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Case 39「センセイが泣いていた日」

ある日、フレインの元気がないことに気づいた未青。

そこには今まで未青は知らなかった、フレインとシャピアフェの家族に関する悲しい過去があったのです。

10月28日。

(ぐしょ…)

今日もまたボクはおねしょをしてしまった。


いつものように着替えを出してシャワーを浴びに行くボク。センセイは朝ごはん前のリビングで一人テレビを見ていた。テレビはいつものチャンネルではなく、風景映像専門の衛星放送チャンネルだ。


「おはようセンセイ… おねしょしちゃった…」

「あ?未青くん。おはよ…」

そのセンセイの言葉からは、元気が感じられなかった。いつものセンセイらしくない。


シャワーから出た後は朝ごはん。しかし、センセイは食卓にはいなかった。ご飯を食べ残している。


「シャピアさん。」

「未青くん?」

「センセイどうしたの?トイレ?」

「ううん。さっきご飯も食べ残して、部屋に戻っていったわよ。」

「そうなんだ… センセイ、体調悪いのかな?」

「私から言うのは控えたいな。フレイン、毎年今日だけはこんな感じなのよ。」

「分かった。」


シャピアさんの言う通り、ボクはこれ以上聞かないことにした。


朝ごはんを終えて歯磨きを済ませ、ゴミを出しに行く。それが終わって手洗いうがいを済ませたボクは、2階のいつもの部屋へ行く。でも、いつもの部屋にセンセイはいなかった。


今日はクルルスさんの授業はない。カレンデュラも休業。ボクはただ部屋で魔法の本を読んでいた。


すると…

「?」

(フレインの泣いている声が微かに聞こえてくる)


センセイの泣いている声が、家の2階のどこかから微かに聞こえてきた。

「センセイ、どうしたんだろう!?」


センセイが泣くなんて初めてのことだ。びっくりしたボクは部屋を飛び出し、探索魔法を使ってセンセイを探した。


「ここか。」


センセイはボクもまだ入ったことのない部屋に一人いた。センセイからは「今は使っていない部屋」としか聞かされていない。


(ドア越しに聞こえてくるフレインの泣き声)

センセイの泣いている声が聞こえてくる。自分が入るべきかどうするか迷っていた。

(シャピアさん呼んだ方がいいのかな…)

ボクがこの部屋に入るべきではないのかもしれない。ボクは1階に行って、シャピアさんを呼ぶことにした。


するとその途中で…

「あら未青くん。」

シャピアさんは2階のところにまで来ていた。

「シャピアさん。」

「もしかして、センセイのことが心配で…?」

「そうよ。ずっとあのお部屋で泣いてて。私に知らせようとしてくれたの?」

「うん。」

「ありがとう。フレインのことは私に任せて。未青くんは部屋かリビングで待っててくれるかな?」

「分かった。シャピアさん。」

ボクはそう言って、部屋に戻った。


それから何分かが経った時のこと。

(フレインの泣き声)

(シャピアフェがフレインに話しかけている声)


センセイがシャピアさんに慰められながら部屋を通り過ぎた。まるでおもらしして泣いている時のボクとセンセイみたいな構図だ。


そして時間は正午過ぎ。昼ご飯の時間だ。

未青「いただきまーす…」

フレイン「(か細い声で)いただきます…」

センセイはまだ元気がない。ご飯の量もいつもより少なめだ。


フレイン「ごちそうさまー…」

その間わずか5分も経たないくらい。センセイはご飯を完食し歯磨きを済ませると、食卓を後にした。

ボクがご飯を完食し歯磨きを済ませ、部屋に戻ったのはそれから大体15分くらい後のことだった。


部屋にはセンセイがいた。テレビはついていない。

レプリン「キュン。キュン。」

レプリンが心配そうに鳴いている。


ボクはセンセイに話しかけることもなく、本を読み始める。

それから大体10分くらいが過ぎた頃だった。


「ねえ、未青くん…」

突然センセイがボクに話しかけてきた。

「センセイ?」

「今日、心配かけちゃってごめんね…」

センセイはこう言った。

「う、うん…」

ボクは返す言葉が見当たらなかった。ボクがセンセイを心配していたのは、本当のことだったからだ。


「未青くんに、見せたいものがあるんだ。ちょっと一緒に来て。

「うん。いいけど… どんなの?」


部屋を出たセンセイ。ボクもそれについて行く。着いたのは午前中センセイが一人泣いていた、「今は使っていない部屋」だ。


センセイはドアを開けると、そこには「御魂棚(みたまだな)」という、前の世界で言うところの「仏壇」にあたるものが2つあった。センセイにどことなく雰囲気が似ている男の人と、シャピアさんと同い年くらいの男の人の遺影がそれぞれに飾られている。


未青「『ロイナ・スノーウィー』…『シャオルディー・スノーウィー』… この人たち、誰?」

フレイン「私のお兄ちゃんとお父さん。」

ボクはびっくりした。センセイには亡くなったお兄さん(ロイナさん)とお父さん(シャオルディーさん)がいたのだ。そういえばこの家は母子家庭。ボクも転生してまもない段階でそれは把握できてはいたが、そのことをボクは今まで聞こうとは思ったことはない。でも、こんな事があったなんて。

センセイに家族と死に別れた過去があったということに、ボクはショックを隠せなかった。思えばボクだって、前の世界にいるお父さんお母さんからしたら、死に別れた家族なのだから。


センセイは喋り出した。

「私が16の時のことだったんだ―」

今から6年前の10月5日、アスムールの南東部にある街「茅魏藦(ちぎま)」にあるエルフの居住地区で「バーンステート」というテロ組織が無差別テロを起こし、たくさんのエルフの人たちを虐殺するという事件が起きた。『茅魏藦(ちぎま)エルフ居住地区焼き打ち事件』だ。


フレイン「この間テレビでエルフの伝統食とか取り上げられてたの、そういう事だったんだ…」

センセイは話を続ける。

フレイン「それで、亡くなった人の中に、お兄ちゃんの友達がいたの…」

その事件で亡くなったエルフの人の中に、センセイのお兄さんの友達がいた。お兄さんはエルフ文化マニアだったこともあって、事件にショックを受けとても悲しんだという。


事が動いたのはその2週間後だった。バーンステートの拠点がある国の政府が世界中の国々に対し、「バーンステートの壊滅クエストを実行するから参加してほしい」と言う呼びかけをした。参加者は約1億人で、そのうちアスムールの人は全体の7割を占めていた。


フレイン「それで、お兄ちゃんとお父さんも、それに参加したんだ。」

センセイのお兄さんとお父さんもそれに参加したのだ。しかし…


フレイン「お兄ちゃんもお父さんも、それで死んじゃったんだ…」

お兄さんは一緒に首領と戦ったエルフの人が、首領へのとどめとして投げた高術式爆弾の爆発に巻き込まれて負った大火傷と一酸化炭素中毒が元で、お父さんはバーンステートが拠点としている地下迷宮の地上の市街地での戦闘中にバーンステートの戦闘員に襲われた街の人を守ろうと魔術式猛毒矢を放った反動で、


~回想・市街地での戦闘中~

シャオルディー(フレイン… シャピアフェ… ロイナ… すまない…)

(魔術猛毒矢を放つ音)

市民を襲おうとした戦闘員A「ぐあっ!」

市民を襲おうとした戦闘員B「ぐはあっ!」

市民を襲おうとした戦闘員C「うあああっ!」

(3人が倒れこむ音)

(シャオルディーが血を吐いて倒れる)

~回想終わり~


〜回想・バーンステート首領の最期〜

バーンステートの首領「貴様らぁー!」

ロイナ「今だ!やれ!」

エルフの青年「兄貴分かった… 俺の同胞の(かたき)ぃぃー!」

ロイナ(なあ見てるか?お前を殺したバーンステートの最期だ…)

首領「うおああああああああ!!!!!」

(大爆発音)

〜回想終わり〜


2人ともその壊滅クエストで命を落とした。命を落としたクエスト参加者は、その2人の他はわずか3人だったという。(エルフの犠牲者は0人)


フレイン「(涙声で)それでね… お兄ちゃんとお父さんが天国に行ったの、今日なんだ…」


これで全てが繋がった。今日がそのセンセイのお兄さんとお父さんの命日だった。2人が重傷を負ったことは知らされていて搬送された病院に行くことはできたから、センセイとシャピアさんもその最期に立ち会うことはできたという。


~回想・ロイナの最期~

ロイナ「ごめん…俺…生きて帰れそうにねぇ…」

~回想終わり~


2人はバーンステート壊滅に貢献したということでアスムール民主国のみならず世界中から英雄として称えられ、この家にはアスムールの政府から「英雄手当」なる保険金が国から支払われるようになり、今に至るという。


フレイン「バーンステートの人全員倒してみんなで生きて帰ってくるって…お兄ちゃん言ってたのに…」

未青「センセイ…」


センセイはまた泣き出した。

フレイン「(泣きながら)お兄ちゃんもお父さんも… とっても優しくて気さくな人だったんだ…」

未青「そう… だったんだ…」

ボクもなんだか悲しくなってきた。そういえば前の世界で息絶える時、お父さんもお母さんもとても悲しんでいた。

その気持ちが分かった気がした。


ボクは泣き続けるセンセイに寄り添い続けた。シャピアさんが来るその時まで。


シャピアフェ「ありがとうね。フレインの傍にずっといてくれて。」

未青「うん…」


シャピアさんに付き添われながらリビングに連れていかれるセンセイ。

まだ迷彩魔法が使えないボクは、閉まっているリビングの出入り口のドアの傍で一人、リビングの様子を聞いていた。

シャピアフェ「フレイン。2人の事、未青くんに話したの?」

フレイン「うん…」

(しばらく間が開く)

シャピアフェ「明日でいいから、2人にちゃんと未青くんのこと紹介してあげなさいね。」

フレイン「… 分かった…」


すると、

シャピアフェ・通信魔法(テレパシー)で「未青くん。そこにいるんでしょ?」

未青・通信魔法で「あ、シャピアさん!? ごめん…なさい…」

シャピアフェ「謝らなくていいよ。フレインのこと、心配だったんでしょ?」

未青「うん…」

シャピアフェ「今日は一日ありがとう。フレインね、前からこの日が近づくと、『この日はずっと1日眠っていたい』って言ってるのよ。昨日も未青くんが寝た後私のところに来てそう言ってたわ。」

未青「そうなんだ…」

シャピアフェ「うん… 特にフレイン相当なお兄ちゃん子でね… (涙声になりつつ)ロイナが死んだあとはもう何日も『お兄ちゃんお兄ちゃん』って泣いてたのよ…」


シャピアさんもセンセイのことをいろいろ教えてくれた。そのシャピアさんの声もすっかり涙声だ。


ボクはその後部屋に戻った。部屋に戻ったボクは、「ボクもセンセイにしてあげられることをしてあげたい。」と思っていた。


センセイは部屋に戻ってきたのは夕方の4時くらいだった。

センセイは部屋に戻ってくるなりベッドに入った。


~未青の回想~

シャピアフェ「フレインね、前からこの日が近づくと、『この日はずっと1日眠っていたい』って言ってるのよ。昨日も未青くんが寝た後私のところに来てそう言ってたわ。」

~回想終わり~


ベッドに近づくボク。センセイは目を閉じていた。目はすっかり泣き腫らした後だ。


「センセイ… ごめん…」

とセンセイに聞こえないように小さな声でつぶやいたボクは、センセイに向けて覚えたばかりの睡眠魔法をかけた。


~就寝直前~

「おやすみ。シャピアさん。」

「おやすみ。ねえ、未青くん。」

「なあに?」

「(フレインの願いを叶えてくれて)ありがとうね。」

「… うん!」


その後センセイは、次の日の朝まで起きることはなかった。



次の朝。朝ごはんを終え部屋に戻るボク。

「ねえ未青くん。」

「どうしたの?センセイ。」

「ちょっと来て。」

ボクが連れていかれたのは、昨日も来た2人の御魂棚(みたまだな)の前だ。

「紹介するのすごく遅くなっちゃってごめんね。この子が私が引き取った転生者の未青くんだよ。」

2人にボクのことを紹介するセンセイ。


その表情は、いつものセンセイと変わらない笑顔に満ち溢れていた。

-用語解説-

【バーンステート】

アスムール民主国がある世界に存在する別の国家「ジャール帝国」の地下迷宮を拠点としていた国際テロ・犯罪組織。エルフ族殲滅も活動目的の1つで、茅魏藦(ちぎま)エルフ居住地区焼き打ち事件を含め数多くの国際犯罪やテロを起こしてきた。事件発生の20日後に世界中から参加者を募集した壊滅クエストが実行され、そのクエストで首領が殺害されたことにより壊滅。ただ傘下に置いていたマフィアや犯罪組織も世界中に未だ点在しており、それはアスムール民主国内にもある。またジャール帝国内や周辺の一部の国では再興を目論むテロリストによる犯罪行為が未だに後を絶たないという。


茅魏藦(ちぎま)エルフ居住地区焼き打ち事件】

その「バーンステート」が6年前の10月5日に起こした、アスムール民主国南東部の茅魏藦にあるエルフ居住地区に大規模な放火を含めたテロを行い、そこに住む多数のエルフ族を殺害した無差別テロ、もとい大規模虐殺。病院でもテロを起こしたことやよほどのことがない限り世界的に使用が禁止されている「魔獣兵器」が使われたこと、それに上空を飛んでいた民間の航空機1機及び治安兵団を乗せた飛行機複数を撃墜するなどもあり世界に大きな衝撃を与えた。アスムール民主国で起きた犯罪の中で民間人・治安関係者とも最も死者が多い。実行犯の公開処刑は全世界に生中継された。


【バーンステート壊滅クエスト】

茅魏藦(ちぎま)エルフ居住地区焼き打ち事件の20日後の10月25日に行われた大規模クエスト。クエストには世界中から非戦闘要員(メディア関係者など)含めおよそ40万人が参加(うちエルフ族はおよそ20万人)し、10万人が参加した史上初のクエストであるとともに、多数の国家の国民が参加した初のクエストでもあった。

クエストの模様は首領死亡まで長時間に渡り全世界に生中継された。

死者:バーンステート…ほぼ全員(生き延びた構成員は生け捕りの上後日処刑)一般市民…0名 クエスト参加者…5名


【英雄手当】

アスムール民主国において、大規模な黴獣の討伐など国民や国家に対する貢献度が高いとされる行為によって大きな後遺症が残るレベル負傷を負った人とその家族や、亡くなった人の遺族に支払われる国家保険金。アスムール民主国政府の英雄省が管轄している。


【術式爆弾】

火属性の上級魔法の術式を圧縮して作られた爆弾。かなりの破壊力を有しており、一般的なものでも1個で戦車2台を木っ端微塵にする事が可能。


【魔術式毒矢】

自らの魔法で生成した毒矢を放つ「超上級魔法」の一種。

命中した相手は即死するが、放った側も自らの寿命を大きく縮めてしまうかなり危険なもの。


-新しい設定付き登場人物-

ロイナ・スノーウィー(Royna=Snowy)

フレインの兄。魔法の技術力も最高レベルの癒師でもあった。エルフの友人を事件で喪ったことで壊滅クエストに参加。壊滅クエストでは最前線で戦い、対峙したバーンステートの首領に直接組み付いて抵抗を封じた活躍ぶりを見せ、首領との戦闘で一緒にいたエルフの青年が首領相手に向けて放った高術式爆弾の爆発に巻き込まれ(首領はこの爆発の中でエルフの青年に首を刎ねられて死亡)て大火傷を負い、28日に搬送先の病院で命を落とした。享年24。

得意属性:火

トピックス:気さくで人と話すことが好きな性格だった。

トピックス2:首領が即死するほどの爆発で一旦は生き残れたのは、首領を盾にできたため。


シャオルディー・スノーウィー(Shaoldy=Snowy)

フレインの父親。シャピアフェの夫。彼もまた魔法の技術力も最高レベルの癒師でもあった。壊滅クエストでは地下迷宮の上の市街地でのバーンステート戦闘員との戦闘で活躍したが、市民を襲おうとした戦闘員に魔術式毒矢を放ったことにより、その反動が元で28日に搬送先の病院で命を落とした。享年49。

得意属性:光

トピックス:シャオルディーもまた気さくで人と話すことが好きな性格だった。

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