Case 46「変化魔法でなりたい…!」
「できたー!」
セレちゃんがお泊まりに来てから数日が経ったある日のこと、ボクはある魔法を習得した。
それは「変化魔法」といって、精神を統一させて自分の姿を、自分が思い描いた人の姿に変身することができる魔法だ。姿のみならず声もその人のものに変化して、場合によっては魔法の能力も再現できてしまう。ボクが小さい頃好きだったとあるヒーローに要領は近い。
というわけでボクは今クルルスさんの姿をしている。とはいっても覚えたてだからか、背丈はボクのままだが。
「ちょっと小さい私みたい。」
とクルルスさんは言っていた。
魔法を解いて元の姿に戻るボク。
「未青くんは次に誰になりたい?」
とクルルスさんから聞かれた。
「誰に…?」
一瞬迷ったが、ボクの選択肢は一つだ。
精神を統一させ、変化魔法を使うボク。
「できた!ねえクルルスさん見て見て!」
ボクはセンセイになった。センセイ本人は今は仕事に行っていて家にはいない。これで名実ともに、変化魔法を使いこなせるようになった証拠だ。
変化魔法を使いこなせるようになったのはもちろんのこと、ボクは大好きなセンセイの姿になれたのが何よりも嬉しい。
「やっぱりフレインになったの(笑)ちょっと小さくて可愛いね。」
「えへへ… ありがとうございます…」
「声も完全にフレインそのものだね。」
変身する相手の人にかなりの思い入れがあれば初心者でも長時間使い続けることができるというこの変化魔法。ボクはセンセイの姿のまま授業を受け続ける。
フレイン「未青くんただいまー… って私!?」
未青「うん!ボクだよ。変化魔法、使えるようになったんだよセンセイ。」
フレイン「そうなんだおめでとう!でもちょっとビックリした…」
およそ30分後、センセイが帰ってきた時もセンセイの姿のままだ。
クルルス「うふふ。フレインになれた時、未青くんったら凄く喜んでたのよ。」
未青「えへへ…」
フレイン「よかったわね。未青くん。」
手洗いうがいを済ませ部屋に戻ってきたセンセイ。その後はセンセイも一緒に授業の続きをやる。
クルルス「はい。今日はここまで。」
未青「ありがとうございました。」
フレイン「それにしても何だか私が勉強してるみたいだったわ。」
クルルス「フレインが勉強しているところを見るなんて本当に(魔法専門)学校の時以来だわ。」
フレイン「えへへ…」
その後はしばらく、センセイとクルルスさんの魔法専門学校時代の思い出話が続いた。
ボクの変化魔法がきっかけで思い出話が始まる。ちょっぴり気恥ずかしい。
クルルス「じゃあまた4日後ね。」
未青「はーい。ありがとうございました。」
クルルスさんは家に帰った。この時点でセンセイに変身してから1時間と少しが経ったが、魔法は解けていない。
フレイン「未青くん。お腹空いてない?」
未青「ううん。」
フレイン「そうなの?」
センセイは10秒くらい黙った後、こう言った。
フレイン「未青くん凄いよ… 初めて変化魔法使って1時間以上変身している状態を保ててる上でお腹も空いてないなんて聞いたことがないよ…」
未青「そうなのセンセイ?変化魔法ってそんな凄い魔法なの?クルルスさんからは『かなりの体力を使うから上級寄りの魔法に含まれる』って教わったけど…?」
フレイン「本当に凄い魔法なんだから!ひどくお腹空いたりとかの副作用的なのがあるの。急な空腹で集中力途切れて魔法が解けちゃう人が多いんだ… だからクルルスの教えた通り『上級寄りの魔法』なのよ変化魔法って。
未青「そ… そんなヤバい魔法なの?」
フレイン「私も一応使えるけど、10分使っただけでひどくお腹空いちゃうから滅多に使わないんだ…」
未青「そうなんだ… ボク… 本当に凄いってこと?」
フレイン「そうだよ!」
1時間以上変身した状態を保てていて、なおかつ少しもお腹も空いていない。これはどうやらかなり凄いことらしい。ボクはあまり実感は湧かないが。
未青「そういえばクルルスさん、『変身する相手の人に思い入れがあれば長時間魔法を使い続けられる』って言ってたけど…」
フレイン「そうだよ。もしかして未青くん、私のこと…」
未青「たた… 確かに好きだけどそういう意味じゃなくて…」
フレイン「うふふ(笑)それでも1時間使えばお腹空いちゃうんだよ変化魔法って(笑)」
すると、
シャピアフェ「ただいまー。」
シャピアさんが癒師の仕事から帰ってきた。
シャピアフェ「あれ?フレインが2人… 未青くんは?」
フレイン「お母さん!この小さい私が未青くんだよ!」
未青「おかえり。シャピアさん。」
シャピアフェ「変化魔法使えるようになったの?ちなみにどのくらい?」
フレイン「かれこれ1時間以上使えてるの!」
シャピアフェ「凄いじゃない!お腹空いてない?」
未青「ううん。」
シャピアフェ「そうなの!?なおさら凄いじゃん未青くん!」
シャピアさんはさっきのセンセイと同じ反応だ。
その後は晩ご飯の準備を手伝うのだが、その最中のことだった。
シャピアフェ「いっけない。マヨネーズもうないんだった。ねえ2人とも、ちょっと近くのスーパーで買ってきてくれる?」
フレイン・未青「はーい。」
シャピアフェ「ありがとう。でもなんだか、フレインが2人いるみたいね(笑)」
ボクは部屋で着替えて、センセイと一緒に買い物へ出かける。
12月の夕方6時台。その上日本でいうところの秋田くらいの緯度。黒いタイツを履いているからそこそこ暖かいものの、寒いったらありゃしない。
フレイン「私もこの時期のこの時間に外出るなんていつぶりだろう…」
寒い中ボクたちはスーパーへ急ぐ。そのスーパーでマヨネーズを2つ買い、また急ぐように家に帰る。
フレイン「寒いから早く帰ろう。」
未青「うん…」
少し早歩き気味で家に帰るボクたち。その途中のことだった。
(…!)
ボクの体に強い尿意が降りかかった。センセイに変身しているとはいえ体はボク。膀胱は相変わらずのようだ。
「センセイ…」
「未青くん?」
「トイレ行きたい…」
「そうなの?家まで我慢できそう?」
「だといいけど…」
寒いから尿意は短い時間でみるみる強くなっていく。センセイの体でおしっこを我慢しているボク。これじゃまるでセンセイがおしっこを我慢しているようだ。
センセイに変身したままボクの膀胱は限界になっていった。
「このままではセンセイの体のままおもらしをしてしまう」それがボクにとって一番怖いことだ。
「センセイ… もうダメ…」
「もうどうしてもダメだったら(おもらし)しちゃっていいよ。本物はここにいるんだから。」
「うん…」
今にも力尽きそうな膀胱がビクビクする感覚が伝わってくる。家まではあと少しだ。
「あっ…!」
家が見えてきた。ボクはなんとか最後の力を振り絞って必死に我慢する。
(未青の荒い息遣い)
しかし、玄関先まで来た時のことだった。
「あっ… ああっ…! あっ…―!」
膀胱が最期の悲鳴を上げるような激しい痛みが体を走った。それを合図に変化魔法が解けてボクの姿に戻った。そして…
(ジョロロロロロロロロロロ…)
ボクはとうとう、玄関先で「おもらし」をしてしまった。漏らしてしまったおしっこの水溜まりからは湯気が立っている。
「大丈夫?」
「うん…」
ボクはセンセイと一緒に家に入った。
シャピアフェ「おかえり。」
フレイン「マヨネーズ買ってきたよー。あと未青くんシャワー入るから。」
シャピアフェ「分かった。もしかして未青くん、フレインの姿のまま(おもらし)しちゃった?」
フレイン「ううん。出ちゃう瞬間に魔法が解けて…」
ボクは一人シャワーを浴びに行った。
センセイが持ってきてくれた替えのスカート・パンツ・タイツに履き替え、晩ご飯だ。
ご飯の後のことだった。
フレイン「ねえ未青くん。」
センセイが話しかけてきた。見て見ると、テーブルの上にはフォトアルバムがある。
「見てよこれ。」
センセイはフォトアルバムの中の1枚の写真を見せてきた。センセイが13歳の頃の写真。
「この格好…」
よく見ると、ボクが今来ている服と全く同じ組み合わせだ。
「なんか… ボクがセンセイになったみたい。」
「うふふ。私が選んだんだ。」
「ありがとうセンセイ…」
なんだかこっちの方が、自分がセンセイになれたような気がした。
「センセイ!」
ボクはセンセイに抱き着いた。
「うふふ。未青くん。未青くん。」




