某財団の観察対象、武家屋敷
ネタ回です。
とある財団がある。
人智を超えた存在に対し、確保・収容・保護を行う組織だ。
その財団関係者が、密かに日本のとある町で観察を行っていた。
対象はサムライとその屋敷。
どうも正門だけが数百年前と接続されているようで、その他の場所からは進入する事が出来ない。
仮に入ろうとすると、屋敷の反対側に飛ばされてしまう。
この時点で超常的存在なのは確定している。
こういう超常的存在を放置しておくと、周囲の人間に多大な犠牲を出したりする。
財団はその為に、対象を確保し、収容して一般人は近づく事が出来ないようにするのだ。
「それ」は物理的に収容出来るものではない。
いくつか確認されているオブジェクト同様、建物であるからだ。
その屋敷で一般人はどれだけ危険な目に遭わされているのだろう?
近所の老人たちがたまに出入りしているが、状態に変化は見られない。
中に入ったからといって、何かが起こる訳では無さそうだ。
そして、近隣住人以外が進入しようとすると、門前を守るサムライによって拒絶される。
ごく自然に、自分たちから外界と隔離される事を望んでいる。
どうしても用事がある場合は、隣の家に住む若者から紹介して貰わないとダメなようだ。
我々はその仲介人に話を聞いてみる。
「プライドが高い、貴族というか原住民の族長というかマフィアのボスというか、そんな感じだから、見知らぬ人と会う事は無いし、敷地内に足を踏み入れる事も好まないだけだ。
彼等はこの世界に対する異常である事を理解しているから、一部を除いて関わり合いを持たないようにしている」
これが、軽々しくは話をしない隣人からどうにか聞き出した、オブジェクトの行動原理である。
余計な事をしなければ、特に危険は無いように見える。
だが、余計な事をする人間の方が後を絶たない。
この地域は古くからの住人が住む地区と、開発に失敗したのかスラムのような地区とに分かれる。
いや、日本だからかスラムとは言えない。
住宅地としては新しい部類である。
しかし、住人は我々がよく知る「礼儀正しく、他人に迷惑を掛けたがらない」日本人ではなく、図々しく自分の欲求のみを満足させようとする、スラム街の住民のような者が集まりやすい。
今、解体工事中の建物があるが、あれはそういった住民を、オブジェクトから出動したサムライが撃退して浄化したそうである。
その際、血も流れたようだが……。
そんな惨劇もあったのに、厄介なタイプの住民が集まる新興住宅地、こちらにも超常的な何かが影響しているのではないだろうか?
興味深くはあるが、今は調べないでおこう。
さて、オブジェクトから出歩くサムライや女性たちだが、やはり彼等の方から手を出す事は無いようだ。
ショッピングか宗教施設以外には興味が無いようである。
サムライの方は貨幣というものを理解していないようで、何かあると絹の巻物や古着をもって支払おうとする。
それを調べたところ、13世紀頃の材料や製法で作られたもので、現代ならば博物館に収蔵されて然るべきものだ。
そんな文化財を貨幣代わりに簡単に使う彼等は、やはりその時代の存在なのだろうか?
女性の方は普通に日本円を使って買い物をしているから、まだ中世かぶれのコスプレである可能性も捨て切れない。
そこで我々は、実際に門の中に入って、オブジェクトを調べる事にした。
実は大分前に、それを試みた事があった。
その時は門番から拒絶され、仲介人に頼むもやはり断られた。
無謀な職員が強行突入したが、生首だけが外に投げ返されて失敗する。
それ以降、話が通じない危険なオブジェクトとして外部からの観察だけに終始して来たが、その結果彼等との接し方も理解出来て来た。
最上級の礼儀を持って接すれば、相手も礼儀正しくなる。
余計な事をすれば、すぐその者は首だけになる危険はあるが、それは現代社会でもマフィアのボスでもあり得る事だから、首にされた方が何も分かっていないのだ。
オブジェクトへの進入プロトコルは以下の通りだ。
1、献上品を用意する。
タイムパラドックスを起こさないよう注意が必要だろう。
彼等が本物の中世人ならば。
2、接触したい正当な理由を仲介人に説明する。
この仲介人は取次を拒否する権限を持っている。
興味本位だと断られるから、もっともな理由が必要だ。
3、門番に対しても細心の注意を払う。
彼等にも無礼な者を殺害する権限があるようだ。
中世日本の礼儀を守らないと無礼討ちされる。
4、執事に対し、献上品を渡す。
物を受け取って貰えないと、何も頼む事が出来ない。
こうして我々はオブジェクトを通過し、その内側の調査に成功した。
そして、確かにここは中世の日本である事が判明する。
現代と繋がっているのは正門だけで、反対側にある門、これは現代世界では確認出来なかったものだが、そちらから外に出ると異世界が広がっていた。
屋敷内からは見えていた日本の電線やら街灯やら遠景のビル等が、屋敷の外からは全く見えなくなる。
アスファルトで舗装された清潔な街並みから一点し、発展途上国のような風景に変わる。
それでも日本の特徴である、稲を植えた水田は確認出来た。
我々は、オブジェクトに進入するにあたり用意した理由、生物の調査もしなければならない。
現代日本では絶滅したカワウソのDNAサンプルの収集である。
以前、超新星の科学調査を求めて、オブジェクト内に入る事を許された学者の情報を入手した我々は、社会調査よりは科学調査の方が許可されやすいと判断したのだ。
それは成功した。
そしてカワウソは中々見つけられないが、水田に普通に居るトキや、夜にはオオカミの遠吠えを確認する。
いずれも21世紀の日本では絶滅したとされる動物だ。
ここまで来ると、ここは過去の日本で、オブジェクトは過去と現代を繋ぐタイムゲートである事は疑い無い。
あとはこのオブジェクトをどのカテゴリーに分けようか。
確かに内部には危険な生物「サムライ」が生息している。
しかしそれは自ら安易な関わりを拒絶しているから、手出しさえしなければ安全と言える。
だが、確かに内部が過去の世界である事は、人類の滅亡にも繋がりかねない危険なオブジェクトとも言えるだろう。
仮に中に強引に進入し、そこでバイオテロを仕掛けたならば。
当時の科学力では治療等出来ない。
渡り鳥を媒介に世界中に感染拡大させれば、人類は滅亡しかねない。
最低でも歴史は大きく変わる。
それがパラレルワールドを作るのか、現代の我々にも直結する影響をもたらすかは、実験しないと分からないが、実験等出来ない。
そんなこんなでカテゴリーを「安全」か「人類存亡に関わる危険」か、どちらにすべきか悩んでいたところ、上司から調査打ち切りの指令が届く。
なんでも、どこかから我々の調査結果以上に詳細な情報が届けられたという。
そして
「何もしなければ、いずれ問題は解決する。
調査は余計な事であり、本来なら何も起こらなかった史実へ干渉しかねない。
その内に異常は消滅するから、何もしてはならない」
との事で、不本意ながら対象番号すら抹消されて調査は終わった。
我々は財団上層部に、この情報の出元を質問する。
「日本の上の方だ。
彼はそれの関係者だと言う。
それ以上は何も聞くな」
であった。
某S◯P財団ネタでした。
不定期復活なので、今回の番外編はここまでとします。
 




