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ふるてふすゞのころころと  作者: 黒犬洋平
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初雪の夜

第一話、よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


その日の九鬼市は例年よりも一週間早い初雪だった。


夜更の闇の中にふわふわと綿のような大粒の雪が舞い散り、徐々に勢いを増していくように見える。


県道脇の神社の参道はいかにも暗く、うっすらと積り始めた純白がほのかに光って見える。


ふとよく見ると小さな足跡があり、一匹の真っ白な仔猫が歩いていた。


ふらふらとまるで頼りなく、頭を垂れている。


首輪はついている、飼い猫だろうか。としてもこんな時間に、しかも雪の日に外を歩くのはどういう理由なのだろう。


ゆっくりと、危うい足つきで仔猫は神社の境内にたどり着き、ついに倒れた。


どうやら熱病のようだ、というのもすっかり鼻は乾き切って瞳は定まらず呼吸も浅い。今はまぶたも開けられず、横たわり小さな肋骨がわずかに上下するのみだった。


仔猫の名前は「スズ」と言った。


スズは熱に浮かされ、飼い主の家から彷徨いでた迷い猫だった。


朦朧とした意識の中で飼い主の匂いを探す。だが冷たい夜の空気が鼻をひりひりと刺すばかりで、あの温かな笑顔はそこにはない。


ここは何処だろう。


彼女の瞳から涙が頬を流れ落ち雪をほんの少し溶かした。


体が火のように熱くて氷のように冷たい。死ぬのだろう、それだけはなんとなく感じ取れた。


とくん、とくんと心臓がかすかに鳴っている。だがそれもじきに止む。


静かだ、まるで生まれてすぐのあの床下のような、寄る辺のない静けさ。


湿っぽくて、薄暗くて、自分がどこにも居ないのだと真綿が首を絞めるような寂しさ。


スズは生まれてすぐに母親と生き別れになった、その時の事を思い出していた。


「おや、こんな所におなごがおるのう」


「捨て猫じゃねぇか」


誰だろう、すぐそこに気配を感じる。


人間がいるのか、声は聞こえるがスズは首も動かせずただ遠のく意識に身を任せていた。


「猫のおなごはいいぞ。裸同衾すると布団が毛まみれになるがの、だが柔らかくて温かい。それに比べて蛇女はいかん、重くて冷たくて足先が冷えてかなわんからのう」


「くだらん、恥を知れ外道」


雪の降る音が、聞こえる。


「鉄伍のやつに面倒を任せるか、同族じゃから適任じゃろうて」


澄んだ鈴のような、静かで凛とした音だ。


ついにスズの意識は闇に落ちて、呼吸が止まった。


その日、九鬼市から猫が一匹消えたのだった。








ご拝読ありがとうございました!

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