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突然鎌倉武士の屋形が現れた

 俺が住む某地方都市はちょっとややこしい住人が多い。

 元々は小さな町で、昭和以前からずっと住んでいるような、顔見知りばかりの町だった。

 それが平成の地方自治体再編やら、新興住宅地の開発やらで変わってしまう。

 俺が住んでいる番地から道を一本挟んだ向かいに出来た集合住宅は、特に「DQN団地」なんて噂される程、何か常識が通じない連中が多く住み着いてしまった。

「あっちの住宅地が出来てから、この辺も住みにくくなったなあ」

 旧町民たちはそんな風に話している。


 ある時、ちょっと大きな地震が起こった。

 いや、結構大きいかな?

 なんか墓石が転んだとか、断水が起きたとか、そんな規模であった。

 俺にとってそれは重要ではない。

 ビックリしたのは、俺の家の隣からかなりの部分が消滅してしまった事だ。

 そして代わりに、寺のような巨大な築地が出現している。

 俺の家も築年数が結構経っているから、地震で何か被害出ていないか外に見回りに出て、その異変に気付いたのだ。

「何だ?

 お隣さん、どこに行った?

 そのまたお隣さんの家も消えた。

 その更にお隣さんも居ない。

 そして、このでかいのは何なんだ??」

 すると、そのでかい築地の建物の門が開き、随分と時代がかった服装の男が出て来る。


「お頼み申す。

 こは何ぞ、疾く申されよ」

「は?」

 随分と古文調の言い回しであり、言ってる事が分からない。

 ただ、言いたい事は何となく伝わった。

 この建物の中の人も、いきなりこんな事になって驚いているようだ。

 ただ、会話が出来ないのは困りものである。

 簡単な言い回しなら通じるが、ここはどこで、貴方たちは誰かみたいな事で、よく分からない。

 お互い日本語話しているのは確かなんだけどね。

「筆談したい」

「何と?」

「言ってる事、何となくしか分からないから、紙に書いて伝えたい。

 紙、字、分かりますよね?」

 すると男は困った表情になる。

「わしは文字を知らぬ。

 主に聞く。

 しばし待たれよ」

 そう言って男は門の中に入って行った。

 そして暫くして出て来ると

「客人としてもてなす故、お入り給え」

 と言って来た。

(なんか面倒な事になったなあ)

 そう思いつつも、俺も旧町民のおっとりした気質を持っていたので、その男の後から門内に入って行った。


「いやあ、大きな家だなあ。

 お寺か何かですか?」

「違うよ。

 我が主は京、鎌倉にも名が知られた武家。

 知らないとは情けない」

「ふー-ん……。

 でも、古文みたいな話し方じゃなく、ちゃんとした話し方出来るんじゃないですか?」

「何を言ってるんだ?

 お前さんの方こそ、分からない言い回しじゃなく、ちゃんと話せるようになったじゃないか?」

「え?」

「え?」

 どうも門を潜った後から、俺の言葉は古文調に変換されているらしい。

 そして相手の言葉は、現代語に変換されて耳に入る。

(おかしな事に巻き込まれている気がしてならない。

 なんというか、異世界に迷い込んだような、変な感じがする)

 その直感は間違っていなかった。


「よく参られた。

 お主が、この屋形から見える不思議な風景について説明してくれるのだな。

 まずはお名を伺おう」

 武士がずらっと座る中、主人と見られる人物の前に通された俺は、冷や汗が止まらない。

 穏やかに振舞っているが、何か強者のオーラが漂っている。

 だが名を聞かれた以上、答えないとならないだろう。

 俺は名を名乗った。

 その名を聞き、周囲の雰囲気が変わり、上座の武士も眉をピクっとさせた。

「お主の苗字、わしのものと同じじゃ。

 騙っておるのではなかろうな?」

「騙す?

 っていうか、貴方の名前を知らないのですが、何で同じ苗字を名乗れるんですか。

 単なる偶然じゃないんですか」

「おお、そうじゃ。

 わしも名乗っておらなんだな」

 そう言って名乗られたのだが、俺は驚いた。

「え?

 貴方は我々の御先祖様ですか?

 いや、本家とかそんなんじゃないですが、祖父ちゃんから我が家の先祖は鎌倉時代の偉い武士だったって聞いてます。

 そっちこそ騙しては……いないですよね」

 何となく横で、刀に手を掛ける気配がしたので、迂闊な事は言わない事にした。


 この町、というか村には戦国時代が終わった頃から、とある一族が移り住んで来た。

 関ヶ原の戦いで棲み処に居られなくなり、集団で移り住んだのだと言う。

 その地の領主も受け入れてくれ、やがて元の家臣とかもやって来て開拓されたそうだ。

 そのままずっと定住して訳ではなく、引っ越したり、別の家もやって来たりと住人が入れ替わるも、半数以上が「〇〇様の子孫」と称している、同じ苗字の住人だ。

 そのご先祖様が、今目の前にいる……ようだ、まだ信じられないが。


 お互いおかしな事を言っていると思いつつも、どうにか会話を成立させる。

 証拠を求められ、自分の家紋を見せたところ、一気に信用されたようだ。

 そして現象を把握する。

 この屋形の正門は、時空を超えて鎌倉時代と現代を繋げてしまったようだ。

 裏門を出ると、そこは現代日本とは違う光景である。

 異常事態が起こった事を、俺はご先祖様に伝えた。

 理由? 分かるものか!

 神仏の悪戯という事にでもしておこう。


「左様か……。

 おかしな事になったものよのぉ。

 まあ、お主が何百年も経った後の、我等の子孫と知って嬉しくはあった。

 孫のその孫の、その更に孫の……という者に会える事等、そうそうあるものではないからな」

「あの……この辺一帯には、貴方の子孫を名乗られている方が結構いますよ」

「益々もって嬉しき事よ。

 我が家は族滅せずに済んだのじゃな」

(さらっと「族滅」とか言ってるし……)

 実際には嫡流は戦国時代になる前に滅亡しているのだが、絶対に言わない事にする。

 ここの氏族は全国に散らばっていて、その苗字を名乗る人や、別の苗字ながら子孫である人は多いのだ。


「平吉!」

「はっ」

 遥か下座、屋敷内ではなく庭に控えていた、ここに来るまで俺と話していた男が答える。

「お主に我が子孫、亮太殿との繋ぎを命ず」

「ははっ」

 平吉という名の雑色が答える。

 そして

「これが我が家の執事じゃ。

 何かあれば、この者を通じてわしに話を通すが良い」

「諱を直に言うのはおかしな気がしますが、それが未来の仕来たりと有らばご無礼仕る。

 亮太殿、わしが執事の藤十郎と申す。

 以後、お見知り置きを」

「いえ、こちらこそ……」


 こうして俺のご近所の鎌倉武士との付き合いが始まった。

 ご先祖様は、評定衆も勤めた事があり、物分かりが良い武士だと聞いていた。

……それが「その当時基準」である事を、俺は思い知る事になる。

 いや、正式には俺でなく、周囲のDQNどもがなのだが。

第2話を20時に投下します。

しかし、書いてて思いました。

また「ここのジャンルで良いのかな?」と。

とりあえず、ここで行きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新作だーーーー!!そして相変わらずエキセントリックなプロローグだ。期待が高まる [気になる点] これDQN団地は鎌倉時代に跳んだって事だよな……南無( -_-)/Ωチーン [一言] 『団地…
[良い点] これはまた面白くなりそうだ。
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