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魔術師の涙  作者: 冬雅
第三章 狂騒の夜
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第十三話「あなたと私で 参」


 学院生徒の出現そのものは想定外と言えるほどのものではなかった。寧ろ、この状況下では年齢的観点からみて、学院生が主だった暴動の首謀者となり得る事が予想され、それを考慮した為に副学院長は防止策としてあの放送を学院長並びエルザックさんに勧めたのだから。

 

 とはいえ、その効果の程は見ての通り、実を結んだとは言えない。

 

 メルクリウスに呆気なく接近を許した学院生徒四人。彼らはボロボロの街道に辛うじて残った建物の残骸の陰に隠れて私たちを狙ったらしい。今や、彼らは蛇に睨まれた蛙が如き様子で立ち竦み、誰一人として杖やその他の魔法媒体を構える事も出来ていない。

 

 そんな無防備極まりないへレオンの取り巻き四人組に対して、最初に行われたのは殴打だった。

 

 何の魔力も伴わない、純粋な筋力による打撃。それが四人の内の一人、ひょろりとした眼鏡の頬にクリーンヒットし、その一撃で眼鏡が派手に倒れると固まっていた三人も漸く、目の前の生徒が自分たちの攻撃に対する報復を行った事を理解したらしい。

 

 仲間が一人、一撃でのされたというのに妙な落ち着きを見せているのは腐っても最高峰の魔法教育を受ける学院生徒といったところ。そして、憎たらしいことこの上ないがへレオンの云うように実戦的な戦闘を教えられているというのは本当のことらしい。

 

 倒れたヒョロ眼鏡を避けて、快活そうな黒髪の女生徒が杖を取り出し、その杖先をメルクリウスの顔――正確には目――に定め、魔法発動前の特有の輝きが杖の先に灯る。

 

 人は見かけによらないとはいうも、見た目スーフィアのようなお淑やかさを持つ彼女がそんな堅実な目潰しを行った事がバックにいるだろう、へレオンを彷彿とさせる。更に残りの二人は最大出力の魔法を放つため、それぞれ詠唱魔法を紡ぎ、傍目から見てその集中砲火を食らうことになるメルクリウスは絶体絶命の状態にしか見えない。

 

 とまれ、次に起こる事は大方予想の付くことでけれども彼が魔法の使えない現状、どんな風にその状況を覆すのか、と興味があった。

 

 彼が人相手に戦うところを見るのはこれで四度目の事だ。いずれの状況においても彼は魔法の使用を許され、結界の内側という限定的状態での戦闘だったが、今度はそれとは異なり、魔法を使えないという誓約下で魔法を使う人間を相手にしなくてはならず、彼の考えを尊重すれば生徒を殺すことなく、戦闘不能にすることが勝利条件として設定されている筈だ。

 

 また、これは彼が私やカルロのように比較的近い位置にいる人間以外に対して、自らの実力、その片鱗を見せる初の機会であり、生かすことを前提とするならば、彼は如何にして自身の素性を勘付かせることない戦い方を見せるのか――と思考を巡らせる私を他所に目の前で展開されたのは舞踊だった。

 

 コマ送りになった世界でメルクリウスは瞳を閉じた。そして、その場でしゃがみこむとそのまま、猫のように靭やかな動作で自身に杖を向ける女生徒に近付き、足を払う。彼女の足が地から離れた一瞬の間に煌々と瞬く目潰しの魔法が暴発。彼女自身はそのあまりの光量にその場で気絶。

 

 彼らが攻勢の初手として打つ筈だった魔法は翻って彼らの目を焼き、メルクリウスに完璧に合わせられていた照準は今や彼の髪先一寸も捉えることなく。

 

 詠唱魔法が先程までメルクリウスの居た地点で交差し、小規模の爆発が起きるがそれにも構わず、女生徒に対する足払いを敢行したメルクリウスはその四足歩行を模した体勢から目測にして、十歩ほどの位置にいる左右の男子生徒へいつの間に拾ったのやら、街道の破壊によって生まれた石ころを投擲。

 

 味方の魔法で視界を奪われていた二人は避けることも出来ず、石礫を受けて負傷するが、しかし。その攻撃によって相手に与えられるのは目に見える傷だけじゃない。目の前に垂らされた暗幕の向こうから飛来したそれは運が悪ければ、或いはもっと彼我の実力を正確に測れるならば、投擲者が殺す気でいたならば、と恐怖が妄想を肥大化させ、自然、戦意が削がれていく。そして、最後には――

 

 

 「す、すまない!こんなつもりじゃなかったんだ!へ、へレオンさんが“魔法を使って騒ぐ奴らが居るだろうからそういう奴をやっつけろ“って!だから、これは俺たちの早とちりで……!」

 

 

 ――こんな風にみっともなく降伏する。

 

 とてもではないが、いきなり私たちを狙ってきた手前、あれは誤射でしたとは言い難い。けれども、それを堂々と言えてしまえる辺り、彼らはよっぽどに面の皮が厚い。

 

 一体全体、へレオンという如何しょうもないクズの何処が彼らの忠誠を集めるというのだろう。甚だ疑問ではあるが、事実として普通科生徒の大部分がへレオン・パルシェリアを慕っている以上、彼に何らかのカリスマ性及び特異な能力があると考えるべきだ。と同時にそれを明かす努力もまた同様にすべきである。

 

 然らば、メルクリウスの雪辱を果たすのにも一役買うだろう。メルクリウスが積極的に排除しようとすることはないにせよ、へレオンの鼻を明かすぐらいはしなければ、あのゴミを生かしておける気がしない。

 

 

 「ルミア」

 

 

 メルクリウスが此方を見遣る。それで大体、その意図が汲み取れるというのだから、私も案外、メルクリウスの事を分かってきたのかも知れない。

 

 メルクリウスが尻餅をついているオカッパ頭の襟腰を掴み上げ、もう一方の言い訳がましくメルクリウスへ降参の言葉を吐いた柄の悪い男子生徒からは見えない建物の影まで引き摺っていく。

 

 無論、その様子を見ていた不良風は先まで浮かべていた、これで助かるという見え見えの安堵に包まれた表情を凍りつかせた。そして、次には近付く私へ媚びへつらった気色の悪い笑みを向け、一言。

 

 

 「な、何する気でしょうか、ヘヘ」

 

 

 あんまりにもその様子が哀れなものだから、私も可笑しくなって、口角が意図せず上がってしまう。答えなんて口で説明せずとも分かるだろうに。

 

 

 「尋問」

 

 

 私の言葉を合図に私の腕には雷が蜷を巻き、バチバチと鳴り響く雷鳴と共に半径三メートル程の空間に円形の檻が現れる。

 

 生憎と私は記憶を探るのが得意ではない。では、情報の収集が出来ないのかといえばそうではない。喩え、魔術師と言えども痛みを感じることは出来るし、それが魔法という体の芯を襲うような痛みであれば尚更だ。

 

 目の前の不良風が洗いざらい知っていることを吐くのも時間の問題だろう。

 

 怯えた目で私を見る不良風は追い詰められた獲物のよう。帯電した手を胸の前で開閉させながら一歩近付く。そうすると「ひッ――!」と鋭く息を呑む音と共に不良風は尻餅をついた状態からじりじりと後退りを始めるが、しかし。私の作り出した檻の手前でその動きも止まり、いよいよ持ってして、不良風はただ毛皮を刈り取られることを待つ哀れな羊と化した。

 

 さて、問題は最初に聞き出す内容だ。尋問において、大切なのは相手につまらない嘘をつくよりも軽い嘘を交えてでもより真実に近い内容を吐いたほうがいいとそう思わせること。若しくはデッド・オア・トゥルーで聞き出すというのが一番手っ取り早いが……いくら襲われたとはいえ学院の生徒を殺す事は躊躇われる。それに今回の場合、その裏は大方、想像の範疇を超えないだろう。

 

 とまれ、事実と想像の中の現実を履き違えてはならない。答えがあるならば、それをみすみす手放すべきではないだろう。

 

 

 「何だ!何が知りたい!言ったろ?!ヘレオンがやれって言ったんだって!間違えちまったことは悪いと思ってるし、それに――」

 

 

 バリバリバリバリと雷撃が一つ不良風の両足の間に落ちる。

 

 

 「ぎゃっ、ぎゃあああああ!!!」

 

 

 いちいち動きの煩い不良風はその驚いた時の反応で背を薄く電気が伝ったか、雷撃に悲鳴を上げたかと思えば、背中に走る痛みにまたしても苦痛の声を漏らし、これでは尋問をする前に自滅してしまうのではないかと思えるほどの道化っぷりだ。

 

 そんな私の予感が的中する前にさっさと要件を済ませて、襲撃犯五人を学院に突き出し、証拠が揃い次第、ヘレオンも学院から追放してしまおう。

 

 メルクリウスが普通の生活を享受する上でああいった輩は必ず、障害になる。――もう、メルクリウスがあんな下衆を相手に、例え、それが演技で彼の狙い通りなのだとしても負ける所なんて見たくない。結局は私の押し付けがましい望みなのだとしても、それでも。

 

 

 「何故あなた達はヘレオンを慕う?あのゴ……あんな奴のどこにあなた達を惹きつけるものがあるの?」

 

 

 不良風は逃げられないと観念したのか、私の質問にポツポツと答え始めた。

 

 

 「あれは学院に入学してすぐの事だ。ヘレオンさんは……ヘレオン・パルシェリアは普通科生徒の一人を殺してんだ」

 

 「は?」

 

 

 真剣な面持ちでそんな事を言い出す不良風。しかし、その話は幾ら何でも突拍子すぎる。私たちだって学院の生徒には変わりないのだ。同じ学院で殺人事件が起きたとなれば、小耳に挟むぐらいはする筈。だからそれは――

 

 

 「ああ、違うんだ。へレオンさんが殺したってぇのは言葉の綾で、言い直すなら殺すぐらい追い込んだって言うことになる」

 

 「それの何処が違う?」

 

 「大違いだ。俺たちゃ、あの時へレオンさんには敵わないって思わされたんだからな。だ、だってよ、あの人……聖域最高峰と呼ばれるこのレニオレア学院にさえ、その罪を問われてないんだぞ?そんなこと、一体全体どうしてただの学生に出来んだよ?」

 

 

 ――不良風の怯えきった表情がその恐怖の伝播を物語る。

 

 しかし、となるとヘレオン自身が侮れない存在、つまりはまだ見ぬ力を隠し持っている可能性と殺された生徒は実は共犯であり、へレオンのプロバカンダであったという説、へレオンのバックに外道魔術師がいる等が考えられる。

 

 

 「それでへレオンがあなたたちに出した本当の指示って何?」

 

 「へ?それはだから……」

 

 嘘を貫こうかと迷ったのだろう、言い淀む不良風の左耳下スレスレに雷撃を飛ばす。そうすれば、不良風の頬に焦げ後がつき、みるみる顔は青褪めていく。

 

 

 「嘘も打算もなし。あなたに本当のことを吐く以外、選択肢なんてない」

 

 

 その私の言葉に大仰に頷きを返す不良風に改めて問いかける。

 

 

 「本当の目的は?」

 

 「メルクリウス・レイフォントに痛い目みせてやれって。それから特高学科のヤツらにも」

 

 「何故」

 

 「れ、レイフォントは魔術師ギルドのグランドマスターと同じ名字だろ。それで、へレオンさんはそういう上で澄ました顔してるやつが気に入らないらしくて……」

 

 

 呆れた。大義も正義もあったもんじゃない。これまでにもへレオンの貴族や特高学科に対する不満は表面化されていたが、これでは本当にただの愉快犯だ。とはいってもそれを鵜呑みには出来ない。やはり、バックに誰かしらがいるとみていい。しかもその相手はメルクリウスに何かしらの恨みを持っている可能性が高いが仮に恨みを持つ相手がメルクリウスの正体を知っているのだとして一介の学生如きに嫌がらせをしろと命令するだろうか。嫌がらせをしたところでメルクリウスは何の痛痒も感じず、敵認定されるだけだ。それではあまりにも相手にとってのメリットが少ないのではないか、とそんなことを考えていると不良風が声を上げた。

 

 

 「なぁ、俺達から聞き出せることなんてこれっぽちだ!だから、もういいだろ……?せめて、サバルと俺は解放してくれよ!」

 


 喚く不良風の言葉通りというのは癪だがへレオンが彼らを恐怖で従わせているのだとしたら、目の前の不良風からもメルクリウスが連れていったオカッパからも殆ど、得られるものはないだろう。その為、解放を望む、と。されど、それはそもそもの前提を履き違えているからこそ、口をついて出る言葉だ。

 

 何が楽しくて、自分たちに魔法を浴びせ掛けてきた敵対者をはい、そうですかと解き放つ者がいるだろう。

 

 黙ったままの私に何を思ったのか再び、媚びた笑みを向けてくる不良風にどう説明するべきかと悩んでいるとちょうど、向こうの建物の陰からメルクリウスが現れ、私はそれと同時に指を鳴らし、柵のように囲んでいた魔法を解除し、メルクリウスが素早く、不良風に近付き、頚部に一撃。呆気なく意識を奪ってみせると今度は私にどうだ、と訊ねの視線を向ける。

 

 

 「側近はどうか分からないけど、へレオンは大半の普通科生を怖がらせて、手下にしてる。私たちを襲ったのはへレオンの嫌がらせ。メルクリウスを狙ってだった」

 

 「それで俺を狙ったのはレイフォントの家名から、と。訓練棟で俺に模擬試合を吹っ掛けたのは人心掌握のためのデモンストレーションだったらしいが、今回俺を狙う理由として家名だけというのは納得のいかない話だ」

 

 

 メルクリウスもへレオンの裏でことを操っている人間がいることを疑っているのだろう。思考に耽るようにスっと目が細められるのも束の間、メルクリウスは口を開くと、

 

 

 「さて。そろそろ、こいつらを縛ってカルロたちのとこに帰ろうか、ルミア」

 

 

 今考えても仕方がない。言外にそう態度で示すメルクリウスへ探りの目を向けるが彼はただ少し肩を竦め、何処から拾ってきたのやら、地べたに転がる四人を順繰りに縛っていく。

 

 その背に何が出来るだろうか、と問い掛けながら私も四人を縛り上げる作業に取り掛かるのだった。

 

 

 

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