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第2話 俺、登校しました。

 俺は、超人気ラブコメラノベ『ガクシン』の主人公の友人、井原稔里いはらみのりに転生した。俺は転生前は『ガクシン』の大ファンであり、つい最近も一周したので内容はよく分かっているつもりだが、それによると俺は青葉学園高校あおばがくえんに通っている。

  また、世界の設定も、俺の知っている世界––()()()()()とでも言うべきか––とほとんど変わらない。スマホもアマゾンもウォッシュレットもある。世界の勝手がわかることはとても助かるし、何より転生先が『ガクシン』の世界で本当に良かった。そうでなければ、転生したことに気付くまで大きな苦労をしていたことであろう。

 しかし喜ばしいことばかりでもない。『ガクシン』とは、超人気ラノベ『こいする学園がくえんシンドローム』の略称であるが、最終的に結ばれるのは主人公と幼馴染である。幼馴染に想いを寄せていた友人こと井原稔里いはらみのりは失恋し、主人公に想いを寄せていた井原志織いはらしおりも失恋する。稔里と志織は失恋の傷を舐め合い、兄妹の仲を超えてしまうのだ。『ガクシン』ファンからも井原兄妹は失恋兄妹のレッテルを貼られている。おいおい、これではバットエンドではないか。

 幼馴染は前世の俺も好きなキャラクターであり、できることなら付き合いたいとさえ思う。何よりバットエンドを回避したい。そのためには何らかの行動を起こさなければならないのだが…。どうしたものか。


 その前にまず、高校に行かなければならない。青葉学園の所在地を部屋の机にあったスマホで調べた。ロックの番号は、確か主人公の幼馴染の誕生日だったはずだ。正解、解除できた。本当に幼馴染のことが好きなんだな、井原くん…。ホーム画面を見る。

「2018年 5月 11日 金曜日」

 なんということだ。誕生日の前日じゃないか。しかも明日は週末なので会えない、今日祝福の言葉を言う他ないだろう。なんてこった。

 ん、待てよ。『ガクシン』では年月の設定が違う。稔里たちの高校卒業式の年度設定は原作では明記されていなかったが、アニメ版は2016年度だった。どういうことだ、全てが同じというわけではないということか?

 そして俺は今高校何年生なんだろう。

「そうだ、写真見ればわかるかも」

 あった。クラスの集合写真。2018年4月に撮っていた集合写真が残っている。高校1年3組か。

 待て。高校1年だと?『ガクシン』は高校2年のクラス替えから物語が始まる。高校1年で起こるイベントなんてわからない。1年生の頃の回想シーンはあったっけ…。

 っと、今は残念ながら考えている暇がない。急いで高校に向かわなければ遅刻してしまう。残りは電車の中で考えよう。


 とは言ったものの…

 通学時間が短い。大学じゃないんだから、30分で着いてしまう。下手な考え事をしてしまっていては、乗り過ごす危険があるのだ。

 とりあえず、今は無事高校1年3組の教室に辿り着くことだけを考えよう。


 高校の最寄駅に降り、正門までは難なく辿り着いた。アニメのおかげかもしれない。問題はここからだ。どうしようか考えていたその瞬間である。

「おはよう、井原」

 不意に声をかけられたので振り向く。声の主は…誰だこいつ。めちゃくちゃ可愛い。アイドルにいそうな顔立ちと笑顔である。とても可愛い。

「その顔は失礼だよー。涼香様の顔を忘れちゃったの?」

 待て。その名前、聞き捨てならん。

 なぜなら、その名前こそ。主人公の幼馴染であり、井原稔里の想い人であることになっている柳田涼香やなぎたりょうかの下の名前なのだから。それ以外のりょうか様なんていないだろう。

 転生から1時間、もう出会ってしまったか。にしてもアニメ版と全然印象が違う…やっぱり2次元と3次元の壁は分厚い。

 動揺しつつ、なんとか返事の言葉を繰り出す。

「ああ、忘れるわけないだろ。そういや、1日早いけど誕生日おめでとう、」

 待った。こいつの名字を呼んではダメだ。そう思ったのも遅かった。

「柳田」

 『ガクシン』では彼女は家の事情で問題を抱え、主人公が解決するという流れになっている。確か解決するまでは名字で呼ぶと怒られたはずだ。しかし俺は言ってしまった。

 なんたる不覚。しかし言ってしまったものはしょうがない。

 俺は恐る恐る顔を見上げたが、予想とは裏腹にきょとんとしていた。

「ん?どしたの。まあ、ありがとう、」

 そう言って一言付け足した。

「私は柳田ではないけどね」

 …あ、これあかんやつや。バットエンド行きかな、こりゃ。

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