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魔術師の涙  作者: 冬雅
第二章 巡る思い
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第九話『ノーマジック・ハイスペック』

 

 特高科一年という一つの枠に収まる者同士で組み、試合を行う。これは一部の例外を除けば、両者の間に実力差が殆ど無いために、ほぼ全ての試合が膠着状態に陥る事を意味している。と、なれば大きな怪我も少なく、僅かな隙を狙った決定打一つで試合は決着を迎えることになる。

 

 相手の動きを観ることに主眼をおいたこの授業においてはそれで十分だった。しかしながら、一般的な『魔法実技』という授業科目の目的を達成出来ているかといえば、それは違う。


 魔法実技は魔法を使うからこそ、そう呼ばれるのであって、魔術師になった時、生き残る術を教えるというのはやはり、少しばかり違うのではないか。


 と、以上が大方の授業を終えてみて特高科生の面々の抱いた感想だった。


 学院の中でも特高科という、謂わばエリート街道の第一歩を進み始めた彼らにとってみれば、魔法実技とは即ち、メルクリウスがカルロとの試合でしてみせたのと同じように自身の魔術師としての才を見せる事と同義だったのだ。


 それが肉体強化の魔法も使わない、純粋な格闘戦などと納得のいくような話ではなかった。

 

 使えない技術を学んでどうするのか、という単純な疑問が特高科一年の頭に浮かぶ。彼らは優秀が故に己が学ぶ意味を知っているし、学びの先にあるものを見据えようとしている。己の才覚に疑いを持たず、魔術師としての生を渇望している。それに対し、どう答えればいいのか。メルクリウスにはそれが分からない。















 

 魔法を教えてほしいと乞うカルロにスーフィアとアルト。それに当然のように俺の隣に立ち並ぶルミア。

 

 彼ら四人は俺とルミアの寮室に放課後、集まっていた。ルミアは俺と同じ寮室で暮らしているのだから、当たり前のことなのだが、カルロ達三人はわざわざ、俺に今日の魔法実技についての愚痴を聞かせる為に来た訳ではなかった筈だ。それが何故、こんな話になったのかと言えば、つい先日、ルミアと俺が起こした『訓練用結界、破壊騒動』について、ついといったようにカルロが疑問を漏らしたことが発端だった。







「あぁ、そういえばあの結界ってどういう原理で動いてるんだろうな。前もメルクリウス達が……ってこれ言っちゃ駄目なやつだったか」



 やばいと言ったふうに慌てて口を抑えるカルロだが誤魔化し方が絶望的に下手だ。それはそれは誤魔化すという概念が壊れそうな程に。


 カルロが口にしようとした疑問とはつまるところ、結界の原理どうこうというよりは訓練用結界が何故、黒く染まったのかについてだ。無論、すべてを話す事は出来ないが、あれが故意に起こしたものではないことながら、俺の魔法によるものであるとは説明しておいた。

 軽い説明だったとはいえ、三人の中では絶対不可侵の話ということで纏まっていたらしい。随分と気負いした様子で俺の話に耳を傾け、幾分が納得したようだった。

 その反応で、俺が結界に干渉したのだということは三人ともどうやら勘付いていたらしい事は理解できたし、想定の範囲内だ。


 実際の所、あの時ルミアが使った魔法について隠蔽の必要があるのみで、俺の魔力結界については暴露しても良いのだが、それを話すのならば正体をバラすのも同じだ。

 

 三人に対する秘密は心苦しいと思うべきだ。そうは分かっていてもこうして秘密を積み重ねていくのは何なのだろうか。


 

 俺にとって三人は友人だ。学院で出来た同年代の友人だ。

 

 本来ならば。もしも仮に。

 俺に誰かを大切に想う心があるのならば、その理由も少しはマシなものだったのだろうか。例えば、そう。

 

 友人を守る為だとか。そういう類の。




「そうだったのか。まっ、事故なら仕方ないんじゃねぇの?」

 

「そうです。メルクリウスくんがお気になさる必要はないと思いますよ?」



 俺の沈黙をどう捉えたのか。カルロとスーフィアがそんな言葉を俺に投げ掛ける。 

 確かに失敗より学ぶ反省はあったが俺がそれを気に病むことはないのだから、彼らの不安は無意味だと言わざるを得ない。しかし。



「ああ、そうだな。俺はもう気にしてないから安心してくれ」



 ホッと胸を撫で下ろす三人を見ながら、感情に起因するプロセスが如何に無用なものなのか改めて、思い知らされる感覚を覚える。

 

 感情とは何なのかという疑問が鎌首をもたげ、その答えを先送りにして。



「あぁ、そうだ!結界といえば……今日の魔法実技は酷かったよな」



 ついさっき思い出したといった体でカルロが遂に言及する。それについて皆が話したかったのだろう事はルミア含め全員の雰囲気が変わった瞬間の前後関係を見れば明らかだった。

 


「んー、僕としてはカルロには割と合ってたんじゃないかと思うけどね」



 アルトが遠慮がちに反論する。

 

 

「いや、そういう話じゃなくてよ。魔法実技っていう名前なんだ。魔法使わなくてどうするんだよって感じしないか?」



 対して、カルロは違うだろうと諭すような口調だ。

 カルロとアルトの会話を聞きながら、スーフィアが俺達に向かって話す。


 

「……ルミアちゃんとメルクリウスくんはどう思いますか。今日の実技について」


「……私は特に。メルクリウスは?」



 四人の視線が俺に集まる。信頼を寄せられているのだろうことは分かる。それが未だ何らかの具体的根拠によるものではない事も。 若干一名を除き、彼らが俺を信頼するのはきっと本能的に嗅ぎとった強さが故だ。


 まだまだ人間的な部分では、ルミアからの信頼ほど、大きなものを勝ち取れてはいない。そのルミアにしたって本当に信頼されているのかどうかなんてものは分からないのだ。


 実の所、俺個人としての意見は魔法を使わない実技授業というものに対して、概ね、賛成的な考えを持っている。いくら優秀な魔術師見習いたる学院の生徒だろうと、魔法を使う土台、即ち、肉体面が出来上がっていなければ、上手く魔法を扱う事はできない。更に言えば、魔法を使う前に死ねば元も子もないのだ。

 

 入学試験での選別は主に魔法知識に関するものらしい。で、あるならば特高科クラスの中でも半分程度しか実戦レベルの魔法は扱えないだろうし、スーフィアやカルロなんかは特別中の特別だろう。カルロはあの雷を纏った体術と戦闘勘を抜きにしても、扱いの難しいとされる肉体強化の魔法を無意識に操る魔法的なセンスの片鱗を見せたし……そう。一般的に魔法なんてものは専門的技術であり、それは魔術師の絶対数が飛躍的に増えている今現在でもそうだ。

 入学試験において、どのような魔法を使わせることで試験を行ったのかは裏口入学した俺には分からないが、それでも一つ、分かることがある。魔術師を選別する簡単な方法は緻密な魔力操作を要する魔法を使わせること。

 魔力の操作とは即ち、如何に己を識っているか、だ。自己統制機能力の高さ。それこそ、まさに魔力操作に直結する。だから、威力の如何を測ることよりも高度な魔力操作を要求することこそが魔術師としての才を見るためには適している。

 

 それはさておき、そういった能力を高めるのならば極論、魔法を使わないに超したことはない。

 魔法を使わない模擬戦は普段、魔法を使う魔術師にとって、より鮮明に世界を認識する事が出来る。魔法という世界の理に真っ向から反旗を翻し、かつ最も世界の真理に程近い場所にあるものの修練に、己を識らねばならないとは全く持って皮肉な話だが、しかし。

 

 ――究極的には魔法を使わないでいられるならば、そうあれた方がいい。


 身体的機能性を最大限に活かして、それでも尚、達成不可能な困難に直面して初めて、魔法を使う。それこそが理想だ。そうでなければ、全力の半分も人間は引き出せない。


 だから、俺の答えは。


「そうだな。俺もそう思うよ」


 今、言うべきでない事を口にしない事。当然のようであって、ほとんどの人間は出来ちゃいない。魔法実技という名目なんて実の所、どうでもいいのだ。俺にとって重要なのはただの人間である事。疑問を抱かなくていい。反論なんかしなくていい。


 折角できた友人だ。その繋がりこそ尊ぶべきものだろう。


 三人の考えは俺の言葉に対する反応から大方、分かった。


 カルロは納得を浮かべ、アルトはそんなものかといった体。スーフィアは少し、落胆しているのだろうか?


 問題はルミアだった。ルミアは顔に心情を出さない。到底、俺のようなズルをしているだけの者にその心情を推し量る事は難しい。


 魔法を使えば、そんなものは簡単に分かる。しかし、これこそが俺の欠点であるのかも知れない。普通の人間は、ある一定の領域に達するような人間は、人間という種の精神性を良く理解しているはずだ。だから、そんなものに魔法を用いない。魔力を割こうとはしない。確実性を欲する時以外に使う必要がない。


 魔法を使わずとも基礎能力の高さだけでそれを補える。そんな人間こそ、最強と呼ぶに相応しいはずだったのだ。


 決して、俺などという機械に任せていいはずが無かった。


 それを頭の何処かで理解している。だからこそ、今回、養父の提案を呑んだのかもしれない。


 歓談溢れる寮室内で俺は俺自身を見つめていた。

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