青い目の鎌倉武士
俺の家の隣は鎌倉時代の武家屋敷だが、そこに住んでる人と大して変わらない人たちが家を訪ねて来た。
「ヤ」のつく自営業の人たちだ。
一瞬かなりビビったが、別に脅されるとか怪しいビジネスに誘われるとかでは無かった。
「お隣さんに、こいつを預かっていただきたいんですよ。
それで取り次いで貰えませんかねえ」
と言って、連れていた坊主頭で碧眼の外国人を紹介する。
何か血の匂いがする外国人だ。
「ジブン、ゲオルク」
彼は日本語でそう名乗った。
そしてヤの人が更に詳細を教えてくれる。
彼は名前からいって某北の国の人であった。
戦地から脱走し、色んな伝手を使って日本に来たのだという。
「ああー、なるほど。
戦場で、どうして殺し合いをしているのか疑問を持ったとかですか。
自分の正義が信じられなくなって軍を脱走して、国に帰れなくなったとかですね」
俺がそう言うと、ヤの人もゲオルクという白人も違うと言う。
「こいつな、人を殺したくて民間軍事会社に入ったんだ。
そして戦地でも活躍していたんだけど、正規軍の方と揉めてしまってね。
そっちの大佐だったか連隊長だったかを、ムカついたから後ろ撃ちしたんですよ。
それがバレて、捕縛されて軍法会議にかけられる所を返り討ちに、そのまま脱走したって寸法です」
……いや、かなりの危険人物じゃないか!
なんでそんな物騒なのを連れて来たんだよ!
「うちのシノギ……ビジネスで、中古車とかを横流し……輸出してるんですがね。
あ、思う事色々あると思いますが、中古車って事にしておいて下さいね」
……盗難車だな。
まあそれは本題ではないし、深入りはやめておこう。
要はそっち方面への密輸なのか何なのか、ビジネスでそっち系の人たちと付き合いがあって、その縁で連れて来た、と。
でも根本的な疑問。
だったらフランス外人部隊とか、中東の過激派組織とか、腕を買ってくれる所に行けば良いのに。
「こいつ、サムライが好きなんだってさ」
外国人はニンジャとサムライ好きだもんな。
だとしたら、隣にいるのはちょっと……いや、かなり違うぞ。
多少文化を覚えているが、基本は野蛮人。
何かあれば簡単に人を殺すし、それを悪い事だと思っていない。
自分の利益が第一で、その為なら不法も平気で行う。
……あれ?
……それって今目の前に居るあんたらと同じだよな。
……似た者同士って事か?
……だから預かって欲しいっていう事か?
「ちょっと聞いてみたい事があります。
サムライって、どんな感じのイメージで言ってます?
クロサワの時代劇とかで見たサムライですか?」
外国人は明確に否定する。
その人の国でも日本の昔の時代劇映画は監督込みで有名だが、彼の好きなサムライは違っていた。
「あの凶悪なタタール(モンゴル)を叩きのめした戦士。
夜襲がダメなら昼間に奇襲を掛ける戦闘狂。
人質に取られた自国民ごと射殺す狂暴さ。
タタールに奪われる前に、自分たちの町を略奪して放火する野蛮さ。
捕虜となったタタール全員の首を取る残酷さ。
オレはそういうサムライが好きなのだ」
……間違っていない、それは確かにお隣さんたちだ。
しかし、どこからそのネットミームが拡がった?
ゴースト・オブなんちゃらというゲームからか?
まあ良い、誤解している訳ではなさそうだ。
「実はこいつ、何回かお隣さんとすれ違ったそうですぜ。
そして、感じた雰囲気が同じだったと。
懐かしい感じがした、と。
それで、どうせならそこに行きたいと頼み込んで来ましてね」
もう確定だ、ヤバい奴はヤバい奴に惹かれる。
悪には悪のカリスマが必要だって、エジプトの誰だったかが言っていた。
そういう事なんだな。
……なんかもう、俺の手には余る。
まずは紹介状を預かり、執事の藤十郎に話だけはしてみよう。
どう判断するかは任せる事にした。
紹介状を読んだ藤十郎は、そいつを見て気に入ったようだ。
「うむ、血の臭いがする。
ろくに人を殺した事もない、未来の子孫どもより余程良い」
やはり同類だ、相通じるものがあるようだ。
「其の方、首級はいくつ挙げた?」
門を潜った謎空間のここでは、お互いの言葉が通じ合う。
会話が成り立っている。
「オレが直接殺したのは100人より多い。
しかし、半分は女子供老人でつまらぬ殺しだった。
殺す事より、死体を埋める方が疲れた。
残り半分は兵士だが、正確な数は分からない。
銃で殺すと殺した実感が無いからな。
一度、近接戦闘でナイフを使って数人の斥候を殺した。
その時ほど充足した事は無い」
「ふむ、得物を見せてくれぬか?」
「このナイフだ。
軍を抜ける時も、こいつに助けられた」
「おお、業物とは言えぬか、使い込まれた良き得物じゃ。
では礼として、わしの太刀も見て貰おう」
「これは人を斬った脂の曇りだな。
いくらメンテナンスしても、見る者が見れば分かる。
完全には消えないからな」
「分かるではないか。
じゃから、其の方の短刀の良さもわしには分かる。
良く人を斬る、否、刺す為に磨かれたものじゃ」
「おお!
分かるか!
そうだ、これは刺すものだ。
抵抗も無く、肉を貫き血管を破る」
……あーあー、なんか物騒な会話が聞こえてくるけど、気のせいだ、俺は何も聞いていない。
なんか人の刺し方とか、効果的な処刑法で意気投合してるよ。
ヤの人ですらドン引きしているし。
ヤの人たちは、儲けがあれば良くて、好き好んで人は殺さないからね。
人が生きていてこそ稼ぎになる。
発想としては戦国時代の武士なんだろうね。
人的資源は大事に使わないと、という。
こっちの二人は、殺す事が好きなようだ。
その為の業を磨いているのだから、使わずしてどうする? という。
「いや亮太殿、良き荒法師を紹介してくれた。
行き場が無いようじゃから、当家に召し抱えようと思う」
その人、別に僧兵じゃないです。
仏教じゃなくてキリスト教です。
……しかし、この殺人狂を召し抱えても、別に毎日がヒャッハーではないだろうに。
退屈するんじゃないのかな?
俺はそう思ったが、案外早く彼に活躍の場が与えられるのであった。
おまけ:昨日のネタで、イギリス王室の暴露本のアレが中々気づいて貰えず、外してしまった感バリバリです……。




