突然鎌倉武士の屋形が……
「もしもし、今ちょっと時間有りますか?」
文化庁の知念氏から俺に電話が掛かって来た。
「もしかして、鎌倉武士の事ですか?」
毎度の事とはいえ、何かやったのか?
そんな疑問からの質問だったが、答えは違っていた。
「いや、関係はしているんですが、直接的にどうこうって話ではないです。
一つ目の話ですが、その鎌倉武士に異常は有りませんか?」
「は?
意味が分からないんですが、特に何も」
「ああ、そうですか。
実はそちらから快く寄付いただいた仏像がですね、ちょっとおかしくなってましてね」
快く寄付とは物も言いようだと思う。
粘って、他の所に寄進しようとしたのを買い付けていたではないか。
それはさておき
「薬師如来像だけが、異音を発している」
という事だった。
他の釈迦像とかは問題無いが、それだけはハッキリ分かる異常な音を出しているそうだ。
特に隣の鎌倉武士たちに異常は無いと伝えると、知念氏も「気のせいか」と納得する。
話は変わる。
「二つ目の話ですが、以前から私は、そちらの武士が不思議と優遇されている事が気になっていましてね。
それと、これだけ派手に騒いでいても大きなニュースになって現れない。
何かあるんじゃないかと思って、それでちょっと探りを入れてみたんですよ。
そうしたら、向こうの方から接触が有りました。
正体は明かしていないんですが、代理人という人から連絡が有りまして。
その時に、貴方の名前も出て来たんですよ」
「俺ですか?」
「うん、君。
会って話をしたいって事だけど……」
「いや、怖いです」
「ですよね……。
ただ、先方はどうしても会いたいと言っていまして。
都合が良い日を教えて欲しいって事です。
私と君と、顧問弁護士の先生と」
「一体何者なんですか?」
「それは私も分からない。
ただ、私の上司にも話が通っている事から、どこかのお偉いさんの可能性がありますね」
そう言えば、隣の鎌倉武士の子孫、つまりは俺を含む血筋の中には、総理大臣経験者とか財界の有力者もいる。
直系の子孫ではないし、本人たちも系図を辿れば……って感じで、某鎌倉武士の子孫である事を自慢したりはしていない。
いつぞやの知事を経験した後に総理大臣になった人のように、その苗字と分かる訳でもない。
むしろ同じ苗字の者は、一般市民としてこの町内にある程度固まって住んでいる。
そんな遠い血筋、別に誇りとも思っていない人たちが、地方都市に出現した武家屋敷の事を気にして、色んな圧力を掛けたりするだろうか?
「あの……二番目の話の方が重要ですよね。
なんで後回しにしたんですか?」
ちょっと話の順番で引っ掛かるものがあった。
その答えも変わっていた。
「代理人という人から、奇妙な事を言われたんですよ。
薬師如来像が鳴動していないか? って。
鳴っていたなら連絡を取って下さいと言って来たんです。
二番目の件が重要なのは分かるのですが、それに先立つ一番目の件が、どうにも気になりましてね」
二つは連動した話と言えた。
とりあえず、都合の良い日付を伝えて、後は任せるとした。
俺は隣の鎌倉武士から良いように使われ、拒否権は無い。
それは先祖でもある当主が怖い、威厳があるのもあるが、俺の性格にも依る。
直したい所ではある。
そんな電話が有った日も、実にのどかであった。
最近は鎌倉武士の恐怖が口伝手に広まっていて、迷惑行為をする人も居なくなった。
物理的に消滅した人も居るから、本当は笑い話ではない。
ではあっても、町内は穏やかになった。
鎌倉武士の末娘も、相変わらず町内を散歩して、おば様方から飴を貰ったりしている。
夜は松明を持った郎党が定期的に巡回している。
たまに女中や雑色が現代の金を持って買い物をしている。
俺のところに、金額とか相応の価格で合っているのかを聞きに来るのがちょっと面倒臭い。
譲念和尚は相変わらずクソ坊主、破戒僧で「般若湯」を飲みに夜の町に出向いたりしていた。
その繁華街の街広告では、元武家屋敷の女中だったお熊さんこと「一条妃芽佳」が髪を掻き上げる姿の写真を見るようになった。
お熊さんがようやく難しい漢字を覚えたから、芸名を平仮名表記から漢字に変更した模様。
時々あるトラブルは、馬で移動した後の糞の処理だが、これとてちゃんと雑色が回収していく。
曰く
「土の落ちたならそのままにしておくが、石(正確にはアスファルトなのだが)に落ちた馬糞なら拾って帰っても良い。
肥料に変わるからな」
との事で、喧嘩売るような発言をしなければ、ちゃんと処理してくれるのだ。
こんな日々が続くのかと思っていた。
それは再び地震と共に終わりを告げる。
夜半、大きな揺れがこの地を襲った。
ちょっと嫌な揺れ方だったので、俺は外に出て家の周りを調べていた。
すると、八郎が隣の武家屋敷を訪問しようとする場面に出くわす。
訪問というが、元々彼の実家である。
彼は己の才覚で得た家に住んでいるが、そこは紛れもなく現代の日本。
俺の家と同じように揺れを感じた。
その為、彼は実家も揺れて難儀をしていないか、確認に来たのだ。
木造で、場所によっては簡素な造りである為、揺れたら倒れる。
その修復に来ないと、色々と文句を言われるのだ。
「まあ、あの連中は多少の地震でどうこうならんだろうけど」
と挨拶の後に俺が言うと
「ではあるが、こういう時には顔を出さんとならぬのでな」
と十歳にもならぬ子供が複雑な表情をする。
庶子っていうのは面倒臭い立場なのだ。
そうこう言っている間に、武家屋敷の様子がおかしい。
どこぞの通りすがりの世界の破壊者が、次元を渡り歩く時のような揺らめいた壁のようなもので覆われ始める。
「此は一体?」
思わず昔の口調に戻る八郎。
そして遠くの方から消滅を始める武家屋敷。
「父上! 兄上!」
そう叫んで八郎は揺らめいた空間に中に飛び込んで行った。
その直後、完全に武家屋敷は消滅し、一段と大きな地震がこの地を襲う。
結構大きな揺れで、あちこちから悲鳴が聞こえる。
そして武家屋敷が在った場所には、昔の家が戻って来た。
まるで、今まで何も異常なんて無かったかのように。
「来る時も突然なら、去る時も突然かよ……」
変な形でこの町に馴染んでいた鎌倉時代の人間たちは、山村とか東京とかに居る者を残し、消えてしまう。
いや、本来鎌倉時代と繋がっていたのがおかしいのだ。
元に戻ったというべきだろう。
それでも俺は一抹の寂しさを感じていた。
近所付き合いがそれなりの現代、あの連中の関わり方は非常に濃かった。
迷惑と思う一方で、中々楽しくもあったからだ。
まあ、消えてしまったのを俺が戻せる訳でもない。
元々のご近所さんが戻って来たのだ。
彼等は無事だったのだろうか?
無事では無かった。
そこから出て来たのは、腰も曲がった爺様ではなく
サングラスを掛け、体の各部がサイボーグとなったロボ爺さんであった。
サングラス越しの目からはレーザー光線が出ている。
『君タチハ我々ニ同化サレル。
抵抗ハ無意味デアル』
爺様、ヤバい奴になってねえか?
そして見た目はそのままながら、異常に動きが活発で
「爺さんや、今の揺れ酷かったのお。
あんたはその目で透視スキャンしなされ。
あたしゃゲル化能力を使って、屋根の上を調べるでな」
とジャンプしたら謎の物体と化して宙を飛びながら屋根を調べるバイオ婆ぁとかであった。
あんたら、一体どこの世界に今まで飛ばされていたんだ????
前話の金星云々の話は「戦国自衛隊 金星」で調べればフラグだったと分かると思います。
あと薬師如来は過去仏だとか(阿弥陀如来(過去)、釈迦(現代)、弥勒菩薩(未来)ってもあり)
次話で一旦終了します。




