不思議な対応
現代でも活躍する鎌倉武士。
当然周囲との摩擦も発生する。
中でも一番マズイのが、反社企業を壊滅させた事だ。
反社を叩いた事については、密かに拍手をする者も存在する。
しかし謎の協定で日本国憲法適用外になったのは武家屋敷の内側のみ。
屋敷の正門を通るとそこは鎌倉時代な為、法の遡及適用は出来ないという理由でそうなった。
しかし反社を潰したのは、日本国憲法の適用範囲内である場所。
そこで殺人事件を起こせば、流石に問題になる。
実際、その反社団体の遺族で、本人は一般人な為殺す大義名分が無い人と、民事裁判で戦っている。
刑事にならないのは、謎の圧力が掛かったからだ。
こうして他人に恨みを持たれている事もあり、鎌倉武士も命を狙われていたりする。
鎌倉武士は
「討って良いのは、討たれる覚悟がある奴だけだ。
貴方、『覚悟して来てる人』……ですよね。
人を『始末』しようとするって事は、逆に『始末』されるかもしれないという危険を常に『覚悟して来ている人』ってわけですよね……」
という意識なので、命を狙われる事は特に気にしていない、当たり前の事だったりするが。
反社の残党は、頭目の子が法廷で争っているのとは別口で、鎌倉武士への復讐をしようとしていた。
「ターゲットは武士ですと?
面白い。
私の闇空手で葬ってあげますよ」
武闘家を闇討ちして倒し、名を上げつつあった男が、鎌倉武士打倒の依頼を受けた。
彼はコインを空高く放ると、それが地に落ちる前には相手を始末する強者であった。
隣の鎌倉武士の家中最強の郎党・又三郎を倒すべく付け狙う。
そして山村で
「又三郎さんですね」
と声を掛けた。
いや、声を掛けるのは途中まで。
言い終わらぬ前にいきなり太刀を抜いて斬り掛かって来た。
「いきなり何を?」
「其の方が気に食わぬ」
おそらく殺気とか妖気とかそんなのを察知したのではないだろうか。
ただ、言葉が少ない人だから、一々説明とかしない。
問答無用で攻撃して来る。
「私もまだまだのようですね。
こうも簡単に見抜かれるとは……」
一方で又三郎も
(こちらの世に居て腕が鈍った。
一撃で仕留められぬとは)
と思っていたそうだが、口には出さない。
ただ、その闇空手の刺客は、かわしたとは言え腕に傷を負った事と、他の武士が弓矢、薙刀を持って寄って来た事から
「残念ですが、ここは退きます。
修行して出直すとしましょう。
またいずれお会いしたいものです」
と言って逃げて行った。
又三郎曰く
「追えば危うい。
中々の者だ。
こちらにもあのような手練れが居るとは」
だそうで、追撃はしなかったようだ。
その刺客の事は山村での事で表沙汰にはならなかったが、他にも色々と起こる。
次は張本人である六郎の命が狙われた。
だがこちらには多くの武士が詰めている。
まして六郎は嫡男になったのだから、傷を負わされただけで家の恥となる。
当然全力で防戦をして来た。
市街地でこんな事をすれば、それは警察他周囲の目に触れる事になる。
その刺客たちは病院送りにされた後、警察の取り調べを受ける。
まあ、それで口を割るようなら刺客なんてやっていられない。
ただ刺客たちは文句を言う。
「殺された奴も居る。
なのに、何故自分たちだけが取り調べられ、あいつらは何も無いんだ?
おかしいだろ!」
警察もそれは疑問に思っている。
何故かストップが掛かるのだ。
確かに過去の人物だから、歴史を変える事をしたら危険だ。
それは分かっているが、現代の人間を殺しておいて何も無しは流石に謎だ。
抗争がすぐ隣で起こる俺だってそう思うくらいだ。
それを本格的に疑問に思ったのは、六郎が決闘に応じた事件である。
刺客は多くが倒された事もあり、ついにその元締めのようなのがやって来た。
そして果たし状を渡す。
『来ない場合は臆病者として笑ってやる』
と書いてあり、こうなれば鎌倉武士は応じる他は無い。
斯くして、指定の河原での決闘となった。
どうもこの者、外道坊と同じく外国人の戦闘狂のようである。
色々と策を弄したが、相手が強いと見て、飛び道具も無しの決闘をしたくなったようだ。
どこから持ち込んだのか、青龍刀を使って攻撃して来る。
それを受けた六郎の太刀が、折れた!
鎌倉時代の太刀は青龍刀に比べて細く、折れやすかったのだ。
切れ味が良いし、馬上での操作に適した重心が手元にある先細形状は合理性のある造りなのだが、青龍刀と打ち合うとこうなってしまう。
なお、美術的な価値は相当にある。
多くの戦争で失われているし、蒙古襲来で知ったこの「折れやすい」欠点を改良した形状になる為、鎌倉時代中期以前の作は現代では珍重される。
文化庁の知念氏が知ったら、
「なんて事をするんだ!」
と折れた太刀を見て絶句するかもしれない。
さて決闘だが、これで刺客の勝ちとはいかなかった。
武士が他の国の戦士と少し違うのは、刀は二本差しである事だ。
正しくは太刀は佩き、打刀を腰に差す。
メインの刀の他に脇差、鎌倉時代は刺刀を携帯している。
上位の武士である六郎は、徒士用の刺刀ではなく鎧通し、古い言い方では「腹巻通し」と呼ばれる分厚い刺突用の刀を差していた。
太刀が折れた瞬間、刺客は勝ちを確信したのだが、六郎は呆気に取られる事もなく、即座に腹巻通しを抜きながら突進、相手の僅かな隙をついて急所に差し込んだ。
この直後、見物客に紛れていた仲間が逃げていくのが見える。
刺客は死を前にこう語っていた。
「裏切ったか。
裏切っても行く所のある奴はよい。
フフフ……この俺に帰る所はない」
六郎は好敵手に対し、無遠慮に首を取る事はせず、最期の言葉を言わせるだけ言わせてやった。
その傍らでは落とした青龍刀が墓標のように地面に突き刺さっている。
謎の刺客、日本に死す。
年齢、不明。
生年月日、不明。
生まれた星も、不明……。
さて、こうなると現代の刑法では禁止されている決闘、更に殺人、それも見物客の前だから隠しようもない。
警察が逮捕に向かうが、急に何か無線連絡が入ったようで、引き揚げていった。
一体何があるのだろう?
一連の事件の後始末に追われる顧問弁護士も、俺と顔を合わせると
「何か背後に武士たちを庇う力があるみたいです。
それが何なのか、見当もつきませんが」
と言っていた。
俺もそう思う。
隣の武士たちには何か秘密があるのだろうか?
なお、刺客を雇った者は人知れず自滅する。
人間でダメだと思ったのか、どこかからロボットを仕入れて殺人マシーンに仕上げた。
起動すると
「鎌倉武士反応あり、破壊! 破壊! 破壊だ!!」
「鎌倉武士反応を示すものは、生命体・非生命体のいかんを問わず、全て破壊する!」
と言いながら、製作者を殺した後で機能停止した。
現代科学でそうそう都合の良い戦闘アンドロイドなんて造れないのだから。
おまけ:
元ネタは「戦隊 名勝負」で検索すれば分かるかも。
告知:日曜日で連載終了しようと思います。
日曜17時が最終回で、18時にはまとめみたいなのを書く予定です。
それまでよろしくお願いします。




