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魔術師の涙  作者: 冬雅
第三章 狂騒の夜
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第二十話『遠征のお供 其の二』

一ヶ月まるまる空けてしまい申し訳……!



 教室を逃げるようにして去った後、職員室に駆け込むと待ってましたとばかりに幾人かの教員に囲まれ、質問攻めにあうがこっちとしては公の場以上の説明をしろ、と言われても困るものがある。どうしようかと悩んでいるとよく見知った顔を見つけ、程なく相手方もこちらに気付いてくれたよう。金髪の男性教師が爽やかな笑みを携えて、進み出てくる。

 

 

 「やぁ、ルミア君。君がこっちに寄ってくれて助かったよ」

 

 

 そう言って、現れたローニウス先生に連れられ、職員室に出来たちょっとした人集りから離れる。

 

 

 「すまないね。全職員に対して隅から隅まで説明するわけにもいかなかったものだから僕や一部の先生方にしか詳しい説明はないままだったんだ。彼らも迷える羊というわけなんだよ」

 

 

 苦笑紛れに先の出来事を説明する先生は指を振るい、紙束を手元に呼び寄せる。

 それが目の前に差し出される形で中空に制止する。流し見てみると大まかな指南方針と今遠征において求められる学生の実力、その指標が記されており、それらについて効果的に伸ばすための実践的訓練の内容が幾つか記載されているようだった。

 

 これは?とローニウス先生にもの問い顔を向けると先生はいつにも増して真剣な面持ちで、されど必要以上に怖がらせる事を嫌ってか、声色だけは明るいままに言う。

 

 

 「僕も担任教師として君にばかり負担をかけるつもりは毛頭なかったからね。なに、ディテールから概要まで全てを教育者としてまだまだ新米の君に一任してしまっては信用以前に責任の放棄になってしまうと思ったまでだよ。これが少しでもルミア君の力になるといいんだけど」

 「それは──もう。先生の言う通り、私は教官としては半人前もいいところです。重ねて、魔術師としての腕も人にとやかく、言える程のものじゃない……」

 「いやいや、そう気落ちするものでもないさ。君の歳で魔術師ランク9741位。本来ならば、これはちょっとした偉業だよ。寧ろ、今までどうして噂にならなかったのかと疑問に思うくらいにはね」

 

 

 私の言葉を謙遜と受け取った先生は励ますようにそう言うが、歳で言うならば心中比べる対象が私の場合、些か大き過ぎた。先生には悪いがそんなお褒め(・・・)の言葉も焼け石に水というもの。

 

 自身の言葉が私の心に届いていないことを知ってか知らずか、先生はそれでばさりと慰めを口にするのを止め、ごほんとひとつ咳払いを挟んで話を本筋に戻す。

 

 

 「兎角、我々だってなにも考え無しに君にこのことを任せたんじゃない、ということだよ。それは君が幼くして軍部に所属していることやその文字通り、学生身分における桁違いの魔術師ランクを見てのものじゃない。そんな見かけ倒しの代物じゃなく、君が直に多くの生徒と触れ合うことでその命のかけがえなさを知ってもらおう、とそういう魂胆な訳だよ」

 「……そんなことを話してしまってもよろしいのですか?」

 「ははは、それでルミア君の心の赴く先が変わるのなら、或いは話さないでおくべきかと僕も思ったかもしれないなぁ。けれど、そうじゃない。君は知りもしない生徒たちを守ろうと既に決意を固めつつあるだろう。なればこそ、君が守ろうとする命を知ることは君にとっても生きる活力を与えるんじゃないか、とね。そういうわけだから君に教育者としての苦悩を味あわせるつもりは勿論ない。勝手に命を背負わせているんだ。その他諸々の苦労は僕らだけが味わうさ」

 

 

 言って、ローニウス先生はそれじゃあ、と溢して職員室の方へと去っていった。

 

 

 「生きる活力……」

 

 

 先生が去った後、一人呟いてみてもそんなものが目的だけを見れば交流会じみた、この訓練で果たして得られるものだろうかと首を傾げたくなる。

 

 とはいえ、職員室を訪れた当初の目的はローニウス先生の準備の良さに助けられ、十全に達成することができた。あとは貰った訓練メニューと自分自身で考案したものとで選り分ける作業を訓練棟へと辿り着くまでに終えれば、事前準備は完了だ。

 

 一人、何処かへと消えたメルクリウスのことは気掛かりだが彼の心無い言葉に心ある人間として胸中をざわつかせているのはいつもの事。メルクリウスの言ではないが、いい加減、私も私の弱さを認めて、それが在中していようがいまいが一本、芯のあるものとならなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練棟に着くと中は人でごった返すような様子──なんてことはなく、普段、訓練棟を使用している生徒数に加えて、百人ちょっと増え、魔法によって拡張可能な空間であるこの棟においてはまだまだ収容可能域にあるらしい。

 

 それもこれも私が教えるのが専ら、下級生相手だからであるからだが、その間、上級生たちが何をやっているかといえば学院の教官に実戦形式で扱かれているのだとか。


 しかしながら、そういった理由から下級生のみが今現在、私たちの使用する訓練棟、地下第一階層に集まっているのであるがその人数が普段の利用人数より百と少しばかり多いというのだから、レニオレア学院の一から三年の殆ど全員が集まった計算になる。

 

 集会場でのお披露目では数が多すぎて、一個人ずつを認識しているというよりは巨大な一個の集団のようにして捉えていた節がある。しかし、こうして四百数十余人もの人間たちに好奇の目で見られるとどうにも一人一人の存在を知覚せずにはいられない。

 

 魔術師はもとより非魔術師に比べ、知覚領域が下は数十から上は数万倍とも言われるほどに広い。これにおける脳のオーバーフロー問題があるが、多くの魔術師はこの魔術師的感覚、第六感ともいうべき五感との相互補助機能に制限を設ける事で日常生活を不便なく過ごしている。

 そんな中でも、どうにも上手く制御出来ないのが魔力の感知だ。つい先日にも体内魔力の波形による探知魔法を用いたが、それは元を辿れば魔術師に標準的に備わっている魔力を感じ取る力を魔法として更にその精度と彩度を上げることで特定の人物を探り当てる魔法である。

 これは遠見に目を細めるのと似ている。魔力を用いている為に定義としては魔法と分類されているものの、どちらかと言えばテクニックに近いかもしれない。現に学院ではそもそも人探しなんて事をする想定をしていないので学ぶことは無いそうだ。私はと言えば、《イーラ》の性質上、この探知魔法が主立った捜査の手法であったからもう少し多彩な使い分けも可能であるが、それはともかく。

 

 この感覚を完全に遮断するというのは魔術師にとっては謂わば目隠しにも似た状態であるからして、特に意識して閉ざさなければならない。この意識して閉ざすというのが私は大の苦手なのだ。重ねて、私は平均よりも幾分、この感覚が鋭い。これで何故、支障を来さなかったかといえば、軍部での任務は常に気を張っていなければならなかったからそもそもそれなくして生きてはいられなかったからだし、学院に来てから今まで多人数から意識を向けられる時と言うのは多量の魔力を有する魔術師──要するに警戒の対象になり得る存在──が近くに居たからだった。

 

 それが今回はそういった存在なくして非常に多数の人間に囲まれた状態になっている。

 

 なるほど、たしかにローニウス先生のいった一人一人の"命のかけがえなさ"とやらを感じるには十分効果のあることかもしれない。

 

 魔力は魔術師にとって魂のようなものだ。指紋のように、否。指紋よりも尚、偽り難いのが体内魔力の形。燃ゆる炎の様な魔力波を持つ者がいるかと思えば、静謐な泉を湛えるものがいる。

 勿論、それらは魔法を使わなくてはただイメージ図みたく私自身の脳に浮かんでいるだけの話だ。目に映り、直接触れられる形あるものではない。

 

 けれど。だからといって、感じたものをないものとすることも無理がある。

 

 

 『皆さん、こんにちは。私は今回、魔界遠征事前訓練特別教官を務めさせていただくルミア・ラルカです。よろしくお願いします。まずは今からお配りする、資料にお目通し下さい。』

 

 

 魔法によってこの広い訓練棟の四隅にまで私の言葉が声量を落とすことなく届いていく。と同時に拡声魔法の使用により性質の変わっている空気に再度、自身の魔力を充て、ローブの袖から滑らせ出した杖を振るうと《想庫》から多量の紙が巻き上がり、飛び出す。それらは先にローニウス先生から貰い受けた訓練メニューと私の考案した訓練メニューとで採択して作った、これから一週間のメニュー表であり、彼らが一週間後、再び聖域に帰ってこられるかどうか、その命運を握るものである。

 

 それをわかっているのか、見た目変わったところもないその紙束を手に取る彼らの手にも自ずと力が入る。真面目な生徒ほど私の言葉に耳を傾けようと目だけは前に向いているが意識はとうに手にした紙束に向いている。

 

 そんな様子は状況が差し迫ったものでもなければ、微笑ましいものとして映ったに違いない。しかしながら、今現在彼らが抱いている危機感は寸分たりとも間違ってはいないのだから、如何な陽気者といえどもこれを笑える人間はいないことだろう。

 

 

 『見てもらえれば分かる通り、これはあなたたちの今後一週間の訓練メニューです。全体で総括して都度、説明を交えて行います。また、この集合演習の他にも個々人で行うことの出来るものも多くあります。それらについても本日最後にご紹介させて頂きますので何卒、最後までお付き合い下さい』

 

 

 一礼で締めくくり、挨拶もそこそこに神妙な面持ちの生徒たちへ私は早速、十人一組のグループを作るよう、指示を出す。

 


 無用な時間の浪費を避けるため、このグループ分けには配布した、トレーニングメニュー記載の紙に刻印されているNo.001〜500までのランダムな番号に従ってもらった。

 無論、ここにいる生徒の数は五百にも満たず、また十で割り切ることもできないために最後の一組に関しては調整が必要だ。しかし、十人組をいきなり何の条件もなしに作って貰うよりは遥かに効率がいいだろう。なんたって今は生徒の自主性や絆を深める目的はないのだから。

 

 最後の微調整を終え、再度私は拡声魔法を用いて全体に指示を出す。

 

 

 『では、まず皆さんにはグループ別に更に二チームに分かれて頂き、それぞれ結界へと入っていただきます。その後、チーム毎に人間側と魔物側に役割を割り振って、模擬戦を行ってください。但し、魔物側となったチームには《透明化デュビア》を使って頂いた上でこちらを使用して頂きます』

 

 

 私はそこで一度、言葉を切ると如何にも意味ありげに指を打ち鳴らしてみせる。

 実際それは意味あってのこと。さもなくば、こんな私には到底似合わない真似なんてしやしない。

 

 私のフィンガースナップを合図に各生徒に配られたメニュー表(その中でも通し番号の一の位に1を持ったもの)が光り、そこから数十センチ程度の紐が現れる。

 

 突然、出現したそれに対して生徒たちが困惑の表情を浮かべているのを他所に私は説明を続ける。というよりも彼らの疑問を解決するためにも、そして時間という縛りに対してもさっさと説明してしまった方が効果的だ。

 

 

 『これは魔導具の一種であり、伸縮自在の紐【アリアド】。この紐は魔力を通すことでその長さと硬度を変化させることが出来ます。しかしながら、この紐は一度、魔力を流した魔術師に対しては貪欲にその魔力を求めるようになり、魔力コントロールに意識を割かなければならないのはもちろんの事、慣れないうちは魔力の強制徴収による疲労感に襲われることでしょう』

 

 

 そこまで説明してから予め、《想庫》より持ち出していた現物を皆にも見えるように高く掲げてみせる。四百人弱もの人間に一気に見せることは叶わないから取り敢えずは最前列の組にだけでも分かるよう説明する他ないのがタイムロスを感じるところではあるが、しかし。

 

 

 『この紐は流した魔力の量や質により変化します。例えば、微量であっても魔法を用いる際のように練り上げた魔力を流せば……』

 

 

 言いながら、手にした紐に魔力を流しながら上へと振りかざし、敷物の皺を正すように空を切るとカシャンと硬質な音が訓練棟に響いた。それと共に幾人かの感嘆の声が漏れる。一時的にとはいえ、教官の立場にある身としてはそういった反応は素直に喜ばしいことと見るべきか。

 

 

 『このように短刀のような硬さを持ったものへと変わります。今回、皆さんにやって頂くのはこれとは逆に魔力を限りなく自然な状態で流しながら、紐の長さを維持するだけの魔力量を込め、魔物側となった五人全員の腰に巻き付けたまま、模擬試合を行うことです。そして、人間側となった五人は目に見えない相手方を魔法を使わずに微細な空気の揺れや音、或いは魔力を感じ取ることで敵の攻撃を避け、場合によっては倒すのが目的となります。以上で全体としての説明は終えますが、順次私自身が見回るつもりですので質問や助言等についてはこの場ではお控え下さい。』

 

 

 さて、と。説明を終えた私も課せられた仕事をしなければならない。

 

 組み分けも終わったところで早速、指導に移ろうと周囲を見てみる。そうすると気付くのは見知った顔の数々だ。特高科生としての意識の高さがそうさせるのか、はたまた同じクラスに所属している関係上、私の動向を追いやすいからか。何れにせよ、最前列で固まる一団が一年特高科の面々だった。

 

 そこにスーフィアたちの姿を認め、まず手始めに彼女らのグループから見学させてもらうことにした。とはいえ、私から見てスーフィアはこの学院の中では一頭地を抜いている。カルロやアリシアに関してもそれに次ぐポテンシャルを持っているように思う。問題があるとすればアルトの魔力量の少なさだが、彼はそれを補う知識や頭の回転を持っているためにブレーンとしての活躍を期待することが出来るだろう。

 

 他に注目すべきクラスメイトと言えば先日、アルトと話していたリパルシェか。十五大貴族筆頭の家系であるスーフィアに次ぐ学年二位の魔術師ランク。これは何かしらの功績を打ち立てていなければ如何なレニオレア学院の生徒といえども到底得られるものでは無い。そこで調べてみれば、どうにも学院入学以前にとある魔導具の発明に携わっていたらしいことが分かった。

 

 手伝いとはいえ、クラスメイトに魔道具の発明者がいた事に今の今まで気づかないとは私の盲目っぷりには自分でも呆れるばかりだ。この驚きと呆れの入り交じった感情を味わうのはスーフィアやアリシアが十五大貴族の血筋にあることを知らなかったとき以来だ。……私はもっと周りのことを知らければならないな。

 

 兎も角、今は目の前のことに集中するべきだ。仲間内で先の説明について確認しているスーフィアたちに声をかける。

 

 「スーフィア」

 「ルミアちゃん、お疲れ様です。先程のご説明、とても分かりやすく、様になっていましたよ」

 

 

 バッチリです、とサムズアップをしてみせるスーフィアはその軽々しい言動とは裏腹に中々どうして気品を湛えた、深窓の令嬢然とした格好までは崩れない。

 

 

 「ふふっ。似合わないと思ったでしょう?私には青い血が流れていますから、どうしても赤くは染まれないのです」

 「青い血……?」

 「えぇ、旧くは高貴なる血を、今では貴族という搾取する側であった人間を揶揄して、そう呼ぶのが習わしなのです。これ、鉄板ジョークなんですよ?」

 

 

 微笑を浮かべながら、そう語るスーフィア。本来、随分と皮肉が効いた話である筈だが、彼女の悪戯気な表情が暗い背景を聞き手に連想させず、それがこれを冗句として成り立たせているようだった。


 

 「スーフィア様、御自身をブルー・ブラッドなどと仰るのはお止め下さい……。ルミアも真に受けないでね」

 

 

 しかし、聞いている人の中にはそう簡単には受け取れない人間もいるらしい。そっと注意を添えて、アリシアが歩み寄ってくる。アリシアは以前までの居丈高な態度は鳴りを潜め、今では別人のようなしおらしさを持つようになった。しかし、元より真面目な性格は中々変わるものではないのか、馴染んできた最近は優等生然とした発言が目立つようになり、特に貴族としての振る舞いについてスーフィアはお咎めを喰らう事もしばしばだ。それに対し、スーフィアは「はいはい、アリシアちゃん。分かりましたから」なんて言ってまた、スーフィア様!と駄目だしを受けている。

 

 そんな姿は傍から見ても最初に見たそれよりも遥かに良くなったように思えるし、なにより応対しているスーフィアの表情そのものが明るい。アリシアの顔も必至に眉根を寄せて怒った表情を維持しようとしているが今にも全くしょうがないですね、なんて言い出しそうだ。

 

 私は茶番劇をしている二人を微笑ましく思いながらもスーフィアたちのグループに対してはちょっとしたアドバイスをするだけに留め、次のグループへと移った。去り際、スーフィアとアリシアの二人、それに名前も覚えていないクラスメイトたちが「頑張って」とエールを背に送り出してくれたのがなんとも心温まった。

 

 矢継ぎ早に次のグループへの指導を始めながら頭の中で再度、指導方針の構築を始める。

 

 特高科の練度は普通科の比ではない。それを考えればスーフィアたちのグループの優先順位は明らかに下に位置することになる。更にスーフィアは捕縛系統の魔法に適性があった。今回、肝となる【アリアド】の扱いが最も生徒たちの課題となるはずだ。しかしながら、最初のグループではこれをスーフィアの魔法適性が克服してくれる。実際にものの数秒、触れて直ぐにスーフィアはこの魔法の紐の操り方を理解したらしい様子を見せていた。加えて貴族として高い教養をもつアリシアがいれば準指導員として活躍してくれることだろう。これら上記の理由からスーフィアたちのグループの優先順位を最下位に近い場所に位置付けたのだが未知数なのは他学年の特高科生たちだ。一年から三年の普通科生なんてものはたかが知れているものの特高科生の中には才人が紛れていることがある。それらイレギュラーがどれだけ機能してくれるかも魔界遠征が大成功を収めるか、小規模の成功に留まるかが決まる。もちろん、目指すべきは完勝、つまりは全員生存であるから、本来ならば運や才能に頼ったこのやり方は好ましくないし、もっといえば下も下の策だ。

 

 しかしながら、私が補完できる所は多い。今日の結果を含めて組み立て直すことも視野に入れ、全員分までは難しくとも各グループの課題を見つけることは出来るだろう。それを受けて明日からはグループごとの個別訓練へとシフトチェンジするというのが今の腹積もりだ。

 

 

 

 前半のグループへの指導を終え、想定していた時間よりも早く、第一項目を終えられそうなことに安堵の息を吐きたくなるのを堪えていた頃。

 

 ふと次に指導の対象となるグループへ目をやると不快な人物の姿が視界に入る。

 

 されども幾ら憎悪すら抱く相手といえどもその取り巻きには無関係な生徒もいる関係上、そこだけ飛ばすことも出来ない。

 

 

 「ヒュー。生徒ごっこに興じていた酔狂な兵隊さんのお出ましだぁぜ。いっちょ前に才能を誇ってやがる奴らを見下すのはもう飽きたのか?」

 

 

 出会い頭の憎まれ口。私が軍属魔術師と知っても変わらないその態度には何処か不気味な印象さえ抱く。

 

 

 「ヘレオン。私は今、教官という立場であなたたち生徒に接している。その権益を笠に着て言動を改めろとまでは言わない。だけど、この場にいる以上、私の指示には従ってもらう。和を乱すような真似も謹みなさい。さもなくば、ここにあなたがいる必要は無い」

 

 

 願わくば、魔法の一つでも仕掛けてこないだろうか。そうすれば、私だって少なくとも一発くらいは許されるだろう。何なら、決闘をしたっていい。但し、それをすれば周囲の集中力を削ぐ結果になる。時間の無い現状、私情を挟むにはあまりにも余地がない。

 

 

 「おぉ、こわ。同じやつが言うのでも軍人だと知らないのと知っているのとじゃ凄みが違うもんだなぁ!それとも言っている奴の方が人の理ってもんを知ってんのかぁ?」

 

 

 私の普段に比べ、いくらか高圧的な態度にしかし、へレオンの方は平常運転で相対する。そして、こうして会話を交わせているということはつまるところ、訓練なんかそっちのけであるということ。私が来たから一時的に辞めていたというものでもない。そもそも、へレオンは、と言うよりへレオンのグループや周囲の一年普通科が含まれた多くのグループには訓練参加の意思が認められない。

 

 周囲に一瞥をくれると大半が目を伏せる中、へレオンの取り巻きとして顔に覚えがある何人かは不敵な笑みを浮かべるだけ。それを見て、私は面倒を悟る。

 

 つまりは命知らずたちによるボイコットだ。

 

 

 

 

 

 

 

もう少し、魔界遠征前のいざこざが続きます。今暫くお付き合いを。

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