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ショートショート3月~2回目

いつまではりついているのだろう

作者: たかさば

 毎朝、毎日、目につくものがある


 マンションの、薄茶色の壁の高い位置のど真ん中にある、黒い…点だ


 交差点を曲がってマンションのエントランスに入る時、目に飛び込んでくる…明らかな、違和感


 あの、黒い点は…なんだ

 あの、黒いものは…なんなんだ


 一歩一歩近づく間、思わずじっと見つめてしまう…黒い、点


 黒い点を見上げる位置まで来ると、その正体が判明する


 大きめの、蛾である


 こげ茶色の、蛾

 三角形の、蛾

 微塵も動かない、蛾


 一体いつから…ここにはりついているのだろう


 確か、引っ越してきたばかりの頃は…見た覚えが、ない

 シミひとつないきれいな壁を見て、色合いがおしゃれだなあと感心したはずだ


 一体いつ頃…ここにはりついたのだろう


 確か、真夏に見上げた時に…見た覚えが、ある

 真夏の日差しを浴びて、熱くないのかと心配したはずだ


 蛾というのは……いったい、どれほど生きるものなのだろうか


 この、壁にはりついている蛾は…生きているのだろうか

 この、壁にはりついている蛾は…生きたあとの名残なのだろうか


 夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎて春になろうとしているのに、ずっと同じ位置をキープし続けている、蛾


 毎日蛾を見上げ、毎日その存在を確認する

 毎日蛾を見つめ、毎日その生存を疑問に思う


 蛾は、いったいいつまで…あの場所にいるつもりなのだろうか


 蛾は、見上げる場所に留まっているから…手を伸ばすことが、できない


 生きているのか、死んでいるのか

 生きているなら…大した根性だ


 生きているのか、死んでいるのか

 死んでいたとしても…大した根性だ


 ……蛾は、生きているのかもしれない


 じっと壁にへばりついて生き続ける執念

 微塵も動かず、ただ餌を狙い続けるひたむき

 多くの人の注目を浴びながら、逃げ出すことなくそこにいる勇気


 ……蛾は、死んでいるとは、思うのだ


 死してなお壁にへばりついている執念

 微塵も動けず、朽ちて行くのを待ち続けるひたむき

 多くの人の注目を集める、失われた命の名残を誇る自信


 毎日、毎朝、私は…蛾を見上げ、すごい奴がいるもんだと感心する

 毎日、毎朝、私は…蛾を見ながら、その根性にあやかりたいと思う


 誇り高き、蛾のいる、マンション


 近々、壁の塗り替え作業が、あるという


 果たして、蛾は、その時に動くのか

 はたまた、蛾は、その時にはがされるのか

 あるいは、蛾は、その時に塗り込められるのか


 私は必ず、見届けると…心に誓い・・・



 誓った…はずなのに。



 今、私の目の前には…真っ白な、空間が。



 ああー、しくった……。



 結局あいつは、生きていたのか死んでいたのか、どっちなんだ。



 気になってしまって……、生まれ変わることもできやしない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 視界に捉えていた蛾、だが実際に囚われていたのは我が身なのか?それとも……。 物語のインパクトとしては弱く思われたがちな蛾、しかし奴は蝶の仲魔、バタフライエフェクト……それは些細な変化を意味…
[気になる点] 『私』は死者だったってこと?
[良い点] 生と死の境界面 [気になる点] 私はきっと壁の中
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