Case 61「ボクの誕生日」
「センセイ。おやすみ。」
「おやすみ。未青くん。」
そう言って眠りについたしばらく後の事。
「未青くん。未青くん。」
ボクはセンセイに起こされた。
「ん~… センセイ?」
「未青くん。お誕生日おめでとう。」
ボクはベッドの近くにあるデジタル時計を見てみた。日付には4月13日とある。ついさっき日付が変わったのだ。
4月13日。今日はボクの誕生日だ。この世界に転生してからは初めての誕生日になる。
「あ… ありがとう。センセイ…。」
「うふふ。素敵な1年になるといいわね。」
「うん…」
センセイから誕生日を祝ってくれたボクは、また眠りについた。
朝。
「…!」
ボクは珍しくおねしょをしなかった。誕生日におねしょをしなかったということ。心なしか成長したような感じがして、なんだかちょっと嬉しい。
ボクはそのことをセンセイに知らせようと、パジャマ姿のまま1階へ急いだ。
1階のリビングのドアを開けたボク。すると…
(クラッカーの音)
フレイン・シャピアフェ「未青くん、14歳のお誕生日おめでとう!」
センセイとシャピアさんが、クラッカーを鳴らして誕生日を祝った。ボクはちょっとびっくりしたが、嬉しかった。
「ありがとう2人とも。」
「うん!とりあえずちょっと来て!」
「?」
ボクはセンセイとシャピアさんにリビングへと連れ込まれる。
すると、家のリビングの壁には「14」の風船を中心に様々な飾り付けがされていた。自分の誕生日にリビングを飾り付けてくれたのは今年が初めてだ。
未青「センセイ… シャピアさん… ありがとう…」
シャピアフェ「どういたしまして。もしかして未青くん、こうやって誕生日に部屋飾り付けるのって初めて?」
未青「うん。前の世界では病院で誕生日っていうのもよくあったから。」
フレイン「そうだったんだ。なら本当によかった。私たち朝早く起きて部屋飾ったんだよ。」
未青「大体何時くらい?」
フレイン「5時くらいかな。」
未青「5時くらい!?なら本当にありがとう2人とも。ボク、とっても嬉しい。」
フレイン・シャピアフェ「どうしたしまして。」
その後は着替えて朝ご飯だ。おねしょをしなかった朝はシャワーを浴びる手間が省けるからいい。そんなわけで朝の身支度は、いつもより早く終わった。
シャピアフェ「今日は男の子の格好なのね。」
未青「うん。今日はそんな気分なんだ。」
朝ご飯の後。
シャピアフェ「これ、未青くんの誕生日プレゼントよ。」
フレイン「開けてみて。」
ボクは2人から誕生日プレゼントをもらった。それは…
未青「これ…!『ハングアウト1440』の単行本じゃん!それも既刊全部!」
シャピアフェ「うん!未青くん喜ぶかなって思って。」
フレイン「2人でお金出し合って買ったんだ。」
未青「ありがとう… 嬉しい!」
ボクは2人から、この世界に来て初めてハマったアニメ『ハングアウト1440』の原作単行本10巻分をもらった。
今日のバイトは誕生日休暇ということで休みだ。夕方には、リーフェルちゃんと若菜ちゃんを含めたみんなが来ることになっているという。
そんなボクは一日、さっき貰った漫画を含めた様々な本を読んだりテレビを見たり、センセイやシャピアさんのお手伝いをしたりと、いつもの休みの日と変わらない日を過ごしていた。
そして、午後3時半頃。
(ドアのチャイムが鳴る音)
フレイン「誰かしら?」
センセイが玄関へ急いだ。すると…
フレイン「あら!ネルルくんじゃない。」
未青「ネルル!」
ネルル「こんにちは。未青、お誕生日おめでとう。」
未青「ありがとうネルル。」
ネルルは誕生日プレゼントらしきものを持っていた。手洗いうがいを済ませた後、ネルルをボクの部屋へと案内する。
ネルル「これ、誕生日プレゼント。」
未青「ありがとうネルル。なんだろう?」
プレゼントの箱は携帯ゲーム機くらいの大きさだった。開けてみると…
未青「これ『Surprush』の新型モデルじゃん!いいの?こんな高いの貰っちゃって?ボクこれのゲームカセット一つも持ってないのに。」
ネルル「通信機能やカメラもあるよ。俺、もっと未青と話したいからさ…」
未青「そういうことなんだ… ネルル、ありがとう!」
登録した人以外とは通信できない機能であるSurprush。センセイやシャピアさんも許可してくれた。その後ボクはネルルのレクチャーのもとSurprushの通信設定をする。
未青「できたー!これで離れていてもネルルと会話できるね。」
ネルル「うん。家にいる時はこれで基本は話せるから。」
未青「でもなんだか不思議だなぁ…」
Surprushの通信設定が終わった直後。ボクは誕生日パーティーの手伝いをしに1階へと行った。
フレイン「ごめんねー。主役に誕生日パーティーの準備手伝わせちゃって。」
未青「いいよ。センセイやシャピアさん手伝っているのって楽しいから。」
ネルル「俺も手伝います。」
シャピアフェ「ありがとうねネルルくんも。」
ボクはネルルと一緒にセンセイとシャピアさんを手伝う。すると…
(ドアのチャイムが鳴る音)
時間は夕方の5時くらい。「ひょっとして」と思ったボクは玄関へ急ぐ。
ルキたち「こんばんはー!」
シャピアフェ「あら。みんないらっしゃい。」
ボクの思った通り、来たのはルキちゃんたちだった。マリーユさん・リーフェルちゃん・若菜ちゃんもいる。
レクファニー「フレインさん… あの… シャワー借りてもいいですか?」
フレイン「シャワー?もしかしてやっちゃった?」
レクファニー「はい…」
フレイン「あらあら(笑)いいよ。でもシャワーの前に手洗いうがいをしてね。」
レクファニー「はーい。」
リーフェル「お姉ちゃんがすいません…(汗)」
フレイン「いいのよリーフェルちゃん。(笑)」
ここに来る途中にトイレに行きたくなったもののトイレを言い出せずおもらしをしてしまったというレクファニーちゃん。レクファニーちゃんは手洗いうがいの後シャワーを浴びに行った。
さらにその後、家にはクルルスさんやフィオさん、ファルンさんにヘブンさんといった、センセイの友達も次々と来てくれた。
この家はすごい賑やかだ。
リオン「フレイン、こっちでケーキ追加注文してもいい?」
フレイン「いいよー。」
シャピアフェ「ありがとうリオンちゃん。それにしても、家にこんなに人が来るなんて初めてかも。」
フレイン「ね。友達ちょっと誘いすぎちゃったかな?」
シャピアフェ「そんなことないわよフレイン。せっかくの未青くんの誕生日なんだから。」
フレイン「そうだね。」
未青「10人以上いる… なんかボクとっても嬉しい…」
ボクはネルルと一緒にリビングに追加のテーブルを運び出したりと、テキパキとパーティーの準備をする。
そして時刻は午後6時半。さあ、ボクを含めて総勢14人そろったところで誕生日パーティーの始まりだ。この空間にいる男子は、ボクとネルルだけだ。
ネルル「げっ。未青以外で男子ってもしかして俺だけ…?」
未青「そうみたいだね(苦笑)」
フレイン「せーの!」
一同「未青くん、お誕生日おめでとう!」(クラッカーを鳴らす音)
未青「ありがとうみんな… でも、ちょっと恥ずかしいな…」
ファルン「そう?未青くんってもしかしてこういうのって初めて?」
未青「はい…」
食事の前にプレゼント渡しだ。まずはルキちゃんたちからだ。
ルキ「誰渡す?」
セレスティーヌ「もしかして…決めてなかったの?」
ハミン「とりあえずルキが渡してよ!」
ルキ「マジでか… こういうのちょっと緊張するのに…」
誰がプレゼントを渡すか決めていなかったルキちゃんたち。とりあえずルキちゃんがボクにプレゼントを渡すことになった。
ルキ「未青ちゃん。これ誕生日プレゼント。ごめんねさっきあたふたしちゃって…(苦笑)」
未青「ありがとうルキちゃん。なんだろう?」
両手で持てるサイズの大して大きいわけではない箱を渡されたボク。ボクはテーブルの上で箱を開ける。
未青「これ…!」
ルキちゃんたちがくれたもの。それはさまざまな色のストッキングのセットだった。今のボクは男子の服装を着ているだけに、ちょっと恥ずかしい。
ハミン「みんなでお金出し合って選んだんだよ。」
未青「ありがとうルキちゃんたち。でもこの姿でストッキング貰うの、なんだかちょっと恥ずかしいな…」
陽夏「ルキちゃんたち未青くんのこと男の子として見ていない説あるでしょこれwww」
若菜「そんなことないよ陽夏ちゃん!」
今日が初対面の陽夏ちゃんとルキちゃんたち。すっかり仲良くなった様子にボクも一安心だ。
陽夏ちゃんからは腕時計を貰ったボク。それはちゃんとした(?)男子向けのものだった。
未青「ありがとう陽夏ちゃん。」
陽夏「私はちゃんと未青くんのこと男の子として見てるんだからね!」
未青「そう言わずに…(苦笑)」
プレゼントを渡したい人は他にもいるという。クルルスさんだ。
クルルス「未青くん、改めてにあるけどお誕生日おめでとう。」
クルルスさんはそこそこ大きめの正方形のプレゼントボックスを渡してきた。
クルルス「ありがとうございますクルルスさん。なんなんだろう。」
プレゼントボックスを開けて見たボク。それは紺色一色のギャザーのミニスカートだった。制服のコス衣装に合いそうな感じのものだ。
未青「あ… ありがとうございます…」
クルルス「どういたしまして。ちょっと恥ずかしい?」
未青「はい…」
男子の服装の状態ストッキングに続いてスカートを貰ったボク。ちょっと恥ずかしい。
ファルン「私も来年は何かプレゼント持って来ようかなー。」
フィオ「絶対丈が短いスカートプレゼントしそうだわw」
ファルン「だって~。未青くん女の子みたいで可愛いんですもん…」
プレゼントをセンセイに一旦預け部屋に運んでもらい、その後は食事だ。昼過ぎからセンセイが用意していたものや注文していたものが、次々と運ばれてくる。
食事の最中、ボクは主にネルルとおしゃべりをしていた。
ネルル「俺はじめて会ったよ。誕生日プレゼントにスカートとかパンストとか貰う男の人。」
未青「そうだね(苦笑)絶対ボクしかいないやつだよね(苦笑)」
食事が始まってどれだけの時間が経っただろうか。
(あっ…)
ボクの体に、強烈な尿意が降りかかってきた。
(トイレ行きたい…)
今すぐにでもトイレに行きたいボク。でもみんなが楽しそうにしている中でトイレに立つのが恥ずかしいボクは、席に座ったままトイレを我慢し続けた。
それからしばらくが経った時のこと。
ハミン「未青ちゃん。」
未青「な、なあにハミンちゃん?」
ハミン「さっきから下向いてるけどどうしたの?」
未青「別に… な、何でもないよ。」
何でもなくない状況ではあったが、ボクはトイレを我慢するしかなかった。
それからさらにしばらくが過ぎ。いよいよボクの膀胱は限界になった。
(もう我慢できない…!)
ボクはそう思って意を決して席を立った。
フレイン「未青くんトイレ?」
未青「うん…」
膀胱がいつ決壊してもおかしくない状況の中、ボクはトイレに急いだ。
(もうすぐトイレだ…!)
と思ったその時だった。膀胱の痛みが一気に強くなって、耐えられないほどになってしまった。
(ヤバい!どうしよう!出ちゃう!出ちゃう!!)
「あっ… ああっ… あっ…!」
トイレのドアノブに手をかけようとしたボク。その瞬間、機械の電源が急に落ちるかのように膀胱括約筋に込めていた力がフッと抜けた。
(ジョロロロロロロロロロロロ…)
完全に油断してしまった。誕生日だというのに、ボクはよりにもよって、パーティーの席上の近くのトイレのドアの前でおもらしをしてしまった。
音に気付いたリビングの13人が、ほぼ一斉にこちらの様子に気づいた。
未青「あ… あはは… で…出ちゃった…」
ボクは顔を赤くしながら、取り繕うしかなかった。
フレイン「シャワー、浴びに行こうか。ここは私が片付けておくから。」
未青「うん…」
ボクはセンセイに促され、シャワーを浴びに行った。
(誕生日なのに… またやっちゃった…)
ボクはシャワーを浴びている間、そんなことばかり考えていた。もしパーティーの場の空気が少しでも悪くなっていたら、完全にそれはボクの責任かもしれない。
シャワーから出たボク。とりあえずセンセイが持ってきてくれた男の子ものの服に着替える。
シャワー室から出ると、そこにはセンセイがいた。
「センセイ?」
「未青くん、ちょっと部屋に来てくれるかな?」
「いいけど…」
ボクはセンセイに連れられていつもの部屋に行く。
部屋に着くとそこには…
「!」
さっき貰ってセンセイに預けた、スカートとストッキングが床に並べられていた。
「せっかくだから、今着ちゃおうよ。」
「センセイ… うん!」
ボクはさっき貰ったスカートとストッキングを身に着けてみることにした。ストッキングは黒を選んだ。陽夏ちゃんから貰った腕時計もつけないと。
「これで完璧ね!」
「うん!それはそうとセンセイ、ボクがシャワー浴びている間あっちはどうだった?」
「パーティーの方?別になんともなかったよ。ルキちゃんとかがむしろ未青くんの水溜まりの片付け手伝ってくれたわ。」
「そうなんだ。じゃ後でみんなにありがとうって言わなきゃね。」
「そうだね。じゃあ、早くパーティーに戻ろう。」
「うん!」
センセイに連れられてパーティーに戻ったボク。みんなが出迎えてくれた。
マリーユ「今未青ちゃんが着てる服って、さっきプレゼントとしてあげたの?」
未青「はい!」
陽夏「ちゃんと腕時計も付けてるー!」
クルルス「こっちの未青くんも可愛いわ。」
若菜「ですよね!ですよね!なんで未青ちゃんって女の子の格好している方が可愛いんだろう。」
ヘブン「制服バースデーパーティーね。」
未青「まあ、いっか。これもこれで。」
ボクが席についたところで、パーティーは再開だ。
パーティーに席上にケーキが運ばれてくる。
一同「いただきまーす。」
ケーキを食べ始めるボクたち。
ラバルム「女子の制服でスイーツ、さまになってるわね。」
未青「えへへ… ありがとうございます。」
グリッティーナ「茜唀からはるばる来た甲斐があったわ。」
パーティーは8時半くらいに終わり、みんなそれぞれ帰っていった。お腹も心も満足だ。
フィオ「じゃあ私もこの辺で。未青くん、今日は楽しかったわ。じゃあね。」
未青「はい!ありがとうございました!さようなら。」
その後夜10時過ぎ。ボクは早速Surprushでネルルと通信をする。
(Surprushの通信をするネルルと未青)
未青「ねえネルル。」
ネルル「未青?どうしたの?」
未青「今日、とても楽しかった。」
ネルル「それはよかったよ。未青がさっきおもらししちゃった時、俺も心配だったんだ。」
未青「ごめんね心配かけちゃって。ネルルはどうだった。ネルル、参加者では唯一の男子だったじゃん。」
ネルル「楽しかったよ。最初はちょっと抵抗あったけどね…^_^;」
未青「そう。ボクも安心したよ。ネルル、今日は来てくれてありがとう。おやすみ。」
ネルル「おやすみ。」
離れている人と話をするというのは、ボクにとってなんだか不思議な感じだった。
<用語解説>
【ハングアウト1440】
アスムール民主国で人気の漫画。ある魔法専門学校のスケートボード部の先輩の男性と後輩の女性の日常を描いたラブコメディ作品。アニメ化もされている。
【Surprush】
アスムール民主国から世界に向けて発売されている携帯ゲーム機。「驚きのラッシュを」が名称の由来。カメラや通信・インターネットブラウザなどゲーム以外にも多彩な機能があり、スマートフォンが普及した現在でも多くの愛用者がいる。一般に流通しているもののサイズは縦およそ9cm・横およそ16cm・幅およそ21cm。これより一回りから二回り小さいサイズのものもある。




