鎌倉武士、大金Get!
先代か先々代がどれ程かの価値は分からず、何となく「高いものだろう」と略奪して持ち帰り、その後当代の当主が家人の保釈に渡した仏像だが、大変価値がある事が分かった。
手渡した仏像は本物のミニチュア。
モックアップとも言えるもの。
本物はどこかで焼けたのか、見つかっていない。
だから、それを元に造ったであろうから、ミニチュアであっても貴重なものだ。
文化庁の方で、某古民家の屋根裏より発見されたとして処理。
どうにか金を工面し、警察署に渡す。
名目はその古民家こと、鎌倉武士への買い取り金額なのだが。
そうして警察署から、相場の保釈金相当の額を抜いて、鎌倉武士に返金を行った。
「なんじゃ、全て受け取って良かったのじゃが。
そうすれば、今後何か有っても融通が利くと思うたのじゃがのお。
まるで執権殿のように堅物じゃ」
そう当主が言っていたそうで、実は家人の為に渡した仏像の価値を理解していた上で、とぼけていた事が判明した。
それは俺が、執事の藤十郎から教えられて分かった事だが。
何故藤十郎が俺にそんな話をしたのか。
それは
「この紙切れがこちらの世の銭という事は分かった。
じゃが、一体どれ程のものかが分からぬ。
騙していないか、教えて欲しい」
という理由からであった。
円なんて通貨を彼等は知らない。
だから、アラビア数字は兎も角、漢数字で書かれた額面は読めたとしても、その紙切れで一体何が買えるのか分からないそうだ。
「しかし、よく紙幣を受け取りましたね。
普通、こんな紙切れに何の価値があるか! って怒りそうなものですが」
そう聞くと、
「六郎の若殿が、それがこちらの世の銭金ぞと教えてくれましてね」
との事である。
そう言えばあいつ、食事する時に食券買おうと千円札突っ込んでいたら、それは何かとしつこく聞いて来ていたなあ。
貰った札束に俺は驚く。
ドラマでしか見た事無いが、本当にこんな札束存在するんだ……。
一万円札で、米1kg1000円と計算して、10kg即ち六十七合が買える。
一千万円なら六万七千合、即ち米六十七石になる。
億くらい行ってるかな?
だから数百石から千石以上かな?
「分からぬ。
馬で言えば?」
馬はサラブレッドの競走馬でなければ、25~150万円程?
百頭は買える金額かな。
それを聞いて藤十郎は頬を緩めていた。
先代か先々代の略奪品(購入費用0)が、思わぬ財貨に化けたものよ。
「では、この銭で土地を買いたい。
勝手に奪えぬ事は分かったからな」
「え?
こっちの時代で土地を買うんですか?
それ、問題が大きくなりますよね」
鎌倉時代の価値は「所領」か「官位」である。
官位は得られる者が限られる以上、大体の者が求めるのは所領だ。
それは自ら得たものを領有しても良し、公家や寺社に寄進して荘園の庄司として徴税権を得ても良し、鎌倉殿から地頭に任じられ上前をはねても良し。
兎に角土地こそ大事なもの。
「一所懸命」の言葉通り、所領を守る事が武士の本懐。
御成敗式目も、そのほとんどは土地の相続や訴訟に関わるものである。
鎌倉時代内ですら問題が山積みなのに、異なる時代間で土地を持ったら凄い厄介な事になるだろう。
だが
「持っていて厄介ならば売れば良い。
その時はより高く買ってくれる者に売るまで。
土地を持っていて、揉め事が付いて来たとしても、損をする事は無いのだぞ」
という事で、既にこっちで土地購入する事は決定しているようだ。
(購入って言ってる時点で、かなり穏便ではあるよなぁ。
本来なら武力でもって押領するわけだから)
そう思ってしまう俺は、大分鎌倉メンタルに毒されて来たかもしれない。
「という訳だから、吉田民部殿とよく話し合ってくれ」
吉田民部は、この高位鎌倉武士に出仕する下級公家である。
家政について執事と共に取り仕切っている。
財テク関係はこの人の担当だ。
要は土地転がしをして儲けたいって考えている訳で、その為に現代の法がどうなっているのかを知りたいという訳。
こいつらは法の穴を突いて、そこを足掛かりに利権を拡げるやり方をする。
御成敗式目は当初五十一条だったのだが、こうやって隙間隙間を突かれていくものだから、追加法がバンバン作られた。
まるでWindowsのセキュリティパッチのように、しょっちゅう「新しい追加法がリリースされました」とアップデートを求められまくった。
その数は九百条以上で、御成敗式目を制定した北条泰時の代ですら二百三十条を追加した。
こうなると本当に、文章に明るい京下りの下級公家が重宝されるわけだ。
……そして、俺の方が寧ろ土地の所有とかの法を知らない。
俺に出来る事は
「土地の所有、登記関係は行政書士を頼って下さい。
刑事訴訟、民事訴訟に関わる事は弁護士を頼って下さい。
こちらの時代の土地領有で発生する税金に関しては税理士を頼って下さい。
細々とした書類手続きは行政書士を頼って下さい」
とそれぞれの業務の専門家を教え、六法全書他関係法の書籍をプレゼントするくらいだ。
歴史に介入する?
どうせそんな書籍、鎌倉時代では役になんか立たない。
こちらの時代専用ですとでも言っておけば良いだろう。
甘いかもしれないが、武家屋敷で一回一回法だの手続きだのについて尋ねられるプレッシャーから解放されるには、これしか無いではないか!
文句あるなら一回この屋敷の中で過ごしてみろ! と。
そんな訳で、思わぬ大金を手にした鎌倉武士たちは、それを元手に現代日本で土地運用を始める事にした。
そして「銀行口座」が開設出来ないから、直接大金が持ち込まれた事で、どこかから
「あそこの屋敷には一億円近い大金がある」
という噂が拡がった。
これがまた色んな揉め事を呼ぶのである。




