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レッツ・パーリィー!

「父上も困ったものよ」

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには先祖の一人である六男坊殿が立っていた。

「六郎殿、来ていたのですか?」

「このような祭り、参らねずに如何とすや」

 祭りは、文字通りの祭祀の意味だろうか?

 盛り上がってるから、ヒャッハーしたいっていう「祭り」なのかな?

 どちらかにも受け止められる。


 横には護衛の武士が居るが、この顔は以前見た顔と似ているが、違う。

「これなるは又五郎じゃ。

 先日の又三郎の弟にあたる」

 なんでも、又太郎から又十郎までいるらしい。

(確か「薩摩転生」とかいうネット小説で、又何とかが多過ぎて作者と読者が混乱しているとか見た気がするなあ……)

 そう思い出し

「又何とかが何人も居るって、島津家みたいですね」

 と言うと、六郎がちょっと首を傾げ

「ああ、薩摩の島津殿か。

 じゃが、あのような柔弱な武家と一緒にされたら、又五郎も怒ろうぞ」

 と窘めて来た。

(え? 島津とか薩摩が柔弱?)

 鎌倉時代は一般的に坂東武者の方が獰猛かつ物分かりが悪く、島津は公家の血筋で穏やか。

 ただし当時での比較であり、島津はそのままの状態で戦国時代に突入する。

 他の地域は徐々に文明人化していき、更に江戸時代の法治政治と泰平の世で、所謂「日本人」になった。

 薩摩人は江戸時代に、やはり文明化して他地域の室町時代人くらいになって、明治維新を迎えた。

 なお、江戸幕府の牙を抜く政策に同調せず、「戦国の気風を残す」武家は他にもあって、例えば庄内藩酒井家なんかは城下町鶴岡と経済都市酒田を分離した為

「ご当家の武家は猛々しくて敵わない……」

 と嘆かれていたそうだ。


 そして今現代日本に何故か出て来ているのは、薩摩を「柔弱」と断じる坂東武者ども。

 これでもかなり高位の武士で、穏やかで話が通じる方ではある。

 だから祭りの場にて無闇に騒がない。

 当主と嫡男は神社の主殿の方に案内され、素直に従って行った。

 そこで神酒でも飲めば大人しくしているだろう。

……大人しくしていてくれ。

 郎党たちは、黙って馬と共に待機している。

 ここは祭りの会場。

 何も知らない人たちはイベントスタッフだと思って、この装束を特に問題視していない。

 コスプレ侍だと思って、写真を撮りまくっていた。

 どうもまともな人は、何か直感が働くようで

「一緒に撮って下さい」

 までは言えないようだ、何か怖くて……。


 そんな中、当主の子息で我がままも言える六郎は、自由に境内を護衛と共にふらついている。

「あ、わし次男じゃぞ」

「へ? 六男なのでは?」

「全ての兄弟の中ではな。

 太郎兄、次郎兄、五郎兄は側女腹じゃ」

 つまり六郎は、三郎と同じ正室の子で、その中では二番目という事であった。

(道理で護衛まで付けられ、現代日本を自由に歩けるわけだ)

 そしてちょっと気になったのを聞いてみた。

「えーと、四郎さんは?」

「四郎兄は病で亡くなった」

……そういう時代なのだ。


 さて、大河ドラマのコスプレのような恰好で縁日のある辺りをうろつく六郎、目立たない訳がない。

 当主、嫡男と違ってこちらは平服であり、神事の衣装っぽくはない。

 相撲の行司のようだ。

 その恰好で甘酒を飲んでいる。

「よう知らぬ物ばかりであったが、これは変わらぬのお」

 天甜酒(あまのたむざけ)と呼ばれ、日本書紀の頃からあったから、六郎もよく知っている。

 六郎は元服しているから当時としては既に成年だ。

 甘酒の他に普通の酒も飲めるが、現代日本では未成年飲酒になってしまう。

 飲んだかどうかは伏せておこう。

 だが体が温まって血の気が多くなった頃、再び馬鹿と遭遇する。

 そう、六郎が街歩きをした帰りに絡んで来て、私服警官に取り押さえられて命が助かったヤンキーどもだ。


「あいつだ!

 おう、てめえ、この前はよくも」

 因縁をつけて来た少年たちに対し六郎は

「はて?

 誰ぞ?」

 とまるで覚えていなかった。

「てめえ、ナメた口利いてんじゃねえぞ!」

「覚えておらぬものは覚えておらぬ」

 どうも六郎が言うには、名のある武士でも無ければあとは下等日本人。

 現代語訳すれば

「わしにとってそいつらは名無しも同然、ワン・オブ・ゼムに過ぎぬのだ!」

 とどこぞの完璧超人始祖みたいな事を言っていた。

 まあ当主の血筋からすれば、合戦において相手の郎党や雑色なんて一々覚えてもいないのだろう。

 第一、合戦にすらならなかったわけだし。


「おう、兄ちゃんたち。

 ここがどこか分かってんだろ?

 ここで騒ぎを起こしたらただじゃ済まねえぞ」

 不穏な空気に、祭りの屋台を仕切っている男たちがやって来る。

 六郎は全部纏めて戦う気になりかけていたが、ヤンキーの方が引き下がった。

「てめえ、ここじゃなんだから、あっちに行くぜ。

 ちょっと面貸せや」

 六郎と又五郎は詰まらなそうな表情でついていく。

「あんたら、やめておけ。

 本当に危険だから!」

「オッサンは黙ってろよ!

 締めんぞ、こら!

 警察(ポリ)といい、命が危ないってどういう事だよ!」

 ヤンキーはそう言いながらどこかに電話をかけていた。


 そして人気の無い路地裏。

 相手は10人程、しかも手には鉄パイプとかナイフを持っている。

 これは本格的にまずい。

 俺はそいつらから離れて、警察に電話をした。

 もっと早く判断すべきだった。

 間に合うか?


 間に合わなかった。

「合戦の場を選び、多数を恐れて場所を変えたお主らは首を取るに値しない。

 腕の一本で感謝せよ」

 そんな類の事を言っていたように聞こえる。

 10対2でも勝負にならない。

 喧嘩慣れしているのと、殺し合いに慣れているのではレベルが違い過ぎる。

 又五郎は護衛だけあって相当に強く、本当に一太刀で相手の右腕を斬り落とした。

「なんだ、こいつら、ヤベえ!」

 仲間の腕が切断されたのを見て、ヤンキーたちはビビる。

 そりゃそうだ。

 少年の喧嘩とは訳が違う。

 もし弱いと判断されていなければ、斬られたのは腕ではなく首なのだ。

 そうこうしている内に、他のヤンキーも腕を斬られたり、指を斬り落とされたりしている。

「やめろ!

 殺す気かよ?」

「殺すに値せぬ。

 なれど武士に戦を挑んだなら覚悟せよ。

 討って良いのは討たれる覚悟がある奴だけだ」

 現代語訳したらそのような事を言っていた。

 戦意喪失している奴等にも容赦がない鎌倉武士。

 もっとも、この事を言ったのは決着が着いてからだ。

 戦闘中に余計な会話は一切していない。


 そしてやっと警察が到着。

 怪我の程度から、救急車を呼ばざるを得ない。

 警官たちは通報者である俺から事情を聞いたり、どこかに電話をして確認をした後、六郎はそのまま返し、一番ヤンキーを切り伏せた又五郎が逮捕という運びになった。

 というか、それで納得させた。

 俺も参考人という形で警察に同行する。


……そして鎌倉武士の面倒臭さを更に知る事になるのであった。

御成敗式目第十三条

一、毆人咎事

右被打擲之輩爲雪其恥 定露害心歟 毆人之科甚以不輕 仍於侍者可被沒收所領 無所帶者可處流罪

至于觔從以下者可令召禁其身也


訳:

暴力をふるった場合、侍は領地没収、領地がない場合は流罪、郎従以下の場合は懲役


とあるので、鎌倉時代でも喧嘩はご法度です。

覚悟してやるからこそ坂東武者なので。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  話が分かる人で良かったね。  普通なら問答無用で首刈りだもの。  殺魔転生。ああ、なんかヨーロッパ行くやつかな。
[良い点] 今話もありがとうございます! >(確か「薩摩転生」とかいうネット小説で、又何とかが多過ぎて作者と読者が混乱しているとか見た気がするなあ……) おお、サツマン朝! ……改めて読み返そう。…
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