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鎌倉時代の女性、現代日本で驚きの……

 鎌倉武士の六郎には、付き従う者たちがいる。

 DQN団地を制圧しようと移り住んだが、その際一人暮らしはしていない。

 元からこの集合住宅に住んでいて、六郎という個人の郎党となったリュウ少年の他に、雑用をする男女二人が付き従った。

 武士の身分が急上昇した時代であり、特に御家人の子息はそれなりのボンボンである。

 身の回りの事は、家人が代わりにするのだ。

 そんな世話係の女性は、お熊という名前だった。


 歴史書に、女性の名前はまず記載されない。

 北条政子だって、あれは本名ではない。

 父親の北条時政から一字取った、パブリックネームである。

 本名は「曽我物語」では万寿とされるが、果たして本当かどうか。

 その他大勢の女性の名前なんて、まず分からない。

 だが、その当時は確かに名前が有った。


 名前は、悪く使われると呪いを掛けられる。

 三位以上の公卿は「名前を使った呪いは無効」というよく分からないルールがあるのだが、普通の人は三位以上の高官なんかじゃない。

 そこで、諱(本名)は家族以外は知らぬようにし、後は区別が付くように、災いを食い止める為にあえて悪い名前で呼んだりした。

 お熊という名前もそれだ。

 あえてうら若い女性を、獣の名前で呼んでいる。

 本当の名前じゃないが、人はそう呼んでいる。

 本名じゃないのに、名は体を表すとなってしまった。


 この女性、デカい。

 鎌倉時代基準でなく、現代人基準でもデカい。

 180cmはあるだろう。

 女に飢えてる所がある六郎も

「あれ程大きな女には惹かれぬ」

 なんて言っている。

 六郎は容姿こそ歳に似つかわしくなく厳ついが、身長は160cmそこそこである。

 見上げるような大女は嫌みたいだ。


 下女として、性的対象とされずに働いているが、この女性はよく屋敷とDQN団地を往復する。

 服とか食糧とかを持って来るのだ。

 それで、鎌倉時代の下女の衣服に、屋敷近くの旧住民たち、多くは屋敷の鎌倉武士の子孫たちがお節介し出したのだ。

「お熊ちゃん、もっと可愛い服着た方がいいよ」

「お熊ちゃん、スタイル良いんだから、ファッションに気を使おうよ」


 名は体を表すなんて言ったが、熊をイメージするのは身長のみ。

 多少色黒だが、他は身体がスラっとしている。

 切れ長の目ではなく、丸っこい可愛い目だが、それは鎌倉時代の美人の条件ではないようだ。

 鎌倉時代はともかく、現代基準では美人だろう。

 世話焼きのおばちゃんたちが黙っていない訳だ。


「おら、そんなこっ恥ずかしい服は嫌んだ」

 おばちゃんたちに呼び止められ、ファッション誌の服を見せられたお熊は、嫌悪感を示す。

 身体のラインが見える服は嫌なようだ。

 それでもおばちゃんたちが

「時間があるならお風呂入っていきなさいよ」

「櫛をあげるから、髪を梳いていったらどう?」

「これ、綺麗なタオルだから使ってみなさい」

 と声を掛け続けていった結果、徐々に田舎っぽい感じが消えていく。

 六郎ですら

「あの女子、中々見目麗しいではないか。

 気付かなんだ。

 わしの側女にしても良いかのお。

 いや、じゃがやはりあの大きさは良からず……。

 目もギョロリとして馴染めぬ」

 なんて葛藤し始めるくらいだ。


 時間が経つ程に、当初は嫌がっていたお熊も、次第に現代日本の美容について興味を持つようになる。

 実際のところ、現代日本を相当に汚れた和服と裸足に近い状態で、篭に色んな物を入れて歩き回るのは悪目立ちするので、早い段階からサンダルに身体の線が出ないダボダボの服を「移動時には着用」を当主から許されていた為、彼女が現代を受け入れる第一段階は突破出来ていたのだ。

……これが

「そのような淫らな姿は当家の恥じゃ!

 許さん!

 そのような姿を見たら殺す!」

 だったら、彼女は頑なに鎌倉時代風を押し通しただろう。

 良い意味で「下女が何していようが興味ない」のが良かったようだ。


 現在、お熊はコーディネートするおばちゃんのセンスのせいで、かなりダサい感じはあるが、ズボンとジャケット姿で、ミュールを履き、トートバッグを持って活動するようになった。

 当初は俺とかリュウが付き添っていた買い物も、その格好なら恥ずかしくは無いし、慣れて来た事もあって一人で行けるようになった。

……そもそも日本円を使っていない時代の人間で、金銭感覚がおかしいから、酒とか鎌倉時代には無い食品の買い出しくらいしかさせられないが。


 そんなお熊、現代日本でも女性としては長身な事もあり、服装を近代化しても、おばちゃんファッションで派手ではなくても、やはり目立つ。

 垢抜けていった為、段々と美人っぷり(現代基準)も分かるようになる。

「あのダサい服装じゃなければいいのになあ。

 なんかババ臭いよなあ」

「でも、スウェットにジーパン、そしてPIYO PIYOのエプロン姿とか、管理人さ〜ん!って呼びたくならない?」

「いつの時代だよ……。

 まあ昭和の頃の雰囲気なのは認めるよ」

 と見かけた男性からは言われるようになっていた。

 昭和どころか、貞永以降元弘以前のどれかの人間なんだが。

 そんなお熊を、ダイヤの原石と認める者が、やはり居たようだ。




「お頼み申す、お頼み申す」

 もうかなり経つのに一向にチャイムの使い方を覚えない雑色ども。

 実際、現代社会で暮らす六郎やお熊以外は、現代社会の方に合わせる気が全く無く、鎌倉時代の生活様式を一切変更していない。

 現代の文化を取り入れる事によるタイムパラドックスを起こす危険性が全く無さそうで、それは安心な部分だ。

 まあとりあえず、俺に用事のようだから、武家屋敷の方に出向こうか。


 そこではお熊が、庭先で土下座していた。

 現代の服で。

(汚れるだろ)

 そう思ったが、もしかしてその服が原因で処罰されるのか? と思うと一瞬背筋に冷たいものが走った。

 だがそれなら、あえて俺を呼ぶ事は無いだろう。

 ここの家人なんだから、生殺与奪の権は当主にある。

 処罰するなら黙って殺すだけ。


 その当主、執事の藤十郎、文官の吉田民部、そして六郎が複雑な顔で座っていた。

 顧問弁護士にも使いを送ったから、暫くしたら来るそうだ。

 やがて全員揃ったところで会議が始まる。

 全くもって想像外の事態が起きていた。


「見世物小屋の主より、お熊を譲って欲しいという申し出があったそうじゃ。

 お熊は何度も断っていたが、余りにしつこくて話だけは聞いてそうじゃ。

 するとこのような紙札を渡され、譲渡について挨拶に来ると申したとの事。

 お熊に聞くと、身なり正しく悪人とは言えぬようじゃった。

 じゃが、我等はこちらの世の在り様を知らぬ。

 知る気も無い。

 それ故、この者が何なのか、其の方どもに聞こうと思うてな」


 そうして見せられたのは「〇〇モデル事務所」という名刺であった。

 え?

 ここ結構な大手事務所じゃないか!

 どうしてスカウトが来た?

 どうやって一地方都市で存在を秘匿している鎌倉武士の女中の存在を知り得た?

 何より、俺に何を聞く気なんだ?


 俺もよく分からないまま、今後どうするかの話し合いに混ざる事になってしまった。

おまけ:

日常系な物語になっているので時系列をあえて書いていませんが、

謎の時空間接続が発生してから1年近く経過しているって事にして下さい。

毎日更新でサクサク進めていますし、SF系の小説では現実の日付や季節とリンクさせながらネタを書いていましたが、この話は何も起きていない時間は飛ばしていますので、実は時間は結構経っていたりします。

門の修復から落成式の準備を、小説投稿間隔と同じ時間軸の3日間でなんて、到底出来るわけありませんから。

他にも怪我した人の治り具合とか、周囲の住民の理解とか、諸々早過ぎますけどダラダラその過程を書いていくのも辛いですし。

(まあその辺は深掘りしないで下さい)


あと、鎌倉時代の男性の平均身長160cm前後説を採っています。

源為朝ガンダムとか平景清アヴェンジャーとか武蔵坊弁慶ウルトラマンとかは例外として。

坂東武者180cm説は、大腿骨のサイズとか、馬との比較で採りませんでした。


19時にも続きをアップします。

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