Case 29「海に行こう!」
「あっ… だめっ… 出ちゃっ…ああっ…」
(チョロロロロロロロ…)
カウレちゃんとエレナちゃんに初めて会ってから10日と少しが過ぎた、夏真っ盛りのある日のこと。ボクは舞嗣遠駅の近くにある屋内市民プールの、男子トイレの入口の目の前でおもらしをしてしまった。
そもそもなぜボクが屋内市民プールに来ているのか。それは今から8日前、カウレちゃんとエレナちゃんに海に遊びに来ることを誘われたのだけれど、それをその次の日にクルルスさんにも話したら、
〜回想〜
クルルス「人魚さんと一緒に遊ぶなら、せっかくだから「水歩魔法」も身につけた方がいいんじゃないかな?水属性の魔法が得意なら簡単に習得できるよ。」
〜回想終わり〜
ということで「水歩魔法」という、普通に陸上で行動する時と全く同じような感じで水の抵抗を一切受けることなく水中で行動することができる魔法を習得することになったからだ。それとなぜMoverのプールではなく市民プールなのかというと…
〜回想・初めて温水プールに行った日の移動中〜
未青「クルルスさん。どうしてMoverのプールじゃないの?あそこのプールはプログラム用と自由に使える用で2つあるけど…」
クルルス「ああそれ?市民プールの方が水温が高いからよ。水温高い方が、未青くんが泳いでいる最中にトイレに行きたくなって困ることがなくていいんじゃないかなって思って。」
〜回想終わり〜
ということだからだ。
「クルルスさん… 間に合わなかった…」
クルルスさんのところに戻ったボクは、間に合わなかった事をクルルスさんに報告した。
「大丈夫?」
「うん…」
水着は泳いだ時の水で濡れているとはいえおもらしに変わりはない。ボクは恥ずかしさから落ち込んでしまっている。
「でも未青くん、すっかり早歩きもできるようにまでなってるわよ。」
と、クルルスさんはボクを慰めながら言った。
「そう…?」
「うん。海や川の中で仕事する人だったらダッシュもできたり細かい作業ができるようになる必要があるけど、人魚さんと遊ぶくらいならジョギングできるくらいで十分ってところよ。」
「そうなんだ。じゃあ、もう少しやろうかな…」
「そうね。もう少しでジョギングもできるってところだから。」
「うん。」
そう言ってボクは練習を再開した。クルルスさんも言った通り、早歩きもできるようになったほど筋は掴めているいうところだ。
そしてボクが水中でもジョギング程度のスピードで走れるようになるまでに、1時間はかからなかった。
「これで完璧ね。」
「うん!」
そしてその次の日。
セレスティーヌ「じゃあ行ってきまーす!」
ベルーザ「みんな気をつけてね。」
バイトの仕事が終わった夕方4時半過ぎ、いつものメンバーに陽夏ちゃんを加えた6人で出かける。目的地は家とは反対側の方向にあるスポーツ用品店だ。
何を買いに行くのかと言うと…
ルキ「これ可愛い〜!」
ハミン「こっちもいいかも。」
水着だ。
みんなで思い思いの水着を選ぶ。ボクは陸上のユニフォームみたいな、明るい水色のセパレートタイプの水着を選んだ。
「ボクも選んだよー。」
そして投影魔法を使って、それを着ている状態をみんなに見せた。みんな「可愛い」と言っていたことは言うまでもない。
しかし…
「未青ちゃん… 本当は男の子なんだよね…?」
と言ったルキちゃん。
未青「あ」
思えばカレンデュラに行く時は必ず女ものの服を着ていくボク。ボクは買い物の最中、自分が男であることをすっかり忘れてしまっていた。なぜ選んでる段階で思い出さなかったのだろう。
陽夏「違和感全くないからつい…」
ルキ・未青・陽夏以外の一同「すっかり忘れてた…」
一時微妙な空気が流れたが、セレちゃんも
「でも可愛いから問題ないよね。」
という一言でなんとかなった。レジにいた店員さんが何を思っていたかを知る気はなかった。
家に帰って、センセイは
「未青くんwww、自分が男の子ってことすっかり忘れてたの?www」
と爆笑しながら言っていた。
「えへへ…(苦笑)」
「まあいいよねwww」
「うん…w スパッツタイプだし、会計前だったのが幸運だったよ…」
そして、いよいよその2日後…
セレスティーヌ「着いたー!」
舞嗣遠駅のバス停からバスに乗ること50分強。舞嗣遠海岸海水浴場に来たボクたち(ボクは結局水着は2日前に選んだものを持ってきて、今着ている服もアクアマリン色の薄地のワンピース)。ボクにとっては人生初の海だ。
「未青くん、海は初めてなんでしょ?」
と話しかけてきたセンセイ。
「うん!」
とボクは答える。海に来られたこと自体を嬉しく思う気持ちが、ボクの中にはあった。
「おーい!」
テントやビーチパラソルを設置して準備運動を済ませてからしばらくすると、海の方から呼ぶ声がした。みんな「その声は!」という感じの反応だ。
ハミン「待ってよ〜!」
「どうしたのみんな?」
と聞いてくる陽夏ちゃん。
「この間、バイトしてるお店で友達になった人魚の2人だよ。2人がここに誘ってくれたんだ。」
とボクは陽夏ちゃんに説明した。すると陽夏ちゃんは
「人魚さん!?私も気になるー!」
と興味深そうに言った。陽夏ちゃんも2人に会いたくなった様子だ。
カウレちゃんにエレナちゃん。2人とも波打ち際まで上がってきていた。
カウレ「未青ちゃん、その子は?」
「ああ。陽夏ちゃん。前の世界で同じ病院だったんだ。」
「はじめまして。2人とも綺麗なウロコ〜!」
「えへへ。ありがとう。私はカウレ・メイレン。こっちは妹のエレナ。」
エレナ「よろしくお願いします。」
陽夏「よろしくお願いします!」
ボクたちはみんなでおしゃべりをしていた。すると…
セレスティーヌ「きゃあっ!」
未青・陽夏「うわあっ!」
ボクの左隣にいたセレちゃんがびっくりしてバランスを崩し、つられて陽夏ちゃんとも一緒に尻餅をついてしまった。よりにもよって、砂が濡れているところだ。
エレナ「うああごめんなさ〜い!」
セレスティーヌ「ごめ〜ん!」
陽夏「何してんの2人とも〜…」
未青「もうこれおもらししちゃったみたいじゃん…」
ボクの着ている服のお尻から下が全部濡れてしまった。
もともと着替えようかなっと思っていたところで2人に呼ばれていたボクたち。着替えることにした。
着替えた後、海で待っていた2人のところまで戻った。(濡れた服は、パンツ以外はレジャーシートの上に置いて乾かした)
「みんな可愛い… って未青ちゃんも女の子ものの水着!?」
「うん… なんだかよくわかんないんだけど男の子ってこと忘れちゃってたみたいで…」
「そ、そうなのwww!?」
「うん… ボク、バイト先に行く時はいつもスカートとか履いてるし…」
セレスティーヌ「私も全然分からなくて…」
「そうなんだwww」
その後は海に浸かって、みんなで泳いだりして遊んだ。エレナちゃんは人間術を使って下半身を人間と同じものに変え、砂浜でルキちゃん・セレちゃん・センセイとボールで遊んでいた。
未青「ねえ見て。」
ボクはカウレちゃんたちに、水歩魔法を使って見せた。おへそから下は海に浸かっているが、水の抵抗を全く受けることなく歩ける。暑いからか、水温もちょうどいい。
カウレ「すごい!水歩魔法じゃん!」
「えへへ。勉強したんだ。」
ボクはしばらくして、浮き輪を持ってきて浮かびながら、陽夏ちゃん、エレナちゃんと一緒におしゃべりをした。この世界に転生した時のこと、陽夏ちゃんとこの世界で久しぶりに再会できた時のこと…
いろいろおしゃべりをしている最中、
(あっ…)
ボクはトイレに行きたくなった。しかしそれとほぼ同時に…
「ん?」
「なんだろう?」
なんだかちょっと離れたところが騒然としている。その方向を見てみると、
エレナ「行ってみましょう。」
陽夏「浮き輪は私が戻してくるね。フレインさんにも話しておくから。」
未青「ありがとう。」
ボクはエレナちゃんと一緒にそっちの方向へと早歩きで急いだ。
現場に着いたボクたち。
「キロン!キロン!」
どうやらボクと同じくらいの男の子が泳いでいる最中に足を攣って溺れてしまい、その上肺に海水が入って息もできない状態なんだという。
ボクも透視魔法を使って見てみたが、肺の1/3に海水が入っていた。
(肺に水が溜まるって結構ヤバいんじゃ…)
「すいませーん!」
ライフセーバーの人が割り込んできて、男の子を仰向けに寝かせた。ライフセーバーの人が男の子に念を送ると、男の子は咳をし始めた。どうやら肺に入った水を出すための魔法らしい。
癒師が使う魔法もいろいろ勉強してきたボク。どうやら今その子を助けられるのはライフセーバーさん以外ではボクしかいないらしい。
(ええっとこうかな…)
ボクは男の子の体に手をかざして念を送った。水と操る魔法を使って、男の子の肺の中に溜まっている海水を出すためだ。
「うぷっ!うはぁ!」
男の子の口からわずかではあるが水が出てきた。
(これなら…いける…!)
ボクはさらに強い念を男の子の体に向けて送り続ける。
「うぷっ!うぷっ!うふぅっ!」
咳を続ける男の子の口から出る水の量や勢いが、段々と強くなっていく。透視魔法を使ってみたところ、肺の中の海水の量は段々と減っているのが分かる。
その間に、
「頑張れよ!頑張れよ!」
「頑張って!」
周りに居合わせた人がボクを応援している声が聞こえてきた。
「あ!ありがとうございます!」
とライフセーバーの人が言ってきたのも分かる。ボクはそれに無言で頷いて返した。
「お願いです!キロンを助けて!」
男の子のお母さんだろうか。シャピアさんと同い年くらいな感じの女の人もボクにそう言った。
そして…
(ここで決める!)
ボクは男の子の体に向けて、「肺の中の水よ全部出ろ!」とも言わんばかりの強い念を送った。
そして…
「ぶふぁぁっ!ぶふぁぁっ!!」
男の子の口から勢いよく海水が飛び出した。
「ハァ…ハァ…」
その直後から男の子の息が戻ったのが分かる。改めて透視魔法で男の子の肺の中を確認すると、水はすっかりなくなっていた。
およそ10分の戦いが終わった。
「キロン!キロン!」
男の子のお母さんがその子を抱きしめた。
「お母…さん…」
周りは男の子が助かったということで歓声に包まれていた。
「本当に、キロンを助けてくれて… ありがとうございます…!」
「どういたしまして…!」
「あり…がとう…」
ライフセーバー「ご協力本当にありがとうございました。しばらくは安静が必要ですので、海岸事務所の医務室にご案内します。」
「分かりました。キロン、立てる?」
「(2回ほど細かい咳をする)うん…」
男の子とそのお母さん、そしてライフセーバーさんは立ち上がって、海岸事務所へと歩いて行った。
「行くよキロン。本当にありがとうございました!」
(未青が微笑みながら頷く)
フレイン「未青くん!未青くん!」
「センセイ!セレちゃん!ハミンちゃん!陽夏ちゃん!」
センセイ、セレちゃん、ハミンちゃんがやってきた。人だかりの外側の方で一部始終を見ていたという。
フレイン「未青くん…本当に凄いよ!」
そう言いながらセンセイは、片膝をついたままの状態のボクを抱きしめた。
「そう…?かな…?ボク、『他にいないなら自分がやらなきゃ』としか思ってなくて… 使った魔法も水を操るだけのやつだけだったし。」
フレイン「実はあれが一番簡単かつ有効なやり方だったんだよ。」
「そうだったの?」
ハミン「命を救ったんだよ!初めてでも凄いって…!」
「ボクが魔法の勉強、いっぱい頑張ってたからかな…?」
フレイン「そうよ。じゃあそろそろ、みんなのところに戻ろう。」
今まで人に助けられてばかりだったボクが、初めて人を助けたんだ。ボクはそんなことを感じていた。
ボクがセンセイに促せられるまま、立ち上がってみんなのところに戻ろうとした…
しかし…
「あっ…ううっ…!」
立ち上がろうとした瞬間、限界値を超えた膀胱の痛みがボクの体を襲った。男の子を助けている間に限界量を超えたおしっこが膀胱に溜まっていたのだ。
「んっ… ああっ…」
(ジュウウウウウウウ…)
機械の電源がプツンと落ちるように膀胱の力が一気に抜け、水着の中に温かい液体が広がっていった。
(チョロロロロロロ…)
片膝をついた姿勢のまま、ボクの水着から砂浜の砂におしっこが零れているのが、なんとなくだが自分でも分かった。
トイレではないところで水着を着たままおしっこをした。これは紛れもない「おもらし」だ。水着はもともと濡れていて砂浜も濡れていたなんてことは通用しない。
「…」
波打ち際でおもらしをしてしまったボク。ボクは俯いてしまっていた。
フレイン「あらあら(笑)」
ハミン「未青ちゃん、立てる?」
「うん…」
頭の中が恥ずかしい気持ちでいっぱいの中、ボクは立ち上がって4人と一緒にみんなのところに戻っていった。
マリーユ「おかえり。」
ルキ「おかえりー未青ちゃん。聞いたよ。」
さっきボクが溺れた男の子を助けたことは、すっかりみんなにも伝わっていたようだ。
未青「みんな… ありがとう…」
自分が注目されるのは、ちょっぴり恥ずかしかった。
時刻はお昼の12時半くらい。カウレちゃんの友達のお姉さん(ちなみに人魚さん)が経営している海の家で昼ご飯を食べた。食事中も人助けの話題で持ち切りだったことは言うまでもない。
「お待たせしましたー!」
海の家自慢の大きなかき氷も美味しかった。
ご飯の後もみんなで遊んだ。午前中にはやらなかったボール遊びもした。
「いくよー!」
(ボールをサーブする音)
「だめ… ああっ…」
午後も海で遊んでいる最中に突然強い尿意を催し、駆け込んだ公衆トイレであとほんの少し持ちこたえられず水着を着たまま和式便器にしゃがんでおしっこをしてしまうというハプニングもあったが、本当に楽しい一日だった。
そうこうしているうちに、時刻はもうすぐ4時。帰る時間だ。午前中に濡れてしまった服はすっかり乾いていた。
カウレ「ばいばーい!」
エレナ「また遊びにいらして下さい!陽夏ちゃんもまたね~!」
未青「うん!また遊ぼうー!」
ボクの人生初の海は、本当に楽しかった。
未青・フレイン「ただいまー!」
シャピアフェ「おかえりなさい。今日は楽しかったみたいね。」
未青「うん!(満面の笑み)」
フレイン(こんなに嬉しそうな未青くんの笑顔は初めてだわ。)「しかも未青くんね、溺れた子を助けたんだよ。」
シャピアフェ「そうなの!?凄いじゃない!」
未青「えへへ…(照れ笑い)」
<筆者より>
私は海はもう10年近く行ってない気がします…海行きてー…
今回のオリンピックのトライアスロン会場にもなっているお台場海浜公園にだったら何度か行ってるんですか、最後に行ったのも3年近く前だし…




