Case 2「役場に響く音」
未青が転生してきて一夜が明け、フレインと未青は未青の転生者登録手続きをするため町の役場に行くのですが…
ボクがこの世界に転生して一夜が経った。新しい朝だ。
「未青くん。未青くん。おはよ。」
センセイがボクを起こしてきた感じで目が覚める。
「ん~… ん…?」
目が覚めるとなんだか布団や下半身が濡れている感じがする。もう分かっている。おねしょだ。
「おはよ…」
「おはよ。朝ごはん、持ってきたよ。」
「うん…」
「どうしたの?もしかして嫌な夢見ちゃった?」
「… おねしょ… しちゃった…」
この世界で初めて迎えた朝もおねしょをしてしまったボク。おもらしと同様に慣れてはいるが、してしまった後はやっぱり辛い。しかもここはセンセイが用意してくれた布団の上で、パジャマもセンセイが用意してくれたもの。汚してしまったことに申し訳なさする感じる。
「ごめんなさい… 布団やパジャマ汚しちゃって…」
「大丈夫よ。ほら、シャワー浴びて朝ごはん食べよう。」
布団にはおねしょのシミが広がっていて、センセイが用意してくれた薄い水色のかわいらしいパジャマもすっかりぐしょぐしょだ。
ボクはセンセイの家のお風呂場に案内されてシャワーを浴びた後、センセイが用意してくれた服に着替えた。
緑色のTシャツにチャコールグレーのズボンだ。
「このお洋服。私のお友達のお兄さんが前来ていたのなんだ。」
「そうなんだ。ありがとう。」
「うふふ。」
この世界にもボクが前いた世界にあったようなLINEみたいなメッセージサービスがあって、魔法の種類の中には離れたところにいる友達に物を贈れる魔法もあるようだ。
この世界では魔法を使うにあたって杖は必要ないという事も、昨日センセイから聞いたことだ。
「この世界の魔法、すっごく便利なんだね。」
「そうよ。あとね、その人のいろんなことを分析する魔法もあるの。」
「へー。面白そう!」
「こんなこともできちゃうよ。」
そう言ってセンセイは、ボクの方に人差し指を向けてきた。
「2。」
センセイはいきなりこんなことを言ってきた。
「なに?それ?」
「気になる?」
「うん…」
「これね… 未青くんがこの世界に来てから、おもらししちゃった回数。」
「ええ… ちょっと… 恥ずかしいよぉ…」
その通りだ。実は昨日の夜ボクは晩ご飯の後の歯磨きの最中突然強い尿意に襲われ、昼前のおもらしで膀胱が疲れていたのもあってか持ち堪えられず、洗面所を出たところでそのまま漏らしてしまった。
「いひひ(笑)」
センセイはちょっぴりお茶目な一面もあるようだ。
今日はこの後、2人でこの街の町役場で転生者の登録手続きに行く。外に出るのは初めてだ。
「行くよー。」
「はーい。」
ちゃんとトイレを済ませ、玄関で待つセンセイに追いつく。そんなセンセイは今日、裾が膝くらいの高さのピンクのワンピースを着ている。
外はとても空気が澄み渡っていてきれいだ。道には桜が満開の街路樹が立っている。街中には家や店、それにコンビニまで立っている。銀行まであった。しかも車道には車が走っている。
歩道がアスファルトで舗装されていない他は、本当にボクが前いた世界とほとんど変わらない風景だ。昨日聞いた話では、いわゆる都市部でも歩道がアスファルトで舗装されていないところは少なくないらしい。
「未青くんが前いた世界にも、桜の花はあるんでしょ?」
「そうだよ。」
歩き続けて5分弱。小さな川が見えてきた。
「ねぇねぇ。あそこ。」
センセイは川のほとりにある木の陰を指さした。
「未青くん、昨日あそこに転生してきたのよ。」
「そうなんだ。」
ボクは木陰に行った。自分が転生した地点にいるのは、なんだか不思議な気分だ。
それからさらに歩くこと10分強。アスファルトで舗装された道をしばらく歩いた先にある大きな建物。それが町の役場だ。
「ここ?」
「そうよ。今日はその3階。転窓口がそこにあるの。」
回転式自動ドアを通って中に入る。中も完全にボクが前いた世界の市役所と全く変わらない。
エスカレーターを上って3階へ。3階にはたくさんの人がいる。センセイの話だと、3階には転生者登録の他にも、市民相談や保険、納税といった重要な窓口が集中しているかららしい。
転生者登録課の受付には、駅の改札口のICカードをかざすところのような不思議な機械があった。
「未青くんがやっていいよ。」
「うん。」
ボクはセンセイに言われるがままに手をかざした。すると…
「こちらの番号でお待ちください。」
という男の人の声が流れた後、手のひらに番号札が出現した。
「こうやるんだ…」
番号は32番だった。今は30番。2人待ちだ。席に座って待つところも前いた世界と変わらない。
そうこうしている間に番号は31番になった。しかし、そこで…
「…」
下半身がムズムズする感覚。トイレに行きたくなってしまった。しかし家を出る前にトイレに行ったばかりだし、いつボクとセンセイの番が来てもおかしくない状態だ。ボクはトイレに行くかどうか最後まで躊躇してしまった。気にすればするほど、尿意は強くなっていく。
そして…
「32番の番号札をお持ちの方、4番窓口までお越しください。」
結局トイレを言い出すことができないままボクたちの番が来てしまった。この時点でボクの尿意はかなり強い方になっていた。
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。私今回担当させていただきます『フィーリー・ヒュージスカイ』と申します。」
センセイよりいくつか年上くらいのお姉さんが担当してくれた。
「まず転生者様のお名前をお願いいたします。」
「赤砂未青…です…」
お姉さんの言われるがまま、ボクは名前を言った。尿意が強いせいで息は少し荒くなっている。他にもいろんなことを聞いてきた。生年月日、転生日、前の世界での死因、前の世界での出身国… 答えるごとに音声入力のように紙に名前が書かれていく。
自分が答える時間が終わった頃には、ボクの膀胱はかなり痛んでいた。
「転生者様が答える部分は以上となります。続いては転生保護者の方がお答えいただく区間となります。」
「わかりました。」
センセイが答える区間だ。ボクの出番はここで終わりだからトイレに行ってもいいはずだ。
でもボクはトイレに行きたいと言えなかった。純粋に恥ずかしいのと、センセイとお姉さんの話に入るタイミングを掴めなかったからだ。
そしてついに…
(ジュ… チョロッ…)
パンツに少しチビってしまった。その後も断続的に、おしっこがパンツに滲み出てくる。
センセイは自分や家の収入状況などを答えているのが聞こえてくる。どうやら状況によって、転生者がいる世帯を保護している家に支払われる「転生者手当」というものの額が変わってくるようだ。
センセイがいろいろ答えている間もボクの尿意はどんどん強くなっていく。頭の中は「おもらし」という言葉でいっぱいだ。
「…!」
膀胱の痛みは激しさを増していく。昨日と同じように時折緩みかけてはまた力を入れ直す。
そうこうしているうちに膀胱の痛みの激しさは昨日センセイに意を決してトイレに行きたいと訴えた時のレベルを超えていた。
パンツにはおしっこがジワジワと滲み出てくる。ボクは歯を食いしばって右手を握り締めながら、必死に膀胱括約筋に力を入れ続けた。
しかしそれから大体10分、膀胱が悲鳴を上げるかのように、下半身にかなりの激痛が走った。
(出ちゃう… 出ちゃう…!)
ボクは最後の力を振り絞るように膀胱の括約筋に力を入れ直すが、ついに…
(ジュッ、ジュジュッ、ジュ… ジョロロロロロロロ…)
ボクはとうとう、椅子に座ったままおもらしをしてしまった。止めようとしてももう、膀胱括約筋に力を入れることは出来ない。
(ピチャピチャピチャピチャ…)
と、おしっこが床に零れ落ちていく音も聞こえてくる。
おもらしの間、ボクは窓口のお姉さんの方を見据えていた。「やっちゃった…」「どうしよう…」「助けて…」ということを思いながら。
「あの、転生者様…いかがなされました?」
「未青くん…どうし…あっ…」
センセイがボクの方を見て驚いている様子だ。
「うぅぅ…」
「すいません… 未青くんがおもらししちゃって…」
(未青のすすり泣く声)
ボクは完全に泣いてしまっていた。センセイと隣同士、椅子に座ってのおもらし。中学校の入学式の日。母さんの隣で席に座ったままおもらしをしてしまった時のことがフラッシュバックする。
「とりあえず、職員用スペースにご案内します。」
窓口のお姉さんに促され、ボクたちは席を立ち、関係者以外立ち入り禁止の区域に案内された。
「席をご用意しますので、今しばらくお待ちいただけますか?」
「はい。あとすみませんが、お着替えって用意してありますか?」
お姉さんはこう答えた。
「申し訳ございません… たまに手続き中に我慢できなくなっておもらしされてしまう転生者の方はいるんですがそのほとんどは7歳未満の方で、10代の転生者の方のおもらしはこちらもほとんど想定していなくて…」
「分かりました。」
センセイは心配そうな顔をしていた。ボクは本当に申し訳ない気分になった。
「センセイ… ごめんなさい…」
「ううん。謝らなくていいよ。だってずっと、『トイレ行きたい』って言い出せなかったんでしょ?」
(未青が無言で頷く)
「ごめんね。私も気づけなくて。」
センセイはボクの頭や肩を優しく撫でた。下半身は完全にぐしょぐしょだ。
「フレイン・スノーウィー様、お席のご用意が出来ました。」
どこからかさっきのお姉さんの声が聞こえてきた。
「じゃあ私、続き答えてくるね。未青くんはそこで待ってて。もうすぐ着替えの服が送られてくるから。」
「うん…」
センセイは続きを答えにどこかへ行った。しばらくして着替えの服が送られてきて、別のお姉さんから迷彩の魔法をかけられて周りの誰からも見えない状態になった後、新しい服に着替えた。迷彩の魔法が解けたのは着替え終わった後だ。
着替え終わってからしばらくして、センセイが戻ってきた。
「お待たせー。」
「センセイ…!」
ボクはセンセイのところに駆け寄った。
「未青くん、ちゃんと転生者としてアスムールの住民として登録されたよ。良かったね。」
「うん…」
ボクはこれ以上のことを、何も考えられなかった。
ボクたちは家に帰った。行きとは違って、レンタルカーペットという、貸出式の空飛ぶじゅうたんで。
ボクは先に部屋に戻って部屋着に着替える。遅れて戻って来たセンセイも自分に迷彩の魔法をかけて、薄緑色のTシャツと桜色のショートパンツの部屋着に着替えた。
「さっきのパンツとズボンは洗濯に出したから。」
「分かった… センセイ…」
「?」
「せっかくお友達からもらった服、汚しちゃった…」
ボクは泣き出した。せっかく友達からもらった服を汚してしまったんだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「気にしないでいいよ。」
そう言ってセンセイはボクの膀胱を撫でてきた。
「どうしたの?」
「お疲れ。未青くんの膀胱さん。」
センセイがそう言うと、なんだか沈んでいた気持ちがスーッと晴れていくような感じがしてくる。
「センセイ、何…したの?」
「治癒魔法かけたの。私癒師だから、こういうこともできちゃうんだ。」
「そうなんだ… ありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」
「なんだろう。ボク、なんだか眠くなってきちゃった…」
暖かい気持ちになっていく中、ボクの意識は薄れていく。気分がリラックスしたからなのだろうか。ボクはいつの間にか、センセイの太ももの上で寝てしまっていた。




