるようで、その取り立てを頼まれてのお。
じゃから家賃というものについて聞いてみたのよ」
ここのオーナー及び管理会社から、六郎に対して、厄介な滞納者からの取り立ての依頼がされたようである。
「武士は斯様な者を正すのが得意じゃからなあ」
うん、この人たち公安委員会から特定指定何とか団に指定されていないだけで、中身は一緒だから。
その地域を再開発したい不動産屋が、強引に住民を退去させるよう、特殊自営業を使って嫌がらせとかしたのと、大体同じだからね。
善良な住民に嫌がらせして追い立てるのと、周辺からも嫌がられている住民を叩きのめすのと、その違いしかないから。
「さて、人数を集めて討ち入りしようか」
「いや待て!
問題起こすなって、当主に言われてなかったか?」
「領主、守護(管理会社)の依頼ぞ。
手勢を集めて討ち入って何が悪い?」
「こっちは鎌倉法の適用範囲外!
日本国憲法の適用内!
こっちの法に従って下さい!」
「ふむ、面倒よの。
ではどうするか?」
基本的に、ドアとかを門破壊用の鎚とか使ってガンガンやると、周辺住民から警察に通報されて厄介な事になる。
だから、その人の行動パターンを掴み、外で確保してから部屋の中に乗り込むのが良いのではないか?
そう伝えると、六郎は頷いて雑色に調査を命じていた。
やがてその住民の行動パターンが判明する。
役所から幾ばくかの手当を貰って最低限の生活の筈が、パチンコに行く、競馬に行く、それで金が足りなくなれば寸借詐欺のような事をして小銭を稼ぐ。
本人、あちこちから借金していると言っていて、
「もうどこからも借りれねえよ。
まあ闇金とかなら貸してくれっかもしれねえが、俺も危ない橋は渡んねえよ」
と飲み屋で笑っているようだ。
そう言って
「じゃあ、ここはツケで。
出世払いでな」
と言って去る。
断ったり出禁にすると暴れたり、嫌がらせをするので、渋々ビール一杯くらいは飲ませたりしているようだ。
「さて、どうする?」
すっかり軍師役にさせられた俺。
まあ俺としては、周囲の理解を得てから行動するのが良いと思っている。
「それは道理じゃ。
無法は通らぬものよ」
(どの口が言っている?)
「我等が祖は、酷かったようじゃからな。
何度か討伐されかかったと聞く」
荘園を押領して税を全部着服、文句に来た公家の使いの者をタコ殴りにし、髻を切って追い返した挙句、更に集団でその公家の荘園を管理する庄司の所に威圧しに行ったとか。
寺社、近隣の武家、院とか全方位に喧嘩を売った為、当時の源氏に討伐命令が下り、慌ててその源氏を通じて院にまとめて荘園を寄進。
どうにか管理者の職を得るも、度々税を意図的に滞納して、時には屋敷を焼かれる制裁を食らったそうで。
「それゆえ、京下りの公家を招いて、家政を任せておるのじゃ」
自分の先祖でもあるから、何となくは知っていたが、実際に聞くと結構なDQNっぷりだ。
平安時代の武士は、鎌倉武士から見ても「あれは酷い」ってレベルなようで。
とりあえず外堀から埋める作戦に同意を得ると、顧問弁護士に連絡をして、標的の借金先に連絡をして債権を買う事にした。
つまり借金の肩代わり。
こうして相手の借金を全部統合し、いつの間にか鎌倉武士が唯一の債権者となる。
更に
「あの人が居なくなって、困る事ありますか?」
と聞いたところ、定職に就いていないようで、特に困る者もいないようだ。
「親族はいましたが、縁を切っている、厄介事を持ち込まないで欲しいと言われました」
という弁護士の報告を受け、これで準備は整った。
決行の日。
パチンコに行く為に部屋を出たそいつは、いきなり鎌倉武士に囲まれ、腹を思いっ切り打たれる。
気絶した?
違う、悶絶して声が出なくなっただけだ。
「あが……が……」
と声にならない声を漏らしているが、そのまま口を封じられ、米俵に詰め込まれて武家屋敷に運搬されていった。
(まんま拉致じゃないか……)
と思ったが、深く考えるのはよそう。
連れ去る前にズボンから鍵を抜くと、そいつの部屋を開ける。
とりあえずは部屋ゲットのようだ。
その後、屋敷の中でどのような交渉が行われたかはしらないが、何とか「合法的に」部屋の譲渡契約が出来たようである。
ちなみに、御成敗式目では
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【御成敗式目第五条】
「一、裵國地頭令抑留年貢所當事
右抑留年貢之由 有本所之訴訟者 即遂結解可請勘定 犯用之條若無所遁者 任員數可辨償之
但於爲少分者早速可致沙汰 至過分者三箇年中可辨濟也 猶背此旨令難澁者 可被改所職也」
訳:諸国の地頭が、収めるべき年貢を横領する事について
横領分を支払って、確定申告しろ!
多過ぎる場合は三年以内に払え。
従わない場合は地頭解任。
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という条項があるが、これは「意図的に払わなかった場合、地頭は解任されるけど、返済義務には触れていない」のである。
そこで各地の大手の武家は、補足する追加法を作って運用していた。
この家の補足法は……
「支払う意思が無い場合、能力が認められない場合、過大過ぎる場合は
身分を奴婢に落とし、本人及び家族の人身売買と、その先での収入を徴収して返済に充てる」
という帝〇グループとかと同じようなものであった。
まあ〇愛グループは、家族に連座させない分マシかもしれないが。
「借金は全部当家が肩代わりしたからな。
後は当家に返して貰えば良い。
当家は武田殿よりは穏やかじゃからな。
奇病が蔓延している田畑で労働はさせぬよ」
つまり、日本住血吸虫症が無いだけで、後は変わらない訳ですね。
村の農民が、奴婢として連れて来られた者を、生かさぬよう殺さぬよう、ごまの油を搾るように労働させる訳ですね。
収入は全部持っていき、最低限生きるだけの食糧を現物支給する訳ですね。
逃げようにも、現代人の体力では隣の荘園まで行く事すら困難で、まず逃げられない訳ですね。
中世で破産して身を崩す(文字通り身分が最下層に落ちる)と、福〇先生の漫画に出て来る悪徳金融業者しか存在しないような中で生きていく羽目になるって事だ。
自己破産とか生活保護とか許されている現代って楽園だな、と思う俺であった。
質問:
「そういった奴婢に落とされた者に兵役義務はあるんですか?」
回答:
「戦闘は武士がするものだから、兵としては使わない。
雑用に使っても、物資を持ち逃げするかもしれない。
だから、沼地とか伏兵がある場所で、そいつらを走らせる。
ぬかるみにはまったら、そこは避けて通る。
矢が飛んで来たら、伏兵を見つけられたから、そこを攻撃する」
結論:旧ソ連やロシア軍と同じようなものでした。




