Case 48「この世界で初めて迎えたクリスマス」
転生者によってさまざまな文化や行事が持ち込まれたこの世界。当然クリスマスもある。前に読んだ本によれば、この世界にクリスマスが持ち込まれたのは今から80年ほど前のことだという。
そんなボクがこの世界で初めて迎える12月24日は、朝からバイトで大忙しだった。カレンデュラは朝からケーキを買ったりする人がたくさん店に来ていたからだ。トイレにも行けないほどの忙しさ。カレンデュラにいる間ボクは4回もおもらしをしてしまった。
臨時バイトの子A「み、未青さん…!?」
未青「えへへ… 間に合わなかった…(恥ずかしそうな苦笑)」(目にはうっすら涙が浮かんでいる)
4回目のおもらしはトイレのドア全開で便器の前でだった。それを目撃した臨時バイトの子はかなりびっくりしていた。
いつもより1時間長い5時にバイトは終わった。家に帰るボク。道はクリスマスということもあってか、いつもよりも人がたくさんいた。
「ただいまー。」
フレイン「おかえり。」
シャピアフェ「おかえり未青くん。」
家に帰り手洗いうがいをした後は、晩ご飯の手伝いの時間までテレビを見る。ニュースでは首都京杜中心部の「甘鴉」という街の大通りが、クリスマスで外出している人で混雑している様子を伝えていた。
「ねえ未青くん。未青くんが前いた世界のクリスマスもこんな感じだった?」
「うん…(苦笑)」
この世界のクリスマスでは、七面鳥やチキンではなく「ウィンガーウルフ」という、背中がニワトリのそれみたいな羽で覆われた狼のような動物のロースト肉を食べるという。ウィンガーウルフ自体は出現頻度が非常に高い害獣なのだがローストにはあまり向いていない肉質なようで、
「ウィンガーウルフのローストは結構贅沢な食事なのよ。」
とシャピアさんは言う。
「これ(ウィンガーウルフのロースト肉の冷凍)いくらしたの?」
「1,400苑くらいよ。」
「た、高い…!小間切は300苑しないのに…」
ウィンガーウルフのローストは、食感はクリスマスのチキンのそれみたいな感じだったが、味はローストビーフみたいだった。
未青「鶏肉みたいな食感で牛肉みたいな味… やっぱりちょっと不思議な感じがする。」
シャピアフェ「そう?でも美味しいようでよかったわ。」
未青「うん!」
食事が終わったのは夜の8時頃だった。食事が終わったしばらく後のことだ。
「ねえ未青くん。」
センセイが話しかけてきた。
「センセイ?」
「せっかくのクリスマスだからさ、ちょっとその辺散歩してみようよ。」
「この時間に?」
「うん。」
冬の夜の街を散歩する。ボクにとって初めての経験だ。ちょっとワクワクしてきた。
「帰る時にメールして。あと遅くなりすぎないようにね。」
というシャピアさんとの約束もした上で、ボクはセンセイと一緒にクリスマスイブの夜の街へ散歩に繰り出した。
「こんなに人がいる…」
「でしょ?クリスマスイブだからね。」
いつもこの時間の人通りはまばら。でも今日は違う。夜の8時過ぎというにも関わらず、店やコンビニの前を中心に人でごった返している。
商店街方面へ行くボク。すると…
「あ!お兄ちゃん!」
声の主はルイーザちゃんだった。
「ルイーザちゃん!」
「お兄ちゃんあたしと脚お揃い~。」
寒い夜。ルイーザちゃんもショートパンツに黒いタイツというスタイルだ。
カリン「こんばんは。お二人でお散歩ですか?」
フレイン「はい。カリンさんもですか?」
カリン「ええ。せっかくのクリスマスイブですので。」
センセイがカリンさんといろいろ話している脇で、ボクもルイーザちゃんとおしゃべりをする。
「ボクも魔法いくつか使えるようになったんだ。ほら!」(拾った枝に火を灯す)
「お兄ちゃんすごーい!」
(枝についていた火が消える)「えへへ。」
「ルイーザもお兄ちゃんみたいに魔法使えるようになる?」
「うん!お勉強すればね。」
ルイーザちゃんは、ボクに憧れとも思しき感情を向けていた。
そして、おしゃべりをしている最中のこと。
フレイン「ん?あ!」
ルイーザ「雪だー!」
雪が降ってきた。
「ねえねえお母さん!雪だよ!」
ルイーザちゃんは雪が降ってきたのをとても喜んでいる様子だ。
ルイーザ「お兄ちゃん!お母さん!お姉さん!雪遊びしようよ!」
カリン「ルイーザ。雪遊びにはまだ早いわよ。」
時間が経つにつれ雪の降り方は少し少し強くなっていく。
「傘、持ってくればよかったわね。」
「うん。でも、周りの人みてるとそれでいい気もする。」
「そうだね(笑)」
カリン「ルイーザ。もう9時だからおうちに戻りましょ。」
ルイーザ「え~?」
カリン「わがまま言わないの。明日遊びに行きましょ。では私たちはこの辺で。未青くんは明日大丈夫ですか?」
未青「はい。大丈夫です。」
カリン「ほら、お兄ちゃん明日はルイーザと遊べるから、今日はもう帰りましょ。」
ルイーザ「は~い…」
未青「じゃあね。ルイーザちゃん。」
ルイーザ「バイバイ。」
ボクたちは駅の方へ行く。駅に近づくにつれ人の数も増えていく。舞嗣遠のラジオ局が街の様子をレポートしているところにも遭遇した。
すると、ボクの体に強い尿意が降りかかった。
「センセイ…」
「未青くん?」
「トイレ行きたい…」
「あらら。たしかこの近くに仮設トイレあったわよね。そこを使おう。」
「うん。」
この辺は例年クリスマスイブから当日にかけては人が多く集まるという。コンビニやお店も人が多く集まるため、しばらく前から仮設トイレが設けられるようになったという。
ボクたちはそこへ向かう。しかし、その間に尿意はどんどん高まっていく。
「あった。」
仮設トイレが4つ並んでいる場所に着いた。でもどのトイレも行列ができている。
その上かなり強烈な痛みをあげるボクの膀胱。ここに着くまでの間にパンツに少しチビってしまった。
はっきり言って、もう間に合いそうにない。
「センセイ…」
「未青くん?」
「もう… ダメ…」
パンツにジワジワと滲み出始めている感覚がはっきり分かる状態のボクは、ショートパンツの上から大事なところを押さえながら、センセイにもう持たなそうなことを訴えた。
「うーん… たしかにこの状況じゃ未青くん間に合いそうにないね…」
(無言で頷く)
「じゃあ、こっち来て。」
センセイはそう言うと、ボクを近くのコンビニの駐車場の隅のあまり目立たないところに連れていった。
「ここで、おもらししちゃっていいよ。」
「ここで…?」
センセイはもう我慢しなくていいと言う。ちょっぴり恥ずかしいがもう時間はない。このまま我慢を続ければ、最悪衆人環視の中で漏らしてしまう。
ボクはセンセイの優しさに、身を委ねることにした。
ボクの体を包み込むセンセイの腕。その中で限界を迎えたボクの膀胱は、まるで眠りにつくように力尽きていった。
(チョロロ… チョロロ… ジョロロロロロロロロロ…)
ショートパンツとタイツの中に、おしっこが溢れ出していった。
30秒もしない間の出来事だった。ボクはセンセイの腕に優しく抱かれながら、「おもらし」をした。
「大丈夫?」
「うん…」
タイツもショートパンツもぐっしょりだ。
「どうしようこれ…」
「近くにカレンデュラがあるから、着替えに部屋貸してもらおう。」
「うん…」
カレンデュラで着替えることになったボク。店の外に行列ができているカレンデュラ。思えば、夜のカレンデュラは初めてだ。
(ドアのチャイムを鳴らす音)
ベルーザ「あら。フレインに未青くん。」
フレイン「ベルーザ忙しいところごめん。未青くんがさっきこの近くでおもらししちゃったの。だからちょっと着替えに部屋を貸して欲しいんだけど、大丈夫?」
ベルーザ「うん。大丈夫よ。いつもの更衣室を使って。」
未青「分かりました。」
ボクは更衣室に通され、センセイが転送魔法で転送してくれた替えのパンツ・タイツ・ショートパンツに着替えた。
ベルーザ「じゃあ未青くん。またあさってね。」
未青「はーい。」
その後、ボクたちは家に帰った。
未青・フレイン「ただいまー。」
シャピアフェ「おかえりなさい。雪降ってきたわね。」
未青「うん。」
フレイン「明日どれくらい積もってるか楽しみね。未青くん、この世界に来てから雪は初めてでしょ?」
次の日。クリスマス当日。
ボクはセンセイから、クリスマスプレゼントとして冬もののスカートをもらった。ボクは早速それを履く。
そして、午前9時半頃。
(ドアのチャイムが鳴る音)
「お兄ちゃん…?お母さん、お兄ちゃんがスカート履いてるよ。」
ルイーザちゃんが家に来た。
「ありがとうルイーザちゃん。実はボク、おうちだとたまにスカート履くんだ。」
カリン「未青くん。スカートとっても似合ってますよ(笑)」
「ありがとうございます… ルイーザちゃんもありがとう。」
ボクはその後、ルイーザちゃん、カリンさん、センセイ、それに…
「未青ちゃんおはよー!」
ルキちゃんと合わせて5人で雪遊びをした。
ボクがこの世界で初めて迎えたクリスマスは、とても楽しいものだ。
-用語解説-
【ウィンガーウルフ】
アスムール民主国でよく出現・討伐される害獣。「羽化獣類」に属する、至って凶暴な生き物。
鳥類の特性を持ったオオカミのようなもので、数秒程度なら空を飛ぶこともできる、
肉は美味だがどちらかというと焼肉向き。
アスムール民主国がある世界では世界的にクリスマスによくウィンガーウルフの肉が食されるというが、その由来は不明。




