Case 8「はじめての冒険」
今日は未青とフレインの初めての冒険。
そこで未青は、フレインの癒師としての仕事を初めて目にすることになるのですが、その仕事や仕組みとは一体なんなのでしょうか?
「未青くーん。行くよー。」
「はーい。」
今日ボクは男ものの服を身につける。なぜかというと今日はセンセイとの初めての冒険だからだ。
前も言ったかもしれないけど、癒師の働き方は人それぞれではあるがボクが前の世界でよく触れていた異世界ものの作品でいう「冒険者」みたいなパターンの人が多い。実際センセイもボクが転生してくるまでは各地を冒険していろんな人に魔法で癒しを施していた。
センセイにとっては久しぶりになる今回の冒険。だからかちょっとワクワクしている感じがした。
家から歩くこと15分くらいで駅に着いた。感じはボクが前いた世界とそんな変わらない。乗る電車も前いた世界のそれとほとんど変わらない通勤電車だ。
今日の目的地は「茜唀」という場所。舞嗣遠から電車で20分程度のところにあり、農園や畑がそこかしこにあるのどかな町だ。特産品はりんごで、なんと1年中栽培・出荷がされている。
空気はきれいで涼しい…はずなのだが、センセイが言うにはここ最近は気温が上がって暑い日がしばらく続いたかと思えば次の日からしばらくは曇りが続き日照不足に陥って寒くなるなど、天候不順に悩まされているという。おかげでりんごも最近は思うように出荷できていないんだとか。
「黴獣のせいじゃなきゃいいんだけど…」
「黴獣?あの本で見たやつ?」
「うん…」
黴獣。この世界でよく目撃される怪物みたいなものだ。自然界の何かから自然発生したプランクトンみたいな細胞が生き物以外の他の自然の何かに憑依し、真っ黒な動物の形になったものだ。人を襲い作物を食い荒らすだけでなく、活動中ずっと細かいほこりのような「黴獣細胞」なるものをバラ撒いて周囲の環境を悪化させるだけでなく天候不順をも引き起こすため出現するとろくなことにならない。小さいものは子犬ほどのサイズで浄化・討伐はほぼ瞬殺レベルで済むのだが、徐々に大きくなっていきアフリカゾウレベルになることもある。当然大きくなればなるほど被害は拡大し浄化・討伐は困難を極め、死者が出たこともあるという。このため出現したら早い浄化・討伐が行われる。黴獣の討伐を専門とするハンターのような人もいる他、黴獣の浄化や黴獣討伐に参加する人の回復・支援も癒師の大事な仕事の一つなのだ。
「今のところ、黴獣の被害のあとや黴獣討伐の報告は出てないんだけどね…」
とセンセイは心配していた。
それに…
「茜唀、実は私の知り合いが住んでるんだ。魔法専門学校の先輩でね、卒業後すぐに結婚して移り住んだんだ。」
センセイの魔法専門学校時代の先輩も住んでいて、そこでレストランを経営しているという。ボクも心配になってきた。
「茜唀。茜唀。ご乗車ありがとうございます。」(発車メロディーが流れる)
そうこうしている間に、電車は茜唀の駅に着いた。
駅の周りは住宅やら小さな飲食店やらコンビニやら学習塾やらがいろいろ並んでいるが、駅を出て3分ほど歩けばほとんど畑か農園しかない。
「うーん。舞嗣遠よりちょっと暑いかな…」
「でしょ?いつもはこんなんじゃないんだけど…」
気温は29℃。この季節でも普段はそこまで気温があがることはないという。
「まず最初の目的地は…」
センセイがスマホで最初の行き先のルートを調べていた。天候不順は案内魔法を狂わせてしまうことをあるからか、こういう時はスマホの地図案内が確実だとセンセイは言う。
「こっちね。」
ボクはセンセイと一緒に歩き出し、その後大体10分で着いた。
「ここね。」
「リンゴ園?」
「うん。」
着いたところはリンゴ園だった。
「すいませーん。」
センセイがリンゴ園の受付の、小さな小屋に入った。
「はい。」
受付にいたのは40代くらいの女性だった。
「すいません。『癒師求書』を見て来たんですが…」
センセイはその人にこう言うと…
「え、癒師の方ですか?しばらくお待ちください!」
と言い、テレパシーで誰かを呼ぶような仕草をした。
その間にボクはセンセイに質問をした。
「『癒師求書』って、何?」
「ああ。『こういうことで困っていますので、癒師の皆さん助けてください。』っていうメッセージを、手続きした役場が紙にして発信したもののことよ。それをもとに癒師は行動することが多いの。役場の専用掲示板で見ることができるけど、最近は電子化されているからインターネットがあればどこでも見られるんだ。」
「そうなんだ。簡単に言えば、ボクが前いた世界の(異世界ものの作品で見た)『クエスト依頼』みたいなやつ?」
「そんな感じね。あと黴獣討伐の支援とかの緊急性の高いものになると、テレビとかで大体的に発信されるんだ。」
『癒師求書』なるものの説明を受けてしばらくすると、小屋にその女性と同い年くらいの男の人がやってきた。
「はじめまして。『テンスロップりんご園』オーナーのトヤディー・テンスロップです。本日はよろしくお願いいたします。」
「私は妻のジュディーラ・テンスロップです。」
「私、癒師のフレイン・スノーウィーです。こっちは私が保護している転生者の赤砂未青。」
「よろしく…お願いします…。」
あいさつを終えた後、ボクたちはテンスロップさん夫妻に案内されてリンゴ園の中へ進む。
「まずはこちらなんですが…」
なんだか元気がなさそうな、大きなリンゴの木の前に来た。
「こちらを癒術で治してほしいということですね。」
「はい。あと何本だったっけ…?ジュディーラ、分かる?」
「あなたたったらこんな大事なことを…あと7本です。」
「分かりました。」
というテンスロップさん夫妻とセンセイのやり取り。
「何が始まるの?センセイ。」
「私の仕事。見てれば分かるわ。」
気になるボクにそうセンセイは言う。
センセイはリンゴの木の前に立ち、右手を添えた。
すると…
センセイの右手を中心に、リンゴの木を這うように水が流れ出してきた。
その水は重力を無視してリンゴの木全体に流れ伝わっていき、次第に枝葉や実を包み込んでいく。その間木の幹は、プロジェクションマッピングのようにスカイブルーとエメラルドグリーンが混ざったような光を帯びている。
その間およそ3分で水や光は消え、さながら雨が上がったかのような様子だ。
すると…
元気がなかったリンゴの木の枝葉が、まるで新緑のように元気になっていく。色が薄く小さかったリンゴもどんどんと濃い赤色で大きく、美味しそうな感じになっていった。
その後センセイはリンゴ園の中を巡りながら、同じことを別々のリンゴの木に7回繰り返した。
「リンゴの木の方はこれで以上となります。」
「ありがとうございます!!よかったな!ジュディーラ!」
「ええ!あとは…あの子ね。」
ボクたちはジュディーラさんに言われるまま、リンゴ園の隅にある一軒家に案内された。テンスロップさん一家の居住宅だ。
玄関を開けると、そこにはボクよりちょっと年上くらいの女の人がいた。パジャマ姿だ。
「こらテラン。ちゃんと部屋で寝てなさいって言ったでしょ。」
「だって…(咳き込む)癒師さんが来たから…」
「こんにちは。すぐに治してあげるから、先にお部屋に戻っててくれるかな?」
「はい…」
この人はテンスロップさん一家の一人娘のテランさん。ここ最近の天候不順で体を壊してしまっているという。
「未青くんは部屋の前で待ってて。」
ボクはテランさんの部屋の前で仕事が終わるのを待つ。
その間、部屋の中から川のせせらぎのような音が聞こえてきた。
待つこと3分。
「お母さーんお父さーん!」
部屋からテランさんが飛び出してきた。咳き込んでいて体調が悪そうだったさっきとは打って変わった様子だ。
ボクはセンセイに尋ねた。
「今のもセンセイが治したの?」
「そうよ。」
「凄いね!癒師って!」
「でしょ?」
これで今日の仕事は全部終わりだという。実はテランさんの治療は癒師求書には載せておらず、最後のリンゴの木の治療が終わった時にジュディーラさんがテレパシーでセンセイに伝えていたことも分かった。
「本日は本当にありがとうございました!」
「また遊びに来てね!」
ボクはお礼にリンゴジュースを1本もらった。
リンゴ園を出たボクとセンセイ。
センセイはスマホで何かを見ていた。
「何見てるの?センセイ。」
「『癒術目録』よ。」
なんだかボクが前いた世界にあった漫画のタイトルみたいな名前。癒術を施す=癒師としての仕事を果たすとそれが自動的に記録され、その内容に応じて役場から自分の銀行の口座(持っていない場合は役場の冒険管理課)にお金が振り込まれる仕組みなんだという。
(ちなみにこれの改ざんや虚偽申告による詐欺が、アスムール民主国で起きる犯罪の8割を占めているらしい)
リンゴ園を出てしばらく、センセイは町の中の元気がない植物や野良猫にも、魔法を使い治した。
しかし道を歩いている最中…
「あっ…」
ボクの体に尿意が降りかかった。
「センセイ…トイレ…行きたい…」
「分かった。この後先輩のお店でご飯食べるから、先にトイレ借りよ。」
「うん…」
ボクたちはセンセイの先輩の家のレストランまで急いだ。
でもその間にも高まっていく尿意。お店の前についた頃には、膀胱は苛烈なほど痛んでいた。パンツにもそこそこチビってしまった。
「あともうちょっとだからね。」
「うん…漏れちゃう…漏れちゃう…」
センセイがお店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ… あら!フレインちゃんじゃん懐かしい!」
「先輩お久しぶりです。突然で悪いんですが、この子私の転生者で、実はおしっこがもう我慢できなくて…」
「え!?フレインちゃん転生者引き取ってたの!?いいわよ。こっち。」
センセイの先輩に案内されながら、店の飲食スペースを進みトイレへ急ぐ。
しかし…
「あ…ああっ…あああ…」
(ジュゥゥ… ジョロロロロロ…)
膀胱の痛みが限界を超えて脚が震え、立ち止まったと同時にボクの膀胱は力尽きた。
「あららー。間に合わなかったねー。(苦笑)」
「うう…うぅぅ…」
「大丈夫よ。」
センセイの先輩が慰めてくれた。
「私の部屋使わせてあげるから、そこで着替えさせて。」
「はーい。」
ボクは泣きながらセンセイの先輩の案内のもと、センセイと一緒に居住スペースへと向かった。
その居住スペースのリビングで着替えを済ませた後、店に戻った。ボクが漏らしてしまったおしっこの水溜りはとっくに片付いていた。
「はじめまして。私はグリッティーナ・チーク。キミは?」
「赤砂…未青です…」
「未青くんね。さっきのフレインちゃんの様子見るに、未青くんってよくやらかしちゃうの?」
「はい…(汗)」
ボクはちょっぴり恥ずかしかった。
食事の時間。ボクとセンセイはこの店で一番おすすめのカルボナーラスパゲッティを注文した。しかもグリッティーナさんはボクたちにたこ焼きを6つおまけしてくれた。
食事の間、センセイとグリッティーナさんは思い出話に花を咲かす。
高度な魔法を習得することができる「魔法専門学校」。ボクはそれに関するいろんな話を聞くことができた。センセイが言うには、さっきのリンゴの木に使った魔法も魔法専門学校に行かないと習得できないものだという。
食事を続けていると、お店のテレビにニュース速報のテロップが流れた。
「一連の天候不順は黴獣とは無関係との結論 近日中に解消する見通し 茜唀地方気象台が発表」
どうやら一連の天候不順は黴獣とは無関係らしい。
「よかったね。黴獣のせいじゃなくて。」
「うん!」
センセイの仕事や魔法に関するいろんなことを勉強できた、初めての冒険だった。
-新しい設定付き登場人物-
グリッティーナ・チーク(Grittina=Cheek)
26歳の癒師の女性。癒師歴は13年。夫とともにレストランを経営している。
舞嗣遠で生まれ育ったが、結婚を機に茜唀に移り住んだ。
性格:ちょっぴりお節介焼きな一面があるが、面倒見が良い。
身長:約185m
バスト:BとCの間
誕生日:10月13日
得意属性:木・葉
趣味・特技:料理・ビリヤード
得意料理:スパゲッティ
好きなもの:パスタ全般・雪・優しい人・夫
苦手なもの:猛暑・強いにおいがするもの・悪質クレーマー
トピックス:夫との出会いも魔法専門学校だった。
一人称:私




