第0話 俺、死にました。
某日。蝉がけたたましく鳴く夏の昼。ファストフード店にて、オタク男二人が向かい合っている。
「今月のラノベ何が一番面白かった?」
「俺は『ガクシン』」
「ああ、それは俺もよんだわ。ついに完結したな」
俺の向かいに座るこのオタクは佐倉樹。そして俺は水瀬湊人。
『ガクシン』とは、超人気ラノベ『恋する学園シンドローム』の略称であり、今月完結したのだ。学園ラブコメであり、いろんなトラブルに巻き込まれながらも最終的には主人公と幼馴染が結ばれる、典型的な学園恋愛ものである。王道にして心揺さぶるキュンキュンした最高のラノベなのだ。
「『ガクシン』に出会えたことは一生の喜びだわ。最新刊が出たからまた1周したよ」
一生の喜び。その言葉が生涯を終える日に発した言葉になろうとは思わなかった。
一時間後、佐倉と別れて俺はサークルに向かった。その道中、天気が急変しいきなり雨が降ってきた。信号に引っかかり、折り畳み傘を開こうとするその瞬間。
俺の体に、なにかが、ぶつかった。
動けない。
悲鳴かサイレンかわからないが、なにかが遠くで聞こえる。誰かが呼んでいるかもしれない。でも、だめだ。意識が底に沈んでいく。
俺は水瀬湊人として再び目覚めることはなかった。享年20歳。