DQN団地乗っ取り計画~お引越し~
六郎と雑色一名、そして小間使いの女がDQN団地に引っ越しをした。
それに先立ち、リュウは自分の部屋に戻る。
そして六郎と郎党と共に、自分の母親を脅迫する。
彼にしたら幼少期から育児放棄され、その後は暴力でもって自分の食事を得ていた過去がある。
DQNな母親は、ヤの付く特殊自営業の男と繋がっていた為、中学までは殴りかかっても、その男に逆に絞められていた。
だが最近では勝てるようになって来た。
それでも背後が怖い部分は有ったが、もうそれも克服出来た。
……もっと怖い後ろ盾を得たのだから。
母親とその彼氏とかいう存在を、ボコボコにする。
「俺はこの人の郎党となったから、日本国憲法は適用されねーんだよ!」
明らかに間違った解釈だが、現代の法から解き放たれた不良少年は容赦が無かった。
自分がされたように、彼氏とやらの指を切り落とすと、その男は
「勘弁してくれ……。
俺は本物じゃないんだよぉ。
名前をちょっと借りてただけなんだ……」
と目鼻をぐちゃぐちゃにして泣いてしまった。
(俺はこんな奴を恐れていたのか……)
特殊自営業の影を恐れていたが、潰してみれば何の事はない。
その男は鎌倉時代に連れて行かれ、また売られる事になる。
また武田に売られるか、小山党に売られるか、奥州では伊達も労働力を欲しがっていたような。
「で、ババア。
お前はこの人の飯炊きをするんだよ!」
自分の母親に有無を言わせず命令する少年。
最初は
「誰が育ててやったと思ってるんだ、このガキが!」
と喚いていたが、もう成長した子の体力には勝てず、
「育てて貰った記憶なんか無えよ!
いつも俺を外に出して、男と盛ってた癖によ!」
と逆に罵られ、鎌倉武士から貰った刀を突き付けられ、顔の一部を切られるともう逆らえなくなる。
我が子を虐げて来た母親だが、ここで人生のツケを払わされたようだ。
逆らう気が無くなったのは、今まで頼りにして来た愛人がボコボコにされた事以上に、
「飯炊き女とは、随分と甘いのぉ。
やはり己が母ゆえに情けが出たか?」
「山の神への人身御供を探していたが、それに売れぬか?」
「一度牛裂きというものをしてみたいのじゃが、やってみぬか?」
「お主に授けた刀の試し斬りをしても良いのじゃぞ」
なんて武士たちが言っているのを通訳されたからでもあった。
飯炊き女を引き受けないと、もっと酷い運命が待っているらしい。
本来、産みの母をこうまで追い込む事は、鎌倉時代でさえ人倫に悖るとされる。
だがこの女性は、鎌倉武士たちの気に障る事をしてのけていた。
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【御成敗式目第二十四条】
「一、讓得夫所領後家 令改嫁事
右爲後家之輩讓得夫所領者 須抛他事訪夫後世之處 背式目事非無其咎歟 而忘貞心令改嫁者
以所得之領地 可宛給亡夫之子息 若又無子息者 可有別御計」
訳:亡き夫の所領を得た後家の事
夫の死後、妻は他の事は投げうってその菩提を弔え。
これを破ったら罰する。
貞心を忘れ、新しい夫と再婚した場合、亡き夫の遺産は亡夫の子供に与えなければならない。
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要は、亡き夫の子を虐げて新しい男といちゃつく女など、罰せられて当然という解釈である。
式目で定義されていなくても、鎌倉武士からしたら許し難い。
……彼等自身にもよく発生する問題なのだから。
暫定措置で女当主はあっても、きちんと息子に相続させるもので、新しい男との間に子を作り、前夫との子を出家させようとしたら、それは悪女なのだ。
そういう鎌倉式義憤も手伝って、DQN母は成敗される。
(まあ、俺の親父は死んでいないのだが)
リュウはその事は黙っている。
蒸発してしまった以上、死んだのと同じ事だし。
リュウは未成年だから、まだ相続は出来ないが、それでもこの部屋もまた鎌倉武士の所有のようなものになる。
2部屋目確保だ。
後は時間を掛けてあちこちを奪い取るとしよう。
俺が引っ越しの手伝いに来た時には、こういった制裁は終わった後だったみたい。
「あの小者は、暫く悪母を諭しておる故、ここには参れぬ」
その時は「諭す」という事を文字通りに解釈していたが、後から何が行われたかを聞いて戦慄した……。
鎌倉時代には無かった水道とか、冷蔵庫とか、洋式トイレとか、家庭内の風呂とか色々あるが、まあこいつらだったら慣れていくだろう。
そして鎌倉武士は結構なミニマリスト。
フカフカのベッドは要らん、床に寝る、と言い出した為処分。
食器棚も要らん、このような小さな部屋で饗応をする事も無いから、とこれも最低限の食器だけ残して処分。
テレビは「見ても分からぬ、ちょっと見たが不快じゃ」と現代のバラエティー番組がお気に召さなかったようで、これも処分。
電灯も要らなかったようだが、集合住宅では火を灯す行為は禁止なので、仕方なく残した。
まあ暗くなったら寝るような連中であるが。
その他、電話は契約せず、元々の住民からして払ってなかったようだが、公共放送の受信料も無し(そもそも受像機の類が全く無いから、払う義務無し)。
色々と解約の手続きをするのも俺の役割であった。
名義変更とか住民登録とか、上下水道使用料、最低限の電気代の引き落とし口座の開設なんかは悪徳弁護士がやってくれてる。
そして物が無くなった部屋に、甲冑と太刀と衣装を入れる箱だけが運び込まれた。
(こうしてみると、結構広いんだなぁ)
鎌倉ナイズされたマンションの一室を見て、俺はそう感じたのだった。
現代人は物を持ち過ぎているのかもしれない。
結構文明の利器を嫌って、自分たちの流儀を持ち込みたがる鎌倉武士の一人・六郎だったが、一個だけ気に入ったものはあった。
「酒は冷やして飲むと、また違った味わいがあるのぉ。
この箱だけは良きものじゃ。
屋敷に持ち帰り、父上や兄上にも使って貰いたいとぞ思う」
酒を冷やす冷蔵庫だけは認めていたのだった。
おまけ:
俺「買って来いって言ってた甕?
とりあえず陶器製の傘立てと花瓶、玄関に置いておくね」
誰かに襲撃された時にあえて割らせて、こちらがやられた側だと見せる為のものだ。
六郎「安物で良いと言っただろ?」
俺「安物ですが?」
六郎「え?」
俺「え?」
ホームセンターで買って来たものすら、流石に宋からの輸入品とまでは言わないものの、高く見えたっぽい。
六郎「安物はもっとこう、形が歪ではないか?」
俺「そういうのは逆に高いです」
六郎「え?」
俺「え?」
どこからか
『整った形ではなく、あえて歪めた乙な物も良き。
実にへうげたものよ、ゲヒヒヒヒ』
という声が時空を超えて、俺の脳に聞こえたように思えた。
19時にも更新します。




