Case 13「かわいいうさぎさん」
「シャピアさん… もう…漏れちゃう…」
午後、シャピアさんと一緒に買い物に行った帰り道。ボクは突然の尿意に襲われ、今にも漏れそうな状態でシャピアさんと帰り道を急いでいた。
「未青くん、この近くに私の友達がやっている『アーティニマルカフェ』があるから、そこのトイレ貸してもらいましょ。」
「うん…(荒い息遣い)」
この近くにシャピアさんの友達がやっている、『アーティニマルカフェ』という、前いた世界でいうところの動物カフェのお店のトイレを借りることになった。
膀胱の苛烈な痛みとパンツに滲み出る感じに苦悶しながら、ボクたちはアーティニマルカフェに急いだ。
木造のログハウスのような建物が見えてきた。そこが目的地のアーティニマルカフェだ。ボクは最後の力を振り絞って入口のドアに手をかけようとした。だけど…
「あっ…!あっ…あっ…」
入口のドアノブに手をかけようとしたところで膀胱に突然強い痛みが走って脚がすくみ…
(ジョロ… ジョロロ… ジョロロロロロロ…)
ズボンの上から左手で大事なところを押さえたまま、入口のドアの前でボクはおもらしをしてしまった。
「未青くん、大丈夫…?」
「うぅっ… 間に合わなかった…(泣)」
「お店の中で着替えよ。お友達だから分かってくれるわ。」
「うん…」
シャピアさんのところに戻っていたボクは、改めてお店の中に入ろうとした。
すると…
(ドアが開く音)
カフェの入口のドアが開く音が聞こえてきた。
(水溜りを踏むような音)
そこには色白で頭に白いウサギの耳が生えている、シャピアさんと同い年くらいの女の人がいた。その人はドアの近くに広がっている、ボクが漏らしてしまったおしっこの水溜りを少し踏んでしまっていたようだ。
「あ、シャピア。」
「あ、ルノーナ。」
「なんか入口の前にお客さんっぽい人がいたんだけどなかなか入ってこないから、どうしたんだろうと思って…」
「ああ実はね…」
シャピアさんは、「ルノーナさん」というその人に状況を説明していた。
「そうなんだ… じゃあ家のとこ着替えに使っていいよ。おいで。」
「はい…」
ボクはルノーナさんにカフェの居住スペースに案内された後、廊下でシャピアさんが家から転送してくれた服に着替えた。
「未青くん。せっかくだからお茶してこ。」
「うん。」
ボクたちは訪れたカフェでお茶をすることになった。
アスムール民主国では、『アーティニマル』という愛玩飼育を前提に開発された動物をモデルに作られた小さな人工生命体をペットとして飼う習慣がある。それはさながら小さな動物のぬいぐるみがそのままモデルになった動物の特性を得たかのようなものになっている。もちろんその『アーティニマル』を販売する『アーティニマルショップ』という前の世界でいうところのペットショップのような店もある他、それと触れ合うことを目的とした『アーティニマルカフェ』もある。
また『アーティニマルカフェ』にも、前いた世界における「猫カフェ」のような一つの種別を専門としたものの他、さまざまな種類のアーティニマルと触れ合えるものもある。この店は後者にあたり、猫・犬・ハムスター・フクロウ・イノシシ・ニワトリ・クマ・うさぎ・りすなど本当に様々な種類のアーティニマルがいる他、水槽の中にも金魚・どじょう・ウミヘビなど水棲生物のアーティニマルが泳いでいる。
「キミ、小動物好きなの?」
「はい!」
「ふふ。シャピア、この子ってもしかして…」
「分かる?この間フレインが引き取った転生者の子よ。」
「そうなんだ。私は『ルノーナ・ロターソン』。このアーティニマルカフェの店主をやっています。キミは?」
「あ、赤砂…未青です。」
「よろしくね。もしかして、恥ずかしがり屋さん?」
「そうなの(笑)」
小動物が好きなボクにとっては、夢のような場所だ。
ルノーナさんに触れ合う用のスペースに案内されたボクは、床にしゃがみ込んでいろんなアーティニマルと触れ合った。おもちゃで遊んだり、レタスをあげたり…
「ニャー。」
「ワン!ワン!」
「キューン。」
「おいでー。おいでー。」
中でも桜色のうさぎのアーティニマルが一番ボクに懐いている様子だった。大きさは大体前いた世界で持っていたぬいぐるみよりもまた一回り小さいくらいだ。
「ねえシャピアさんルノーナさん!このうさぎすっごくボクに懐いてるー!」
「キューン!」
そのうさぎのアーティニマルも、非常に嬉しそうな様子だ。
「よかったわね。『レプリン』って言うの。」
「そうなんですか。レプリン、よろしくね。」
「うふふ。気に入ったみたいね。」
「これ、よかったらあげるわ。」
「いいんですか?」
「うん。こっちは希望すれば同じようなのいくつでも入手できるし。アーティニマルカフェではよくあることよ。」
「レプリン。未青くんのところでも元気でね。」
「キューン!」
レプリンといううさぎのアーティニマルをもらったボクはご機嫌だ。釣りに使うクーラーバッグのコンパクトサイズほどの大きさがあるケージにレプリンを入れて家に帰った。
「ただいまー。」
「お母さん未青くん、おかえりー。」
家に着くとセンセイが仕事から帰ってきていた。
「センセイ?ねえ見て見て!」
「ん?」
ボクはセンセイにレプリンを見せた。ケージを開けるとともに、レプリンが飛び出してくる。
「キューン。」
「なにこれ?かわいい~!」
「レプリンって言うんだ。ルノーナさんのアーティニマルショップから貰って来たの?」
「そうなんだ。やっぱりかわいい~。」
センセイもレプリンを可愛がっていた。
「そうだ。ちょっと待って。」
センセイは部屋を出ていった。
「キュン?」
しばらくするとセンセイは、組み立てられる前の状態の、うさぎ飼育用ケージの一部のパーツを持って戻ってきた。ちょっと古めだ。
「実は私も小さい頃にうさぎのアーティニマル飼ってたんだ。その時のなの。」
「ありがとうセンセイ!」
「キューン!」
ボクたちはレプリンを運んできたケージに戻すと、組み立てる作業をした。
「未青くん。もしかしてレプリンのケージの組み立て?」
「うん!」
ホコリが溜まったパーツを洗うため、シャワールームへも向かう。
かれこれ1時間弱で、うさぎ用ケージの組み立て作業が終わった。
「できたー!」
「じゃあ、レプリン、入っていいよ。」
「キューン!」
レプリンの体の大きさの割には広いくらいの、寝たり食事をする用のスペースに加え、飛び跳ねて遊ぶ用のスペースもあるケージ。
レプリンもとても嬉しそうだ。
ボクはその後しばらく、レプリンとおもちゃで遊んだ。ケージが出来上がった後、センセイがうさぎ用のおもちゃをいろいろ持ってきてくれたのだ。
「キューン!キューン!」
でも…
(あっ…)
ボクの下半身に違和感が走った。尿意だ。
レプリンはまだまだ遊びたがっているようで、ボクもレプリンと一緒に遊びたいから、ボクはついトイレを我慢してしまった。
だが、遊び続ける中でボクの尿意はどんどん高まっていき、膀胱の痛みも強さを増していく。
次第にボクの頭の片隅には、「おもらし」という単語がゆらめくように浮かんでいた。
そしてしばらくしてついに…
「あっ… あっ… あっ…」
(おもちゃを落とす音)
「キュッ!?」
膀胱に激しい痛みが走ってレプリンと遊んでいたおもちゃを床に落としたのが合図になったかのように、膀胱の力が抜けておしっこが溢れ出した。
(ジョロ… ジョロロロロロロロロロ…)
ボクはレプリンの目の前でおもらしをしてしまった。
「うっ… うっ… うわぁぁぁぁー!」
ボクはレプリンのケージの前に広がる水溜りの後ろに女の子座りで崩れ落ち、泣いた。
「未青くん…」
泣き声に気づいたのか、センセイが部屋に来てくれた。
「未青くん、もしかしてレプリンと一緒に遊びたくて我慢しちゃったの?」
「うん…」
「キューン…」
「ごめんなさい…センセイ…レプリン…」
「大丈夫よ。シャワー浴びに行こう。」
「うん…」
「レプリン、ちょっと待っててね。」
センセイに付き添われながら、ボクはいつものようにシャワーを浴びて着替えに行った。
シャワーを浴びている最中、ボクは「ごめんね。レプリン…」と思っていた。
シャワーから出たボク。そこには着替えの服を見てびっくりした。
それはレプリンの色とお揃いな、制服みたいな桜色のミニスカートだった。太ももは半分くらい露出する。
「センセイ!」
「これ?レプリンの色に合わせたんだ。」
そう言われたボクは、心の中に嬉しいという気持ちが込み上げてきた。
「ありがとう!センセイ!」
「うふふ。早速レプリンにも見せに行こう。」
「うん!」
「キューン!キューン!」
レプリンも嬉しそうな様子だ。
「レプリンも『かわいい』って言ってるみたいね。(笑)」
「うん!」
その後ボクはセンセイと一緒に、しばらくレプリンと遊んだ。
「キューン!」
-用語解説-
【アーティニマル】
アスムール民主国にて、愛玩目的の飼育を目的に開発された動物型の人工生命体。習性・感触は本来の動物と何も変わらず、同様に食事も排泄もするが、捕食本能がないため他の動物を襲うリスクがなくまた動物に襲われるリスクもないのが特徴。
大きさは10〜20cmくらいが主流だが、種類や個体によっては1mを超えることも。
強奪・盗難・投棄は処罰対象になり、譲渡もアーティニマルカフェの責任者のようないわゆる「アーティニマル営業取扱免許」を保持する人でない限りは役場の仲介が必要。
寿命は大体5年前後。死亡したアーティニマルは一応はアーティニマル製造会社側で引き取った上で別のアーティニマルに修復及び改造されるが、それは1〜2年に1回あるかないか程度のことで大抵はペット墓等に埋葬される。
非常に様々な種類がいて、一番人気の種類は猫型。
【アーティニマル営業取扱免許】
アーティニマルカフェのようにアーティニマルを鑑賞・愛玩を業務目的で飼育する際、経営者や責任者が必要な免許。
免許といっても、役場に申請して手続きや審査を済ませれば簡単に交付される。
-新しい設定付き登場人物-
ルノーナ・ロターソン(Lunona=Rotarson)
アーティニマルカフェ「ミニマムクラン」を経営する女性。37歳。亜人であり、獣人のうち兎の特性を持った「兎族」に属する。
シャピアフェの親友で、私学校時代から30年弱の付き合い。
性格:面倒見が良く優しい性格。
身長:約155cm
誕生日:6月24日
趣味・特技:アーティニマルの世話・テニス
好きな食べ物:卵焼き・うどん
好きな飲み物:カフェラテ
好きなもの:アーティニマル・小動物
苦手なもの:危険生物全般・黴獣・お化け屋敷
一人称:私
レプリン(Lepulin)
桜色の体色をした、ウサギのアーティニマル。
性別:メス
身長:約12cm
好きな食べ物:野菜全般。特ににんじん・レタス
-アスムール民主国のペット事情-
アスムール民主国では動物の生体販売が厳しく制限されているため、アーティニマル以外では家に住み着いた猫や犬を飼うことがある程度である。




