Case 85「カレンデュラ暖房故障事件」
「未青くんいってらっしゃい。あ、今日はカレンデュラ行くからね。」
「本当!?じゃあ行ってきまーす。」
今日も今日とてバイトに行くボク。今日はセンセイもカレンデュラに来てくれるから楽しみだ。
しかし2月になったので、寒いったらありゃしない。
(うー寒い…)
寒い街を歩く中、「カレンデュラは今日も暖かいだろう」と思うボク。しばらくしてカレンデュラに着いた。
(ピンポーン)
「おはようございまーす。」
しかし…
そのカレンデュラは、全然暖かくなかった。
「あれ?なんか外と変わらないくらい寒い…」
「そうでしょ?ごめんね。今朝1階の暖房が全く動かなくて…」
そう言ったのはマリーユさんだ。
「そうなんですか?1階の部屋全部ですか?」
「うん… 2階は大丈夫だから、今日はそこでお昼ご飯食べてもらうことになるけど、いい?」
「はい… まあトイレが壊れたのに比べたらよっぽどマシな方だけど…」
「そうだよね。ごめんね。とても寒いでしょ?」
「はい…」
この世界の魔法には制御次第では自分の体だけを暖かくすることができる「発熱魔法」という魔法もあるが、制御を誤れば最悪自分や周りの人が火だるまになって死んでしまう特性上上級魔法に分類されているから、ボクはまだ使えない。よって、今日一日寒い中で仕事をすることになったボクたち。
「タンザナイト土建グループが、10時をお知らせします。」(オーソドックスなラジオの時報音)
10時になり仕事が始まった。暖房が使えないということでホールには電気ストーブが何台か置いてあるが、広いホールでこれは不十分だ。
それに、普段なら10時になると同時にお客さんが最低1人は来るはずなのだが、5分くらい経ってもお客さんは来ない。
(どうしたんだろう…)
心配に思ったボクは入口の近くまで移動する。すると入口のドアに、
「本日ホールの暖房が故障しております。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
と書いてある一枚の貼り紙が貼ってあった。
(こりゃお客さん来ないのも無理はないかな…)
なんてことをボクは思った。
カウンターに戻るボク。ルキちゃんはカウンターの中にある電気ストーブのところで一人固まっている。
「あ、未青ちゃんもここにいていいよ。」
とルキちゃんは言っていた。
「そう?じゃあ…」
ボクもストーブにあたることにした。こんな格好をしているが男なものだから、ルキちゃんと密着状態になったボクはドキドキしてしまっていた。
すると、
(入口のドアが開く音)
お客さんが来た。
「いらっしゃいませ。」
ボクが真っ先にお客さんのところに行く。注文を取り、カウンターに戻る。
ルキ「未青ちゃん、寒いの大丈夫?」
未青「大丈夫大丈夫。寒いのとはちょっと違うかもしれないけど、少なくとも(普段のおもらしで)脚冷たいのに関しては慣れてるから…」
ルキ「そ、そうだね…(苦笑)」
我ながらすごい自虐を繰り出せたなと思いながら、ボクは調理場へ向かう。注文のあった全粒粉のトーストを取りに行くためだ。
未青「こちら全粒粉トーストです。」
客A「ありがとうございます。」
カウンターに戻るボク。ストーブの近くのルキちゃんの側に寄る。
「未青ちゃん、今度は私が行くからね。」
「ありがとうルキちゃん。」
次のお客さんが来たカレンデュラ。ルキちゃんのさっきの言葉通りルキちゃんが接客に向かった。
するとそこへハミンちゃんがカウンターにやってきた。
「ねえ未青ちゃん、私がトイレ行ってる間レジお願いできる?」
「ああ… いいけど…」
「ありがとう!ちょっとマジで漏れる…!」
「う、うん…」
ハミンちゃんはそう言ってトイレへと走って行った。
(寒いとトイレ近くなっちゃうもんね… ずっと我慢してたのかな…)
なんてことをボクは思った。ボクはさっき全粒粉トーストを注文したお客さんの会計を済ませた後、しばらくレジに立つボク。レジは入口のすぐ近くにあるから、外の寒気がダイレクトに伝わってくる。一応電気ストーブが後ろにあるものの、感覚としては寒いという感覚の方が強い。
寒い中しばらくレジに立っていたボク。およそ10分くらいしか経っていなかったものの、ハミンちゃんが戻ってきた頃にはボクの体は強い尿意を感じていた。
「未青ちゃんただいまー。」
「おかえりハミンちゃん。」
「未青ちゃんカウンターに戻ってていいよ。ありがとう。」
「うん。」
そう言ってレジを出たボクはトイレへ急いだ。バイトが始まってからまだ30分と少ししか経っていないのに膀胱がヤバい状態。きっと寒さのせいだろうとボクは思っていた。
(トイレのドアを閉める音)
「ふう…」
大急ぎでパンストとパンツを下ろして便器に腰掛けておしっこをするボク。なんとかギリギリ間に合った。こんな寒い中で膀胱が限界になった中でも一滴もチビることすらなかったのは、もしかしたら初めてかもしれない気もする。
それからしばらくしてお昼休憩の時間になった。今日のお昼は2階にある、ベルーザさんたちのリビングでとる。思えばトイレ以外の居住スペースに入るのは今日が初めてだ。
ルキ「素敵な部屋だね。セレちゃん。」
セレスティーヌ「でしょ?」
暖房のついたリビングで昼ご飯のサンドイッチを食べるボクたち。カレンデュラの制服でベルーザさんたちの生活スペースで時間を過ごすのは、なんだかちょっと不思議な気分だ。
(ビチャビチャビチャビチャビチャビチャ…)
未青「ちょっとセレちゃん!?」
途中ご飯の席上でセレちゃんがおもらしをしてしまい片付けに追われるハプニングもあったが、サンドイッチは美味しかった。
ご飯の後はトイレを済ませ、仕事に戻る。これで1時少し前だ。
午後の仕事を初めてだいたい20分くらいが経った頃…
(ドアが開く音)
未青「いらっしゃいま… あ!センセイ!」
フレイン「やっほ。」
センセイが店にやってきた。しかもセンセイだけでなく、フィオさんやファルンさんも一緒だ。
ファルン「ここが未青くんのバイト先?」
フレイン「そうだよ。」
ファルン「とても優しくて雰囲気の良い店ですね。暖房が復旧したらまた行きたいです。」
フィオ「一言余計よファルン(苦笑)」
セレちゃんがお冷を運びに行った少し後、注文を取りに行くのはもちろんボクだ。
未青「ご注文は?」
フレイン「あらびきコーヒーのLサイズと、BLTマフィンにしようかな。」
フィオ「ブレンドコーヒーのSと、チーズのフィローネをお願いします。」
ファルン「ブレンドコーヒーのSとチーズトーストで。」
(ファルンの近くにコーヒーフレッシュが3つ置いてある)
未青「分かりました。少々お待ちください。」
そう言ってボクはバックヤードへ行く。その途中、レクファニーちゃんから小声で、
「フレインさん、とっても可愛くて素敵な人だね。」
なんてことを言われた。
未青(小声で)「あ、ありがとう…」
バックヤードから6つものメニューを運んでくるボク。お盆の上のものを落とさないよう、慎重に運ぶ。
未青「お待たせしました。あらびきコーヒーのLサイズとBLTマフィンの方。」
フレイン「はい。ありがとう未青くん。」
未青「続いてブレンドコーヒーのSサイズとチーズのフィローネの方。」
フィオ「私です。ありがとう。いただきます。」
未青「最後に、ブレンドコーヒーのSサイズと、チーズトーストの方。」
ファルン「私です。ありがとう。」
未青「ごゆっくりどうぞ。」
注文の品を3人のところに運び終え、カウンターに戻るボク。
しかしその直後、安心したからなのか…
(あっ…)
トイレに行きたくなってしまった。しかしここまでまだ1時半にもなっておらず、午後のシフトが始まってからまだ40分も経っていない。
(もうちょっと我慢しなきゃ…)
と思った直後、どんどんお客さんが来る。暖房が壊れているということで引き返す人もいるにはいるが、客足は伸びる一方だ。
客足が伸びるのは嬉しいことなのだが、トイレに行きたいボクにとっては早く一区切りついて欲しいから、複雑な気分だ。
(ジュジュ…)
時間とともに高まる尿意と膀胱の痛み。センセイたちの注文を取ってから40分が過ぎたが、ボクはおしっこをパンツに少しチビってしまった。
セレスティーヌ(通信魔法で)「未青ちゃん。あそこのお客さん(フレインたち)の皿下げたら休憩行っていいよ。」
未青(通信魔法で)「うん…」
寒さで尿意の高まりがいつもより早いのもあって今にもおしっこが漏れそうな状態のボク。パンツがはっきり分かるほど濡れている。
(出ちゃう… 出ちゃう…)
センセイたちの席に来たボク。
「あの、お皿、お下げ… あ… ああ…―」
お皿を下げようとしたその瞬間、膀胱が最後の叫びを上げるかのような痛みがボクの体に走った。
(で… 出ちゃう… 出ちゃう…!!)
(ジュジュ、ジュジュ… ジュウウウウウウウウウウウウウウウ…)
ボクはとうとうおもらしをしてしまった。他のお客さんもいるホールで、それもセンセイたちの前で。
ファルン「だ、大丈夫!?」
フィオ「電気ストーブがあるとはいえ寒いもんね… ずっと我慢してたのかしら…」
フレイン「とりあえず行こう。ベルーザ呼ぶから。」
未青「うん…」
ボクのおもらしに気づいた他のお客さんがザワつき始める中、センセイの通信魔法で呼ばれたベルーザさんに引き渡された。
客B「暖房壊れてて寒い中ずっと我慢してたのかしら。」
客C「店の中も寒いもんなあ…」
ベルーザ「未青くん大丈夫?ごめんね。寒かったのかな…?」
未青(無言で首を縦に振る)
ベルーザ「今夜には修理の人来るから明日には暖房は復旧してるわ。とりあえずシャワー浴びて着替えて来ましょう。」
未青「はい…」
ボクは涙をすすりながら、ベルーザさんに連れられシャワーを浴びに行った。シャワーから出た後は、替えのパンツとストッキングに履き替えてホールに戻る。
ハミン「未青ちゃんおかえり。おしっこ片付けておいたからね。」
未青「ありがとうハミンちゃん…」
その後トイレ休憩を数回挟んで、4時まで仕事をして家に帰った。
「ただいまー。」
「おかえり未青くん。今日はあの後大丈夫だった?」
「うん…」
「暖房壊れてて寒い中、最後までよく頑張ったね。」
「ありがとうセンセイ…」
(フレインが未青に抱き着くよう促す姿勢を取る)
ボクはセンセイに抱き着いた。暖房が壊れていて寒い中センセイたちの前でおもらしをしてしまったボク。センセイはボクに暖かい思いをして欲しくて抱き着くよう促したのではないかと、ボクは思った。
次の日。
未青「おはようございます…」(深緑色のスカートの前の方が濡れている)
マリーユ「おはよう未青ちゃん。あらら来る途中おもらししちゃった?」
未青「はい…」
カレンデュラに向かう途中おもらしをしてしまったボク。シャワーを浴びてカレンデュラの制服に着替える。
「あ。」
すると、1階の暖房が復旧しているのに気づいた。昨日と違って暖かい。マリーユさんによると、昨日の夜修理業者の人が来たという。
(やっぱり暖かい。今日は昨日以上に頑張れそうな気がする。)
なんてことを思いながら、ボクは仕事を始めるのだった。
「タンザナイト土建グループが、10時をお知らせします。」(オーソドックスなラジオの時報音)




