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DQNよりもDQNな鎌倉武士

 鎌倉武士に喧嘩を売り、腕を斬り落とされた不良少年がいた。

 無事手術も成功し生命は助かったのだが、深い傷が残っている。

 PTSDである。

 殴られる、リンチに遭う、そんなのは想定内だ。

 ビビッていられない。

 しかし、流石に自分の腕が地面に落ちているのを見たら、それは恐怖を覚える。

 いきがっていた頃とは別人のように、刃物を見ただけでガタガタ震えるようになってしまった。


 この少年の親もまたDQNであった。

 新興住宅地、景気が良ければハイソな住民が入居していた筈なのに、昨今の不景気もあってか、入居者を選ばなかった結果、DQNだらけとなってしまった。

 この少年の両親もそうして入居した者であり、家賃滞納は当たり前、周囲に迷惑を掛けて歩く立派なDQNであった。

 あの集合住宅は似たような奴ばかりなので、脅して来るのは大人しい旧住民たちに対してであったが。


 そんな親DQN、息子が喧嘩で腕を斬り落とされたと知って激怒するも、相手が悪いようで、暫くは黙っていた。

 しかしその相手が大金を手にしたと聞く。

「よし、強請っても得られるものが出来た!」

 今までは、仮に勝ったとしても反物とか馬とかしか得られない。

 そういう意味で、費用対効果に合わない悪い相手だったのだが、大金を持ったなら話は別だ。

 頭のネジが5、6本抜けているDQNは、徒党を組んで押しかけて行った。

……そもそも頭のネジが5、6本しかハマっていない連中の元に……。


「おい、お前の所の者に腕を斬られたガキの親だ!

 責任者を出せ!」

 門番が喚くDQN親を通そうとしない為、外から大声で喚く。

 それを聞いた執事の藤十郎は、こう思ったという。

「腕を斬り落とされた者の、一体どいつの親だ?」

 現代だけでなく、鎌倉時代も数えれば、何人そうやったか一々覚えてはいない。

 覚えが無い以上、相手をしていられない。

 門番が薙刀を突き付け、追い返す。


 ナメられたら黙っていないのはDQNも鎌倉武士とそう変わらない。

 流石に「あれはヤバいから俺は抜ける」と尻込みする仲間も出る中、怖い者知らずのDQN親は強行に出る。

 自分が仕事をしている工事現場から重機を持ち出し、屋形を襲撃したのだ。

「おらぁ!

 俺をナメてると承知しねえぞ!」

 門をぶち壊し、中に乗り込むDQN親。

 見た事も無い工事用重機に、流石に肝を潰す門番たち。


 だが

「見苦しい!

 それでも坂東武者か!」

 という叱咤の声が飛ぶ。

 執事の藤十郎が弓を番え、矢を放つ。


 隣の大騒ぎで、出て様子を見ていた俺は思った。

(ああ、鎌倉時代の弓って、なんか音が違うんだなぁ。

 以前強制的に門番をさせられた時、弓を引かせて貰ったけど、固くて引けなかったものなぁ……)


 凄まじい張力の弓から放たれた矢は、重機の強化ガラスを貫通し、操縦していたDQN親の右目に突き刺さって止まった。

 血を流しながらのたうち回るDQN親を重機から引き摺り出すと、何処に連れて行った。

「我が家の正門を破壊する等、ナメた真似をしてくれたものだ。

 首を打たれる事が生温く感じる程の生き地獄を味わわせてくれよう……」

 藤十郎さん、怖いっス……。

 執事という事で、他の家人たちよりも上品にしていたけど、やはりこの人も鎌倉武士、立派な黒執事だ……。

 そして慣れたように、血が流れた場所に砂をかけて消していく雑色たち。

 大した事では無かったのだろう。


 数日後、俺は平吉を通じて武家屋敷に呼び出される。

 なんでも、あのDQN団地のオーナーに用があるから、教えて欲しいとの事だった。

「我が家の正門を壊した不届き者じゃが、話が付いたのでな。

 彼の者の家屋敷を渡す事に、快く応じてくれた」

(絶対嘘だ!

 拷問を加えて譲渡に合意させたに違いない!)

 微笑みながら話す藤十郎に、凄く怖いものを感じる。

「彼の者、その家は借り物じゃと申した。

 それ故、どのようにしたら良いか知恵を借りたくのお」


 話を聞くと、DQN親は

「欲しかったら家でも部屋でもくれてやるよ。

 だけどあれは俺の持ち物じゃねえからな!

 お前らの好きに出来るものか!」

 と開き直ったそうだ。


「御当主も、こちらの時代での揉め事は避けよと申されておってな」

(今更かい!)

「平穏無事に譲り受ける為には、あの者の屋敷の持ち主と話を付けたいと思った」

(もう既に平穏無事ではないんですが……)

 そう思いつつも

「そういう事も弁護士が担当しますから」

 とだけ伝えた。

 弁護士を訴訟の際の代理人と思っていた藤十郎と吉田民部は

「なるほど、役に立つ者よのお」

 と頷き合っていた。


 そして、聞いてもいないのに、DQN親の末路を話してくれる。

「わしらは慈悲深いのでな。

 折角屋敷を譲ってくれたのじゃから、正門を壊した不届き者なれど、生命だけは助ける事にした。

 武田殿が働き手を求めておったので、奴婢として売り、その代価で良しとしたよ」

「武田殿……って、甲斐の武田家ですか!?」

「ほお、武田殿はこちらの世でも名が知られておるのじゃな。

 左様、その武田殿じゃ。

 御本家は安芸に行かれたようじゃが、甲斐も治めておられる。

 その甲斐では人手が足りぬとの事でのお」

(まだ金山の開発とかは始まってないよな。

 でも、武田ってかなり労働がキツイって話では……)

 戦国時代の武田は人を攫ったりして強制労働させていたという。

 鎌倉時代の武田がどうなのかは知らないが、人が欲しいと言っていた以上、人が足りなくなる何かをさせてるのではないかな。


 背筋に寒いものを覚えながら、用が済んだ俺は武家屋敷を辞した。

 正門が壊れて、入り口が拡がっている。

 どうも現代日本と鎌倉時代との間口も大きくなったようだ。

(これがまた面倒な事にならなけれな良いが……)


 その後暫くして、雑色見習いとして武家屋敷で強制労働させられている、腕を斬り落とされた少年を見る事になる。

 恐らく家を奪われ、行き場を失って、労働力として引き取られたのだろう。

 なお、




~~~~~~~~~~

【御成敗式目第二十二条】

「一、父母所領配分時、雖非義絶、不讓與成人子息事

  右其親以成人之子令吹擧之間 勵勤厚之思 積勞功之處 或就繼母之讒言 或依庶子之鍾愛

  其子雖不被義絶 忽漏彼處分 侘祭之條非據之至也 仍割今所立之嫡子分 以五分一可宛給無足之兄也

  但雖爲少分於計宛者 不論嫡庶 宜依證跡 抑雖爲嫡子無指奉公 又於不孝之輩者 非沙汰之限」


最終行だけの訳:子が怠け者や親不孝者の場合、土地相続させる必要は無い。

~~~~~~~~~~




 と、鎌倉時代はニートには厳しい社会なのであった。

 トラウマだPTSDだと言って、引き籠る事は許されなかった……。

おまけ:

俺「それで、あの人の奥さん、少年の母親はどうしました?

 存在しているんですか?」

藤十郎「うむ、おったぞ。

 どうなったか聞きたいか?」

俺「コンプライアンス的に危険そうだから、聞かない事にします……」


19時にも更新します。

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― 新着の感想 ―
おまけ怖い!下級武士にさげわたされたとかですかね
[良い点] 今話もありがとうございます! >そもそも頭のネジが5、6本しかハマっていない連中 いや、失礼ながら、5〜6本「も」ハマってる程度には理性的判断ができるのがむしろ僥倖じゃないかと……。 …
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