上
イチョウとモミジが、黄色や赤色に衣を変えて、オシャレを楽しみだしました。
逆さ虹の森に、秋がやってきたのです。
森の動物たちは、それぞれが、それぞれの秋を、楽しみます。
スポーツの秋。アライグマは、ミノムシをサンドバックにボクシングをして、汗を流します。
芸術の秋。キツネは色づいた森の景色を、絵に写し取ります。そのとなりで、コマドリが、森の豊かな実りを歌にします。
食欲の秋。秋を迎えた森は、おいしい幸に溢れています。ドングリ、シイの実、カキにクリ。シイタケ、ナメタケ、マーツタケ。
冬眠を控えた動物たちは、秋の味覚を存分に味わいます。
「ねえ、リスくん。あたしたちのクリ、もう焼けたかな。」
「クリがパチパチ音を鳴らすには、もう少し、時間がかかりそうだよ。ヘビさん。」
リスとヘビが、たき火を囲んで、クリを焼いています。
くいしんぼうのヘビは、待ちきれない様子でトグロを巻いています。そして、自分の頭を伸ばし、時計の針のように、くるくる回しています。
「いいにおいだなぁ。あたし、さっきから、おなかの虫が鳴りっぱなしだわ。」
「ねえ、ヘビさん。急いで食べて、クリでのどを詰まらせるといけないから、飲み物を用意してくれないかい。」
「そうね。ここで待っていると、秒が分にも時間にも感じちゃうし……。」
「いいわ。あたし、飲み物を取ってくる。」
ヘビはそう言って、飲み物を取りにその場を離れました。
その間に、たき火から、ぱちぱちとクリがはじける音が鳴り出しました。
「あ、焼けたみたいだ。こげる前に、取り出さなくちゃ。」
リスは、焼きあがったクリを、たき火から取り出しました。そして、それを一つ皮から取り出して、パクリと頬張りました。
「うわー。焼きたてのクリは、ほっくほく。甘みが口に広がって、とってもおいしいなあ。」
リスは、続けざまにまた一つ、クリを口へと運びました。
それから程なくして、ヘビが二つのコップを体に巻きつけて、たき火へと戻ってきました。
「リスくーん。飲み物もってきたわよー。」
けれど、たき火のそばにリスの姿はありません。焼きあがったクリだけが、月見だんごのように積み上げられています。
「リスくんたら、どこへ行ったのかな。」
ヘビは、たき火のそばに二人分のコップを置いて、リスが戻ってくるのを待ちます。
けれど、いくら待っても、リスは戻りません。ヘビはもう、おなかぺこぺこ。
「あたし、もう、がまんできないわぁ。ごめんね、リスくん、一個だけ、一個だけだから。」
こらえきれなくなったヘビは、一言リスに謝りました。それからクリを一つ、皮ごと口に放り込みました。
とたんに、じゃりじゃりとした歯ごたえと、焦げた臭い、それから強い苦みが、ヘビの口いっぱいに広がります。
「ぺーっ。ぺっ、ぺっ、ぺぺっ。おえーっ、何これ、中身は炭じゃない。」
ヘビは口からクリを吐き出すと、他のクリの中身も調べました。ですが、どれもこれも、クリの中には炭が詰まっています。最後の一つも、やっぱり中身は炭でした。
「あの、いたずらリスくん。やってくれたわね。」
ヘビは、かんかんになって、リスを追いかけました。