表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/143

例の件の御成敗式目での判断

不定期復活の番外編です。

 俺の家の隣に転移した鎌倉武士だが、基本的に現代のニュースとかは興味が無い。

 テレビを見せた事があるが、

(かしま)しい」

「耳障り」

 と言って、以降見向きもしない。

 新聞とかも

「合戦の檄文に非ずんば、読むに能わず」

 とか言って無視している。

 だから、現代情報は一切無視した生活をしていた。


 そんな中、例の伝説的メジャーリーガーとその通訳の事件が発覚。

 現代の事は分かる。

 これって、御成敗式目的にはどうなるのかな?

 そう思って、俺は米袋と熨斗昆布と椎茸を持って鎌倉武士……ではなく、家政担当の下級公家・吉田民部を訪ねてみた。


「そもそも、野球とは何ぞ?

 凄まじき(凄い)ものなりや?」


 まずはそこからかい!

「まあ簡単に言えば、石のような球を投げ、木の棒で打ち返す遊戯です」

「それは面白きや?」

「まあ、今から聞く人は、石をまるで弓矢のような速さで投げますからね。

 そして曲げたり、落としたり制御します」

「なんと!」

 これは民部さんじゃなく、近くで暇そうにしていた他の武士の反応だった。

「飛礫を然様に使うとは、その者は天狗か?」

「印地打ちの名手か、一手手合わせ願いたい」

「先程、打ち返すと申しておったが、それは矢の速さでも出来ようか?」

「多分。

 大きさは違いますが、更に速くして打ち返して来ますね」

「むむ……其方の世の者に対し、初めて恐ろしく感じた」

(もしかして、百年の一人どころか、千年に一人の選手なのか?)


 鎌倉武士の質問にあらかた答えた後、本題となった通訳による横領について聞いてみた。

 選手と通訳と代理人と銀行って言葉の解説に苦労するかと思ったけど、民部さんは現代の六法全書を読んで、いざという時悪用しようと思っている人だから、案外あっさり理解してくれた。


 選手を守護、通訳を代官に置き換えて




~~~~~~~~~~

【御成敗式目第三条】

「一、裵國守護人奉行事

  右々大將家御時所被定置者 大番催促謀叛殺害人〈付 夜討強盜山賊海賊〉等事也

  而至近年分補代官於郡觶 宛課公事於庄保 非國司而妨國務 非地頭而貪地利 所行之企甚以無道也

  抑雖爲重代之御家人 無當時之所帶者 不能驅催 兼又所々下司庄官以下 假其名於御家人

  對捍國司領家之下知云々 如然之輩可勤守護所役之由 縱雖望申一切不可加催 早任大將家御時之例

  大番役并謀叛殺害之外 可令停止守護之沙汰 若背此式目相交自餘事者 或依國司領家之訴訟

  或就地頭土民之愁鬱 非法之至爲顯然者 被改所帶之職 可補穩便之輩也 又至代官可定一人也」


 訳:諸国守護人の職務・権限について

 ・権限は大番役の催促、謀叛人・殺害人の逮捕のみ。

 ・国司でもないのに政治に口を出したり、地頭でもないのに徴税するなよ。

 ・いかがわしい武士を役職に就けたりするな。

 ・取り決めに背いたり、国司や地頭たちから訴えられたら解任する。

 ・代官は一人だけ。

~~~~~~~~~~




 と解説。

「いかがわしい者」を選任した件には問題があるが、そもそも代官がやってはいけない「職務以外の事」をしているのだから、責任は代官にあり、守護には任命責任があるくらいかな、と言っていた。

 鎌倉時代でも、よくあった事だそうだ。

 あの高名な畠山重忠が地頭として与えられた地に代官を派遣したのだが、こいつが伊勢神宮と問題を起こしてしまう。

 任命責任取らされて、千葉胤正の館で謹慎させられたが、その際

「重忠召篭被て、已に七ケ日を過ぎる也。

 此の間、寢食共に絶ち 畢。

 終に又言語を發するも无し」

(預けられて七日間、寝食を断ち、言葉を発しなくなってしまった)

 と、抗議(ハンスト)をしたそうだ。

 非常に潔癖な人物であった為、処罰された事に相当憤っていたようで。

 そして源頼朝によって許された後、

「恩に浴する之時者、先ず眼代之器量を求む可し。

 其の仁无くん者、其の地を請ける不可」

(恩賞を貰う時は、まずちゃんとした代官を見極めて、それから土地を得た方が良いな)

 と語ったそうだ。


「ですが、今回問題になった人、発覚するまでは皆から善い人と思われてまして」

「まあそういう場合、情状酌量されますな。

 全く責任無しとはなりませんが」


 そして……




~~~~~~~~~~

【御成敗式目第十四条】

「一、代官罪過懸主人否事

  右代官之輩有殺害以下重科之時 件主人召進其身者 主人不可懸科

  但爲扶代官 無咎之由主人陳申之處 實犯露顯者 主人難遁其罪 仍可被沒收所領

  至彼代官者可被召禁也 兼又代官或抑留本所之年貢 或違背先例之率法者

  雖爲代官之所行 主人可懸其過也

  加之代官若依本所之訴訟 若就訴人之解状 自關東被召之 自六波羅被催之時

  不遂參決 猶令張行者 同又可被召主人之所帶

  但隨事之躰可有輕重歟」


 訳:代官(守護代、地頭代)の罪が雇い主に影響するか否か

  代官が罪を犯した場合、雇い主がそれを報告すれば、雇い主は無罪。

  庇ったり報告を怠れば、雇い主の所領没収、代官は入牢。

  年貢を横取りしたり、あるいは先例や法律を破った場合には雇い主も同罪とする。

  鎌倉もしくは六波羅探題より呼び出しに応じない場合、雇い主の所領没収。

  ただし、犯した罪の重さによって軽重がある。

~~~~~~~~~~




 という事で

「俺の借金を肩代わりしたって事にしてくれない?」

「だが断る」

 は鎌倉時代から正しい対応。

 もし、相手の口裏合わせの要望に乗っていたら、鎌倉時代でもそいつと同罪になるとの事。


 いやあ、御成敗式目ってその辺はちゃんとフォローしてるんだなあ。

 北条泰時って、本当に未来にまで通じる法を作った名君なんだなあ。


 そう思っている所に吉田民部が冷や水を浴びせて来た。


「それにしても、其方の世は我等が世より数百年後の世と云うなれど、

 人の為す事は変わらざるものなり。

 世の文物は変われど、人は変わらず罪を作るものかな」


 ごもっとも!

不定期再開の為に、「連載中」と開けっ放しにしてましたので、一回「連載終了」に戻す為に番外編追加しました。

またネタがあったら再開しますが、当分閉じておきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大谷さんは天狗説は草
[一言] 〇谷△平さんはKAMAKURA武士にさえも一目置かれるんやなあ・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ