第五話『調停者』
ギリギリ投稿できました!投稿時間10分前にまえがき&あとがきを書いております……。
まるで身にならない午前授業は終わり、今日のメインイベントであるエルザック・レイフォント特別講師による講演会が始まろうとしていた。
時間が近づくにつれ、教室の緊張と期待は高まっていった。
当然だ。魔術師ギルドのグランドマスターに直接対面する事など、早々ある事ではない。しかも、講義の内容は『これからの魔術師について』。
しかし、残念ながら彼らと同じ気持ちで特別講師を出迎えることは私には出来ない。教室のボルテージが上がるほどに、私の心は冷え切っていく。
吐きそうだった。ぐるぐると巡る考えは時折、ズキリと痛んで止まる。されど、すぐに再開される思考の責苦は最悪の結末を導き出し、私の視界を絶望で塗り尽くしていく。
考えれば考えるほど。思えば思うほど。駄目だった。
教室の扉が開かれる。何度も液晶画面越しに見た、偉大なる魔術師の長が現れる。
そのあとに続いて、彼が――。
「学生諸君、こんにちは。諸君らも知ってのとおり、私は魔術師ギルドを束ねるエルザック・レイフォントだ。
グランドマスターなどと大層な地位と魔術師の模範として《啓典》という称号を戴く魔術師であるが、そう遠い者と思わんでくれ。
諸君らにも馴染みはあるだろう。特高学科一年、つまりはこのクラスに属するメルクリウス・レイフォント。何を隠そう、私はその父だ」
教卓にを前にするエルザック・レイフォント【グランドマスター】はどっしりとした体格に幾分、毛深さを思わせる風貌をしていた。穏やかそうに見える目は青く、黒いクセのある髪と髭を伸ばし、退役軍人のような印象を受ける。事実、エルザック特別講師は《SS級》と目される聖啓白夜エーナタルの討伐を指揮し、特別講師自身もその場で力を振るった経験があるのだから、その印象も的はずれなものではないだろう。ただ退役軍人であるクロス講師と比べると幾らか違うところが見えてくる。
それは体毛だ。軍属魔術師の多くは生活の殆どが戦闘であり、汚れるのを嫌ってめったに伸ばすことはない。そして、普段の生活においても替えのきく服装や効率を求めた装飾品ばかりを身に着ける。
エルザック特別講師の場合はグランドギルドマスターという地位がそれを許さないのだろう。
華美な服装は権力者には特有のものであり、聖域の守護者が余裕を見せることで民衆には余計な不安を抱かせないようにしているのだろう。
――嗚呼、ここにも守ろうとしている人がいるんだ。
「……――君達はどうだ。この学院で何を学び、何を成す。何を志して、此処にやってきた。
さて、この最高峰の魔法教育を受ける君達、特高学科の一年生は魔法実技を受けられず、その事に不満や疑問を感じていることだろう。魔法ではなく、何故、体術を学び、身体の使い方を教えてられているのだろうか、と。
魔術師だというのに魔法を使わせてもらえない事に苛立ちを覚えている者もいる事だろう。
どうだね、スーフィア君」
突然の名指しにスーフィアの肩が跳ねる。しかし、そこは十五大貴族筆頭の令嬢。
「確かに魔法実技で魔法を使わない事に対する不満をボルグレア教官に対して、訴えることもありました。ただ……」
「ただ、なんだね?」
「はい。ただ、今日まで模擬試合をしてきた中で見えてくるものもありました。隙を作らない身体運びに、魔法を有効的に運用する為の隙を見つける技術や戦闘の流れを読む思考。その他、戦闘に必要なテクニックが魔法という優位性を排除することで高められ、この実技の意図を少なからず、汲めるようになってきたのではないか、と考えています」
「そう、スーフィア君。その通りだ。
これまでの魔法教育における魔法実技は魔法という特殊因子がある事によって理論に偏ったものになりがちだった。それによって、近年魔界での新米軍属魔術師の生存率は低下の一途を辿っている。決して、彼らの質は落ちていない。寧ろ、その水準はより高く、魔法練度も向上している。それでも尚、戦死者は増える一方だ。
諸君。魔法は便利なものだ。人智を超え、魔物さえも一撃のもとに屠る。それを扱う、魔術師もまた心身の強化に徹し、人間離れした能力を獲得してきた。されど、その教育に魔法という要素はあまりにも不安定すぎた。
しかし、安心し給え。君達、特高学科はこれから存分に魔法を使う事ができる」
不意に上げた視線がエルザック特別講師の青い瞳にぶつかる。しかし、特別講師は私を一瞥しただけで話を続けた。
「今回、諸君らに朗報だ。
学院という安全地。ここを離れ、西の守護門より外、その周辺における魔界遠征。それを特高学科全学年を対象として予定されている。
無論、諸君らには護衛をつける。諸君らの中で命を落とすものが一人も出ることはないと誓おう。命を張るのは軍属魔術師たちだけだ。しかし、魔界への実地研修は史上初。最悪の事態も想定される。それでも魔界への遠征を希望する者は期日までに担任へ申し出を届けなさい。勿論、保護者同意書は必要だがな。詳細はローニウス教諭が話してくれるだろう」
教室が騒めく。当然だ。魔界へ学生が出向くことなんて未曾有のこと。しかし、何より私が驚かなければならないのは彼の父であるエルザックさんから何も言われないことだ。
授業の終了を報せる鐘がなり、エルザックさんが教室を出ていく。
――私が禄に聞けていなかった話の中に、もしかしたら警告でもあったのだろうか。
不安に支配され、ボーっとしていた私だ。可能性としては十分に有り得た。
急いで、私は騒がしい教室をでて、エルザックさんの背を追おうとするが、しかし。エルザックさんが最後に残していった言葉のインパクトに誰しもが戸惑い、それは隣にいるスーフィアも例外ではなかった。
私の腕を掴むスーフィアの手。
見れば眉をひそめ、心配そうな様子。
紫紺の瞳は揺れ動き、口もとが「大丈夫?」と動く。
私も周囲の話し声より大きな声をあげることに無駄を感じ、声に出すことなく「大丈夫」とだけ、答える。けれども、スーフィアは私の腕を離してくれない。
再度、「大丈夫」とスーフィアに言ってみせるがスーフィアの方は先程よりも深刻さを増した顔でやはり、私の腕を掴んだままだ。
けれども、エルザックさんひいては彼が戻ってきたならば、スーフィアと一緒にいては彼女にまで迷惑を掛けてしまいかねない。
被害を最小限に抑えるには、自ら出向いてしまったほうがいい。
そう思い、彼女の手を振り払う。
後ろを振り向けば、彼女は傷付いた顔をしているかもしれない。恩を仇で返す真似をしているのは重々承知だった。その事に罪悪感を抱き、それさえも振り払いたくて一心に廊下を駆ける。
エルザックさんの居場所は何となく分かる。魔力の波形が特徴的なのだ。
それを目指し、辿り着いたのは学院長室。
ここまで来て、入室を躊躇っている内、扉が開いた。
両開きの扉はまるで罪人の門。
断罪が今、始まるのだ。
ジャルジャル五億回記念を見ながら執筆していたのですが見終わった瞬間からの効率は段違いでした。ジャルジャルを見ながら、書くのは良くないことを学びました。
明日は多分、更新ないです。また、第一章第十三話『ありきたりでいい』にてルシェットさんとの会話部分を加筆中です。明日はそっちを改稿するかもしれないです。
物語のスピードに意識が向きすぎて、淡々としてしまっていたのでそれなりに見応えのあるシーンに作り替えております。次話が投稿されるまでには改稿されるのでお暇があれば読み返して頂けると嬉しいです。




