文化財を鑑定に出したら、中央の人間が出て来てしまった
とある地方都市で行われた祭り。
その時に喧嘩が起こり、不良少年が鎌倉武士に腕を斬り落とされた。
何を言っているのか、事情を知らない人には理解不能だろう。
まあ、斬り落とされた腕だが、手術の結果繋ぐ事が出来た。
指を斬り落とされた少年たちも同様である。
「刃物が鋭利だったのと、斬った者の腕が良かったせいか、組織が潰れていなく、接合は苦労しなかった」
と医師が話している。
殺人罪にはならなかったとはいえ、色々と起訴する事になる。
法の遡及適用という問題も、門の外は日本国憲法の範囲内、刑法も民法も各種訴訟法も適用されるという事で、鎌倉時代人たちとも合意済みだから良しとしよう。
現代の法での執行となれば、保釈金を払われたなら釈放する。
その保釈金だが、鎌倉時代人は物で納めた。
仕方ないだろう。
銭はあるのだが、現代の警察に宋銭を甕で持って来られても困るだけだ。
そして納めされた物だが、それは宋銭よりも遥かに高額であった。
当時の価値では分からないが、現代の価値では明らかに値が上がっている。
だが、そんな高額の物を受け取ってしまったら、それはそれで問題である。
収賄と言われかねない。
市民(?)から不当に高額な物を奪ったという誹りも受ける。
だから鑑定に出し、適当な金額を算出し、差分は返金しないとならない。
ここで、今まで地方都市レベルで収めていた異変の一端が、東京の中央官庁にも届く事になる。
それは国宝級のものであったからだ。
物納しようとした際、署長は断ろうとしたが、多少見る目があった警察官が
「あれは文化財レベルの物」
と言ったのは、その仏像が何となくある物と似た雰囲気を持っていたからだ。
そして鑑定の結果、ある物と似ているどころの話ではなかった。
確実に慶派が造った仏像。
ある武家に収めた物とされるが、何時の時代かは分からぬ戦争で失われでもしたのか、設計図だけ残っていて現物は消息不明とされた代物である。
それが一地方都市で発見される。
発見だけなら兎も角、売って金にしようとしているようだ。
これは怪しい。
そこの警察ぐるみで、何か危ない事をしているのではないか?
こうして公安委員会から調査が入ると共に、文化庁から専門家が派遣されて来たのだ。
都道府県に属する公安委員会は、事情をある程度知っていた。
署長から説明を受けると、溜息を吐いて
「お宅も厄介な現象に付き合わされてるねえ」
と理解してくれる。
一連の鎌倉武士出現について、混乱を起こさないよう、かつ「見ない限り信じて貰えない」から一部の人間のみが知っている事も、やむを得ないと思っている。
しかし文化庁の人間は違った。
「これはどこから手に入れたのか?」
しつこく聞いて来る。
その文化庁の知念という役人は、日本の文化財が流出したり、粗雑に扱われて朽ちていくのを見過ごせない男であった。
だから、どういう来歴で、これからの管理体制はどうするのかとか、他にも眠っている文化財は無いのかを知りたい。
疑っているのはブラックマーケットの存在だ。
そこで貴重な文化財が売買されているなら、救い出さねば!
警察がそれに関与しているなら大問題である。
しつこい質問と、答えなければ中央を巻き込んで大事にすると脅され、ついに警察署長は全てを話す事にした。
当然だがその役人は全く信用しようとしない。
「で、また俺にお隣さんへの取次をしろって事ですね」
警察がその役人を連れて、俺の所にやって来た。
他にも子孫は居るのに、何故かお隣さん、俺が取り次いだ相手としか会おうとしない。
鎌倉武士は頑固なので、一回決めた以上それを押し通しているのだろう。
そんな訳で、隣の鎌倉武士に、これここういう事情があってと説明する。
「では明後日に参られるが良い」
と平吉を通じて回答を貰えたので、それを伝える。
「隣の屋敷は、随分と立派ですな。
保存状態が実に良い。
しかし櫓が建っているのがいただけない。
武家屋敷として保護する為に、ああいう倒壊する可能性があるのは、補強工事をするか、撤去した方が良いな。
耐震補強も必要だろう。
君、そうは思わんかね」
知念という役人は、あくまでも「現存する鎌倉様式の武家屋敷」と思っているのだが
「いいえ、あれは現役の建物です。
櫓も実用しています。
現代人が口出し出来るものではありません」
としか言えない。
武士が用心の為に櫓を建てるのは当たり前の事なのだから。
そして明後日、文化庁の役人と執事の藤十郎が会談する。
当然のように陪席させられる俺……。
「この慶派の仏像ですが、何処で手に入れられた?」
知念という役人が、警察から預かった仏像を手に質問する。
文化庁を、朝廷の内蔵寮と意訳して伝えたので、こういう不躾な質問にもきちんと応対してくれる。
門内の不思議な効果で、こちらでは不躾に聞こえても、きちんとした言い回しに変換されているかもしれないが、それは分からない。
「さて?
先代か、そのまた先代が戦で奪って来たと聞くが」
「元の持ち主は?」
「供養した」
つまり殺したか、自死した為それを弔ったという事だ。
「……この仏像が高価なものだって事はご存知か?」
「まあ何らかの価値はあろうが、所詮は懐に入れるような仏だろう?」
価値があるのは、と大きな仏像の保管場所を見せる。
文化庁の役人は唸っていた。
慶派しか俺は知らないが、他にも色々貴重なものがあるそうだ。
「こんな乱雑な置き方をしていたら……」
「物事は諸行無常。
壊れたらそれまでの事じゃ。
兎に角、当家の仏は御覧に入れた。
目の保養になったじゃろう。
もう良いな?」
文化庁の役人は、門を潜った後に様々な物を見て
「ここは映画のセットとかではない、本当に昔の世界かもしれない」
と理解したそうだ。
人間は演技が出来ても、鳥とか虫とか植生とかを見て
「外来種が一切無い」
と気づいたそうで。
そしてこの男、美術品に対して結構執着が強い。
警察署に戻り、自分が見た事を話し
「中央に報告しない方が良いな」
と話したそうだ。
言っても理解されないのは勿論の事だが、将来文化財となり得る物が、現役で使用されている。
それに介入してはならないし、そこに貴重品があると教えて余計な者を呼び寄せてもならない。
余計な事は報告しない方がお互いの為かもしれない。
……というのは表向き。
彼は藤十郎に頼み込み、これからも貴重な仏像や甲冑、書画や宋の文物を見る為に訪問しても良いと許可を得ていたのだ。
無論、また俺が取り次ぐ事になるのだが。
他の者には見せたくないという野心の為、文化庁自体が鎌倉時代への入り口を知る事はついに無かった。
おまけ:
文化庁の知念さんは、ギャラリーフェイクからキャラ借りました。
まあ特殊な名字でもないので、仮名として使えるでしょう。
 




