Case 24「魔法使いの第一歩!」
(ドアが開かない音)
未青「え、あれ?」(荒い息遣い)
マリーユ「未青ちゃん、どうしたの?」
未青「マリーユさん?ボク、もう、漏れちゃう…」(荒い息遣い)
マリーユ「分かったわ。すぐ出るからもう少し待って。」
カレンデュラでバイトを始めてから1週間くらい。バイトを続ける中で、ボクはマリーユさんともタメで話せる関係になった。
そんなある日の午後4時頃、ボクはカレンデュラのトイレの前で一人おしっこをチビりながら激しい尿道に悶えていた。お客さんが一番多くなるおやつの時間帯(午後3時頃)を迎えたばかりのタイミングで急に強い尿意を催してしまい注文やらお皿下げやらに追われてトイレに行けず、今にも決壊しそうな中でついさっきお客さんが落ち着いたタイミングでトイレに猛ダッシュしたのだが、マリーユさんが入っていたのだ。
「お待たせ。」
マリーユさんがトイレから出てきた。膀胱の痛みが体が耐えられなくなるほどに激しさを増していく中で、ボクは一目散にトイレに飛び込んだのだが…
「ああっ… あっ… あっ…」
(ジョロロロロロ…ポチャポチャポチャポチャ…)
あともうほんの少し、間に合わなかった。スカートをたくし上げてパンストやパンツを履いたまま、ボクは便器に跨っておもらしをしてしまった。
「未青ちゃん、おいで。」
トイレの側にいたマリーユさんがボクに優しく話しかけてくる。トイレのドアも閉めることができず、一部始終をマリーユさんに見られてしまっていたのだ。
「んっ…」
ボクは真っ先にマリーユさんのもとに駆けていった。マリーユさんの胸に頭をうずめ、マリーユさんに頭を優しく撫でられていた。
「よしよし… スッキリした?」
「うん…」
マリーユさんから替えのパンストを渡されたボクは更衣室で着替えた。パンツは家から持ってきたものだ。
「お待たせ…」
更衣室の外では、マリーユさんが待ってくれていた。その後ボクはマリーユさんと2人で居住スペースの小さな部屋に入る。ボクが初めてのバイト中におもらしをしてしまった時に案内された部屋だ。
「そうだ。ねえ未青ちゃん。」
「マリーユさん?」
2人で部屋に入って数分くらいが経った時、マリーユさんが話しかけてきた。
「未青ちゃんって今、魔法の勉強してるんでしょ?」
「うん。」
ボクはマリーユさんに、自分の魔法の勉強のことを話した。クルルスさんが家庭教師を受け持ってくれていること、勉強は本当に楽しいこと、勉強をもっともっと捗らせるべくショラノスさんのお店で学習机まで買ったこと…
「1ヶ月以上が過ぎたってことは、そろそろ簡単な魔法は実践に入ってもいい頃よね。」
「うん。実際ボクもあさってから実践に入るんだ。とても初歩的なのだけどね。」
「やっぱり(笑)私もそんな感じだったなぁ…」
魔法の勉強。家庭教師から習う場合は、始めてから大体1ヶ月で簡単で初歩的なものの実践に入るのがほとんどなのだ。
ボクがまず使えるようになりたい魔法は、「瞬速魔法」・「鏡面魔法」・「水流魔法」・「投影魔法」の以上4つだ。「水流魔法」以外は属性関係なく使うことができて、またみんな初歩的なものだ。実際センセイが一番最初に覚えたいくつかの魔法の中にはその4つも含まれていた。
「楽しみだね。(笑)」
「うん。」
それからまたしばらくマリーユさんと魔法の勉強についておしゃべりした後、ボクは仕事に戻った。
2日後。
陽夏「とうちゃーく!」
「センセイ。ここが?」
「そうよ。」
家から駅とは反対の方向へ歩くこと15分くらいのところ。ボクたちは舞嗣遠地区を流れる「遠詠川」という大きな川の河川敷に来ていた。もともと舞嗣遠で水属性の魔法を勉強中の人が魔法の実践に来ることが多い他センセイが通っていた魔法専門学校の実践授業の場としても使われ、魔法学習以外ではキャンプのスポットであることに加えて毎年8月中旬には川祭りも行われるなど、舞嗣遠では有名な場所だ。
ボク・センセイ・クルルスさん・シャピアさん・陽夏ちゃん・スピーサさんと、そこそこ大所帯だ。
しかし、一緒にいたはずのクルルスさんがいない。
「センセイ。クルルスさんは?」
「あそこのトイレかな?みんな集まるまで待った上でさらに15分も歩いた訳だし、クルルスもしかしておしっこ漏れそうだったとか(笑)実はクルルス5年前、ここでの魔法専門学校の実践授業の休み時間にトイレ見つけられなくてやっちゃったことがあるんだ。(笑)」
「ちょっとフレイン聞こえてるわよー!あの時は本当に限界だったのー!」
恥ずかしい思い出を暴露されてしまったクルルスさんの声は後ろの方からした。そのクルルスさんは、地面に落ちていた枝を拾い集めていた。
(ちなみにセンセイが指差した男女別々の公衆トイレはもともと男性のしかなく、女性の方はその5年前のクルルスさんのおもらしが発端で設置されたらしい。)
「これをどうするの?クルルスさん?」
「見てて。」
と言うとクルルスさんは指パッチンをした。
(火が燃え上がる音)
すると、地面に置かれた枝に火がついた。
「この火を消すの。じゃあ、やってみよう。」
「はーい。」
ボクは目をそっと瞑って、50m先にある焚き火の方に向けて右手を伸ばし、習った通りに焚き火の火を消すイメージを思い浮かべた。
すると…
(水が飛び出す音)
ボクの右手の先から、消防車が放水するかのように激しい水が飛び出した。その水は焚き火に見事命中し、一瞬のうちに火を消してしまった。
(クルルスさんは反射魔法でバリアを張ったため少しも濡れずに済んだ)
「OKね。」
「いいの!?」
「うん。合格よ。」
ボクは初めて魔法が使えた。これを目指していただけに、非常に嬉しい。
陽夏「すごーい!」
クルルス「次はどれにする?」
未青「じゃあ…」
あと残り3つ。ボクは次はどの魔法の実践をやるか考えた。
ふと思った。おとといもそうだったように、トイレにあと少し間に合わずおもらしをしてしまうボク。「非常に早く走れるようになりたい」と思ったことは何度もある。
「『瞬速魔法』にするー。」
「OK。じゃあ早速やっていいわよ。」
「はーい。」
クルルスさんのOKに返事をしたと同時に、ボクは「早く走れるようになりたい」と念じながら、足の方に意識した。
そして、一歩を踏み出す。
その瞬間、ボクの動きが非常に早くなった。まるで自分が小さい頃見たヒーローのように、センセイたちの周りを超高速で縦横無尽に移動するボク。周りの人たちの動きが非常にゆっくりに感じる。
スピーサ「あれ?未青くんどこ?」
クルルス「瞬足魔法もOKね。未青くん、どこに行ったのかしら。」
(あたりを見回すクルルスたち)
フレイン「いたよー。」
クルルス「どこー?」
フレイン「思い出の場所ー。」
(スピーサと陽夏の苦笑い)
ボクはさっきセンセイが指差した公衆トイレの男子側の入口の側にいた。
「フレイン…さっきっから何言ってるの… 合格。戻っておいで。」
「はーい。」
(瞬足魔法で一瞬で未青がクルルスの元に戻ってくる)
その後に実践した投影魔法も反射魔法も、すぐに使えることができた。
クルルス「おめでとう。これで全部クリアよ。」
ついにボクは、ほんの少しとはいえ魔法使いになることができたのだ。
未青「わーい!センセーイ!みんなー!」(フレインの元に駆け寄る)
フレイン・シャピアフェ「「おめでとう。未青くん。」」
陽夏「おめでとう!おめでとうー!」
帰る途中。センセイが話しかけてきた。
「良かったね未青くん。私たちの思い出の場所で魔法使えるようになってたことが証明できて。(笑)」
「うん!」
ボクがそう返事をした瞬間、少し先を歩いていたクルルスさんがセンセイの元に駆け寄ってきた。
クルルス「フレインったらさっきっから何なのよあのことばかり言って〜!まさか未青くんが男の子ってこと忘れちゃったわけじゃないわよね!?」
フレイン「忘れてなんかないよ。未青くん私の2年前のこと(癒師の仕事帰りの特急電車の車内で尿意を催し、そのまま舞嗣遠駅まで我慢しきれず座席でおもらしをしてしまったこと)知ってるし…」
シャピアフェ「そうよ。私だって川祭りでトイレ行きたくなったんだけどトイレの行列長くて我慢できなかったことあるもん。去年の夏のことよ。」
〜回想・去年の夏、川祭り〜
シャピアフェ「フレイン…(涙声)」
フレイン「お母さ… え… うそ…」
シャピアフェ「ごめん… 我慢できなかった… (さっきより酷い涙声)」(紫地の白百合柄の浴衣の真ん中、股間のあたりから下が濡れている)
〜回想終わり〜
ボクは完全に置いてけぼりになっていた。
(何とも言えないよこの状況…)
その夜。いつもの部屋。
「ねえセンセイ。ちょっとこっち向いて立って。」
「どうしたの?」
「えいっ。」
ボクはセンセイに向けて魔法を放った。投影魔法だ。
「センセイ、とっても可愛い…」
(チョロロロロロロ…)
投影魔法でセンセイの体に映し出したもの。それはカレンデュラの制服だった。カレンデュラの制服を着ているも同然の状態のセンセイが可愛いかったあまり、ボクはおもらしをしてしまった。
「(笑)。あらあら(笑)」
「緩んじゃった…のかな?」
それから2日後。
(ドアのチャイムを鳴らす音)
フレイン「もうすぐだからね。我慢できる?」
(未青が激しい息遣いの状態で無言で頷く)
カレンデュラのいつもの玄関。ボクはセンセイのお下がりの濃い青のデニムのショートパンツの上から大事なところを押さえながら激しい尿意に悶えていた。お店に行く途中に急に激しい尿意を催してしまったのだ。
「はーい。」
「…!」(未青がベルーザの脇をすり抜けるように非常に激しいスピードで駆けていく)
ドアが開くとともに習いたての瞬速魔法で、ボクはカレンデュラの居住スペースの廊下を駆け抜けた。
〜玄関〜
「どうしたのかしら未青くん?」
「実はここまで来る途中急にトイレに行きたくなっちゃって…(苦笑)」
(トイレのドアを開ける音)
「ん… あっ… ああっ…!」
(ビチャビチャビチャビチャ…)
でも間に合わなかった。トイレのドアを開けたちょうどそのところで膀胱括約筋が力尽き、おもらしをしてしまった。
ルキ「ありゃりゃ…(苦笑)」
マリーユ「(笑)。魔法、使えるようになったんだね。」
未青「うん…」
本物の魔法使いになるためには、まだまだたくさんの魔法を使えるようにならなければいけない。癒師になるためにはなおさらだ。
ボクの魔法使いとしての日々は、本当にまだ始まったばかりだ。
-用語解説-
【遠詠川】
アスムール民主国にある川。日本でいうところの一級河川にあたる「白金河川」(「プラチナリバー」とも)に指定されている。
遠詠水系の本流で、支流の数は人工的に整備された用水路も含めて30を超える。
流域面積はおよそ1,600km²。流域自治体の数は20に渡る。
川の上に通されている交通橋の本数は78本と、アスムール民主国では最多を誇る。(うち鉄道鉄橋は41本と、それもまたアスムール民主国では最多。)




