第三話『毒牙』
今回は短めです。
リアルの方で色々とありまして……。
一時期は小説投稿を止めてしまおうかと思っておりましたが何とか踏み止まりました。これからも彼らの物語を楽しんで頂ければ幸いでございます。
何卒よろしくお願い致しますm(_ _)m
食卓に並んだ品々はどれも豪勢な盛り付けがなされたものばかり。
――こんなものを一体何処で……?
確かに最高峰の魔術師育成機関として注ぎ込まれる費用は多大なものであり、より良質な魔術師の身体を造るため、一般の市民よりも遥かに高価な食事が賄われてはいるが、しかし。それにしても食堂のメニューにこんな貴族に振る舞われでもするかのようなものがあるとは思い難い。
「"こんなものをどこで?"って顔をしてんなぁ。特高学科の皆様方からしたら、こんなの簡単な事だよなぁ?」
そう言って視線で周りを示した、へレオンにつられて見るまでもない。
「貴方、本物の下衆ですね」
スーフィアが吐き捨てるようにいう。その彼女の発言に反応したへレオンは右の口角を吊り上げた不気味な笑みを浮かべる。
「おいおい、十五大貴族筆頭がアルシェ家令嬢さまさまがそんな事を言いやがるのかい?これは傑作だぁ!
アンタらの食いもんは何処の誰が貢いだものだよぉ。あんたらが普段威張り散らしてやがる領民や下位の貴族からのもんだろぉ?そんな人間が他人の上下関係の問題に口出しする権利なんかねぇよ。なぁ、アリシアさんよぉ。アンタもそうおもんだろ?」
「わ、私は……」
流れ弾だ。そして、牙を抜かれたアリシアにとって、へレオンの威圧は早々、捌けるものでもない。
「アンタも思わない訳がねぇよなぁ。アンタも辛いんだろ?吐き出しちまえよ。お伺い立てながら、下向いてるのは辛いです、ってよぉ!吐けよ!吐いちまえよ!」
「へレオン、アリシアさんを怖がらせるのはやめなさい!」
既に特高学科の面々は全員が席を立っていた。
貴族としての地位がそうさせるのか、スーフィアの声は普段と変わりない声量であるはずなのに不思議な力強さを感じさせ、魔力の波を伴って室内の人間に行き渡る。
それに対して、モロにスーフィアの魔力波を受けた普通科生は数人が失神、立っている者も殆どは怯えをその顔に刻み、平気な顔をしているのはへレオンとその両脇に控える三人程度。所謂、側近だろうポストに着いている生徒だ。
「おうおう、アルシェ家の令嬢ともあろう方が普通科生相手に威嚇か?
俺はただアリシア・カルネシアに訊いてただけじゃねぇか。"なんでそんなにビクついてやがるんですか?もしかして、いじめられてるんですか?"ってなぁ」
相手はヘレオン含め四人。いずれも格下も良いところの魔術師もどき。黙らせることなんて簡単だ。それこそ、この手を一振りするだけで――
「もういいでしょう……皆さんも落ち着いて。昼食は別の場所で食べましょう。ほら、行きますよ」
「もう帰っちまうのかぁ?ああ、そうだよな、特高科は"生徒の良き模範"だもんなぁ?!」
「――カルロ!そんなに睨んだって無駄ですよ。スーさんも。もういいでしょう?」
アルトの勢いに背を押される形で私たちは食堂を後にするのだった。
「おい、アルト!あいつら一発ぶん殴らなきゃ、ずっと調子乗ったままだぞ!あんな、逃げるような真似したらこれからも、変わらないままだ」
「だとしても、だ。だとしても、あの場で僕らが暴れたところでメリットなんかないよ。あっちの優位は数にある。それに加えて僕らは特高学科生だ。普通科生とトラブルになれば、より重い罰を喰らうのは僕らの方だし、最悪、普通科生に降格もあり得る」
「だがよ、あいつらは前にもメルクリウスを笑いものにして――」
「――あれは、メルクリウスが敢えてそうした事だ、って話はついてるだろ?」
カルロがここにはいない彼の話を持ち出した途端、これだ。彼らの間であの日の話はしっかりタブーとして共有されているらしい。
かく言う私もその時のことも彼自身に対しても整理のつけられていない状態な訳だから、私の中では彼ら以上にセンセーショナルな話題だ。その程度に差はあれども他人事ではない。
「けれど、なんでメルクリウス……くんは問題の排除もせずにご実家の方に帰ったのでしょう?彼ならもっと徹底的にしそうなものではないですか?」
アルトの言葉で締め括られるかのように見えたあの日の、彼の行動に対する真相追求はアリシアが投じた再びの疑問によって蒸し返される。
アリシアは恐らく、あの時のアリシアが魔界毒に侵されて起きた騒動を指し、言っているのだろう。
そう彼女はこのグループにおいて私を除けば彼の力を最も正しく肌身に感じている人間だ。アリシアが彼に対して抱く感情は非常に複雑であることは間違いないが唯一、彼に恐怖という感情を抱いている人間として、不思議に思い続けてきたのだろう。
「だって、あのメルクリウス君ですよ?入学時点で学年五位のカルロを易々倒してみせ、貴族階級の私が学園を出ていけって言っても動じないような、あの」
二の腕をさすりながら、内心を吐露するアリシアは彼にどんな印象を持っているのだろうか。少しでも勘繰っているのだろうか。
アリシアだけじゃない。目の前の四人全員が彼の、異常性を知覚しているのだろうか。
そして、だとすれば私の持つ、彼の"幼馴染"という称号はどんな風に彼らの目に映るだろう。
――あとどれだけの時間を学生として過ごせるだろう。
「考えても仕方ありませんよ。メルクリウス君本人に聞かない限りは、人の本音を想像したところで邪推にしかなり得ません。三日後、お父様とご一緒にメルクリウス君もお帰りになられるでしょう。その時にでもお尋ね致しましょう。
ですから、今日は取り敢えず手早くお食事を済ませる事に致しましょう?何処ぞの下郎に折角の時間を浪費させられてしまいました事ですし。私、お腹ペコペコです」
スーフィアが柔らかく両手を合わせながら、そう言う。貴族としての育ちがそうさせるのか、スーフィアの切り替えの速さは流石だ。
そう、三日後だ。三日後、彼と彼の父がやってくる。そして、それらは運命を告げる鐘の音にもなるだろう。
私のこれからを告げる、運命の。




