第八話『同伴』
デジタルからアナログにプロットを移し替えながら、全体の流れを把握、整理といった事を時々やるのですが今回は思いの外、それが楽しくなり、本編の執筆が遅れました。申し訳!
「それで、ルミア。スーフィア達の居場所に心当たりは?」
メルクリウスがまず、優先したのは私の考え同様にスーフィア達の所在を明らかにすることだった。
「候補としては五つ。その内、本命を二つに絞る事ができるけど、どっちも正反対の場所にあって二つとも見に行くとしたら時間がかかり過ぎる」
スーフィア達の行きそうな場所といえば、幾つか思いつくがその中でも今日は何かしら予定を立てていた筈だ。
私の視野狭窄となった記憶の断片にスーフィア達四人が歓談に興じている姿が浮かぶ。
私としては放課後を楽しく過ごすどころか、今後一切の望みを捨てた状態にあったためにそんな話に耳を傾ける事もできずにいた事が今になって悔やまれる。
「なら、ルミア。その候補の内、近い方をスキャンしろ。俺が映す」
「分かった」
私は目を閉じ、索敵魔法を展開させる。魔力の波が自身を中心として同心円状に広がっていく感覚に次いで、途轍もない情報量に焼ききれそうになる思考回路を安定させる為、現段階で必要な生物の情報にのみアクセス、他を意図的にシャットダウンしていく。
これにより、見かけ上建物を透過して中にいる人間を把握することが出来る。ここに記憶内の地理を当て嵌め、更にここから個人の識別を可能とするにはそれぞれの生体魔力の癖が分かっていればいい。ただ、生体魔力は感情に大きく左右されることから非常時において、その識別は困難を極める。
乱れた生体魔力の中に普段の癖を見抜く洞察力と瞬時の情報処理を並行しなくてはならず――――ひゃっ?!
「め、メルクリウス……?!」
「映す、と言っただろ?」
「……だとしても今度から一言、何か言って」
「?了解した」
索敵魔法は遠方に意識を集中させる事で身体はその場を離れることなく、情報収集を可能とする魔法だが、その分、生身の身体は無防備になりやすい。これがメルクリウスには分からないのだろうか?
背中に触れたメルクリウスの手は冷気を帯び、魔法の発動、その予兆が表れていた。そんな手で無防備な身体に触れられれば誰でも変な声がでそうになるというものだ。
とはいえ、寸前の所であるのかもよく分からない私の矜持は保たれた。
今は切り替えなくては、と意識を再び、中断しかけた索敵魔法の展開に割く。
して、数秒後。魔法の青白い光を瞼越しに感じ、私は目を開く。
「対象はスーフィア、カルロ、アルト、アリシアの四人。だとすると、スーフィアの魔力形が目印になりそうだが……」
「居ない……?」
メルクリウスの魔法と私の索敵魔法を接続し、構築された魔力製のジオラマ模型を見ながら、暫しの思案。
スーフィアの生体魔力の形は他三人に比べ、最も安定しており、この状況下においても乱れが少ないと予測された。しかし、残念ながら目の前の精巧なホログラムチックな街の中にその特徴を示す人間は見当たらなかった。
「仕方ない。もう一つの心当たりの方に行くぞ」
「でも、街道を走るには人が多過ぎるから……」
「ルミア。屋根を走った経験は?」
メルクリウスの言葉に私は思いっきり嫌な顔をして見せることでせめてもの抵抗をするのだった。
屋根を走るというのは当然、周囲の人間からすれば奇行と捉えられる。無論、それは注目の的となることを意味していて、好奇の目を向けられる事に慣れている人間ないし感情の一切をコントロールできる人間で無ければ、羞恥を忍びながら建物への被害を考慮しなくてはならないというある種の縛りが課せられるのである。更に言えばズボンを履いていないときなんかは最悪だ。(その理由は言わずもがなであるが幸いにして今日の所はこちらについての問題はクリアしている。)
かと言って、それらに対する嫌悪感から首を横に振る訳にもいかない。
索敵魔法は便利なれどその距離と精密性の積によって込める魔力量が決まり、先に展開したものより尚遠いとなれば、魔力量≒魔力濃度の高まりによって否応なしに町民及び学生を刺激してしまうだろう。それは現状からして好ましくない。
転移魔法に至ってはメルクリウスが使えるのみでこれは転移先が学院外であることから例の誓約によって使用不可。
ほんの少しだけ、誓約ぐらい破っても彼の事だから如何にでもなるだろうだなんて思いはしたが、その危険を彼に負わせるにしては緊急性が低い。
そして何より、そんな無茶をさせられる程、私はメルクリウスに対する優位性も親密さも持っていないのだ。
「ルミア、四人を見つけたあとはどうするつもりだ」
身体強化を施した私の走力に魔法を用いない身体能力のみで伴走するメルクリウスが隣から問いかけてくる。
しかしながら、それに対する瞬時のレスポンスは難しい。
学院長室で考えた通り、肩書きを隠したままの私や実力を隠したままのメルクリウスでは暴動に対する抑止力とはなり得ない。
要するに私たちでは力不足な訳だ。
その為に四人の安全確保に徹するのが妥当か――と内心でそう結論を下した私にメルクリウスが言う。
「四人を守るのはいいが、その範囲は如何する?俺たちの護衛対象を四人とそれ以外に区分するならば別だが、ここは学生街。普段使用する施設からの心証が悪くなるのは不都合だろう。となれば、周辺住民についても保護するのが賢明といえる。しかし、現段階において俺は魔法を使えず、目に見えた牽制は不可能だ。これをカバーするにはルミアが代わりをするのが最適だが、その場合、泥を被ることになるのはルミア、お前だ」
メルクリウスの言うことにも一理ある。住民の心証は居心地の良し悪しに直結する。今日で積み上げてきた全てが崩れると思っていた私には考えるべくもなかった事だが、このままメルクリウスの警護につくのであれば四年と約半年の間をこの街で過ごす事になる。
であれば、だ。
ここで解決方法を見誤れば、私の今後のQOLに支障をきたす。出来ればそれは避けたい。
パワープレイに踏み切ることは実力としては容易いが顰蹙を買う事も多い。
簡単なのは四人を見つけ次第、知らぬ存ぜぬで隠れてしまう事だが、それでは住民ではなく、四人からマイナス評価を受け取ることになる可能性が捨てきれない。
これは如何するべきか……。
「決めかねる、か?」
メルクリウスが呟き、ポケットから取り出すのは薄く平べったい四角錐台状の何かだった。
「それは?」
走りながら観察して出した答えなんてものはたかが知れている。であれば余計なことに思考を回さず、直接当人に聞いてしまったほうが早い。
そんな妙にリアリストじみた思考をする自分に少しだけ、軍属魔術師としての日々を思い出す。当時憧憬を抱いていた彼に今やこうして屋根を走りながら、気安く問い掛ける事ができているのかと思うと自分の人生がどれだけ上手く言っているのかと苦笑いしたい気分だ。
とまれ、そんな皮肉じみた心の声は置いておくとして、メルクリウスの返答である。
「これは簡易型結界魔法展開装置だ。主に魔界なんかで使われるもので治癒効果と耐魔法性能を持つ。気休めだが只の建物よりは丈夫な筈だ。俺たちは結界内に四人と周辺住民を集め、一時的なシェルターとして活用する。
こんなものを壊そうとまでするなら、それは異常としか言いようがない。その場合、俺たちが対処に当たる。あくまで消極的な対応に努めれば、力づくだろうが何だろうが、住民から文句は出ないだろう」
なるほど。閉鎖空間は一体感を生む上でも効果的だ。侵入者を共通の敵として認識させる事もできる。
そうなれば、その聖域の守護者たる私たちに敵意ないし嫌悪感を向けることはないだろう。私たちも後顧の憂い無く、戦えるというものだ。
方針が定まり、作戦も大方決まった頃合い、私たちは目的地である学生街のとある一角に辿り着くのであった。
久し振りに魔法が登場した気がします。ファンタジーなのに不思議ですね。
改めてプロットを見返していたら本当はこの時点で二年に上がっている予定だったのに、気づけばまだ半年。
ストーリー構成はハ○ー・ポ○ターを参考にして作ったので一章を一年として話を進めていく予定だったんですが色々あって、路線変更已む無し。
影響を受けた作品についてちらっと話そうかと思いましたが今日は前書きと後書きに書くことが多かったので次話に回します。




