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DQN団地乗っ取り計画~作戦会議~

「お頼み申す!」

 相変わらずチャイムを使わない平吉。

 もう俺も慣れっこだ。

 どうせ隣に来いって事だろう。

 諦めて行って来た。

 そこでは物騒な会議が行われるのだった。


 参加者は当主、六郎、執事の藤十郎、下級公家の吉田民部、そして現代日本側から俺、この家の顧問弁護士、そして何故か先日家人に加わったリュウという少年。

「皆の衆、よう集まった。

 これよりあの十階堂を我等が物にする算段について談合しよう」

 藤十郎が開催の挨拶をして、会議が始まった。

「そもそもどういう事ですか?」

 急に呼ばれた俺は事情が呑み込めていない。

 彼等が十階堂と呼ぶのは、高層となっているマンション、通称「DQN団地」の事だ。

 十階も無い筈だが、基本的に一つ、二つ、いっぱいに近い数字の感覚でそう呼んだようだ。

「京の五重の塔より多いから、十で良いのではないか。

 答えは聞いていない」

 という理由で、便宜上名付けたみたいだ。


 弁護士が説明を追加する。

「先日、こちら様に譲渡された物件について、不動産会社を通じオーナーとも確認を取りました。

 もう、ちょっとおかしな方……こちらに押し掛けて来たような常識が通じない方との付き合いに、かなり疲れていらっしゃったようです。

 好きにしたら良い、と。

 そのオーナーですが、どうももうあの集合住宅は手放したいようなのです。

 住民がその……アレですから、手に余ってしまったようで。

 不動産会社の方も、かなり困っていました。

 ですが、住民があんななので、どこも買い手が無いようです。

 場所的には良いのですが、あの中は日本の常識が通じないので」


「無事に譲渡の手続きは済みましたが、あの物件は訳アリです」

 そう当主に報告をした所、当主は目を輝かせた。

「そのような狼藉者を打ち払う事こそ、我等武士の本業である!」




 よく「公家や寺社は、自分の荘園に勝手に地頭なんかを置かれ、税の一部を掠め取られた」という説明されている。

 だが摂関家のような大きな公家でなければ、地頭は必要悪とも言えた。

 平安時代末期から鎌倉時代、いや室町時代まで農民というのはか弱い存在ではない。

 税はちょろまかす、嫌なら土地を捨てて逃げる態でストライキをする、村に水が少ないと思ったら勝手に堰を壊して用水路を変えてしまう、その結果隣村と武力抗争を起こす、飢饉になれば盗賊に早変わりして周辺を襲う。

 こんな連中である。

 他にも流民、盗賊、それらより質が悪い僧兵、近くに住む武士なんかが荘園を襲い、場合によっては土地そのものを押領する。

 だから私兵を持たない中級の公家や寺社なんかは、簡単に言えば鎌倉幕府という組合を通じ、地頭を設置して貰って防衛としっかりした徴税を行って貰っていた。

 元々守護・地頭というものは、源義経追討を理由に公式に設置された。

 守護は国単位での治安活動、地頭はそれの荘園・国衙領単位での実施で、経費として税の一部を得られた。

 義経が奥州で死に、奥州藤原氏も滅亡した為、「追討」は終わったものとして後白河法皇は地頭の撤廃を求める。

 しかし農民が素直に税を支払わない、逃散(ストライキ)を行う、年貢を払おうとする者は村八分にする等の行動を取る為、「しっかり仕事をしてくれる武士」が居てくれた方が良い、となった。

 結果、税金の一部を奪われようと、地頭を置いた方が「収入がゼロにはならない」となり、地頭そのものの悪事については鎌倉幕府が代表窓口となって、取り締まって貰える事になる。


 つまり、諸費を支払わない連中を武力でどうにかするプロフェッショナルが鎌倉武士なのだ。

 まあ武士たち自身も荘園領主や国に税を払わない時があり、全体的に問題だらけの連中ではあるから、鎌倉幕府というシステムが必要なのだが。

(税を全部着服するような地頭は流石に幕府から処罰される)




「……という訳で、問題がある住民をどうにかして、あの集合住宅を売却に足る物件に戻すという事になりまして」

 その見返りに、この鎌倉武士は替え地として適当な土地を貰える事になる。

 鎌倉武士にしたら、DQN団地の部屋をチマチマ集めるよりも、広い農地を得た方が嬉しい。

 オーナーは不良物件を手放せる。

 周辺住民はDQNな連中が居なくなって助かる。

 どこも損をしないという話だ。


(いや、DQNたちは思いっ切り損ではないか。

 同情は全くしないけど……)


 俺は疑問がいくつも有ったので、聞いてみる。

 まずは

「で、何で俺は呼ばれたんですか?」

 という事だ。

 答えはシンプル

「周辺住民への根回しの為だ。

 お主のこの辺りの地の者ゆえ、話を通しやすいだろう」

 との事。

 ああ、二個目の質問も一気に解決しちゃったよ。

「周辺住民はDQNが居なくなって助かる」って、本当に確認したのか? そう聞こうとしていた。

 これからなのね……。

 見切り発車なのね……。


 続いて

「あの団地、DQNしか住んでいないんですか?

 普通の人にも迷惑が掛かるんじゃないですか?」

 と質問する。

 南アフリカに存在する「犯罪者の巣窟」「中に入ったら生存時間15秒」なんて言われたポンテタワーじゃあるまいし、DQNしか住んでいない訳ではないだろう。

「そう言った者を仕分ける為に、この者が居る」

 なるほど、家人に転職したリュウ少年がこの場に参加している理由がそれか。

 元々そこに住んでいた彼なら、善良な住民も見分けられるだろう。

「普通の住人には、オーナーが代わる事を説明します。

 マンション経営ではよくある事ですから、大丈夫でしょう。

 もしも移転を望まれる方には、代わりの場所を提供するなり、引っ越し代を一部支払っても良いと不動産会社も言っていました。

 色々と起こると思うので、それはその……そういう事で……」

 弁護士がそう言っていた。


 最後の、極めて重大な質問だ。

「弁護士さん、貴方なんでそこまでこの計画に加担しているんですか?」

 そう聞いたところ、目頭をもみもみしながら、溜息混じりの回答した。

「法律家としての良心が痛まないのか?

 そう言いたいのでしょう?

 でもね、そんなもんじゃないんですよ。

 法律家は依頼人の要望に沿って動くもの。

 ある時は正義の味方、ある時は悪魔の手先。

 良いも悪いも契約次第です」

(お前らはどこぞの28号か!)

 内心そうツッコミを入れたが、口には出さない。

 弁護士にそういう人たちが居るのは確かなんだから。


「さあ、滞り無く十階堂を我等が物にしましょうぞ」

 吉田民部が生き生きとしていた。

(こういう事が好きなんだろうなぁ……)

 手続きや法の隙間を上手く使って少しずつでも財産を増やして来た公家。

 ややこしい連中を武力をもって解決する武家。

(なるほど、中世の日本は魔境だぜ)

 俺はそう思いながらも、この会議の場にまだ居続ける事になる。

おまけ:

地頭確定までのあれこれ。

中級公家「農民が逃散しました! 税が入って来ません!」

後白河法皇「適当な武士を使って制圧すれば良い」

摂政「適当な武士とは、この場合誰の事ですか?」

法皇「鎌倉右大将(頼朝)に頼んでだな……」

摂政「それは地頭と何が違うのですか?」

法皇「じゃあ鎌倉の息が掛かっていない武士を……」

摂政「平家も木曾も奥州藤原も全部滅亡しましたぞ」

結局窓口が鎌倉に一本化された為、徴税請負業者としての鎌倉に頼んで地頭を置いて貰う事になった。


なお、自前の武力(僧兵)を持つ大寺院なんかは地頭不要だった。


おまけの2:

ポンテタワー、調べれば中々面白いですよ。

今は浄化されて、観光ツアーとかで入る事も出来るようですが。


19時にも更新します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >中世の日本は魔境だぜ 「良いか、稚児ども!  逃げる者は敵じゃ! 逃げぬ者は良く鍛えし敵じゃ!  まこと、日ノ本は魔境なるぞ! ふははははーっ!!」 …
[一言] いや、こいつらやっぱり厄介者だわ。 作者さんが話しをどうたたむのか。 自分なら途中で手に負えず放り出しそう、
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