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魔術師の涙  作者: 冬雅
第三章 狂騒の夜
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第三十二話『祈りを捧げよ』

めっちゃ遅くなりました!申し訳ありません!!!


 私たち、第十六斑が森の異変に気が付いたのは遠征開始、二時間前後の事。

 最初にその違和感を口にしたのは、特高学科の先輩だった。

 

 

 「おかしい。空気中の魔力が薄い。」

 

 

 赤い髪を長く伸ばした、その先輩は第十六斑の班長を務めるオリバンダーさん。

 

 

 「班長も感じられていましたか。」

 「えっ、やっぱりみんなも? 」

 

 

 彼の発言に追随するのは五年生のトルネシアさんと、同じく五年の副班長ローバさんだ。

 えぇ、と一つ頷くトルネシアさんがその黒い長髪を払い、

 

 

 「通常、聖域内における空気中の魔力濃度は約5%程度。魔術師同士の戦闘が起こることでこれが10〜20%にまで上がることがあるのは皆さんも知っての通り。では、魔界ではどうなのかといえば、常時40%ほどの濃度で空気中に魔力が存在しています。しかし、今の周辺魔力濃度は…… 」

 

 

 彼女は眉根を寄せ、難しい顔を作ったかと思うと改めて口を開いた。

 

 

 「やはり、2%程しか感じられません。明らかな異常事態です。」

 「信号を打ち上げるべきか。」

 「いや、それより他の班と合流して情報共有が先じゃないか? ここだけということも考えられる。過敏になっているところへ下手な動揺は与えないほうがいい。」

 「だが、これは魔力過集中に違いない。どこかで大規模な戦闘若しくは魔物の発生が起こっていると考えるべきだ。」

 「そういう事態のためにある信号だろう? その推論通りだとすれば一体、どうして……」

 

 

 議論を交わし合う先輩たち。それがある一つの終着点に達したとき、口々に言い合っていた全員が黙り込む。

 そう、それこそ──

 

 

 「信号を上げられないほどの非常事態であることの証左。そういうことですね? 」

 

 

 ──つまりは、そういうことといえるでしょう。

 

 

 「スーフィア様、今は魔界。皆、過敏になっているのです。あまり変なことは仰らないでください。」

 「ですが、オリバンダー班長。それ以外に何が考えられますか。」

 「そ、それは……」

 

 

 言葉を詰まらせるオリバンダーさんに、尚も言い募るのは少々心苦しい。しかし、ここは明言しておかねばならないだろう。


 

 「ここが魔界だからこそです。皆様、努努忘れてはなりません。私たちがここへ来たのはピクニックがてら、魔物の狩りをするためではないことを。私たちは知りに来たのです。魔物という脅威を、魔物という災厄を。聖域に住まうすべての人類を守る力、それが私たちにはある筈です。」 

 

 

 だって、そうでしょう? お兄様もルミアちゃんも、守りたいもののために戦っている。いつだって、私が尊敬する方たちはそうやって、己が身さえ捧げて、その行いに従事している。

 

 

 「ですから、やれる事は全部やるべきです。信号を打ち上げ、別班に合流し、情報共有。若しくは戦闘に入っていたのであれば、介入し、手助けを行う。

 ここでただ蹲り、言い合うだけでは前に進みはしません。」

 

 

 先輩方には随分と失礼な物言いになってしまいましたが、迅速な行動が求められるのは自明の理。多少の無礼講は許して頂くことに致しましょう。

 水を打ったように静まり返る先輩方の中から、黒い長髪が割って進み出る。

 

 

 「そうね、スーフィア様の言う通りだわ。班長に、ローバ。私たちが行っているのは、ただ日々の学びを披露し合うような、学習発表会なんかじゃない。実践し、より研磨し、より進化させる。そういう類のもの。」

 

 

 そう言って、腰に付けたホルスターから信号銃を手に取り、頭上に掲げるトルネシアさん。銃を掲げた右腕をピタリと耳につけ、反対の耳を余った手で塞ぐ。

 誰かが制止する間もなく、パーンッと炸裂音が鳴り、数秒後、遙か頭上で断続的な爆発が起こった。異常事態を報せる、警戒の赤が宙を舞った。

 

 

 「これでよしっ、と。班長、移動の指揮は任せた。」

 「あ、あぁ。」

 

 

 唖然とする他の先輩たちを置いてけぼりに、トルネシアさんは素早く自分の馬へと騎乗すると行かないのか? とばかりにこちらを見遣る。

 先輩相手に啖呵を切るような、はしたない真似をした私が言えることでもないけれど、この人も中々、大胆な方らしい。本来なら、指揮系統を無視した行動をとるのは問題に違いないのだけど、今はその行動力が必要なんじゃないかしら。

 

 

 「各自、馬に乗ってくれ。速歩で森の中心部まで駆け抜け、別班と合流しつつ先生方との連絡を図る。魔物との交戦は変わらず避け、応戦は阻害系のもの、或いは撃墜ないし威力減衰を視野に入れたものに限定して撃て。下級生に限っては魔法の使用はなしだ。馬上かつ陣形の内側からでは暴発と誤射の危険がある。」

 

 

 全体への指示を終えた班長さんは、私に近づいてくると、スーフィア様は例外です、と耳打ちする。

 

 

 「貴女は阻害系魔法のスペシャリストであることに加え、一般の生徒よりも戦闘経験豊富。とすれば、我々が止める道理はありません。主要な足止めは我々に任せ、要所要所にて、手助け願います。」

 「分かりました。それと……先程の非礼はお許し下さい。」

 「えぇ、勿論ですとも。」

 

 

 ニコリと笑う班長さんは再び、顔を引き締め直し、出発の合図と共に走り出すのだった。

 

 

♢♢♢

 

 

 「何か……焦げ臭いな。」

 

 

 それは魔物との遭遇もなく、順調に別班との合流を果たしつつ、本隊とも問題なく連絡が取れそうだ、とそう思っていた矢先のことだった。

 数十名の大所帯になりつつも変わらず、私の左隣を並走していたトルネシアさん。彼女の呟きが、研ぎ澄まされた聴覚に届く。辛うじてといった具合でしたが、文意を察するのは簡単なこと。なにせ、耳で聞くより先に、私の鼻もまた、その異臭を捉えていたのですから。

 

 

 「全体、止まれ! 」

 

 

 前を行く班長さんが右手を軽く挙げ、後方へ停止の合図を送る。統率の取れた動きで全員が馬の足を止め、次の指示を待った。

 

 

 「ローバ、樹上に登り索敵及び進路の安全確認を開始。私とトルネシアで地上の索敵を行う。各自、警戒を怠るな。」

 

 

 一段と張り詰められた空気に当てられ、神経が過敏になっていくのを感じる。木々の騒めきや木立の陰、風鳴り……それら全てが魔物のものではないかと不安が募っていく。

 

 

 「まずいな、なにか近づいてくる。」

 「数は十数。足音からして、大型はいなさそうなのが幸いか。」


 

 臨戦態勢の班長たちに倣い、私も杖を握りしめ、魔力を高める。

 

 

 「班長……こ、これは……」

  

 

 と、頭上から声が降った。その声の主は無論、班長さんからの指示に従い、樹上にいたローバさんだ。

 

 

 「どうした、ローバ。」

 「も、燃えています……」

 

 

 震えた声が、木々の葉を隔てた向こうから返る。班長さんは何が、とそう言おうとしたのだろう。少なくとも私が見る限りはそのような口の動きをしていた。けれども、それより早く音がやってきた。

 

 ヒュオンッ! 

 

 言うなれば、耳元をなにかとてつもなく大きなものが掠めていったような、そんな音。

 そして……

 

 バキッ、ベシャっ

 

 ぶつかり、何かが潰れる音。

 

 

 「伏せろぉぉおおお! 」

 

 

 班長さんが殆ど怒声に近い声をあげる。何が、とか。どこに、とか。そういった疑問は二の次だった。目を瞑り、ぬかるんだ地面に転がり込む。泥が顔に跳ね、口の中に鉄の味が広がった。

 ──鉄?

 そのまま、匍匐前進で茂みにまで入り、左右の確認。さらに先程まで、皆さんのいた所を見る。

 しかし、そこはもう阿鼻叫喚の地獄だった。

 

 何十頭もの馬たちが横倒しになり、立ち上がろうと嘶いている。されど、最早馬たちは立ち上がれないだろう。馬の脚は四本から三本、二本まで減っているものもあれば、ないものもいる。今鳴いているのは今際の足掻きに過ぎない。そんな馬の下敷きになっている班員だっていた。彼らも生きている望みは薄かった。

 

 

 「──ッ! 」

 

 

 必死に口元を押さえ、悲鳴を寸前の所で飲み込む。すると、またしても鼻腔にふわりと鉄の匂いが広がり、漸く私自身も怪我をしている可能性に思い当たる。だけれど、自身の身体へと意識を向けてみても、痛覚に訴えるものはない。

 途端、私が頭から被っているものの正体が何なのかを察する。胃から酸っぱいものが込み上げ、吐き出したい衝動に駆られるがそんな真似をすれば、人の匂いを嗅ぎつけ、魔物がやってくる。それだけでなく、水分も持っていかれてしまう。

 手持ちの水筒を取り出し、口に含む。一度目は口の中に入った血を洗い流すのに使い、二度目を水分補給に。欲を言えば、血液感染を避ける為に粘膜部分は全て洗っておきたいが……そうも言っていられないだろう。

 

 

 「何人、残ってる。」

 

 

 班長さんの声だった。

 声の調子を落とし、耳を澄ましている様子。私もそれを見習い、幾らか声量を落とし、応える。

 

 

 「スーフィア・アルシェ、怪我はありません。」

 「スーフィア様……! ご無事で何よりです。敵は魔法を撃ち込んできたように思われます。馬はもう駄目でしょう。このまま、木々の陰に隠れつつ、本来の進路を左に迂回しましょう。運が良ければ、前進中の班との合流が果たせるはずです。」

 

 

 いつの間にか、近くまで来ていた班長さんが立てますか、と手を差し伸べてくる。それに対し、私は頷きながら立ち上がる。

 

 

 「大丈夫です……行きましょう。」

 

 

 目眩を覚えるような惨状から目を逸らし、迂回路に目を向ける。私と班長さんは視線の先にあった、木立の間にある獣道を通る事に決めた。とても馬では通れないような広さだが、その心配するべき馬の存在はもうない。

 襲撃者の存在は気掛かりだったが、魔法が目視できる距離に至るまで、この場にいた全員がほぼ感知できていなかったのだ。つまるところ、それは敵が私たちでは対処不可能な強力な魔物であることの証明でもある。

 けど、何故私たちの気配を魔物は察知できたのか。

 純粋な聴覚によるものだろうか? しかし、それでは縄張りに入ってきた他の魔物に対しても攻撃を加えているということになる。超長距離から正確かつ強力な一撃を一方的に放てるとしても、全包囲を対象とするのは馬鹿げているとしか言いようがない。そんな事をして生き永らえれる魔物がいるとは到底、思えないのだ。

 

 ──お兄様……ルミアちゃん……。

 

 今この場にはいない二人を思う。二人とも、私が只の女の子であることを許してくれる大切な人。

 十五大貴族。その言葉にこれまで重荷を感じたことなどなかった。願えば、大抵のことは上手くできた。それがたとえ少しずつだったとしても、昨日よりは今日。今日よりは明日、私は成長を感じ取ることができていた。

 妬み、僻み、羨望。全て、享受するつもりだった。

 私は私よりも努力している人間を何人も知っている。ただ、私は運が良かっただけ。他人より幾分、あらゆることに才能があって、環境が整っていた。それが得難いものであり、私の今を支えていることを知っている。そこに驕りなど生まれるはずもない。けれど、だからといって卑屈になりだってしない。与えられようと望もうと。或いは願い乞い、必死で掴み得たものであろうと。全てが他ならぬ、私、スーフィア・アルシェを形作るものだ。私は私を偽らない。私は私を作らない。私は私だ。

 だからだろう。今、この瞬間こんなにも自分の才能を恨むことになるとは思ってもみなかった。

 この魔界という場所は私に、急速な成長を求めている。だけれども、本来この場に立つ資格すら有さない私にとって、それは過分な代物。

 満たされ続け、満たし続け、常に私はその時々における私の最高を保ち続けてきた。

 

 ──超えなきゃいけない。

 

 今まで感じてきたそれは、勝手に決めていた天井に過ぎない。どこかで満足しなければ、人は力に溺れてしまう。

 

 『持つ者はその飽くなき力の探求を追うも追わぬも決める権利がある。されど、求めた力にはそれ以上の責任が伴うことを忘れるな、スーフィア。』

 

 意識の深層から浮上したときには班長さんの息があがっていた。知らず、私自身も長い間息を止めていたらしい。少しお行儀は悪いけれど、深々と息を吸い、そして吐き出す。二三、繰り返せば平常通りになった。

 

 

 「スーフィア様はお強いですね。」

 

 

 ここまで沈黙を守っていた班長さんが声を発する。先刻のことやペース配分が乱れてしまったことに対する申し訳なさからくる言葉だった。

 

 

 「班長さんも十分過ぎるほどに。西のご出身なのでしょう? 」

 

 

 班長さんは一度、目を瞬くも、自身の右腕を見て、すぐに納得したような笑みになって答えた。

 

 

 「訛りは随分と前に抜けたと思ったのですが……これですか? 」

 「えぇ。私は殆どあちらで過ごしたことはありませんが、自分たちの管理する場所の特産品を忘れることはありません。」

 「そうですか……いや、そうでしょうね。アルシェ家今代の当主様を見たのは一度きりですが、そのご親戚であられる領主様はよく村々を周り、気さくに私たち平民にも話しかけて下さっていた。その領主様の精神がアルシェ家の柱であるならば、その中心たる場所で育ったスーフィア様に受け継がれていないわけがありません。」

 

 

 班長さんは遠くを見るように目を細め、昔を懐かしんでいるようだった。私は周囲の警戒に努めながらも班長さんの声を、まるで何か神聖な詩を聞くかのような気持ちで耳にしていた。

 

 

 「領主様はよく仰られていました。『自分の目で見、自身でよく触れ、自ら地を踏めば、自ずと真は視えてくるものなのだ』と。十五大貴族というあまりにも大きな地位に座しながら、領主様は常に最前線に居られた。私たちはそんな領主様が大好きだったし、その心を学び育った。それで万事、上手く回っていた。」

 

 ──あの日までは。

 

 前置きする班長さんの声は仄暗い。誰もが知る災厄。誰もが忌む最悪。

 

 

 「力のない自分を恨み、幼い私を残していく両親を憎みました。『きっと、大丈夫』。そんなのろいのような言葉を残し、両親は私を叔母たちに託し、探索隊に志願した。」

 

 

 ……そして帰ってこなかった。

 班長さんが口にしなかった言葉は容易に想像できた。

 

 

 「ですが、今我々はその地を越え、魔界にいる。この辺り一帯の安全が確保されれば、もうこれ以上、聖域の崩壊に怯えずに済む。墓を荒らされ、死者を冒涜される心配もなくなる。それだけでなく、人類はいつか聖域を飛び出し、この広い世界に羽を広げて飛んでいけるようになる。誰かが犠牲になることなく、フロンティアの存在しない世界を実現できる。」

 

 

 それは言霊だった。粗く、けれど熱く燃え盛る炎。それが一寸先も闇と知れない魔界にいる恐怖を和らげてくれた。

 その望みは、胸に灯火を与えてくれた。微かな活力が湧いて出る。

 

 

 「信号弾が見えました……! 行きましょう! 」

 

 

 ふと、その時、遠くを見遣っていた班長さんが控えめながら叫んだ。その指差す方向を見れば、赤い信号弾が上空へ打ち上げられている。

 私たちは顔を見合わせるとその場へと急いだ。木々を掻き分け、最小限に抑えた魔力ではガードしきれなかった部位に引っかき傷を作りながらも懸命に走った。

 赤い信号弾、ということはその下では危機的状況に陥っている人がいる。なりふり構っていられる場合ではなかった。

 考え得る限りの最速。できる、出来ないではない。やるしかない。

 逸る心臓の赴くままにしながら、冷静な頭では、救出の段取りを考えていた。

 もしも、魔物との戦闘中だったならば、遠距離からの援護射撃が有効だろう。近づき過ぎれば味方の誤射を受けることにもなりかねない。

 或いは魔物は辛うじて倒したものの、壊滅的な状態だった場合、厳しい決断を迫られることになる。回復させたとしてもここから聖域、またはセーフティゾーンまでは距離がある。その場で結界を作るだけの魔力が全員に残っていたなら、望みはあるが……。

 この二つは前者と後者、どちらが良いとも言えない。前者で尚且つ後者となることもあるが、余力を残せていれば、状況は好転する。

 

 味方からの誤射を避けたい私たちは、信号弾を打ち上げ、接近を知らせる。

 そして、班長さんと頷き合い、一気に魔力を全身へ漲らせる。

 聖域で使う全力の身体強化とは全く別物の万能感。一歩踏み出すごとに、周囲の風景を置き去りにできる程の疾走感。どれだけ魔力を解放しようとも使った分から補填されていく。まるで、それは底抜けの器に水を延々と注ぐような感覚。脳裏に数々の呪文が浮かんでは消え、また現れたかと思えば、使えと訴えてくる。

 

 

 「スーフィア様、魔力の渦に負けてはいけません。貴女ほどの才があれば、きっと色んなことができるのでしょう。しかし、基本に忠実である事が生き残る最善の術です。」

 

 

 高揚した気分の中、そんな班長さんの声が聞こえてくる。

 その言葉で、自身が必要以上に魔力を垂れ流していることにはたと気が付いた。

 

 

 「……! ありがとうございます。」

 

 

 私の中に芽生えた驕り。指摘されて初めて気が付くその愚鈍さに、私は私自身を恥じ、戒めることで冷静さを取り戻した。そうして、覚めた頭で目の前の光景へと集中する。

 

 目前で繰り広げられているのは紛うことなき戦いだった。

 ここに至るまで、私たち同様いくつかの班が合流したのだろう。一目見て、30〜40人程度の学生が、六匹の狼型と戦っていた。

 魔物は私たちに背を向け、まだコチラに気がついてはいない。一方、魔物と対峙する学生たちも魔物の影に隠れた私たちを見つけられてはいないようだ。

 

 

 「接近を知らせたとはいえ、ここでは私たちの魔法も味方に当たりかねません。移動しましょう。」

 

 

 少し距離を取りながら、学生たちと魔物が交戦するちょうど真ん中付近右翼へと私と班長さんは移動する。幸いにして、味方の魔法も魔物の感知も届かなかった。

 

 

 「では、私の魔法で魔物たちの動きを止めます。班長さんはトドメを。」

 「分かりました、スーフィア様。」

 


 本来であれば、私の捕縛魔法では人三人分程度の拘束が限界だが、それは魔力が限定された聖域内部の話。魔力が潤沢にあるここでは、《捕縛布》の強度も長さも五倍以上には出来るだろう。

 

 

 「『汝、天と地を結ぶ者なり。汝、遍く咎人の赦しを聴く者なり。我に仇なす者を囚えよ《捕縛布》』」

 「『誰ぞ彼も分からぬ古の幽霊。名もなき調べに声乗せて。其れは居なくなる《去無》』」

 

 

 私の詠唱に合わせ、青い布が魔物たちの四肢を地面に縫い付ける。やがて、それは口元にも伸び、身動き取れなくなった狼型のそれらに班長さんの放った魔法が直撃した。

 太く白い閃光が駆け巡り、魔物たちの影を飲み込む。ギュッと閉じた瞼を開いたときには、魔物たちの姿はなく、深く抉れた地面だけがあった。

 


 「お疲れ様でした、スーフィア様。」

 「班長さんこそ、お見事でした。」

 

 

 互いに称え合い、私たちは学生たちの方へと歩み寄っていく。

 班長さんはいち早く、戦闘から切り替え、状況説明を行った。その中、私は襲われていた学生たちを観察する。皆一様に窶れ、傷付いてはいるが、どうにか誰も亡くならずに済んだようだった。

 

 

 「ルミアちゃん……」

 

 

 メルクリウス君やカルロさんにアルトさん、アリシアちゃんもここには居ない。それが無性に不安を掻き立てる。

 

 ──このまま、全員生きて帰れれば……。

 

 そう祈らずにはいられない。

 地獄の出口は未だ見つけられそうにもなかった。

 


 

 

 

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