DQN団地乗っ取り計画~現代の法と鎌倉法のすり合わせ~
再確認しておこう。
「武家屋敷の門より外側は日本国憲法適用内。
門より内側は日本国憲法適用範囲外」
ややこしい連中は、この門の内側に誘い込んで始末するという、如何にも中世人な解決方法が既に決まっている。
「人殺しはやめましょう」
が通じる連中ではない。
ここまで辛抱強く対処しているだけでも、坂東武者としては例外らしい。
普通は
「すわ合戦じゃ!」
となるようだ。
まして、門の外が鎌倉法の適用範囲外なら
「勝手に合戦をしても、鎌倉殿や評定衆に文句を言われない」
と解釈しているのだし、現代日本の法を守ってくれているだけ紳士的なのだ。
「まずはあのお堂に入り込む」
その役に六郎が自ら名乗り出て、元々の住人であるリュウが補佐役として従う事になった。
まあリュウは育児放棄されて来たとはいえ、母親が住んでいる部屋に戻れば良いだけだ。
そこから六郎が得た部屋に通う(出仕する)事になる。
「お主、適当な家財道具を見繕え」
俺はそういう雑用かよ。
その部屋を明け渡す事になった武田家に売られていった者の家具も残っているだろう。
「金なら幾らでも有るのだ!
ケチケチするな!」
という事で、気に入った物を購入したいようだ。
こういう成金言動をする度に、鎌倉時代の下級公家、現代の弁護士の頬が緩むのを感じる。
こいつら、基本的に美味い汁にありつくのが目的なんだろうなぁ。
「まあ、六郎の若殿の気に入る物を見繕って欲しい。
そして、出来るだけ壊れやすい物を用意せよ」
執事の藤十郎がそのように言う。
さらに下級公家の文官・吉田民部が語を続ける。
「こちらは弁護士殿から学んだのだが、この時代にも住居不法侵入という罪はあるようですな。
勝手に屋敷に入り込んだ者は成敗しても良し。
ですが、やり過ぎると何時ぞやの又五郎殿のように検非違使の縛に付く。
しかし、武士にやり過ぎるなと言う方が難しいもの。
なれば、相手が悪いと見せる為に、家財道具を派手に壊して貰う。
その上で相手を叩きのめすのなら、文句はありますまい」
叩きのめすのは大前提で、後は如何に相手の方が悪いかを示す。
そうして相手を現代の法で叩きのめすか、鎌倉の法で始末するかに持って行くという。
「出来れば現代の法で何とかして欲しい所です。
問題が少ないので。
ただ、それで何とかなるのなら、こうなる前に解決出来たのでしょうねえ」
弁護士は眼鏡を外し、目頭をもみもみしながら呟いた。
そう、厄介なDQNばかりだから苦労しているのだ。
なお吉田民部は最近は、現代日本の法律についても勉強している。
何故その事を知っているかと言うと、平吉を通じて出来るだけ初歩からの法律入門と六法全書の購入を頼まれたからだ。
近代法を鎌倉時代の人間が知る事での悪影響を考えなくもないが、どうもこの人は日本史に影響を及ぼす事は無い感じだ。
というか、近代法なんて「人権」とか「公正」を前提に考えているものだから、鎌倉時代の人間にしたら意味不明で、役に立たない。
それでも、人権思想が交渉相手の縛りになるのだとしたら、遠慮なく利用してやろう、そんな感じなのだろう。
あと、お釣りは返さなくても良い太っ腹と、手伝いをさせた分の手間賃として数十万円をポンとくれるのだから、俺としてもちょっとした収入になるわけだし(ボソッ)。
そんな訳で、法の網を搔い潜る、相手の落ち度に付け込む、場合によっては相手を始末して、出来るだけのDQNから所領(部屋)を奪い取り自分のものとする。
そうした上で、オーナーに買い戻させる。
その差分で再び儲けるという、鎌倉時代人らしくない財テクを実行する。
「まあちょっとした領土を足がかりに、にじり寄るように周囲の土地を押領していき、まとまった所で寺社や公家に寄進をして、管理権と収入は自分が頂くなんて、武士には普通の事だからな」
「百姓が暴れておっても、所詮は我等の敵ではない。
百姓は殺さずとも良い。
貴重な労働力じゃからなあ。
死ぬまで働いて貰わんと困る」
怖い会話が聞こえて来るが、弁護士と同じやり方で対応しよう。
(俺は何も聞いちゃいない……)
労働力云々で思い出したが、この屋敷に重機でカチコミをかけ、反撃されて片目を失った挙句、武田家に売られた男は今、「腹っ張り(日本住血吸虫症)」という病気が蔓延して農民が足りない地区に投入されているそうだ。
そして新入りは旧来からの農民から奴隷労働させられている。
繰り返しになるが、中世の農民は決してか弱くない。
現代のDQNでは歯が立たない危険な連中だ。
武士を投入しないと言う事を聞かない程に。
余所者はこき使うだけ使い、病気や怪我で役に立たなくなったら、暴れ川を鎮める為の人身御供とするらしい。
生きる為には、病気が蔓延する地域で、農民たちからの酷使に耐えなければならないらしい。
そんな後日談、聞くんじゃなかった……。
なお、土地の売買については
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【御成敗式目第四十八条】
「一、賣買所領事
右以相傳之私領 要用之時 令沽却者定法也 而或募勳功或依勤勞 預別御恩之輩 恣令賣買之條
所行之旨非無其科 自今以後慥可被停止也 若又背制符令沽却者 云賣人云買人 共以可被處罪科」
訳:代々持っていた土地なら良いが、恩賞で得た土地は売買禁止。
背いた者は売った方も買った方も処罰
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「つまり、これから得る土地(部屋)は恩賞でないから、売っても構わない」
であるから、出来るだけ値段を吊り上げて売るとの事。
(先祖代々の土地でも無いけどね)
要はグレーゾーンを攻めるという事だ。
(いつの時代でも、やる事は大体一緒だなあ)
ある意味、ここの武士たちは反社会的勢力のようなものだ。
考えてみると、こういう連中がある程度の土地を支配し、たまには幕府という組織に口を出して政治を行っていたのだ。
俺の先祖は、かなり穏健な部類である。
もっと強欲で、ナチュラルに横車を押す、暴政は「何で自分の領地でやってるのに、文句言われないとならない?」って連中ばかりだったのだ。
利害調整機関としての鎌倉幕府、基本法としての御成敗式目、必要だった訳だなあ……。
俺は今更ながら、日本史で習った事の真の意味を理解するに至ったよ。
おまけ:
御成敗式目五十一箇条のうち、ほとんどが「訴訟」「所領」「地頭の扱い」「相続」なので、こういう展開にしています。
……屋敷内に立て籠っていたら話にならないし、引き籠っている連中でも無さそうだし。
(領地以外は「神社・寺の事」:第一条、第二条、「官位の手続き」:第三十九条、第四十条、「奴婢及び逃亡農民について」:第四十一条、第四十二条とこんなもの)




