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祭りだワッショイ!

 秋祭りの季節である。

 神社で結構盛況な祭りが開かれる。

 祭りにはDQNがやって来るので、ぶっちゃけ「ヤ」のつく特殊自営業の方の仕切りが必要悪となってしまっていた。

 しのぎだ資金源だって話は置いて、伝統は守りたい、だが揉め事は面倒だという住民心理がそこにあって、黙認となっていた。

 だが今年はDQNだけがやって来る訳ではなかった。


「祭り囃子じゃろうか?」

 雑色の平吉が隣人の俺に尋ねる。

「近くの神社で近々祭りが開かれますからね。

 その練習の音ですね」

 軽々しくこう答えたのがカオスの始まりであった……。


 翌日、平吉が俺を武家屋敷に招待する。

 嫌な予感がしつつも門を潜る。

 そこで執事の藤十郎から当主の言を伝えられた。

「神事と有らば、当家も是非に参加する!」




~~~~~~~~~~

【御成敗式目第一条】

「一、可修理藭社專祭祀事

  右藭者依人之敬筯威 人者依藭之紱添運 然則恆例之祭祀不致陵夷 如在之禮奠莫令怠慢

  因茲於關東御分國々并庄園者 地頭藭主等各存其趣 可致虗誠也 兼又至有封社者 任代々符

  小破之時且加修理 若及大破 言上子細 隨于其左右可有其沙汰矣」


訳:一、神社を修理して祭祀を行うべきこと

  神は人の敬いによってその威を増し、人は神の徳によって運を賜る。

  だから恒例の祭祀衰退をせず、供物を怠慢するような事はならない。

  壊れていたら直せ、大破の場合は左右に相談して沙汰せよ。

~~~~~~~~~~




「坂東武士たるもの、祭礼を欠かしては名誉に関わる!」

 そう言って聞かない。

 是が非でも祭りに参加するようだ。


(まあ、問題さえ起こさなければそれで良いか……)

 一応、門外はこちらの法に従う事を納得しているし。

 俺は宮司さんとかに連絡して、供物奉納なんかを手伝った。

 鎌倉武士相手に甘いって?

 仕方ないじゃないか。

 この供物奉納とかでの態度は、実に礼に適ったものだったし。

 むしろ現代人の俺たちでは及びもつかない丁重な礼儀作法を取り、大量の寄付をしていた。

 神社の方も

「馬の奉納有り難く存じます。

 神馬と致します。

 しかし、当社では馬を上手く飼えません。

 どうか当社の神馬を、貴方様の方で預かっていただけませんか」

 と言った為、先祖も納得した。

 ちゃんと「神社に奉納した」が完了すれば良い。

 突き返されたとあれば面目に関わるが、きちんと受け取った後で「管理の依頼」ならばむしろ名誉である。

 宮司も訪問の際は、きちんと神主姿であった為、鎌倉武士たちも頭を下げて礼を取っていた。

 こうした温和なやり取りがなされたから、俺は

(今回は特に問題は起こらないだろう)

 と安心してしまったのだった。




 祭りの日、俺は先祖を見て頭が痛くなった。

 騎乗で来やがった。

 先導は甲冑を着て、弓矢も持っている。

 騎乗は先祖である当主と嫡男の三郎殿。

 こちらは「どっちが神主だよ」ってな衣装。

 馬はきちんと口取りが轡を持ち、周囲には薙刀を持った護衛が数人従っている。

「当主と嫡男の二人だけで来るって言ってませんでしたか?」

 俺は藤十郎に聞いてみたが

「左様。

 殿と若の二騎である」

 と返されてしまった。


 一騎、それは徒歩の護衛数人を入れた戦闘ユニットの事である。

 二騎で来ると言えば、当然二人ではない、十人程度の人数になってしまう。

 更に口取り、雑色等の小間使いは人数に入っていないのだ。


 こんな武士の行列、お祭りにおいて目立たない訳がない。

 スマホ片手に撮影する者たちが多数殺到する。

 武士たちは、案外この状況を怒ってはいない。

 彼等は目立つのが大好きなのだ。

 無礼が無い限り

「凄え」「派手だなあ」「カッコイイ」という声に満足しているようだ。


 そんな目立ちたがりな先祖は、ある物を見て激怒する。

「何じゃ、あれは!」

 俺を呼びつけて説明を求める。

「あれって、何ですか?」

「あの名前が書かれておるものよ。

 何故わしの名より上位に名が有るのじゃ?

 しかも上位のは平仮名ではないか!

 女子(おなご)か?

 この名高き我が家が、女子より下の扱いなのか?」

 それは供物を出してくれた方々の名を一覧で書いたものである。

「株式会社とか有限会社等という苗字をわしは知らん!

 一体何者なりや?

 公家や? 武家や?

 武家なれば、源氏なりや? 平氏なりや? 藤原なりや?」


……地域の銀行とか企業は協賛として結構貢献してくれている。

 親しまれる為に、企業名は平仮名で登録したりしているのだ。

 個人名としては、代々の神社総代の次に先祖の名前が来ているのだから、良いじゃないか。


「気に食わぬ。

 その株式会社とか申す者は、如何程寄進をせんとや?」

 そりゃ拝殿とか神輿の修理とか、色々長年やってくれているのだ。

 ぽっと出の鎌倉武士よりも貢献度は高い。


「藤十郎!」

「はっ」

「寄進可能な荘園を挙げよ。

 この神社の神域として寄進致す」

「ははっ!」

「それと社殿造営に適った大木を切り出せ。

 良いか、決して劣ってはならず」

「承りました」

「屋形より米俵を持って参れ!

 今すぐ出せる物を用意せよ」

「直ちに!」


 鎌倉武士の見栄っ張りが発動してしまった。

 そして屋形から馬を曳いて来る者、贈答用の甲冑を持ち出す者、反物を捧げ持つ者、米俵を担ぐ者とで行列が出来てしまったのだ。


 写真撮る者多数。

 SNSに

「〇〇神社の祭り、スゲー事になってる!」

「鎧武者の行列、キタコレ!!」

「白馬が奉納されていく!」

 とバンバン上がっていく。


 祭りはカオスながら、大盛り上がりとなっていた。

 神主が俺に尋ねる。

「貰っても、受け取る場所が有りませんよ」

「まあ、貰える物だけ貰って、後はどうにかしましょうよ。

 突き返すと後が怖いので……」

「甲冑とか刀とか、どうしたら良いんですか?」

「……刀に関しては、警察に届け出ましょうか……」


 カオスな祭りはまだ始まったばかりである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イカした作品が始まったな。 こういうのを待ってました。
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] >祭りだワッショイ! >カオスな祭りはまだ始まったばかりである。 ほんの少しの過失で『血』祭りに発展しかねないのが恐ろしい……。 [一言]…
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