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鎌倉武士の現代日本探訪(格闘編)

 警察署の武道場では、体格の良い者たちがこちらを見ていた。

 機動隊等、武闘派の警察官が稽古をしている。

 警察剣道は実戦的で、スポーツ剣道とはまた違うとされる。

 そんな猛者たちに混ざって剣道の訓練を……って


「何故太刀振る舞いなのじゃ?」

「弓矢無き故」

「わしは太刀は余り達者に非ざりし」

「女々しい。

 受けて立つのが坂東武者ぞ」

 六郎君、余り剣術は得意で無いし、やるのも嫌そうだった。


「是非に鎌倉武士の実力を見せていただきたい」

 ちょっと挑発的な感じで言って来た者が居た為、六郎はカチンときた感じだ。

 この人も、明らかに殺気を隠さない従者の又三郎ではなく、若造の六郎を挑発した分、多少は分かるのだろう。

「これは竹か?

 太刀に非ず、ただの棒ぞ」

 文句を言いながらも、とりあえず左手に持って対峙する。


「始め!」

 の声と共に、六郎は突進した。

 だがその行動は、相手の意表を突いたものである。

 相手は古流武術を想定し、体当たりして来る事までは予想していた。

 しかし六郎は素早く相手の背後に回り込むと、奥襟を引いて後ろに倒す。

 転んだ相手に馬乗りになり、右手で面を抑える。

 倒された相手の顔を横に向ける形にした。

 すると頸動脈が上を向く。

 そのままそこに竹刀を当て、右手は顔を抑えているが、そのまま右手の肘で竹刀を上から押し付け、そして左手で竹刀を引いた。

 切断の動作である。


「それまで!」

 審判が止めさせるが、周囲は静まり返っていた。

 今見せた鎌倉武士の業、それは「武術」では無かった。

 ただの人殺しの業ともいえない、人の首を取る作業である。


「あの……剣の技とかは無いんですか?」

 よくぞ首を上げたと若殿を褒め称える従者の又三郎に警官が尋ねる。

「有るには有る。

 じゃがただの芸じゃ」

 又三郎が言うには、「武芸者」という刀とか投げ小刀とかを上手く扱う「芸人」が居るという。

「所詮は芸者、見世物小屋の遊び。

 戦場(いくさば)では物の役に立たぬ」

 と言ってのける。

武士(もののふ)の道は弓馬の道。

 太刀の扱いは二の次なり」

 太刀は馬上での操法を想定しているが、それは反りの大きな太刀を振り回して相手にぶつけるもの。

「斯様に真っ直ぐな太刀では、馬の首を斬り申そう」

 という事であった。


 次は柔道場に招かれる。

 柔道というものも鎌倉時代には存在しない、あれは明治時代に生まれたものだ。

 又三郎は相撲なら出来ると言う。

 そして武家相撲と警察柔道の組手が行われるが、やはり相手が悪かった。

 この時代の相撲は、思いっ切り蹴り技がある。

 蹴手繰(けたぐ)りとか足払いのような生温いものではない。

 失伝した戦場の業である。

 膝関節を破壊する蹴りに、転んだ相手の顔面を踏み抜く足技。

 膝蹴りは相手にダメージを与えると共に、そのまま体重を掛けて倒しに掛かり、倒した後は相手の腹を穿つ。

 カチアゲも顎を砕く勢いである。

 初見殺しの業であった。

 現代の相撲や柔道を想定していると、意表を突かれてしまう。


 まあ警察の名誉の為に書くならば、彼等は挑発は兎も角、技の方は「受けて」みたかったのだ。

 かなり「古武道なんて、型ばかりで大した事ない」という油断は有った。

 しかし警察の方が一般市民(?)を全力で叩きのめす事は無い。

 本気で攻撃していなかったのは確かな事だ。

 その警察の武道の師範は、

「戦場の武術だね。

 凄まじいものだ。

 だが、あれは甲冑前提の体裁きだ。

 丸腰同士ならば勝つ術もあるだろう」

 と言っているのを俺は聞いた。


 鎌倉武士が現代の技術で感心したのは、機動隊のスクラム訓練である。

 あの楯を持って押し合うもの。

「うむ、こちらの世は口ばかり達者、武術も遊び程度かと思うておったが、これは良い」

「中々のものに候。

 郎党どもに学ばせようか」

 騎馬武者の騎射戦は源平合戦の昔の話。

 最近で市街地での楯持ち同士の押し合い、引き倒し合い、その隙間や上からの攻撃という「搔楯(かいだて)」という戦争ばかりになったそうだ。

 そして鎌倉武士たちは、俺たちの事を

「図体ばかりでかいが、大した力も無い。

 手や指が柔らかく、タコの一つも無い。

 指や耳を切り落とされた戦の勇者もいない。

 戦をする気構えも無い軟弱者」

 と見ていたようだが、この機動隊の訓練の様子を見て認識を改めている。


「余りに弱き故、一族の為、出来得るなら土地を得んとぞ思うておった。

 弱き者、強きに従うのは道理ぞ。

 なれどもう暫し見定めん」

 要は「現代日本を領有出来ないか」偵察に来た部分もあったそうだ。

 ただの物見遊山では、当主が外出許可を出さないだろう。

(こいつ、令和の世に荘園を持つとか考えてたのか)

 国取りまではいかないものの、十七歳ながら物騒な事だ……。


 警察を出て帰宅の途中、馬鹿が出る。

 こんな物騒な殺気を撒き散らかす男が居るのに、喧嘩を売る馬鹿等いるのか?

 だが、馬鹿は来る!


「なんだ、おめー達はよぉ~。

 変な格好してんなぁ。

 目障りなんだよー!」

「全員、姿を現せ!

 こいつらを全員確保だ!」

 DQN団地に住む不良少年(ヤンキー)たちが絡んで来た瞬間、私服警官が一斉に現れ、少年たちを取り押さえる。


「なんだよ、てめえ!

 ふざけんなよ!

 まだ何もやっちゃいねえだろ!」

「だから捕まえたんだ!

 何かやったら、お前ら命は無いぞ!

 我々はお前たちを守ったのだ!」

「何なんだよ!

 あいつらが何だって言うんだよ!」

 強がる少年たちに警官は語る。

「敵の本当の怖さが分かるのも強さの内だ。

 お前たちはあの連中の怖さが分からないようだ。

 お前たちは弱い。

 せめてあの連中の恐ろしさが分かるくらいにはレベルアップしてから来い」


 捕り物劇を見ながら、鎌倉武士たちが話していた内容を俺は聞き逃さない。

「来ぬのか、つまらん」

「か弱き者どもゆえ、手加減されたし」

「うむ、首等取るに物足りず。

 右手で良きや?」

「左様、腕の一本も斬り落として済ますべし」


 全然門外でこちらの法を守る気無いじゃないか!

……いや、本当に私服警察たち、Good Jobだよ!

鎌倉時代の太刀の操法で、8の字(∞の字)に振り回すのはあります。

馬上から徒歩の兵を斬り倒す、すれ違う騎乗の武士を斬り落とす、というのを走らせながらするムーブです。

だから元反りで重心が手元に近く、片手で扱いやすい刀でした。

左手は手綱を握ってるので。

所謂剣術、鹿島神流を始めとする関東七流、鬼一法眼流を始めとする京八流というのはありましたが、神官とかの業で、基本武士は弓馬の道だったのは本編通りです。

もっと後の時代になれば、打ち物武術に移行し、斬馬刀とか野太刀とかが出て来ますが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第10部分到達、お疲れ様です! ……鎌倉武士、凄まじき者よ。 [一言] 続きも楽しみにしています!
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