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友達大好きフレンダちゃん(だいたいリィズ)

偽物に騙されただけだから婚約破棄は無しにしてくれ?散々罵倒して嫌がらせもしておいて、今さら助けるとお思いなんですか?

作者: リィズ・ブランディシュカ






 それは。


 生まれた地域を離れて、知らない場所で新生活。


 と、思った矢先の出来事だった。






 私は目の前の男が言った事が信じられなかった。


 新しい国で、新生活を始めて間もなく、空気も読まずに勤め先の定食屋に現れたのがこの男だ。


 こちらの機嫌を取るようにへらへら笑いながら、顔色をうかがってくる、やせ気味の男。


 仕立ての良い華美な服に、匂いのきつい香水。


 印象が最悪なのは、昔から変わらないままだ。


 以前は神経質そうな表情で私を罵倒してきた最低の男は、どこか怯えた様子で周囲を見回している。


 彼は元婚約者だったが、ある出来事を理由に婚約を破棄している。


「という事なんだ、婚約破棄は無しにしてくれ。俺の女に戻ってくれ! 俺は偽物に騙されただけなんだ!」


 彼は必死に言い訳を重ねてくる。


 こんな事になったのは、一か月前の出来事が原因だった。







 私、ピネスにとって彼は、婚約者だった男だ。


 私は当時、没落した家の存続のために、格上の家である彼と婚約する事になっていた。


 しかし、婚約関係は事実だけで、実際は甘い雰囲気などなかった。


 彼は私の見た目だけが好きで、美人の婚約者を連れて歩く事が男の良さだと思っていたからだ。


 だから、恋人がするように手をつないだり、ふれあったり、口づけを交わしたことは一切なかった。


 それでも一応、歩み寄ろうとはしたのだ。


 だが、そのたびに彼は「お前みたいな女は下手に喋らずに黙ってニコニコしていればいいんだ」とか「余計な事はするな。邪魔だ」とか言うだけ。


 私は早々に円滑な関係を築く事を諦めてしまった。






 でも、当時はそれでもよかった。


 家の為ならば。私の不幸は二の次で。


 しかし、状況が変わったのは私の偽物が現れてから。


 彼に惚れた女性の一人が、私の名前を騙って悪事を働いたり、彼の足を引っ張るような事をしだした。


 それで、怒った彼が「お前と婚約したのが間違いだった。婚約は、破棄させてもらうぞ」と言ったのだ。


 それだけならまだしも彼は、虫の息だった私の家に嫌がらせを繰り返し、家族にまで迷惑をかけ、あまつさえ他の貴族に悪口を吹聴してまわっていた。


 おかげで家や財産、居場所だけでなく、貴族という地位まで手放さなければならなくなった。


 別の地方で、ほそぼそと生活をやりなおそう、と思って家族でこの地域に移り住んだのが最近の事。


 やっと新しい職を見つけて、生活に慣れてきたかと思ったのに。


 彼が「また婚約しないか」と言ってきたのだ。


 だから「私はもう貴族でもありませんよ。見た目だけは褒めてくださいましたが、平民の女と一緒にいるのはデメリットの方が大きいでしょう?」と目の前の男にそう言った。


 身分差ものの恋物語は、好きだしよく嗜んでいるけれど、それが許されるのは本の中だけ。


 世の中には、貴族と平民の結婚に良く思わない人達が多いため、私達の結婚にはメリットなどないに等しかった。


 聞く耳をもたない、といった態度でつっぱねると、


「それでもあの偽物、フレンダに付きまとわれるよりましだ。お前という女がいる事が分かれば、あいつも諦めるはずだ」


 との事だ。

 詳しいことは分からないが、相当困っているという事だけは分かった。


 彼は、常日頃から私のふりをした偽物、フレンダとか言う女性につきまとわれているのだろう。


 けれど私は「お断りします」と断った。


 目の前にいる彼は、私の潔白を信じるどころか、してもいない事をなじり、家族にも被害が及ぶような嫌がらせをしてきたのだ。


 そんな男を助ける義理はなかった。


「話はそれで終わりですか。では仕事があるので失礼します」


 私は、彼との話を終わらせて、その場を去る。


 背後から「――様、こんなところにいたんですねっ。偶然ですね。私達ってやっぱり運命の恋人なんだと思いませんかっ?」というセリフが聞こえてきた。


 元婚約者はそれに「ひぃっ、来るなっ。もうあんな狭くて暗い所に閉じ込められるのはたくさんだっ」と喋るが、知った事ではない。


「大丈夫怯えないでくださいねっ。今度はずっと一緒にいられるように、あの愛の巣の出口をふさいでおきましたから」


 背後から何かを引きずるような音がしたが、私は振り返らなかった。



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