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Case 36「早朝ジョギング日和」

10月になって、アスムールもようやく涼しくなってきた。

そんなある日の朝6時ごろ。


(ぐしょ…)


ボクは今日もおねしょで目を覚ました。起きるよりも前でおねしょで目が覚めるのは、前の世界以来だ。


「センセイ…」

そう言って隣を見ると、隣で寝ているはずのセンセイがそこにはいなかった。いつも6時半くらいに起きるセンセイ。トイレだろうか。


(トイレかな…)


おねしょでぐっしょりと濡れた二分丈の黒いスパッツを見た後、ベッドから立ち上がりボクはトイレに行く。


(ドアをノックする音)

トイレのドアをノックするボク。しかし反応がない。


(どうしたんだろう…)

ボクは1階に降りて、シャピアさんに聞いてみることにした。もしかしたらシャピアさんと一緒に朝ごはんの準備をしているのかもしれないだろうし。


1階に降りたボク。

(ドアを開けながら)「シャピアさーん。」

「あら未青くんおはよ。もしかしておねしょ?」

「うん… でもセンセイがいなくて…」

「フレイン?そうだったわ。まだ未青くんには話してなかったわね。」


シャピアさんはこう続けた。

「フレインね、おとといからジョギング始めたのよ。この間服の整理していたら魔法専門学校の頃のジョギングウェア見つけて、『陽気がちょうどよくなったから』とか言ってこんな朝早くにジョギングしてるの。」


シャピアさんの言ったことにボクはびっくりした。涼しくなってきたからということで、センセイはこんな朝早くにジョギングに出ている。涼しくなってから2日経った頃、ボクがバイトに行っている間、センセイが服の入れ替えをしていたことはボクも知っている。


「着替えは私が持ってくるから、未青くんは先にシャワー入ってきなさい。」

「はーい。」


そう言われてボクはシャワーを浴びに行く。

シャワーから出たボクはシャピアさんが持ってきてくれた替えのパンツとスパッツに履き替える。スパッツは紺色の二分丈だ。


シャワー室から出ると、

「あ、未青くんおはよ。ごめんね。ジョギングのこと未青くんに黙ったままで。」

そこには家に帰ってきて手洗いを終えたばかりのセンセイがいた。ジョギングウェア姿だ。ボクがシャワーを浴びている間にセンセイは戻ってきていた。


「大丈夫。おねしょで変な時間に目が覚めたの、こっち来てからは今朝が初めてだったんだ。」

「あらそうだったの?私ちょっと油断してた(苦笑)」


するとセンセイはこう続けた。

「せっかくだから、未青くんも明日一緒にジョギングしに行こうよ。」

「うん!」


センセイから一緒にジョギングしないかとという誘い。ボクは即答した。


前の世界では病弱で入退院を繰り返していたボク。学校でも体育の授業も運動会も参加できたとしても見学ばかりしていた。ジョギングみたいなものは夢のまた夢で、走る機会があったとしても家のガレージを2周くらい走る程度だった。


そんなボクがセンセイと一緒にジョギングできるということが、ボクは本当に嬉しかった。



そして次の日。

「未青くん行くよー。」

「うん!」


朝5時半ごろ。センセイのお下がりのランニングウェアを着て、明け方の街を走りに出た。


ちょっぴり明るいようで、薄暗い街。人はボクたちしかおらず、空いているお店もない。空いているとしたらコンビニか新聞販売店とかくらい。明かりが付いている家もちらほらというところだ。


センセイと一緒に明け方の街をジョギングする。明け方の街を行くのが初めてのボクにとっては、新鮮な気持ちだ。


通る道もほとんどがセンセイの買い物手伝いとかで通ったことのある道だが、まるで初めての道のように思える。



「この辺で休憩しよう。」

「うん。」


途中ベンチに座って水分補給する。


「センセイ。ボク、前の世界ではこういうことってできなかったんだ。」

「そうだよね…」

「だから、今日初めて明け方の街に出るのも、なんだか新鮮でいいな。」

また走り出してしばらくが経った頃だった。


(あっ…)


突然ボクの体に尿意が走った。さっき水分補給をしたからなのか強い。


「センセイ。」

「どうしたの?」

「トイレ行きたい…」

「そう?でも、空いているお店もないし… そうだ。ここからしばらくしたところに公衆トイレがあるから、そこ使おう。」

「うん…」


ただでさえ開いているお店もない上、今走っている道はボクは初めて通る道だ。とりあえず、ルート上にある公衆トイレを使うことにした。


しかし走り続けている間にボクの膀胱は限界になっていった。走る振動が膀胱に伝わっていくような感じがする。時折ボクは、ランニングウェアの上から大事なところを押さえながら走った。


もうセンセイが言った公衆トイレまで持ちそうにない。


「センセイ…」

「未青くん?」

「もう… ダメ…」

「大丈夫?この近くに私の先輩がバイトしてるコンビニがあるからそこでトイレ借りよう。そこまで頑張れそう?」

「うん…」


ボクたちは、センセイの癒師仲間の人がバイトをしているコンビニでトイレを借りた。パンツにおしっこが滲み出てしまっていたことに気づいたのは、その時だった。


先輩癒師「いらっしゃいませ。」

フレイン「先輩!」

先輩癒師「あらフレイン?どうしたの?なんかフレインが連れてる子がトイレまでダッシュしに行ってるけど。」

フレイン「転生者の子です!ちょっとトイレ貸してください。もう間に合わないかもしれないんです!」

先輩癒師「分かった。」


センセイが店員さんにこう伝えるのを耳にしながら、ボクはコンビニの中をトイレに向けて猛ダッシュしていた。

(まだ… ダメ… ダメッ…)

膀胱括約筋が疼く感覚がはっきり分かる状態。コンビニのトイレの引き戸を開けてトイレに入り、なんとかトイレに飛び込めたボク。そして―





















間に合わなかった。

「ああっ… あっ… あっ…」

(ジュウウウウウウウウウウ…!!!!!!)

コンビニのトイレの洋式便器を目の前に、ボクは足を震わせながらおもらしをしていた。大事なところからおしっこが勢いよく飛び出してトイレのカーペットに降り注いでいく感覚がよく分かる。


おもらしを終えたボクは、通信魔法(テレパシー)でセンセイに間に合わなかったことを報告した。


「センセイ… センセイ…」

「未青くん。どうしたの?今どこ?」

「トイレ… ううっ…(涙声で)間に合わなかった…」

「あらら。今行くから待っててね。」


センセイがトイレまで迎えに行くという。


しばらくして…

(ドアをノックする音)

トイレのドアをノックする音がした。

「未青くん。未青くん。」

センセイだ。ボクは探知魔法を応用したシステムで、ボクがトイレに飛び込んだと同時にかけられていた鍵を開け、トイレのドアを開けた。


(ドアを開ける音)

そこには心配そうな表情のセンセイがいた。手には家から転送してくれた、替えのパンツとスパッツと靴下を持っている。


「残念だったね…これに着替えて帰ろう。」

「うん…」


ボクはそう言われるとまたトイレのドアを閉め、靴の中に溜まったおしっこを便器の中に流した後、着替えた。

その後ボクはトイレを出て、センセイと一緒にコンビニを後にした。


「ゆっくりでいいから、家まで走ろう。」

「うん。」


さっきとはゆっくりではあるがまた走り出し、家に着いたボク。家に着いた頃には、「楽しい」という気持ちが戻っていた。

ジョギングは、あと一歩トイレに間に合わなかった悲しみをも癒してくれていた。


「センセイ。」

「未青くん?」

「今朝はとっても楽しかった。」

「うふ。よかった。」

「ボクも!」


次の日。その次の日。そのまた次の日。

「行くよー。」

「うん!」


センセイと一緒の朝のジョギングは、すっかりボクの日課になった。

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